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2021年 03月の記事 (4)

Hollow_Perception 2021/03/28 12:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・最終回(Ep.-)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 ネタバレ有り記事につき注意。また、関連作品『Acassia∞Reload』の重大なネタバレも含んでおります。
 なお、毎週記事を1本上げてきた本ページですが、今週からしばらくは新作『破天鬼姫永羅伝』の制作に集中するため、不定期更新にしようと思います。
 記事執筆、かなり大変なので……。
 どうしても書きたいネタが思いついたら書きますが。

 さて今週は、いよいよ最終章「Ep.-」について述べていきます。
 物語は現代編から未来編へと移り変わり、完全に一変した世界とその結末が描かれていきます。
 人類の歴史を巡る壮大な物語の終着点である本章では、現代編のキャラクターは一人も登場せず、単体では一見して完全に繋がりのない、別物のようになっています。
 しかし、これまでたびたび解説してきた通り、現代で各キャラクターが紡いできた因果は本エピソードの展開に密接に関わっているのです。
 また、本エピソードは『Acassia∞Reload』に直接繋がる前日譚 となっております。
 実は『Acassia∞Reload2』なる続編(前日譚)をかつて構想していたのですが、それに当たるのがこのエピソード――正確には、前半の”地上パート”(アカシアが《無限遠の牢獄》に来る前)です。

これまでの解説記事

・第一回(Ep.1前編)
・第二回(Ep.1後編)
・第三回(Ep.2前編)
・第四回(Ep.2後編)
・第五回(Ep.3前編)
・第六回(Ep.3中編)
・第七回(Ep.3後編)
・第八回(Ep.4前編)
・第九回(Ep.4後編)

Episode.ー「Transcendence」(超越)


・これまでは文章を読み進めていくだけの、完全なるノベルゲームだった本作。しかし、最終エピソードにおいて初めて(演出として)「プレイヤーが干渉する場面」が登場します。

《虚数認識論(ホロウ・パーセプション)》

 Ep.-を開始すると、改めてサークルロゴが表示されると共に、謎の文言が映されます。

 これは、「プレイヤー」がホロウ・ジェネレータに導かれて「プルミエール」という人物に接続したため、その人物に力を供給する為の観測用インタフェース、つまり本作「ReIn∽Alter」をシステムが作り上げたことを意味しています。
 Ep.4にて本作がメタフィクションの側面を持つことは明かされましたが、Ep.-ではより明確に「プレイヤーが一人の少女を観測し続ける」という形で描かれていきます。
 なお、観測対象である「プルミエール」はEp.3~4に登場したその人ではなく、これから登場する、彼女の転生体である少女「アカシア」のことを示しています。
 転生の際、(煌華や静音、星生といった)他者の人格が混じって新たな存在となったため、アカシアには前世の記憶がありません。
 ですが転生体であるのには間違いないため、システム上では「プルミエール」として登録されています。
 本人と言えるか別人と言えるか、微妙なところですね。(その点は唯理もそうなのですが。)

 さて、演出と共にインタフェース「ReIn∽Alter」が起動します。
 観測時代は、唯理が寿命で死亡してからそれほど経ってない頃。
 そこには唯理の話し相手であった少女、そして煌華の孫でもある少女――アカシアが居て、プレイヤーに話しかけてきます。

「Acassia∞Reload」において「主人公=アカシア」と「プレイヤー」が別個の存在であるのは、攻略を進めた終盤で明かされることでした。
 しかし、本作はいきなりアカシアという存在について判明するため、最初から両者間においてメタフィクショナルな繋がりがあることが分かります。
 アカシアはプレイヤーに対し、協力を求めます。
 存在する世界が違うため直接干渉は出来ませんが、 《虚数認識論》の力により、プレイヤーはただアカシアを認識し、見守り続けるだけで彼女の力を増幅させることが出来ます。

 彼女はプレイヤーに自身を知ってもらうため、過去を話し始めます。
 アカシアは生まれた時から異能者であり、見た目も親(=煌華の娘とその夫)とは大きくかけ離れていたため、人間達の運営する「魔族(=異能者)研究機関」に捨てられてしまったのです。
 なお”生まれた時から異能者”というのは、アカシアが零と同様、完全なるアルターとして生まれたことを意味しています。彼女の場合は記憶は無いものの、本能的にアルターとしての素質を有していました。
 肉体的にはアルターでも人格的には人間であったため精神的ショックを受けるまで覚醒しなかった星生や、その他の異能者たちのように、通常は「苦痛からの解放を求める強い願い」か(ソルリベラのような)生物学的干渉、或いは(零や星生の力のような)異能的干渉が無ければ力は覚醒しません。
 しかしアカシアはそうではなかったので、研究対象として強く興味を持たれました。
 アルターとして生まれた彼女は、(覚醒の際に「強い願い」による遺伝子の解放が必要ないため)まさしく「全能」とでも言うべき異能者でした。

 研究機関では人権を無視した非道な人体実験が繰り返されました。
(なおこの研究機関は、新生した特事委員会の関連組織です。)
 すぐに親元から離れたため、まともに情操教育を受けていないアカシアは「異能で他の異能者を殺す」という残酷な実験に淡々と参加していきますが、その最中、事故により彼女は死亡してしまいます。
 しかし、彼女の肉体は既に元通りになりました。
 その驚異的な不死性を見てますますアカシアに興味を持った研究員たちは、彼女を残虐に殺害していきます。
 死を繰り返す中、「なぜ自分は死なないのだろう」と考えたアカシアは、自分の奥底に眠る殺意――「存在理由」を自覚しました。
「人類への強い憎しみ」がアカシアに「アカシア・リロード」を起動させ、死亡時に異能によって「自身と全く同じ肉体」を生み出しつつ瞬時に転生することで、無意識に不死性を獲得していたのです。
 彼女は憎悪のままに研究所の人間を皆殺しにして脱走した後、人と魔族の争いで荒んだ外の世界でも同じことを繰り返し、いつしか人間たちから恐怖されるようになりました。

 こうして、人類の抹消を目論む「魔王」が誕生しました。


・ヒロインに言われたい台詞ナンバーワン。

 補足ですが、アカシアが抱く存在理由の由来は、彼女の人格形成の元となった少女たちが生前に抱いていた意志です。
「存在理由」で武装して弱い自分を捨てることを求めた者達の願い通り、アカシアという「魔王」にして「最強の異能者」が生まれたのです。


・Ep.3のこの場面、そしてEp.4におけるプルミエールと星生が、魔王の誕生に繋がっていた訳です。

 なお、これは裏設定ですが、アカシアに「アカシア」と名付けたのは両親や研究所の所員ではありません。
 外の世界で「魔王」として知られるようになるにつれて、魔族たちの中には逆に、彼女を女神のように捉える者達も現れ始めました。
 そして、魔族たちの間で信仰される「記憶の女神・アカシア」にちなんで彼女もそう呼ばれるようになり、やがて自ら「アカシア」と名乗るようになったのです。
(この「記憶の女神信仰」は、まさしく同じ女神を崇めていたアルター達が遺した記録から生まれたものです。)

「人でなくなった少女」との出逢い

 アカシアがプレイヤーと共に人類と戦い始めて、500年が経過します。
 別世界の存在であるプレイヤーは作中世界の時間軸に縛られず、アカシアもまた不老不死であるため、しれっと物凄く時間が経過しています。
《術式》、つまり「異能者でない者にも使える異能」の発明によって通常の人間までもが強大な力を持つことになった世界では、大規模な戦争の結果として進んでいった環境変化により一年中雪が降っていました。
 そんな一面の雪景色に、アカシアは赤い染みを作り続けます。

 ある日、アカシアは銃器で武装し、《術式》も用いる武装集団に襲われます。
 飽くまで「普通の人間」である彼らですが、《術式》によって炎弾などを放って攻撃してきます。
 とはいえ、最強の異能者であるアカシアに勝つことは出来ず、簡単に屠られてしまいます。
 この時代、つまり「プレイヤーと出会ってから『Acassia∞Reload』の状況に至るまで」のアカシアは全盛期です。ただ敵意を発して威圧するだけで重力場が具現化し、周囲の人間を文字通り圧死させてしまいます。
(この力は『Acassia∞Reload』の強力な必殺技的スキル《グレア・オブ・ルーラー》を表現していますが、実態は必殺スキルというよりもむしろパッシブスキルに近いです。)
 更に、光剣を生成して振るうだけで数千人を吹き飛ばすようなことも出来てしまうので(これは『Acassia∞Reload』の通常攻撃に当たります)、普通の人間が多少強くなった程度ではまるで歯が立ちませんでした。

 しばらく戦っていると、アカシアはピンク髪の少女と出会います。

 このビジュアルと発言で『Acassia∞Reload』をプレイした方はすぐにピンと来ると思われますが、彼女は『Acassia∞Reload』に登場した 「平凡な人間の少女」――メイベル です。ゲーム中では 「ポータリア」 と表記されていることの方が多いですが、本名はこちらです。
 彼女は普通の人間なのですが、他の人間たちに「お前は魔族だ」という言いがかりを付けられて暴行に遭っていました。
 本編のEp.3でも似たようなシーンがありましたが、この時代にはありふれていることです。(なお静音に関しては、この時代の定義で言うならば噂通り、実際に魔族=異能者だったということになってしまいますね。)
 アカシアは彼女を取り囲んでいた者達を容赦なく一掃します。
 彼女に救われたメイベルですが、飽くまでメイベルは人間であるため、人類の敵であるアカシアに感謝するどころか「人殺し」と吐き捨てます。
 そんな彼女を、アカシアは殺しませんでした。
 アカシアはメイベルが「言いがかりの被害を受けているだけの人間」であることを見抜いていましたが、それでも彼女には手を下せなかったのです。
 その境遇ゆえに「怒り」以外の感情を知らなかったアカシアは、この時初めて、まだ無意識ながらも「自分とは異なる他者の存在を許す気持ち」を微かに芽生えさせました。

 一方でメイベルは、自分を殺さなかったことについて「お前は人間じゃない」と言われているように感じてしまい、激昂します。
 500年間、人を屠り続けてきた魔王が、まさか「慈悲」という「気まぐれ」を起こすなどとは想像出来ないので、無理もありません。(アカシアもアカシアで、自分自身の気持ちに戸惑っているので上手く表に出せません。)
「私は人間なのだから殺せ」と主張するメイベルに対し、アカシアはこう言って一蹴し、その場を去ろうとします。

「つまらないヒト」

 これはアカシアが、人間から自分に対する恨み言を吐かれた時によく返している言葉です。
 つまり、アカシアはメイベルが人間だと認識した上で、それでも殺さない選択をしたのです。
 それに対しメイベルは慌てて、アカシアの背中に呼びかけます。

「いつか絶対……私を殺しなさいよ! 私はメイベル! この名前、忘れないで!」

 アカシアは答えることなく去ってしまいました。

 さて、このシーンは『Acassia∞Reload』内で描写される、アカシアとメイベル(ポータリア)の出会いの描写と完全に同じです。
 しかし、『ReIn∽Alter』でここに至るまでの物語を見てきて、また違った印象を抱くのではないでしょうか。
 メイベルは(作中設定ではなくテーマ的に)「人類の代表」とでも言うべき立ち位置に置かれており、アカシアが彼女とどう接するかが、「孤独な異能者と”その他大勢(=人類)”のすれ違い」を描いた本編の終着点として大きな意味を持っている訳です。

魔王討伐戦

 メイベルとの出会い以後も、アカシアは再び気まぐれを起こすことはなく、変わらず人類との戦いを続けていました。
 それから数カ月が経った、ある日。
 アカシアは百万人を超える人類側の軍勢と、一人で戦うことになります。
 ここは全盛期のアカシアの圧倒的な強さを描写するシーンであり、同時に、数の暴力と意志力でそれに食い下がる人類側の執念を描くシーンでもあります。
 このシーンでアカシアが使う技は『Acassia∞Reload』にもスキルとして登場しているので、あちらをプレイしてから読むと「あ、この技は……!」みたいなことが分かる楽しさがあるかも知れません。
 


・人類側がやり過ぎなくらいに兵器を持ち込んでいるのもあって、本作で最も派手な戦闘シーンかも知れません。

 殺意による力場形成や光剣の一閃により、一瞬で数千人から数万人の敵を吹き飛ばすアカシア。
 しかし人類側は「たった数万人」死んだくらいでは折れません。
 彼らは”お返し”と言わんばかりに《術式》や火器による集中砲火を叩き込んできます。
 その戦いぶりは「個にして最強」なアルターと真逆――まさにゼロが恐怖した「個を犠牲にして全体を存続させる」地球生物の在り方と同じでした。
 人類は対人レベルの攻撃だけでなく、衛星による運動エネルギー弾爆撃(俗に言う”神の杖”というやつです)で核兵器を超える威力の攻撃を連発したり、巡航ミサイルなども使用します。
 極めつけは広範囲に熱線と放射線を拡散する対軍用術式《レイ・オブ・ヴァーミリオン》。異能者は遺伝子に眠る因子を発現させている都合上、強力な再生能力を持たないならば遺伝子を破壊する放射線は非常に有効な攻撃手段となります。
 アカシアの場合は「死と転生」を即座に実行することが出来るため、遺伝子破壊すら意味をなしませんが、それでも苛烈な攻撃により精神的には確実に消耗していきます。
 アカシアは時間停止の異能(『Acassia∞Reload』でいう《クリミネイトタイム》)や、人間側の其れを再現した《レイ・オブ・ヴァーミリオン》を用いて人類側の軍勢を殲滅しますが、彼女の側も消耗によって気絶してしまいます。

 人類側は元より「百万人以上を犠牲にして、僅かでもアカシアに隙を作る」ことが目的だったため、手際良く彼女を捕らえて、とある場所に収容するのでした。

無限遠の牢獄

 アカシアは見知らぬ施設に捕らわれてしまいます。

 状況とBGMで『Acassia∞Reload』プレイヤーは即座に察しが付くかも知れませんが、メイベルがこの施設について説明します。
 この場所こそ『Acassia∞Reload』の舞台である「魔王を収容するための施設」――《無限遠の牢獄》です。
 彼女いわく、ここは「宇宙空間で発見された未知の装置を中心にして建設された、居住施設」。
 その装置とはアルターが地球にやってくる際に乗っていた、ホロウ・ジェネレータを搭載している宇宙船です。
 元々は人類が地球を脱出して新たな居住領域として用いる為に作られた施設なので、ホロウ・ジェネレータから(通常の人類でも利用可能な形で)エネルギーを採取する機能も持っています。
(完全に濡れ衣ですが)「魔族」であることの罪を問われて拘束されたメイベルは、「ポータリア」 という名を与えられ、施設の機能により不老化させられた上でアカシアの監視役を押し付けられていました。

 状況を理解したアカシアはポータリアが止めるのも聞かず、すぐに脱出を試みます。
 彼女は、アカシアを狙うように改造された魔物たちを斬り伏せながら施設を探索していきます。


・ゲーム中だと結構苦戦する敵ですが、今のアカシアは記憶を一切喪っていない、いわば「完全状態」であるため、さらっと倒しています。


・『Acassia∞Reload』にも1マップとして登場する図書館で、アカシアはポータリアに扉のロックのヒントを教えてもらいます。ちなみにロックのパスワードは「raisondetre(レゾンデートル)」でしたが、これは「存在理由」を意味する言葉です。(ツクールでフランス語が使えない都合上、正確な表記ではありませんが。)


・施設の奥の方は一面が透明なスクリーンで構成されており、外の宇宙空間を見透せるようになっています。

 探索の果てに施設の最奥部に辿り着いたアカシア。
 そこには彼女いわく「全ての源」である、「結晶状のもの」が浮かんでいました。
 それこそ、アルターの生み出した「神(=プレイヤー)との接続手段」であるホロウ・ジェネレータです。


・この子が座っている結晶がまさにその物です。

 ホロウ・ジェネレータの傍に有る、地球への転移陣を起動させようとしたアカシアですが、そこに黒い騎士のような姿をした強力な魔物が不意打ちを仕掛け、彼女を刺殺してしまいます。
(これは『Acassia∞Reload』に登場するラスボスより強い敵「魔剣殺し」です。)
 とはいえ、アカシアは不死身なので何の感慨もなく転生します。
 しかし復活した彼女は、初めてここに来た時に目を覚ました地点に戻されていたと共に、幾つかの記憶が失われていました。


・これは年老いた唯理と交わした会話のことです。しかし、具体的な内容は忘れてしまっていました。
 

 アカシアは自身の記憶がこの施設の機能によって奪われているかも知れない可能性を考え、施設各所に自身の記憶を記録として遺していきます。
 これは『Acassia∞Reload』における「記憶の痕跡」です。人間がここに来て痕跡を消去するリスクを怖れて、一箇所には集めないようにしています。
(この時、アカシアはあえて人類側の視点で記述された記録を遺しています。その為、本編で明かされた事実とは異なる捉え方で説明がなされている場合があります。)
 探索を進め、再び騎士の魔物と対峙します。
 今度は不意打ちこそ避けたものの、その圧倒的な戦闘力を前に、初回の記憶消去で幾らか術技を忘れてしまったアカシアは苦戦し、敗北します。
(最初の死を迎える前、彼女は記憶の痕跡を遺していませんでした。つまり『Acassia∞Reload』において全ての記憶を取り戻した後ですらアカシアの全盛期ではなかった……ということになります。)
 そして再び、彼女は死を迎えます。

 その後、「アカシアとの接続が不安定である」という旨のエラーメッセージが(接続用インタフェースとしての「ReIn∽Alter」の画面上に)表示されます。
 ホロウ・ジェネレータは問題解決の為、緊急用の新しいインターフェースを構築し始めました。
 アカシアが自分の正体やホロウ・ジェネレータのこと、プレイヤーのことなどを忘れていったことで、プレイヤーとの接続が不安定化してしまったのです。

「戸口(ポータル)」の孤独

 視点はポータリアに移ります。
 彼女は死ぬ度に記憶が失われていくアカシアの姿を見て、心を痛めていました。
 《無限遠の牢獄》にはアカシアの記憶を奪う機能が備わっていたのです。
 それは「死なない魔王を殺す数少ない方法」であり、同時に、アカシアに対する人類の嫌がらせでもありました。
(なお、ホロウ・ジェネレータを破壊すればアカシアは無力化出来ますが、そこからエネルギーや《術式》の恩恵を受けている人類側には出来ない決断でした。そもそも超技術で作られたコンピュータを破壊出来るかは怪しいですが……。)

 この状態では「アカシアに自身を殺してもらう」という約束を果たせません。
 一方で、飽くまで人類の中に居場所を求めるポータリア自身は「アカシアの監視役」という、人間達から与えられた「存在理由」を放棄してアカシアを手助けする勇気も持てません。
 存在理由に縛られて生き続けるか、それとも、自身の願いを優先するか。
 数千年か数万年間、ポータリアは孤独に苦しみながら、ひたすらに死にゆくアカシアを眺め続け、葛藤しました。

 度々地上の様子を窺っていたポータリアは、長い時を経て変わり果てた人類について独白します。
 人類は過酷化する世界に対抗する為、《阿頼耶(あらや)計画》なるものを立てて、同じ肉体の中に無数の精神を持つ一体の怪物――「アラヤ」へと変わってしまったのです。
(アカシアとは似ているようで違います。この怪物は、元となった人類の精神を融合することなく保持しています。)
 アラヤは無数の並行する人格から繰り出される強力な術式によって魔族たちを殲滅し、地球を支配しました。

 もはや、人と魔族の戦いは終わっていました。
 ですがポータリアは未だ、アカシアが記憶を取り戻し「魔王」として再び君臨することを夢見ています。
 そして彼女は、かつてアカシアと共に在ったと言われている最強の味方――「プレイヤー」に助けを求めるのでした。
(アカシア以外の人々は「プレイヤー」の存在を認識している訳ではありませんが、アカシアの振る舞いから、そういった存在が有り得ることを仮定しています。)

Acassia∞Reload

 ポータリアの独白後、視点は「(アカシアを観測するインタフェースとしての)ReIn∽Alter」に戻ります。
 ついに緊急用の新しいインタフェースの構築が完了し、起動します。
 その名は『Acassia∞Reload』。


・インタフェース起動画面としてタイトルロゴが表示されます。作品の中に別の作品を含む入れ子構造にするという、メタフィクション的演出。

 プレイヤーは転生システム「アカシア・リロード」内に保存されている、物理空間の本人とは異なる「アカシアの記録」に救済を頼まれます。


・これは「プレイヤーの意志による干渉」が出来るようになったことを示す演出です。

 プレイヤーがアカシアの救済を約束します。
 かくして『ReIn∽Alter』は『Acassia∞Reload』へと移行し、記憶の無い少女と「あなた」による、新たなる戦いが始まります。

 新たなるインタフェースは、より複雑にアカシアに干渉する力を持っていました――具体的には、「RPGの主人公」として、プレイヤーは彼女を操作することが出来ました。
 これによって、アカシアを脱出に導いていきます。
 その過程はダイジェストとして描かれていますが、詳しくは『Acassia∞Reload』をお楽しみ下さい――ということで。
(そもそもこの後の展開や台詞は一部を除いて『Acassia∞Reload』そのままなのですが。)

 プレイヤーの助けによってアカシアが「魔王」に戻ったことにポータリアは喜び、魔王と人類の最後の決着を見届ける為、共に地球に向かいます。
 

決戦

 地上に降り立ったアカシアは、人類の成れの果て「アラヤ」と最後の決戦を行います。
 全長1キロメートルというとんでもない大きさを持つ巨人であるアラヤは、地球全土を焼く程の術式攻撃を行いますが、アカシアは同じく地球規模の重力場を発生させ、全てを捻じ伏せます。


・この光線は『Acassia∞Reload』でアラヤが用いる攻撃スキル《百億の願い》です。ちなみに、ここでアカシアが言っている台詞は『Choir::Nobody』終盤の台詞「そんな死、”永劫”によって殺してしまえッ!」のセルフパロディです。というか「死を殺す」という表現自体が、僕の作品のクライマックスにおけるお約束の一つと言えます。

 やがて、アカシアはアラヤを撃破しました。
「人類を滅ぼす」という、一生分――或いはそれすらも越える、前世からの願いを達成し、彼女はプレイヤーに感謝を述べます。
 しかしそこにポータリアがやってきて「まだ終わっていない」と言います。

「剣」か、「少女」か

 アカシアにはまだやるべきこと――「最後の人類の討伐」がありました。
 逡巡しているアカシアの心に、忘れていた筈の記憶が蘇ってきます。

 それは、かつて唯理がアカシアに語った、「強さを他者に振りかざすのではなく、強さで以て他者の手を取ること」ことを説く言葉。
 記憶の痕跡に刻み損ねたため、誰の発言かはもう忘れてしまっていますが、それでもその言葉自体はアカシアの心の奥底に刻まれていました。

 唯理の願いを想起し、アカシアはその言葉の意味をようやく理解しました。
 彼女が今まで屠ってきた弱者の気持ちを理解出来なかったのは、「孤独」というものを知らなかったからです。
 ずっと、プレイヤーと共に在ったのですから。
 アカシアはそのことに気付き、最後に残された孤独な人類であるポータリアを許そうと思い始めます。
 しかし、「優しさ」という感情を知ったばかりの彼女は、どうすればポータリアの救済になるのかが分かりません。
 そこで彼女はプレイヤーに問いかけます。

 これが、本作で唯一の選択肢です。
『Acassia∞Reload』にも存在する選択肢であり、本作の物語の全ては、このシーンの為に在ると言っても過言ではありません。
「ポータリアを殺す」 というのは、自身の「存在理由」を貫徹すること。
 同時に、ポータリアを「敵」――すなわち「人間」として認めてやること。
 つまり、煌華たちが望んだ道を選ぶのがこの選択です。
「ポータリアを殺さない」 というのは、存在理由を放棄して、心の奥から自然と湧き出してくる「愛」を示すこと。
 唯理の望んだ道を選ぶのがこの選択です。

 これまで描いてきた 「存在理由」「愛」 の対比、そしてゲーム冒頭で唯理が言っていた 「存在しない筈の選択肢」 の意味 ――全てが、ここでようやく収束するのです。
 唯理が過去(本編の出来事)を語ったからこそ、存在理由を達成する為に突き進むのみだった筈の「魔王」は、「存在理由を放棄する」という有り得ない選択肢を思い浮かべられたのです。

 メタ的な話をすると、唯理という「ポータリアを殺さない選択を思い浮かべる理由」を描いてきたことで、本作においてようやくこの選択は等価なものとなりました。
『Acassia∞Reload』の段階ではこれらの過去は述べられていないのでポータリアを殺さない理由付けが薄く、ゆえに、あちらでは「ポータリアを殺さない」エンドは「(トゥルーではなく)ノーマルエンド」という扱いになっていたのです。

 さて、この選択肢を選ぶことで、物語はいよいよエンディングを迎えます。

エンド・オブ・リロード

「ポータリアを殺す」を選択した場合のエンディングです。
『Acassia∞Reload』ではこちらがトゥルーエンドとなっており、これを見るとセーブデータが消去されます。

 プレイヤーの提案に従い、アカシアは存在理由を貫くことを選びました。
 ポータリアは自分を「人類」と認めさせたこと、そして「自分の死によって魔王の生きる理由も潰える(すなわち、魔王を殺すことが出来る)」ということを勝ち誇って死んでいきます。
 最後の人間を殺したことにより、もはや寿命を超越して生き続ける理由を失ったアカシアもまた、消えていきます。
 彼女は改めてプレイヤーに感謝を述べます。


・かつてアルター達は、繁殖力の喪失によって種族ごと消えゆく絶望を紛らわすため、全てを記憶する力を持つ女神「アカシア」を信仰していました。長い時を経て、(この)アカシアもまた「記憶されること」を望みました。

 ポータリアとアカシアの死をもって物語は終わります。
 魔王はその存在理由を達成し、前世から続く「孤独との戦い」に勝利したのでした。

 この一文は『Acassia∞Reload』には無かったものです。
「一人でも手を差し伸べた者」というのは言うまでもありませんが、プレイヤーのことです。
 零はプルミエールに対し、まさにそのような存在が現れてくれることを願いましたが、それが成就した訳です。

 最後は、プレイヤーが救った「孤独な者」――星生、煌華、静音、プルミエール、アカシアが順番に映し出されていき、閉幕します。

魔王の超越

「ポータリアを殺さない」を選択した場合のエンディングです。
『Acassia∞Reload』ではこちらがノーマルエンド「魔王の死」となっており、このルートに入ってもアカシアは最後には(決断をし切れずに)自死し、再びやり直しになります。
 ですが本作においては、結末が少し異なります。


 
 アカシアはプレイヤーの提案通り、ポータリアを殺さないことを選びました。
 ポータリアは激昂し、「あなたの存在理由は『人を滅ぼすこと』の筈」だと語ります。
『Acassia∞Reload』ではそれに対し、アカシアは単に「最後の決断を先延ばしにする」という旨の発言をしていましたが、本作ではポータリアの発言をきっぱりと否定しています。

 アカシアは存在理由の達成を先延ばしにするのではなく、存在理由そのものを手放すことを――魔王を辞めることを宣言しました。
 理由なんて何も要らない、ただ他者と共に生きることを、アカシアは肯定したのです。
 ポータリアは「あなたのことがもっと嫌いになった」と言いつつも、笑顔で、差し伸べられた手を取りました。
 こうして魔と人は、最後の最後でやっと、お互いを尊重し合うことが出来たのです。

 二人は終わった世界をあてもなく彷徨い、理由もなく生き続けます。
 やがて、アカシアは肉体的寿命により穏やかな死を迎えます。
 ホロウ・ジェネレータから供給されているエネルギーによってポータリアは不老を保ったままですが、アカシアの死亡によりプレイヤーが本作の世界を完全に去れば、いずれエネルギーの供給は途絶えて彼女も死を迎えることになるでしょう。

 そんな彼女は、プレイヤーにこんなことを望みます。

 これからポータリアも死に、誰も居なくなってしまう世界。
 それでも、全てを見届けたプレイヤーが忘れないで居てあげれば、決してアカシアが孤独になることは無いのだと。
 ポータリアは、プレイヤーに「記憶の神」であることを望んだのです。

 そして彼女はこう言って、物語は幕を閉じます。

「さよなら。この生命が尽きた後、また会う日まで」

 最後に唯理とポータリアが描かれているスチルが順番に映し出され、本作は完結します。


あとがき

 これにて『ReIn∽Alter』完全解説記事は完結です。
 本作は哲学観、SF設定、複雑な人間心理などが入り混じった難解な作品ですが、そのぶん強く想いが込もっている作品でもあります。
 一見、かなり救いのない展開が続いていますが、根底にあるメッセージ性は「きっと誰かが手を差し伸べてくれる」という、非常に肯定的なものです。
 同族とも人間とも相容れない零を、唯理が救ったように。
 現世には一人も味方が居なかったアカシアを、「あなた」が救ったように。
 孤独な者が、救いのない世界においてそれでも生きる希望を見いだせるような、そんな物語が書きたいと思ったのです。

「孤独」に立ち向かう「愛」と「存在理由」の壮大な物語、もし最後まで見届けて頂けていたならば幸いです。

 ところで以前に投稿したこのイラストですが、本作の物語を振り返った上で見てみると、煌華ちゃんのアカシアに対するコメントの意味が分かります。


 彼女はまさに「煌華(そして、それに共感した者達)にとっての魔王」でした。
 また、ゲーム中ではあんな別れ方をした唯理ですが、ここでは「ともだち」と書かれています。
 相容れない者同士が、それでも友人になれるような、そんな世界があったら良いですね。

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Hollow_Perception 2021/03/20 19:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第九回(Ep.4後編)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 ネタバレ有り記事につき注意。

 さて、今週は、Ep.4の後半について述べていきます。
 物語は過去編から現在に戻り、各キャラクターの結末が描かれていきます。
 本編はここで完結となりますが、後日譚にして最重要エピソードとも言える「Ep.-」が控えています。

これまでの解説記事

・第一回(Ep.1前編)
・第二回(Ep.1後編)
・第三回(Ep.2前編)
・第四回(Ep.2後編)
・第五回(Ep.3前編)
・第六回(Ep.3中編)
・第七回(Ep.3後編)
・第八回(Ep.4前編)

Episode.4 「Alter」――後半


・クライマックスとなるシーンでは、本編のラスボス的位置付けのキャラクターとして零の前に立ち塞がるプルミエールとの決戦が描かれていきます。

十万年先の世界へ

 前回、ゼロは死を望んでいたのにも関わらず、死の間際には「少女」――唯理の前世との再会を望んでしまい、アルターやそれに近い領域まで進化した人間の記憶継承を行うシステム「アカシア・リロード」によって転生待ちの状態となりました。
 そして、十万年後――現代の社会。
 そこに突然変異的に生まれた、ゼロと高い近似性を持つ男児「零」にゼロの記憶が書き込まれ、転生が成立しました。
 零は転生によって幼い頃から膨大な知識を有していましたが、外見(銀髪、黄金の瞳)が両親と似ていないことと相まって、両親からは不気味に思われました。
 とはいえ、自身らが産んだ子供であることには変わりないため、人並みに育てます。
 零は彼らに不安を感じさせないため、「ゼロであること」を隠しながら、普通の人間のフリをして生きていきます。
 零は櫻岡火災事故で記憶を失うまで、隠していただけでゼロとしての記憶を持っていたのです。

 また、零にはプルミエールに似た妹――星生が居たため、零は初め、彼女も転生を果たしたのではないかと考えますが、星生はどうも普通の人間のように見えました。
 実は星生も星生で、零とはまた違う形で記憶を封印しているだけで、プルミエールの転生体な訳ですが、詳細は後述。
 星生は転生とは無関係に生粋の厭世主義者であり、幼い頃から世界中の悲劇を見ては絶望し続けていました。
 そんな彼女の姿を、原始時代に救ってきた「孤独な人間たち」に重ねた零は、どうにかしか星生を救おうと寄り添い続けますが、当の本人は救いなど望んでいない様子でした。
 まるで「生まれたこと自体が誤りだった」とでも言いたげな妹に苦悩しながらも、零はある日、運命の再会を果たします。


 
 東岸唯理。
 中学で出会った彼女が纏う雰囲気は、原始時代の「少女」そのものでした。
 しかし、唯理もまた特に記憶を持っていない様子であったため、無関係な他人だった場合のことを考えて、零は「会ったばかりの同級生」として接します。
 劇中では「実際のところ、唯理は転生体なのか」は明言されていませんが、過去の記事で述べた通り、唯理は記憶の継承が不完全であっただけで間違いなく転生しています。
 本作の物語は「唯理と、記憶を失った零の出逢い直し」が導入となっていますが、実はゼロにとっても同じ状況だった訳ですね。

 ともかく、前世のことはさておき、零は「プルミエールと”少女”」ではなく「星生と唯理」としての二人と過ごしていきます。
 しかし、星生の心の限界により、櫻岡火災は引き起こされてしまいます。
 なお、記憶を完全に継承している零は、普通の人間として生きるために隠していただけで、幼い頃から異能――ホロウ・ジェネレータへのアクセス権限を自在に使えました。
 一方で星生の場合はプルミエールの記憶を持っているものの「星生自身」はそれにアクセス出来なかったので、初めは異能を使えませんでしたが、極度のストレスによって覚醒しました。
 彼女が単なる「異能者」――「半・アルター」であるならば不可能だったことですが、彼女は肉体的には完全なるアルターだったので、「自発的覚醒」という例外的な方法で異能を獲得出来たのです。

 櫻岡火災の時、一酸化炭素中毒によって動けなくなった零は初めて異能の封印を解き、《観測》の力によって唯理の視点に憑依し、結末を見届けました。
(零の悪夢が唯理の視点で描かれていたのは、この時の記憶を想起していた為です。)
「せめて現実を見届け、受け止めよう」と思っての行いでしたが、結果的にそれが記憶封印に繋がってしまいます。
 愛する妹が自身の暴走を止める為に自殺するというのは、これまでの自己を否定するくらい、零にとってショッキングな現実でした。

 こうして回想が終わります。
 この後の経緯は、これまでの物語で描いてきた通りです。
 零は絶望によって全ての記憶を取り戻し、再覚醒しました。
 《共振》の異能によって、望んでもいないのに世界中の「孤独に共感出来る者達」を異能に覚醒させていく状態になってしまいました。
 そして、神了光騎との戦闘終了後の別れ際に、唯理に対して「大好きだ」と、ずっと伝えたかった想いを伝えました。
 もはや未練はありません。後は自身の異能によって世界の秩序をこれ以上壊してしまわないよう、星生がそうしたみたいに、自らを殺すだけです。
 なお、零は冷静に、淡々と感情を語っているように見えますが、孤独感による暴走状態に陥っているため、能力を制御出来ていません。
 もはや彼の心に希望はありませんでした。一見、彼自身でどうにか出来そうな問題なのに「独りで死ぬか、世界を壊してでも生き続けるか」の二択になってしまっているのは、そういった理由です。
(この状態の彼に対して「異能を制御すれば良い」と言うのは、鬱病患者に対して「鬱病を治せば良い」と言うのと同じことです。)

 零は絶望と決意を胸に、自ら選んだ死地へと向かっていきました。

変わりゆく世界

 次のシーンでは、零の異能によって変わっていく世界が、優利の視点で描かれていきます。
 世界中で、急速に増えゆく異能者。
 もはや、彼女の設立した特事委員会という小規模な組織では、どうしようもありません。
 世論が異能者に対する強硬的な考え、つまりは「暴力による排除」に傾いていっていることに嘆く優利。
 異能者の増加に関しては、零が生きる希望を得られればひとまずは解決することが分かっていますが、しかし優利は零の人格上、それが有り得ないことを誰よりも理解しています。
 実は、優利もアルターであり、ゼロのことを知っていたのです。
 彼女は文明を見守り続け、大規模な崩壊が見られた際にはそれを阻止する為に、社会的な働きかけをする役割を持っていました。その為、肉体的に或る程度アルターとの近似性が低くても、強引に記憶継承がなされてきたのです。
(従って、人格的にはアルターですが能力的には平凡な異能者です。)

 どうあがいても悲劇しか見えない絶望的な状況であるものの、優利は唯理の愛に一縷の望みを託します。
 彼女ならば、零を救って異能者の増加も止められるのではないかと。

 ここで、優利の独白によって本作のタイトルが掲げられます。
 解説記事で序盤から述べている「本作の真の主人公が唯理である」というのも、優利がそう認識しているからです。
「愛する者を救うため、強い意志を抱く者」を主人公とするならば、唯理は決して戦闘能力に優れずとも、間違いなく主人公と言えるでしょう。

零種<アルター>、降臨

 次のシーンでは、政府の戦闘部隊によって異能者の隠れ家への襲撃が行われます。
 半ば強引に部隊の装甲車に乗り込んだ優利は、彼らの性急な行動を咎めますが、部隊の者は「委員会が結果を出せていればこんなことにはならなかった」と吐き捨て、聞く耳を持ちません。
 結局、優利は彼らを止めることが出来ないまま、現場に到着してしまいます。


・隠れ家というのは、(組織名としての)「アルター」の拠点でした。

 そこには戦意のない異能者たちが匿われていました。
 戦闘部隊は彼らを容赦なく射殺します。
 一切の警告なく発砲する冷酷な行動によって、その場は即座に制圧された――かのように思えました。
 しかし、施設の奥から一人の少女が現れました。

 プルミエール――人類の始祖にして「神」とでも言うべき存在は、圧倒的な力を見せます。
 戦闘部隊は必死に抵抗しますが、彼女の放った剣波によって、櫻岡市の一画ごと消し飛ばされてしまいました。


・"与えた"というのは異能のことです。異能を使用出来ず、銃器で戦っている者達のことを見下しています。

 その暴虐に、優利はただ恐れおののきました。
 破壊性自体もそうですが、アルターは長い間、争いをしなかった生命体です。
 それが人間に対して暴力を振るっている様に、彼女は驚愕したのです。
 意図を問い詰める優利に対し、プルミエールは「罪のない異能発現者を撃った。生かしてはおけない」と語ります。
 ただ「自らが生き続けること」を是とし、何かに対して強いモチベーションを抱くことが無かったプルミエール。
 ですが現代の世界に蘇った彼女は、それとは異なり、明確な意志――人類に対する強い殺意を持っていました。
 その変化に戸惑っていると、今度はプルミエールの側が優利を糾弾します。
「優利が”文明を守る”という使命にもっと殉じていたならば、こうはならなかった」と。
「異能者を救えなかったことに責任を感じろ」と。
 自身がずっと抱えていた葛藤――「人として人間社会に埋没して生きるか、絶対者<アルター>として使命の為に生きるか」を改めて突きつけられ、苦悩する優利。
 そんな彼女に、プルミエールは野望を語ります。
 プルミエールは非・異能者を排除して、異能者の為の世界を作ろうとしていました。
 そして、その為に他者を覚醒させる力を持つ零を求めていました。
 それだけ話すと、どこかに去っていきます。
 
 一人残された優利は思案の末、決意しました。
 彼女はアルターとして、人の文明を守ることを誓います。
 その為にはあらゆる手段を選ばず、必要なら少数を切り捨ててやろうと誓います。
 それは、人間(=非・異能者)との決別を望む異能者たち、そしてプルミエールとは対立する道でした。

 異能者を愛し、彼らを虐げた非・異能者を滅ぼすことを目指すプルミエール。
 異能者を切り捨て、人を守ることを目指し始めた優利。
 アルターとしてどちらが正しいのか、それは分かりません。きっと、どちらも正義であり、どちらも悪なのでしょう。

世界ではなく、たった一人を救うために

 視点は唯理に移り変わります。
 彼女は特事委員会とは距離を置き、個人的に異能を用いて零を探していましたが、まるで見当も付きません。
 心は折れかけですが、それでも彼女の強い意志が潰えることはありません。
 そんな唯理のもとに優利から呼び出しが掛かり、特事委員会の事務所に行くことになりました。
 事務所にやってきた唯理に、優利は「零の殺害を決行する」と伝えます。
 唯理は激昂しかけますが、そこにある優利の意図――”唯理が零を救うという可能性に期待していること”を察し、「ならば自分が零を殺しに行く」と宣言します。
 望み通りの答えを聞き、優利は微笑みました。


・少なくともこの時の優利はまだ、個人的な情を抱いています。ゆえにこの台詞は、心からの想いです。

 優利から零の居場所と思われる地点を聞いた唯理は、空港に向かいます。
 そして、優利が事前に手配していた便でアフリカ大陸へ飛び立ちました。
 現地でも異能者が誕生しており、彼らの異能やそれに対抗する武装勢力によって都市は混乱状態に陥っていました。
 そんな様子を見て、零の生存によって異能者が増加し続けていることを実感しつつも、目的地――サハラ砂漠の、とある地点へと向かうのでした。


・何となく懐かしさを覚えているというのが、唯理が「少女」の生まれ変わりである根拠となっています。

人を救う決意

 視点は優利に戻ります。
 唯理を送り出した彼女は、事務所に集まった資料に目を通します。
 ここでようやく、結社「アルター」と「魔族」の秘密が明かされます。

 歴史上、星生のように先祖返りし、自然に異能に覚醒した者達は少数ですが存在していました。
 そんな、少数の孤独な異能者たちが集って出来た組織が「アルター」です。
 彼らは何度も何度も人間社会に潰されては、再興してきました。
 そして「アルター」は現代にも存在していました。
 当代の「アルター」の長である「王」――プルミエールは、三年前に自らを検体として、「ソルリベラ」と呼ばれる薬を生み出しました。
 これは、遺伝子に眠る「ホロウ・ジェネレータ」のアクセス権、すなわち異能を強○覚醒させるものです。
「ソルリベラ」は、完全覚醒した零が手もとに居ない間の、異能者を増やす代替手段として使用されてきました。
 但し、この薬を異能の素質が無い者が服用した場合、化け物――「魔族」に成り果ててしまうのです。
「アルター」の一員である光騎が言っていた「魔族が失敗作である」というのはつまり、そういうことです。
 プルミエールは「ソルリベラ」によって異能者を増やしつつ、ゼロの転生体であり(星生と同様に)優れた素質と共感性を持つ零を手駒にする為、煌華や光騎を使って彼を「人間への絶望」へと誘導してきました。
(二人とも我が強いので、命令とは別に個人的な目的もありましたが、恐らくプルミエールはそれも含めて彼らを尊重していることでしょう。)
 
 全ての真実を知り、もはや手遅れながらも、今からでもなにか出来ることがないかと考える優利。
 そんな時、事務所が暴徒によって襲撃され、自己の肉体を《治癒》によって再生出来る優利以外の職員がみな死亡します。

 群衆の愚かさや残酷さを実感する優利ですが、抱いた感情は怒りでも絶望でもなく、むしろ「愛する人類をより深く理解することが出来た」という喜びでした。
 彼女は、暴徒と化した群衆の前に姿を現します。

 シーンはそこで終わっていますが、このあと優利は、今まで秘匿してきた異能に関する全ての情報を明かし、人々や政府が求める「異能者の排斥」に貢献することを誓います。
 彼女のこの選択こそが後の社会の形成に繋がっている訳で、そう考えると、異能者の側に立って描かれる本作の物語的には「大悪党」となってしまったと言えるかも知れませんね。

 本作は半ば群像劇的な作品ですが、「迷いと絶望を経て、人間の為に生きる決意をした」という”物語”が描かれた点で、優利もまた主役のうちの一人でしょう。
「平和を愛する優しいお姉ちゃん」が至る結末が「人のために生きる”正義”にして、異能者を切り捨てる”悪党”」というのは、あまりに残酷な話ですが。

最後の真実、そして決戦

 サハラ砂漠のとある地点に到着した唯理は、異能によって零を発見します。
 その後、すぐに視点は零に切り替わります。
 死に向かう勇気を得るため、「少女」と出会った砂漠に立つ零。
 彼は、自殺の為に持ってきた星生のナイフを喉に突き立てようとします。
 しかし、彼にとって予想外の人物がそれを止めました。

 プルミエールとして覚醒した星生です。
 3年の時を経て成長しているのと、容姿をプルミエールに似せているので分かりにくいですが、肉体的には星生そのものです。
 彼女は零に真実を――実は表に出なかっただけで、星生として(本来の星生とは別の人格で)転生していたことを説明します。
 プルミエールをよく知る零からすれば「自己存在を秘匿しながら他人として生きる」というのは彼女らしくないことのように思えました。しかし実のところ、彼女はゼロの生き方から影響を受けており、「人を信じ、尊重してみよう」という心変わりをしたのです。
 しかし、星生を通じて十万年後の社会を見てきたプルミエールは、彼女を孤独に追いやった人類に失望してしまいました。
 皮肉にも、ゼロの生き様を親友として見守り続けたことによって得た人類に対する優しさが、一転して彼女を「人類の否定」に追いやってしまったのです。
 そんな彼女は、3年前の櫻岡火災の際、星生の合意を得て「プルミエール」として顕現しました。そして「アルター」を結成し、少数<異能者>の為に人類に抗う計画を始めたのです。
 彼女は零に対し、その戦いへの協力を仰ぎます。
 プルミエールとして覚醒したことによって孤独感を超克してしまった彼女は、《共振》による効率的な異能覚醒への誘導が出来ません。
「零ならば《共振》の力によって孤独な者達に世界へと叛逆する勇気を、力を与えられる」と。
 しかし、零はそれを断ります。
 彼は言いました。

「嫌なんだ。負の連鎖を起こすのは。憎み合って、互いに滅ぼしにかかるというのは」

 序盤から描かれてきた零の信念が、人類を憎む魔王の誘いを跳ね除けました。
 確かにプルミエールの行いは、ゼロが過去にしてきた「孤独な者達に寄り添う行為」です。
 しかし、その為に誰かを犠牲にすることを彼は認められません。
 そして、人類にはもはや、進化の為に犠牲を選別するような超越者、つまりはアルターも必要ないと語ります。
 遠い昔、ヒトを生み出したその日からずっと、ゼロ/零は「人が自分たちを拒むなら、”異端者”として素直に地球から去ろう」という決意を抱いていました。
 その決意を実行に移す時が来てしまっていたのです。

 お互いに相容れないこと、撤回出来ない理念があることを理解し、プルミエールは臨戦態勢を取ります。
 かくして、人類の始祖の戦いが始まりました。
 全てが必殺級の威力を持つプルミエールの猛攻を、零は《共振》によって器用に凌いでいきます。


・「魔王」「メンタルブレード」。プルミエールは後に登場するアカシアとは別人であるものの、深い繋がりがある為、彼女を連想させるような表現がなされています。

 しかし、容赦なく周囲の「普通の人間」を巻き込むプルミエールの戦い方に圧倒されていきます。
 まるで見せつけるかのように被害を増大させる彼女に対し、零は激昂しますが、やがて彼女の中に秘められた意図を察します。
 プルミエールは、零に彼女自身を否定する覚悟を決めさせようと、煽るような戦い方をしていたのです。それは袂を分かった親友としての、最後にして最大限の優しさでした。
 彼女の想いに応えるべく、零はアルターとしての真なる覚醒を遂げ、ホロウ・ジェネレータへの完全なるアクセス権を手に入れます。
 まさにプルミエールがそうであるように、本来、アルターは「異能」などという形式に囚われる必要はないのです。
 正しく、強く願いさえすれば、「ホロウ・パーセプション」の力で全てが叶うのですから。

 圧倒的な力同士の衝突を経て、プルミエールは最大級の現象改変を見せます。


・「魔王の睥睨」。訳すと《グレア・オブ・ルーラー》。「Acassia∞Reload」に登場するスキルです。

 周囲に「神としての威光」を具象化したかのような力場が形成され、零は立ち上がることすら出来なくなっていきます。
 更にダメ押しとばかりに強烈な熱線を放ち、零の肉体を焼き滅します。
 しかし、世界への愛、そして唯理に対する愛によって意志を強く持った彼は、死という概念すらも殺し、生物的には既に死んでいる身体を引き摺ってプルミエールに迫ります。


・《オーバーライド》も「Acassia∞Reload」でアカシアが用いるスキルであり、ゲームオーバーにならない「死殺」状態になります。

 そして、消えゆく意識を振り絞って、親友の身体に概念の刃を突き立てました。

 戦いが終わり、地に倒れ伏す零。
 彼は、プルミエールの手を取れなかったことを悲しみ、彼女に謝罪しました。
 そして、こう願いました。

「いつか生まれ変わった時、せめて誰かが、ひとりぼっちの君を見つけてくれますように」

 ”自分の代わりに誰かがプルミエールの手を取ってくれる”――そんな祈りは、すぐ後(Ep.-)にて成就することとなります。

 零はふと、自身に呼びかける唯理の声に気づきます。
 彼女は零が生きることを望んでいましたが、親友を手に掛けた零は、もはや「何かを選ぶ」という行為に絶望し切っていました。
 彼は死を受け入れると共に、唯理に対して「たくさんの孤独な人を救ってあげてくれ」と願います。
 まさに、原始時代に前世の彼女がそうしたように。
 そんな「残酷な願い」を聞かされた唯理は涙を流しながら、自分自身を大切にしない零や星生のことを糾弾します。
「自分自身への愛」。それは、この物語の登場人物の多くに欠けていたものでした。
 だからこそ、博愛精神を抱き、それを他者に示せる唯理は、他の誰よりも特別なのです。
 彼女は、飽くまでも生きることを諦めるつもりの零に「絶対に、独りになんかしてやらないからな」と宣言します。
 それを聞いて、零は穏やかな気持ちで無に還るのでした。


・零もまた、唯理のことを「主人公らしい」と捉えています。

未来へ

 視点はプルミエールに移り変わります。
 死した彼女の人格は「アカシア・リロード」に記憶されました。
「アカシア・リロード」の記憶領域、すなわち死後の世界で、自分とは別の存在として同じく記憶された星生と会話をしています。

 星生にとってプルミエールとは「身体を貸し与えていた協力者」とでも言うべき存在であるため、友人のようにフランクに話しています。
 プルミエールは敗北したことを悔やんでいますが、彼女に「砂漠に来ていた唯理を巻き込まないように戦う」ことを頼んで承諾してもらっていた星生は、糾弾するどころか感謝しています。
(非常に大規模な戦いが引き起こされたにも関わらず、その場に近づいていた唯理が無傷なのは、プルミエールと星生がこうして配慮した為です。)
 二人にとってもまた、唯理は特別な人間でした。

 二人は「次」、つまりは来世のことを考え始めました。
「アカシア・リロード」に居る為、その気になれば彼女たちは転生することが出来るのです。
 プルミエールは、ゼロが救った人類の未来を見守ることにします。
 そして、その時にもまだ人類が争いを続けるようならば、今度こそ彼らを滅ぼす――と。
 星生は、そんな彼女と共に「一人の人間」として生きることを望みました。
 櫻岡火災があった三年前以降、実のところ、星生は満たされた気持ちで居ました。
 プルミエールは強く、孤独であってもそのことを苦に思いません。
 そんな彼女の在り方に星生は憧れ、一つの存在で在れることに喜びを抱いていたのです。
 そして、「それを望んでいるのはわたしだけじゃない」と語ります。

 天上静音。
 佐咲煌華。
 魔王になることを望んだ彼女たちを含め、プルミエールは「孤独であることを求める者達全員を現世に連れて行く」と約束しました。
 こうして、かつて神であった彼女は存在理由を手に入れ、「魔王」となりました。

「生きる理由を果たして終わる」。
 それはまさしく「Acassia∞Reload」においてアカシアが願っていたことです。
 そう、後に登場するアカシアは、プルミエールの転生体なのです。
 正確には、プルミエールを核として星生や静音、煌華が融け合った「一人の存在」がアカシアです。
(完全に「アカシア」として一つに融合してしまっているため、彼女が星生らの記憶・人格を持っている訳ではありません。)

存在しない筈の選択肢

 零の死後、唯理は、個人で異能者の保護活動を始めていました。
 特事委員会は「武力を用いた異能者への対策および異能の軍用化」を目指す組織へと変貌してしまったため、現在の唯理にとっては敵となってしまいました。
 軍や警察、そして、かつて仲間であった優利に命を狙われて各地を転々としながらも、細々と活動を続けていきます。

 そして、それから七十年後。
 老いた唯理が、すっかり変わり果ててしまった社会について語ります。
 人類は、今ではすっかり(七十年前の誤解に端を発する呼称として)「魔族」としか呼ばれなくなってしまった異能者たちに対する非道な人体実験の果てに、素質が無くても使える”科学的異能”――《術式》を生み出しました。
 人類側が力をつけると、魔族側もまた、より人類に攻撃性を向けます。
 それに対抗するため、人類は更に強力な破壊技術を生み出します。
 そして《術式》の副作用によって「魔物」と呼ばれる化け物が出現するようになり、これらは人も魔族も無差別に攻撃しました。
(異能によっても魔物は少数出現するのですが、《術式》は異能と違って個人の経験から来る強烈な意志を必要としないぶん、”イメージの失敗”が多発してしまいます。その”ブレたイメージ”がホロウ・ジェネレータによって現実化されることで大量の魔物を出現させてしまうのです。)

「誰も傷つけずに救う」ことを目指してきた唯理の努力も虚しく、多くの者達が地球環境などお構いなしに争いを続け、世界は滅びに向かっていました。
 異能技術も含めて高度に発展した科学を用いれば、皆が過去の時代よりもより幸せに生きることが出来た筈なのですが、人の業がそれを否定していました。
 人の怒りと欲は肥大化し続けており、そういった意味で、もはや地球という場所は彼ら皆が共に生きるには狭すぎたのです。


 少し話がそれますが、荒れ果てた社会において争いを望まない人々の間で、電脳世界に移住する計画が立てられました。
 この電脳世界こそ、過去作『Choir::Nobody』の舞台です。

 結局、その電脳世界でも人類と「人類でないもの」――《電子精神》の争いが起きてしまったのは皮肉ですが、『Choir::Nobody』の結末を鑑みると、未来は決して悲観するだけのものではないとも言えるでしょう。
 なお、『Choir::Nobody』には「肉体を持った最後の人類」とされる「阿迦奢(あかしゃ)」という人物が登場します。
 これは裏設定ですが、阿迦奢の正体は魔族であり、アカシアとは無関係であるものの、彼女に準えてその名が付けられました。(アカシアは多くの魔族にとって憧れの存在です。)


 さて、話を戻します。
 唯理は、世界が変わっていく発端となった事件、すなわち本作で描かれてきた七十年前のことを、とある少女に語ります。
 こうして、物語は導入部分に繋がります。
 唯理が話している相手こそ、プルミエールの転生体である少女「アカシア」です。
 そして彼女は、煌華の孫でもあります。
「魔王」と呼ばれる最強の魔族であるアカシアは、生まれた時から人類に迫害され続け、彼らへの復讐を遂行していました。
 唯理はそんな彼女に自らの過去を話すことで、「存在しない筈の選択肢」 を提示します。
 すなわち 「人類を許す」 という選択です。
 まさにこの選択肢を提示することが本編の存在意義であり、『Acassia∞Reload』の前日譚としての本作の制作動機だったりします。(詳細はEp.-のラストにて。)
 アカシアは現時点では「人を救う理由なんてない」と言ってそれを拒絶しますが、「人にあらざる者ならば救ってもいい」とも付け加えます。
 それだけ伝え、彼女は唯理のもとを去りました。

 アカシアとの対話から数年後、唯理はついに寿命を迎えました。
 彼女は転生を望まない代わりに、死した零との再会を望みました。
 彼が死後の世界でも孤独に苦しんでいるかも知れないと、そう考えて。

愛が紡ぎし奇跡

 視点は天国――「アカシア・リロード」内部の零に移ります。
 そこに、彼と縁のある者は誰も居ません。
 彼が手を取らなかった者達――プルミエールや星生、静音や煌華は、「魔王」の夢を抱いて現世に旅立ってしまいました。
 少女たちの幸せを祈りつつ、零は転生せずに独り、消え去ることを選択します。
 元々、争いや恐怖から解放されることを望んでいたとはいえ、心には寂しさが渦巻いています。
 
「人は生まれた瞬間に、孤独になる。そうして、死ぬ時にもう一度、全てを喪って独りになるの」

 星生のそんな台詞を思い出し、「生まれた者は皆、最期は独りになるものだ」と諦観します。
 しかしそんな彼の前に、唯理は現れました。

 唯理は死後、零に寄り添うことで、星生が語った「孤独の運命」を否定したのです。
 二人は手を取り合って、人生の完結へと向かっていくのでした――。


 これにて物語は幕を閉じます。
 孤独への恐怖に支配されていた少年の心は、一人の少女の愛によってようやく解きほぐされ、彼は自己存在を肯定することが出来ました。


 本編は「零と唯理が"愛"で”孤独”に立ち向かう物語」として書かれており、零の救済によって一度、閉幕します。
 この結末がハッピーエンドかどうかは諸説あるところですが、少なくとも作者はハッピーエンドだと思っております。
 人間よりも遥かに長い間生きて、そのぶん膨大な時間、死について苦悩し続けてきた零。
 彼の元々の性格も相まって、「死を忘れて現世で平穏に生きる」という選択は出来ません。
 だからこそ、せめて死後に人生を肯定出来るような出来事があれば、それは最大限の幸せなのではないかと。
 
 なお、具体的には述べられていませんが、零と唯理は「アカシア・リロード」からの消滅を選びました。
 最期の再会によってハッピーエンドに到達した彼らの人生は完結しており、これ以上、繰り返す必要が無いのです。
 それでも、キャラクター心理やテーマ性の抜きにした純粋な感情としては、「アカシア・リロード」とは違う本物の天国で、失った日常を取り戻して楽しく過ごしてもらいたいな……なんて思ってしまいますね。
 そうしなかったのは他でもない、作者である私自身なのですが、私は”最近まで”原則、(何の理屈もない奇跡の表現としての)「天国」は描かないようにしていたんですよね。
 そういうのは見せるものではなく、信じるものだと思っているので。
(ですが、とある作品においては「そこを分かりやすく描いたほうがプレイヤーは救われた気持ちになれるな」と思ったので、そうしました。)

――さて、今週はこの辺りで。
 今回で本編は完結を迎えましたが、まだアカシアの物語が残っています。
 本作は全体として見れば「愛と存在理由の物語」なので、そのうちの後者を司る後日譚抜きにしては語れません。
 どうか「孤独であること選んだ側の者達」の未来を見届けていただければなと。

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Hollow_Perception 2021/03/13 15:38

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第八回(Ep.4前編)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 ネタバレ有り記事につき注意。
 いよいよ最終エピソードであるEp.4となります。こちらもEp.3と同様、かなりの長さとなることが明白なので「前編」「中編」「後編」と三週に分けていきたいと思います。
 厳密にはEp.4は「Ep.4 "Alter"」と「Ep.- "Transcendence"」の二部構成になっているので、後編で「Ep.-」について触れる形になると思います。

 さて、今週は、Ep.4の前半について述べていきます。
 最終話だけあって怒涛の勢いで物語の真相が明かされていきますが、なかでも前半は「現代異能モノ」というジャンルであることすら超越した展開を見せる上、登場人物の複雑な心情が描かれていく為、本作屈指の難解なパートと言えるかも知れません。


これまでの解説記事

・第一回(Ep.1前編)
・第二回(Ep.1後編)
・第三回(Ep.2前編)
・第四回(Ep.2後編)
・第五回(Ep.3前編)
・第六回(Ep.3中編)
・第七回(Ep.3後編)


Episode.4 「Alter」(新生)

タイトル画面についての解説


・分割版Ep.4のタイトル画面。統合版でもこの画面が使われています。

 ここに至ってようやく、タイトル画面に隠された表現の意味に触れられます。
 各タイトル画面にはキャラクターと共に二重螺旋が描かれていますが、その色を見てみましょう。
・Ep.1(唯理)――赤と黒
・Ep.2(静音と煌華)――両者ともに赤と黒
・Ep.3(星生と優利)――星生が赤と白、優利が赤と黒
・Ep.4(謎の少女=プルミエール)――赤と白

 この色は「異能者の遺伝子の混じり気」を表現しています。
 もっと正確に言えば「異能者」というより「異能者の元となった存在《零種(アルター)》」ですね。(すぐ後に詳しく解説します。)
 赤と黒で表現されているキャラクターは、肉体的には《零種》とヒトの祖先が入り混じっています。
 一方で赤と白のキャラクターは、《零種》としての純血種と言えます。
(そもそも、プルミエールは《零種》そのものなのですが。)

 さて、それでは本編を見ていきましょう。

星を棄てた民――アルター

 Ep.3のラストで、死を選ぶ為に唯理のもとを離れ、何処かへ去ってしまった零。
 場面はそこから一転し、「ゼロ」と呼ばれる男の視点で物語が描かれていきます。
 名前が察しがつく通り、彼は零の関係者であり、いわゆる「前世」に当たります
 彼は親友である、冷淡な印象の少女――プルミエールと一緒に居ます。

 場所は、現代よりも遥かに発達した技術を持つ、地球から遠く離れた星。その宇宙船発着場です。
(なお、本編であるところの現代編の舞台は地球です。)
 未来のようですが実は、本編(現代)の数百万年以上も昔の話。
 ゼロとプルミエールは他の仲間たちと共に、寿命が訪れた今の宇宙を脱出し、別の宇宙・惑星への移住を行おうとしていました。

 彼らの正体は 《零種》(以下、アルター)と呼ばれる、ヒトとは異なる種族 です。
 雑な表現をするならば、現代の人から見て彼らは「宇宙人」と言える存在です。
 アルターは 《虚数認識論(ホロウ・パーセプション)》 と呼ばれる、物理法則を無視した超越的な技術を持ちます。
 これは「宇宙外生命による観測から無限のエネルギーを引き出す」というものであり、本ゲーム「ReIn∽Alter」の正体は、宇宙外存在=プレイヤーが世界を観測する為のインタフェースに当たります。
 たとえば「人が手から炎を放つ」という”描写”が表示された時、観測者がそれを見て理解・想像することによってエネルギーが生成され、実際にその描写通りの現象が引き起こされるという訳です。
 いわゆるメタフィクション的設定ですね。サークル名がそのまま「Hollow_Perception」なのも、サークル名まで巻き込んだメタフィクション演出だったりします。
(勿論、他の自作品にも適合していると思い、この名前にしたのですが。)

 このような凄まじい力を持っているアルターですから、膨大な寿命の中、何不自由なく暮らしてきたのですが、彼らとて宇宙そのものの終わりは書き換えられませんでした。
 そしてもう一つ、彼らは重大な問題を抱えていました。
「生命の創造」を悪と捉える価値観を何百万年間も貫いてきた為に、繁殖能力が退化し、完全に失われてしまったのです。
 地球の生物から見たら、まさしく神のように永遠的な生命力を持つアルターですが、それでも「存在」である以上、いつかは滅びてしまいます。
 そこで、彼らは他の既存生命に自らの遺伝子を書き込み、継承させることを考えました。
 従って、彼らの宇宙の旅は、単に居住可能な宇宙を探すだけでなく、遺伝子を乗せることが可能な生命体の捜索も目的としていました。

 さて。
「低い繁殖能力」――煌華の「妊娠しにくい体質」。
「超常的な力」――《ReIn》。
「遺伝子への書き込み」――異能者が持つ、遺伝的な特異性。
 伏線は物語の各所に散りばめられていました。
 具体的にどう現代と繋がるかは後述しますが、アルターこそ、異能者のルーツとなる生物なのです。
 有り体に言えば、異能者とは「宇宙人の血が混じった人間」だった訳ですね。

女神アカシア

 次のシーンでは、故郷を飛び立ったゼロとプルミエールが宇宙船の中で過ごしている様子が描かれます。
 ゼロは「観測者」――すなわち、本作のプレイヤーに対して、《虚数認識論》を実装する装置である「ホロウ・ジェネレータ」の力について説明します。
 彼は暗に、プレイヤーに対して「観測を続ける」という形で協力を要請しています。
「作中のキャラクターがプレイヤーと協力する」というのは不思議な話ですが、これはまさに「Acassia∞Reload」で行われていたことですね。
 そしてこのシーンでは、まさにその作品名を冠する用語である「アカシア・リロード」についても言及されます。


 Ep.3にも登場したワードですが、その正体は「アルターの記憶・人格を保存し、適合率の高い肉体が発見された時にはそれらを書き込むシステム」です。
 つまり、アルターは「アカシア・リロード」の力によって転生を行うことが出来るのです。
 なお、"システムの語源"として説明されている「記憶の女神」とはすなわち、当サークルのマスコット「記憶の女神・アカシア」のことを指しています。(つまり、単なる神話上の人物ではなく、実際に存在しています。)
 ここで、彼女の姿を見てみましょう。

……どこかプルミエールや星生に似ていますよね。
 裏設定なのですが、アルターの容姿は遺伝子改変によって、女神アカシアの特徴である 「青みがかった銀髪」「黄金の瞳」 を持って生まれます。(姿は描写されていませんが、ゼロや零も、銀髪かつ金色の眼を持ちます。)
 これはアルターなりの信仰の表明です。
 ちなみに、このイラストで女神アカシアが座っている石柱のようなもの(こんな外見ですがコンピュータです)が「ホロウ・ジェネレータ」。この中に現象改変システム「ホロウ・パーセプション」および、転生システム「アカシア・リロード」が実装されています。
 言い換えれば、これは「異能の源」にして「天国」でもある訳です。

 さて、話を戻します。
アカシア・リロード……或いは「生きるということ」そのものについて、ゼロとプルミエールでは意見が分かれていました。
 「ただ自分が生きていること」を至上の価値と捉えるプルミエールは、アカシア・リロードの力を信用しており、「いつか死を迎えても、それまでに転生先として利用可能な肉体が用意出来る環境を整えればいい」と前向きに考えています。
 しかし、ゼロはそうではありませんでした。
 彼は「死」をひどく恐れており、たとえ転生が出来ようとも、死という絶望そのものは回避出来ないと考えているのです。
 また、「遺伝子の書き込みによって繁殖し、後世を遺す」という行為についても、死の恐怖を紛らわせるには足りないと考えています。
 それゆえに彼は「何のために生きるのか、何のために死ぬのか」という問いの答えを探していました。
 そして、「いつか無に還る虚しい人生を、それでも肯定出来るような"最高の死"」 を求めるようになりました。
 ゼロのこの心理こそ、彼の転生体である零というキャラクターの中心に在るものです。
 Ep.2後半の解説で述べた通り、記憶を喪失していない本来の零は(Ep.1から描かれてきた印象に反して)変化など望んでおらず、「世界ではなく自分が間違っている」という自己否定的な思考を抱いている訳ですが、ゼロもまた同様です。
 彼は死という「変化」に恐怖していますが、同時に、死から解放される方法は「死を受け入れること」しか存在しません。ゆえに彼はどれだけ苦しかろうと、死を望まずとも、その「唯一の方法」と向き合うしかないのです。
 そして、ゼロが抱くこの希死念慮じみた感情は、この後の展開によって決定的なものとなります。
 
 プレイヤーは唯理という優しいヒロインを見ているため直感に反するかも知れませんが、これらの 「そもそもゼロ(零)は死(による死からの解放)を望んでいる」 という背景が、物語ラストにおける零の選択に繋がっているのです。

青き星へ

 宇宙の旅を始めて、長い時間が経ちました。
 旅の中でアルターたちは様々な災難に見舞われ、予備の転生用肉体を喪ったり、「怪物」に襲われて死傷者が発生するなどしました。


・さらっと「虚数領域」などと書かれていますが、これは当サークル作品の共通設定である「宇宙(=世界)ではない”無”の領域」を示す言葉です。また、この「怪物」の正体は《虚数認識論》の副作用によって発生するものであり、「Acassia∞Reload」に登場する敵モンスターはその一部です。これは「現象改変を求める際のイメージがブレること」によって起こる現象です。

 しかし、彼らは出航から300万年もの時を経て、ようやく「居住可能性」と「近似性が期待出来る生命の存在」という二つの条件をクリアする星に辿り着きました。
 その星こそ、物語の舞台である地球です。
 多くのアルターはこの星の発見によって歓喜しましたが、彼らの中でもひときわ繊細な心を持つゼロは、「この侵略行為によって自分たちは本当に救われるのか」と疑問を抱いていました。
 とはいえ、その疑問を他の者たちに呈することはなく、地球の実地調査に参加します。


 
 この調査は、Ep.1で零が《観測》の異能を覚醒させる際に想起している場面です。
 この時は、視界の通らない森林を見渡す為に《観測》で視点を各所に飛ばして調査していました。
 さて。この場面におけるゼロですが、彼は地球の生態系を見て「恐ろしい」と感じています。
《虚数認識論》のお陰で生存の為に他の動物から何かを奪う必要がなく、繁殖もしなかったアルターは、長いこと「生命が本来持っている活力」「生きることに対する必死なまでの執着」から遠ざけられていました。
 その為、(ゼロが偶然踏みつけた虫が簡単に死んでしまったように)個々が非常に弱く、それを補うかのように凄まじい勢いで繁殖を繰り返す地球の生命に、恐怖を覚えてしまったのです。
 死を恐れるゼロにとって、彼らの在り方はあまりにも残酷でした。
 同行しているプルミエールは「この星に自分達の脅威となり得る生命体など存在しない」と言い、ゼロの恐怖心に共感出来ていませんが、それに対して彼はこう独白しています。

「個々がどれだけ弱くても、この星が、ここに生きる命の在り方そのものが僕を否定し、孤独にする」、と。

 この想いこそゼロ/零が抱く孤独感、そして本作における異能者たちが抱える孤独感の根源に在るものです。
 アルターは、異能者は、そうでない者にとって「よそ者」だったのです。
 初めから彼らは、人間から見て「違う」生命体なのであり、そこには孤独にならざるを得ない運命が存在していました。

「ヒト」の誕生――ReIn∽Alter

 アルターによる調査が進み、彼らは自身との近似性が比較的高い哺乳類を発見しました。後の、ヒトの祖先に当たる生物(いわゆる「猿」)です。
 そして、これらの動物にアルターの遺伝子を書き込むことになります。
 これは現代から約700万年ほど前の出来事です。

 ここで、プルミエールは「ホロウ・ジェネレータへのアクセス権限はイントロン下に隠しておくこと」と説明しています。
 アルターがアルターである所以として「(《虚数認識論》を実装している)ホロウ・ジェネレータを操れること」は必須条件ですが、知性が未成熟な生命体に与えるのは危険過ぎる力です。
 その為、ある程度、意識が成熟した段階でアクセス権限が発現するよう、遺伝子に処置を施したのです。
 このアクセス権限こそが現代編における「異能」の正体であり、異能者とは、アルターへの先祖返りが進んだ人間のことなのです。
 異能を発現させる時に瞳が金色になるのは、金色の瞳を持つアルターに一時的に回帰していることを示しています。
(「魔族」は、先祖返りの度合いが低いのに無理やりアクセス権限を発現させられ、遺伝子が暴走してしまった人間です。)
 また、本作のタイトル「ReIn∽Alter」とは、「アルターによって遺伝子(相似記号によって模されているもの)に《ReIn》が書き込まれた」という、まさにこのシーンを表現している訳です。

 こうして、遺伝子にアルターの特徴および異能の素質を書き込まれたことにより、この星に初めて「ヒト」が誕生しました。
 本作における「ヒト」とは、進化によって自然に誕生した種ではないのです。
 なお、これは現実の話ですが、最古の人類とされる猿人「サヘラントロプス・チャデンシス」も大体、700万年前くらいに存在していたようです。

 さて、遺伝子への処置は無事終わりました。しかし、もともと遺伝的侵略に乗り気ではなかったゼロは、この一件が決定的となって希死念慮が確固たるものとなってしまい、こんなことを言います。

「自分たちはよそ者である」という認識が強い彼は、地球とそこに住まう生命を尊重して「ヒトが自分たちを排斥することを望むなら、それを受け入れよう」という決意を抱いた訳です。
 それに対しプルミエールは「自分たちは知恵を授けるのだから、肯定的に捉えて然るべきだ」と返します。
「どれだけ愚かしく残酷に見えても、地球はありのままで在るのが正しく、自分たちは間違っている」 と考えるゼロ。
「自分たちの在り方こそが正しく、地球はそれに適応して高度な発展を遂げるべきである」 と考えるプルミエール。
 この時、もともと親友でありながらも価値観が違っていた二人の思惑は、決定的なズレを生みました。
 このズレが、Ep.4後半で描かれる遠い未来――現代編の結末に繋がります。

「愛」という感情

 次のシーンでは、「ヒト」が生まれてから約600万年ほど経っています。
 とんでもないスケールのお話なので時期の表記はかなりざっくりしていますが、こちらは現代から10万年ほど前の描写です。
 ヒトは既に多くの種に分化し、淘汰と進化を繰り返して発達していました。(この頃には既に「ホモ・サピエンス」と呼ばれるものが誕生しています。)
 一方で、アルターの後継者としてはまだ力不足でした。
 そんな中、彼らのうちの半数が、寿命によって命を落としました。
 そのことにゼロは深く悲しみ、絶望し、孤独感を覚えました。
「このままアルターの歴史は終わり、虚無へ還ってしまうのだ」と。
 彼は孤独感を癒やすため地球を旅しましたが、「よそ者」である彼を受け入れる生命体は、ホモ・サピエンスも含めて誰一人として居ません。

 しかし、孤独な旅の果て、そんな彼に近づいた者がただ一人だけ存在しました。
 金色の髪の少女――唯理の前世に当たる人間です。

 彼女はまだ完全ではないものの、アルターとの類似性が他の人類に比べて大きく高まった、突然変異個体でした。
 その為、繁殖力の低さも継承してしまっており、ヒトの群れから「女の役割を果たせない異常な存在」として一人、追い出されてしまったのです。
 そんな彼女ですが、言葉を発することは出来ないものの、ゼロの中に渦巻く孤独感に共感し、彼を抱きしめました。
 ゼロは、自らの感じた未知なる安らぎに対して「愛」という名を付けました。

 アルターは「愛」というものを感じたことがありません。
 彼らは《虚数認識論》という、個人で行使出来る圧倒的な力を有しているため、本質的には他者など必要としていないのです。同族に対する優しさは「愛」ではなく、純然たる「倫理・正義感」です。
 一方でこの時代のヒトもまた、仲間を守る利他行動を取ることはありますが、それは「愛」と呼ぶには些か原始的過ぎる原理――「自己や群れの保護」という本能によってそうしているに過ぎません。
 しかし「アルターである自分に手を差し伸べた」少女の在り方は、ゼロにとって「愛がある」と感じられました。
「愛」とは何なのか――その答えはどこにも存在していませんが、少なくとも彼は「異なる他者に手を差し伸べる勇気、”自分と違うこと”を赦す優しさ」を「愛」と見たのです。

 彼女は異能こそ使えませんが、「ヒトでもアルターでもあり、ヒトでもアルターでもない」という立場上「原初の異能者」と言える人間です。
 この少女、そして唯理が「主人公」である所以は、異能の有無や戦闘能力の高低ではなく、心に「愛」を抱いていることにあります。
 彼女たちは、誰よりも特別だったのです。

救済の旅、その終着点

 ゼロは、ホロウ・ジェネレータにアクセスして傷だらけの少女を癒やした後、二人旅を始めました。
(零が《治癒》に覚醒した際に想起した記憶は、この場面です。)
 彼らは世界中の孤独な人間たちを励まし続けました。
 独り寂しく死にゆく者を勇気づけ続けました。
 ゼロは少女から感じ取った愛を、人々に再分配していたのです。
 そんな二人の前に、プルミエールが現れます。
 アルターは人間と直接触れ合わない方針であった為、ゼロを咎めに来たのです。
 しかし、孤独な者達を見捨てることは彼には出来ません。
 彼はプルミエールに対し「もし目に障ったら、僕を殺してくれ」と頼みます。
 それはつまりプルミエールではなく人間の少女を取ったということに他ならず、彼女は悲しみつつも承諾しました。

 その一件以降も旅を続けましたが、やがて終わりは訪れます。
 少女の寿命がやってきたのです。
 その儚い結末に、ゼロは絶望しました。


・ここの語りは、星生の「人は生まれた瞬間に孤独になる」という台詞を意識しています。

 そして苦悩の果てに、生きる理由――「もう死んでしまった少女に愛を伝えたい」という想いを抱きます。

 彼は少女の遺体を埋葬しました。
 敵対を約束したプルミエールですが、とはいえ親友。彼女はゼロを気遣うように、埋葬に付き添います。

 ここはEp.3でも描写されたシーンですが、その意味はここでようやく分かります。
 零は少女に対して転生を望んでいたのです。
 しかし、少女はまだアルターとしては未成熟である為、プルミエールは転生を否定しているという訳です。
 彼女は、零の執着心を「彼自身を苦しめるもの」として否定し、「人と関わるのは止めたほうがいい」と忠告します。
 ですが、孤独という感情、として愛という感情を知ってしまった零には、もはやそれを選べません。

 ゼロは孤独から救われるため、「愛」を選びました。
 プルミエールはこの時点ではまだ明確な意志を持ってはいませんが、「飽くまで孤独であり続けること」を当たり前のものとして選びました。
 このゼロとプルミエールという二人のアルターの考え方の違いこそ、本作の最重要ファクターである「孤独と、それに対する二つの回答」に繋がっているのです。

 シーンは変わり、ゼロのその後が描かれます。
 少女の愛を失った彼は、「満たされぬ者が他者を満たすことなど出来ない」と言い、もはや他者を救うことを止めてしまいました。
 そうしているうちに、長かった人生にも終わりがやってきます。
 少女と初めて出会った地点である砂漠で、彼は寿命が尽きるのを待ちました。
(ちなみに、その砂漠とはサハラ砂漠のことです。「サヘラントロプス・チャデンシス」がサハラ砂漠の一角に生息していたらしいことになぞらえて、そこをゼロと少女にとっての”物語の開始地点”にしました。)

 しかし、死を望んでいた筈の彼は、間際になってそれを拒絶します。
 彼は生きる理由を見つけてしまっていたのでした。
 意識が消えゆく中、彼はアルターが信奉する女神「アカシア」に祈ります。

「どうか僕の存在を抱き留めてくれ。この希望が叶えられる時まで、永遠に。この存在理由が果たされる時まで、無限に」

 女神アカシア――すなわち「アカシア・リロード」は彼の意志を受け止め、かくして現代にて、「ゼロ」は「零」として記憶を引き継いで転生しました。



――今回はこの辺りで。
 この過去編は物語全体の真相が明かされるパートなので、シーン数のわりにかなりの長さになってしまいました。
 次回でEp.4本編の終了まで行きたいと思います。Ep.-(アカシア編)は一週で終わる想定ですが、場合(その時の忙しさ)によっては二週に分けるかも。
 

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Hollow_Perception 2021/03/07 12:00

作品に関するご報告/『ReIn∽Alter』完全解説記事・第七回(Ep.3後編)

 お疲れ様です、anubisです。
 初めにご報告ですが、短編ノベルゲーム『対象She-11に関する記録』が、
『ティラノゲームフェス2020』にて佳作を頂きました。
 プレイおよび応援して下さった方々、ありがとうございます!
 未プレイの方は、ご興味を持たれましたら是非。



 さて、今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 今週はEp.3の後編となっております。

 ネタバレ有り記事につき注意。
・Ep.3前編
・Ep.3中編






Ep.3「Realize」――後編


・Ep.3終盤では唯理の視点で、プロローグに登場する「銀髪の少女」の謎が明かされると共に、物語が急展開を迎えます。

少女の真意

 前回、零は唯理がかつて友人であったことを知り、ずっと自身を想ってくれていた唯理と共に、前向きに生きていくことを決意しました。
 その後、視点は唯理に切り替わります。
 ひとり帰宅した彼女は、喜びを隠せない様子でした。
 零に余計な精神的負荷を与えないよう、「忘れ去られた者」として彼を影から見守り続けた唯理。
 実は、異能によってずっと零の視点を観測していたことが、ここで明かされます。
 
 そんな強い少女である唯理ですが、本当は零に記憶を取り戻してもらい、かつての間柄に戻りたがっていました。
 彼女もまた、孤独を感じていたのです。
 そういった感情を「我欲だ」と自嘲気味に言いつつも、こんなことを独白して、我儘な人間なりにせめて零を孤独から救おうと誓います。

「世界に居場所が無いのに『それでも自分には存在意義がある』と叫び続けるのは難しい。
そうして孤独で泣いている時は、誰かが手を取ってやらねばならないんだ。」

 これは本作のメインテーマであり物語の課題でもある「孤独」に対する、煌華が出したのとは別の回答です。
 そして「存在意義」は「Acassia∞Reload」から引き継がれている、「孤独」に繋がるテーマです。それは「孤独に耐える為の武器」となるものですが、同時に「自身を孤独に縛り付ける枷」にもなる概念なのです。
「存在意義を強固に確立することで孤独に耐えるのではなく、ただ誰かが傍に居てやればそれでいい」と――唯理はそう言い、やがてそれを実践することになる訳です。
己を貫く強者に至ることが出来る「存在意義」
弱くとも他者と手を取り合い、支え合うことが出来る「愛」
 この二つの概念の対立は、そのまま物語の結末にも繋がっています。

 さて。決意を固めた唯理は、ふと、過去に思いを馳せました。

愛と絶望の記憶

 回想はまず、唯理の出自から語られます。
 彼女は大企業の幹部の両親から生まれた一人娘であり、いわゆる「お嬢様」として何不自由なく暮らしていました。静音や煌華とは大違いです。
 ただ、完璧主義かつ潔癖な両親の教育方針によって、彼女はいささか繊細に育ち過ぎました。
 両親いわく「低レベルな群衆」から悪い影響を受けないよう、唯理は可能な限り孤独な状況に置かれて育ったのです。
 (小学生時代の彼女は不登校であり、家庭内学習を経て特例的に卒業資格を貰っています。)
 ですが初め、唯理自身はそれが普通だと思っていたため、別段、気にしませんでした。
 しかし中学に進学後、ある時期から「競争相手の確保」の為に登校させられた唯理は、学校という場で初めてまともに接した「赤の他人」に、ひどく恐怖心を覚えました。
 自分とは全く違う、理解できない思考で動く他者が怖くて仕方がなかったのです。
 この時、初めて彼女は「孤独」という気持ちを理解しました。

 唯理は教室から逃げるように屋上に出ます。
 そこで、運命的な出会いを果たすのでした。
 屋上には、中学時代の零、そして妹の星生が居ました。
 


・星生はネット上の不幸なニュースを見ていますが、これは後に零に引き継がれた趣味です。この時期の零は「そんなの見てて楽しいか?」などと言い、興味なさげです。

 星生は儚げな雰囲気、厭世的な物言いに反し、唯理に馴れ馴れしく絡んできます。
 狼狽える唯理ですが、何故か高嶺兄弟にシンパシーを感じたため、不思議と悪い気はしませんでした。
 彼女は零や星生を見て「記憶を超えた深い親近感を感じた」……と語っています。
 この正体はEp.4にて明かされますが、唯理の前世から継承した「孤独な者たち」への愛情です。転生によって記憶は失ってしまっても、想いは残っていたのです。
 
 そんな出会いから、三人は友人付き合いを始めました。
 他者に恐怖する唯理にとって学校生活は苦痛そのものでしたが、三人で過ごす、平穏で楽しい時間だけは特別でした。
 「宝物のような経験であった」とまで言っています。


・唯理の前髪ぱっつんは星生の影響です。星生と出会う前の唯理、そしてスチルに描かれている前世の唯理は、ぱっつんじゃないんですよね。

 しかしある日、唯理は星生がいじめを受けていることに気付きます。


・星生は学園内においてどのグループにも属していないため、いじめの対象になっていました。

 被害者だというのに、まるで「人間なんてそんなもの」とでも言いたげに達観した様子の星生を見て動揺する唯理。
 星生に対して大人に助けを求めるよう言いますが、彼女は心底、世界に失望しており、他者に助けを求めようとしません。
 他者に対する恐怖はあれど「本質的に人は善なるものだ」と考えていた唯理にとって、星生の厭世的な思考は恐ろしいものでした。
 感情を乱す唯理を慰めるように、被害者であり苦しんでいる筈の星生が抱きしめて、こう言います。

「人は生まれた瞬間に、孤独になる。そうして、死ぬ時にもう一度、全てを喪って独りになるの」

 どうせ「生きること」とは「孤独であること」と同義なのだから、自身の苦しみにも何の意味もないと、全ては「仕方のないこと」だと……彼女はそう語るのです。
 星生は、自らの諦観を理解して落ち着いてもらおうと話し続けますが、唯理が泣いているのを見るに見かねて、零が止めます。
 
 それ以降も三人は友人関係を続けましたが、唯理は星生について不安を抱え続けていました。そして零もまた自身と同じように、星生を幸せにしてやりたくても出来ないことに苦しんでいると気付きます。
 ある日、唯理は高嶺兄妹の家に遊びに行きましたが、そこでアウトドア用のナイフを発見しました。
 Ep.1で零が武器として使っていたものですが、本来の持ち主は星生であり、彼女は「いつでも使える自殺の手段として持っておきたかった」などと語るのです。
 
 唯理は幸せと不安の入り混じった毎日を過ごしていき、そして――「その日」がやってきました。
 「現在」から三年前。櫻岡市火災事故における高嶺兄妹の真実が描かれていきます。
 零から「星生が失踪した」という連絡を受けた唯理は、慌てて彼女を探す為に家を飛び出しました。
 そして星生の思念――《共振》の異能によって拡散された「孤独に苦しむ心の声」に導かれ、櫻岡駅へと向かいます。
 異能を暴走させて多くの異能者を覚醒させると共に、彼らの能力を得ていく星生。
(火災は、このとき覚醒した光騎の《発火》を星生が獲得することによって引き起こされています。)
 彼女は、本当は辛かったのです。ただ、彼女にとって大切な他者である零や唯理にすらも希望を抱いていなかったから、助けを求められなかったに過ぎませんでした。
 (充分に星生は愛されているように見えますが、それは物語が零や唯理の視点で描かれている為であり、彼女自身がどう思うかはまた別のお話です。)
 櫻岡駅に到着したとき、唯理は星生への共感が強まったことによって異能――《ReIn》に覚醒しました。

 星生(と零)の異能は「共感をトリガーにして異能を発現させるもの」であるため、当人の「孤独感」を核にして発現しています。
 たとえば煌華は孤独から癒やされる為に、自身をより良く見せる「幻影」の異能に覚醒しました。
 静音は自身を孤独に追い込む者達に抗う為に、全てを退ける「拒絶」の異能に覚醒しました。
 そして唯理の場合は、傍に居る者が知らないうちにどこかに行ってお互いが孤独になってしまわないように、その者を見守る「観測」の異能に覚醒しました。
 
 唯理は異能を用いて星生の居場所を突き止め、駅構内のビルを駆け上がっていきます。
 途中、火傷と一酸化炭素中毒で動けなくなっている零を見つけます。
 唯理は彼を介抱しようとしますが、「僕なんかより星生を……」と言い、強く拒絶します。
 彼女は両方を助けたいと思いつつも、しぶしぶ星生のもとへ急ぎます。

 しかし、結果はこれまで何度も描かれてきた通り、星生の自殺で終わります。
 ここからは「零の悪夢」には描かれていない部分となります。(零は実のところ、ここまでは身体を動かせないながらも観測し続けていました。しかし、ここで意識が途切れています。)

 友人を救えなかったことに泣き崩れる唯理。
 そこに現れたのは、優利でした。
 彼女は異能力の実在を語ると共に、その異能で零を救ったことを伝えます。
 そして、自らを「社会の秩序を見守る使命を帯びた異能使い」「特事委員会の創設者」と語り、唯理に協力を要請します。


・この時点では高嶺家に介入していなかったため、「高嶺」姓ではありません。

 彼女は、”自分には人を救う才能――「時間を掛けて他者と分かり合って、心を救ってやる力」が無い”と語ります。
 だからこそ、出来るだけ多くの協力者を求めていました。
 しかし唯理は、「嫌だ」と言います。
 ここまで「秩序の味方」として描かれてきた唯理ですが、その正体は、ただひたすらに友人を愛した一人の少女でしかありません。たびたび零の前で出していた「世界よりも一人を優先する」唯理こそが、真の彼女です。
 友人を救わなかった世界を守ってやる道理など、彼女には無かったのです。
 ですが、「社会の為ではなく、零の為ならば、協力してやってもいい」とも言います。
 こうして唯理は、遺されたたった一人の為に秩序を守る異能者となりました。
 また、特別な異能者である零を傍で守り、日常に留めておく為、優利は彼の姉となりました。


 回想を終えると、唯理は視点分離によって観測している零の様子に異変を感じました。
 複数の人間が高嶺家に押し入っていたのです。
 唯理は慌てて、連れ去られる高嶺姉弟を追いました。

覚醒

 視点は零に移り変わります。
 ここは唯理の異能行使が中断されているため、全画面テキストウィンドウが使われています。
 気絶させられた後、目を覚ました彼は、視界を塞がれた状態で拘束されていました。
 そんな彼に、軽薄な声色の男――神了光騎が声を掛けます。
 彼はまず、煌華についての真実を明かしました。
 煌華は光騎の仲間であり、零を籠絡して味方に引き入れることを目的としていたと言うのです。
 煌華が世界への反逆を目論んでいたことを思い出し、零は「僕は協力しない」と伝えます。
 すると光騎は「俺は最初から”協力してくれ”と頼む気なんてない」と言い、部下の男達に命令して、その場に居た優利を○問させます。
 そして、そこには唯理も居ました。
 光騎は零に対して「どちらか一方を救うことを選べ」と言います。
 以前と同じく、またもや零は「最悪の二択」を押し付けられてしまうのでした。
 それに対して回答を出せずにいると、優利は更に残虐な○問を受けていきます。


・ここは作中で一番、優利の本音が出ているシーンと言えますね。彼女も根は結構黒い……というより「普通」に成りたがってるので「普通じゃないことを是とする社会の敵」に足を引っ張られるのが嫌なんですよね。

 零はすぐ傍で繰り広げられる惨劇に悲嘆し、話の通じない者達から大切な人を救い出す唯一にして最悪の方法が「武力で排除する」しかないと悟ります。
 そして彼は苦悩の果てに、ついに「主人公」――「自分の大切なものの為に、誰かの願いを踏みにじる”悪”」になることを決意しました。
 
 零は真の異能を覚醒させます。


  彼の能力は星生と同じ《共振》。
 他者と孤独感や絶望を分かち合う力です。
 零が淡々と独白をしているので自分の意思で異能を覚醒させたように見えますが、実際は精神的ストレスによる暴走状態に陥っており、冷静さを失っています。
 これによってあらゆる枷が解き放たれ、彼は全ての記憶を――彼自身を死に向かわせる過去を取り戻しました。
 その内容はEp.4にて語られるので、ここでは割愛します。
 
 零は《共振》によって複数の異能を駆使して、自身の拘束を解くと共に優利を○問していた男達を殺害します。

・この時、光騎とも共感を果たしており、彼が抱く孤独感を読み取ります。彼は生来の気質ゆえに孤独な人生を歩んでいましたが、そうであることをむしろ肯定的に捉えていました。

 それを見た光騎は、嬉しそうに零を挑発し、建物の外へ誘導します。
 彼の「組織のメンバー」としての目的は零を現在の状況に追い込むことでしたが、個人的な目的は「強力な異能者であるらしい零と戦うこと」だったのです。
(ちなみに光騎自身は零の能力の性質について、主である「魔王」からは知らされてはいませんでしたが、その個人的目標ゆえに「強ければ何でも良い」と思っていました。)

《共振》の力

 零は《共振》の《ReIn》を駆使して、様々な異能<ねがい>を使っていきます。
 ここで登場する異能は本作で既に出ているものもありますが、中には「Acassia∞Reload」でアカシアが使うスキルをイメージしたものもあります。
 傷を癒やす「治癒」の力。(優利のもの。)
 炎弾を放つ「発火」の力。(光騎のもの。)
 索敵をする「観測」の力。(唯理のもの。)
異能を減衰させる水を放つ「消沈」の力。(アカシアの「ブラウ・カスケード」。)
攻撃を退ける「守護」の力。(あちらは《術式》のため厳密には別物ですが、アカシアの「ロジックシェルター」。)
切断能力を持った嵐を起こす「刃嵐」の力。(アカシアの「ヴェールトゥ・プレッシャー」。)
敵を焼き尽くす「閃光」の力。(アカシアの「アルギュロス・パルス」。)
自身の負った傷を相手にも押し付ける「報復」の力。(アカシアの「ネロ・ヴェンデッタ」。)

 数多の異能を駆使していきますが、それでも圧倒的な練度を持つ光騎に苦戦する零。
 


・光騎はろくでもない男ですが、しかし、自身より圧倒的に強い「魔王」への憧れのお陰で、向上心に関しては尋常ではありませんでした。

 物理的に物体を燃焼させるだけでなく、概念すらも燃やす《発火》の力に翻弄される零。
 しかし、やがて圧倒的な異能の手数により、勝利を掴み取ります。
「主人公らしく」愛する者を勝ち取った零ですが、彼自身の心に残ったのは、虚しさだけでした。

別れ

 視点は唯理に移動します。
 彼女は零を慰めるように抱きしめますが、彼は「僕がここに来て、ここに生まれたのが悪かった」と自己否定しています。
 そして「どこか……多分、寂しいところへ行く」と言います。
 星生も自殺の際に似たことを言っていたため、今度こそ救おうと彼の手を掴もうとしますが、躱されてしまいます。
(星生は「多分、寂しくないところへ」と言っていたので、意味合いは真逆ですが。)
 泣き崩れながら、どこかに去っていく零を見送る唯理。
 そこに、まさに星生の時と同じように、優利がやってきます。

 彼女は状況を説明しました。
 零は星生と同じ異能に覚醒し、多くの「孤独な者達」を異能者として覚醒させているのだと。
 それを聞いて、唯理は零を探そうと立ち上がります。
 優利は「この状況は零は死なないと止まらない。そして彼は、自殺によって決着をつけようとしているのだろう」と言って唯理を止めようとしますが、彼女は振り払います。
 これでは星生の時の再現にしかなりません。唯一、彼女の死に際を見た唯理としては、なんとしても零を救いたかったのです。
 
 唯理が立ち去ったところでシーンが終了します。

再起<リロード>

 視点は、死亡した筈の静音に変わります。
 目を覚ますと、彼女は何故か学校に居ました。
 困惑しつつも、同じくその場に居た煌華に声を掛けます。

 死を自覚して諦観を見せる静音でしたが、そんな彼女に煌華は「まだ全然終わってないよ」と言います。
 死後の世界だというのに、彼女はまだ未来を――夢を見ていました。
 そして再び、復讐の旅に静音を誘います。
 静音は煌華の今までの行いを許した上で、再び友人として彼女に付き合うことを決意します。
 
 こうして、復讐の為に「強く在ること」を望んだ二人の少女は、手を握り合って言いました。
 
「「一緒に、魔王になろう」」

 このシーンは死後の世界――正確には、「人の記憶=人格を保存するシステム」である「アカシア・リロード」内部の描写となります。
「アカシア・リロード」は本作における最重要要素であり、Ep.4にて語られるため今は割愛しますが、「存在理由」を抱いたまま死んでいった者達を転生させることが出来ます。
 まさにその名の通り、「Acassia∞Reload」に直接繋がるものとなっています――そして、二人の少女の行く末もまた、同様に。

 この扱いからも分かる通り、煌華と静音もまた、本作の主役と言える存在なんですよね。
 彼女たちは「孤独」という壁に対して、唯理とは別の回答を叩きつける、対立的な役割を担っている訳です。
 唯理は「愛でもって孤独を癒やすこと」を唱えました。
 それに対し、煌華と静音(そして光騎や彼の言う「魔王」)は「強固な存在理由を貫いて他者を寄せ付けない”強き孤高”であること」を願うのでした。

 ここは煌華という少女に関する本質が描かれるシーンでもありますね。
「愛されることを知らなくて、幼い日の気持ちのまま育ってしまった」という”静音評”は、最も本質に迫った認識と言えます。
 煌華はただひたすらに哀れな子供だったのです。だからこそ静音はそんな、愛されなかったせいで大人になれなかった少女について「放っておけない」と感じているのでした。
 


 そういった二人のシーンが描かれ、Ep.3は終了します。
 分割版だとここで最後の次回予告が流れます。


――と、今回はこの辺りで。
 次回はようやくEp.4。全ての謎が解き明かされるパートです。
 本作は結末に全てが繋がるような構成となっている作品なので、解説としても最後が一番、やりがいを感じます。
 ここから「現代異能モノ」がガチガチのSFに変わっていくので、読解を追いつかせるのが大変だった方も居るかもしれません。
 

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