ナントカ堂 2019/11/20 21:20

崔忠献の意見封事十箇条

 高麗武臣政権五代目執政で崔氏政権初代の崔忠献が、政権掌握直後に弟の崔忠粋と共に明宗に上奏した十ヶ条です。(『高麗史』巻百二十九 崔忠献伝)
(政変直後に出したもので、儒者を頼れる状況ではなく文飾もほぼ無いので、自分で書いたものと思われます)


①その昔、太祖は三韓を統一すると、松嶽郡に都を占定して宮殿を建てたため、子孫は王として永く続いています。近ごろ宮殿に火災があり、新たに建てましたが、壮麗であるとして長らくお移りになっていません。これは陰陽に反することになります。陛下には、ただ吉日に宮殿に移り、天より永命を受けられますように。
②わが国の官制では官位により禄が決まっていますが、近ごろではこれに差異が生じ、また両府などに不要な官職が置かれて、禄が不足して大きな弊害になっています。陛下にはいにしえに準拠して官を削減し、適切に任官されますように。
③先王の決めた土地制度では、公田以外を臣民に賜る場合、各々の地位に応じて規定がありますが、官職に在る貪欲な者は、公私の田を奪い有して、その一族の田は州郡を越えて広がっています。このため国の税は減り兵士も不足しています。陛下は担当官に勅を下し、公文書を確認させて、有力者が奪った土地が元の持ち主に返還されますように。
④各種の租税は全て民から出ています。民が困窮すればどこから取れば良いのでしょうか。下吏の一部には良く無い者がいて、ただ利を追求し、放置すれば民を侵害します。また権力者の家奴が権利を主張して二重に田租を徴収し、民はみな苦しめられています。陛下には、有能な人物を地方官に任じて、権力者が民を破産させる様なことを無くされますように。
⑤朝廷が使を派遣して両界を統括させ五道を巡察させるのは、下吏の悪事を止めさせて民を守るためです。今、諸道使らは、巡察させても実情が分からず、供進を名目に誅求するだけで、負担をかけて輸送させ、あるいは自分で着服しています。陛下には、諸道使の供進を禁じ、使の職務を民情の調査のみに限定されますように。
⑥今、一、二の僧が常に王宮を徘徊して寝所にまで入り、陛下を仏説で惑わし、何事にも優遇されています。僧たちは寵遇を良いことに、政治に干渉して陛下の徳を汚しています。更に陛下が内臣に仏教関連の事務を任せたため、その者が民に穀物を強○的に貸付けて利息を取っています。その弊害は小さくありません。陛下には僧たちを排除して王宮に入れず、強○貸付も中止されますように。
⑦近ごろ郡国の下吏の多くが貪欲で恥知らずな行いをしていますが、諸道使は罪を問いません。また仁があり清廉な者がいても評価されません。悪を放置し清廉でも益が無ければ、どうして勧善懲悪ができるでしょうか。陛下には、両界都統と五辺按察使に命じて、下吏の能力を調べさせ、詳しく現状を報告させて、能力ある者を抜擢し、不正を行う者を処罰されますように。
⑧今の廷臣はみな倹約を知らず、自宅を改築し、服や玩具を集めて、珍宝を飾ることを褒め称えます。風俗は退廃し、このままでは近くわが国は滅んでしまいます。陛下には具体的に百官に訓戒し、華侈を禁じ倹約を尊ばれますように。
⑨先王の聖代には必ず山川の順逆を観て仏寺を建てていました。後代になって将相群臣、無頼の僧尼らは山川の吉凶を観ずに仏寺を建て、祈願所とは言っても、実際には地脈を損傷し災厄をたびたび起こしています。陛下には陰陽官にこれを検討させ、有益で無いものは廃して、後世に悔いを残されませんように。
⑩省台の臣は意見を述べることが仕事です。そのため主君に至らぬところがあれば敢えて諌めるのです。このため御心に沿わなくても甘んじて聞き入れるべきなのです。それが今や皆、阿諛追従しています。陛下には、良い人材を選んで、直言の人を朝廷に置き、場合によっては聞き入れられますように。


 つまり、李義ビンへの嫌悪や派閥争いだけでなく、改革への意思とビジョンがあって取って代わったのです。
 正史特有の、前政権は故意に悪く書く傾向に加え、武臣が支配していたことに対する嫌悪感に増幅され、武臣政権は殷の紂王並に改変されているのかもしれません。
 (上奏文などは、後世に文章を書く際の参考にもなるのであまり改変しない)

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