ナントカ堂 2021/02/13 22:54

海陵王小話③

『金史』巻百四の「楊伯雄」から。


 海陵王は政治に関する意見を強く求め、講論するたびに夜にまで至った。
 あるとき海陵王が「人君が天下を治めるに、何を重視すべきか。」と尋ねると、楊伯雄は「静なることを重視すべきです。」と答えた。海陵王は納得してそれ以上何も言わなかった。
 翌日、海陵王が「私は諸部や猛安を各地に移して駐屯させ国境を守らせている。昨夜の答えだと、これは静ではないことになるか。」と尋ねると、楊伯雄は「兵を移して各地に駐屯させるのは、南北を相互連携させるためで、国家長久の策です。静とは民を掻き乱さないことを言います。」と答えた。
 乙夜(10時頃)になって、海陵王が鬼神について尋ねると、楊伯雄は進み出て言った。
 「漢の文帝は賈生を召して、夜半まで向かい合って話をしてましたが、民の事を尋ねずに鬼神の事ばかり尋ねて、後世大いに不評でした。陛下は臣を愚か者と見なさず、天下の大計を尋ねられました。臣はこれまで鬼神の事を学んだことはありません。」
 海陵王は言った。
 「そうであっても答えてほしい。永い間疑問で夜も寝付けない。」
 楊伯雄は仕方なく言った。
 「臣の家に一巻の書があり、人が死後に生き返ることが記されています。そこに記されている設問で『冥界の官人は何を以って罪を赦すのか』とあり、答えは『汝は暦を一冊用意し、日中の行いを夜中に記せ。書くべきでないことは行ってはならぬ』とのことでした。」
 海陵王は居住まいを正した。

 ある夏の日、海陵王が瑞雲楼に登って納涼し、楊伯雄に詩を詠むよう命じた。楊伯雄の作った詩の最後にはこうあった。
 「六月にはこれほどの蒸し暑さが来るとは思わなかった。寒気も同様あらゆることは予測できない。」
 海陵王は喜びながらこの詩を側近に見せると言った。
 「楊伯雄は何事かを言うとき朕を戒めることを忘れない。人臣とはこうあるべきだ。」


 この辺り見ると儒教の影響を受けた知識欲のある良識的人物なんですけど、滅んだ人はボロクソ書かれるわけで。

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