Hollow_Perception 2021/03/20 19:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第九回(Ep.4後編)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 ネタバレ有り記事につき注意。

 さて、今週は、Ep.4の後半について述べていきます。
 物語は過去編から現在に戻り、各キャラクターの結末が描かれていきます。
 本編はここで完結となりますが、後日譚にして最重要エピソードとも言える「Ep.-」が控えています。

これまでの解説記事

・第一回(Ep.1前編)
・第二回(Ep.1後編)
・第三回(Ep.2前編)
・第四回(Ep.2後編)
・第五回(Ep.3前編)
・第六回(Ep.3中編)
・第七回(Ep.3後編)
・第八回(Ep.4前編)

Episode.4 「Alter」――後半


・クライマックスとなるシーンでは、本編のラスボス的位置付けのキャラクターとして零の前に立ち塞がるプルミエールとの決戦が描かれていきます。

十万年先の世界へ

 前回、ゼロは死を望んでいたのにも関わらず、死の間際には「少女」――唯理の前世との再会を望んでしまい、アルターやそれに近い領域まで進化した人間の記憶継承を行うシステム「アカシア・リロード」によって転生待ちの状態となりました。
 そして、十万年後――現代の社会。
 そこに突然変異的に生まれた、ゼロと高い近似性を持つ男児「零」にゼロの記憶が書き込まれ、転生が成立しました。
 零は転生によって幼い頃から膨大な知識を有していましたが、外見(銀髪、黄金の瞳)が両親と似ていないことと相まって、両親からは不気味に思われました。
 とはいえ、自身らが産んだ子供であることには変わりないため、人並みに育てます。
 零は彼らに不安を感じさせないため、「ゼロであること」を隠しながら、普通の人間のフリをして生きていきます。
 零は櫻岡火災事故で記憶を失うまで、隠していただけでゼロとしての記憶を持っていたのです。

 また、零にはプルミエールに似た妹――星生が居たため、零は初め、彼女も転生を果たしたのではないかと考えますが、星生はどうも普通の人間のように見えました。
 実は星生も星生で、零とはまた違う形で記憶を封印しているだけで、プルミエールの転生体な訳ですが、詳細は後述。
 星生は転生とは無関係に生粋の厭世主義者であり、幼い頃から世界中の悲劇を見ては絶望し続けていました。
 そんな彼女の姿を、原始時代に救ってきた「孤独な人間たち」に重ねた零は、どうにかしか星生を救おうと寄り添い続けますが、当の本人は救いなど望んでいない様子でした。
 まるで「生まれたこと自体が誤りだった」とでも言いたげな妹に苦悩しながらも、零はある日、運命の再会を果たします。


 
 東岸唯理。
 中学で出会った彼女が纏う雰囲気は、原始時代の「少女」そのものでした。
 しかし、唯理もまた特に記憶を持っていない様子であったため、無関係な他人だった場合のことを考えて、零は「会ったばかりの同級生」として接します。
 劇中では「実際のところ、唯理は転生体なのか」は明言されていませんが、過去の記事で述べた通り、唯理は記憶の継承が不完全であっただけで間違いなく転生しています。
 本作の物語は「唯理と、記憶を失った零の出逢い直し」が導入となっていますが、実はゼロにとっても同じ状況だった訳ですね。

 ともかく、前世のことはさておき、零は「プルミエールと”少女”」ではなく「星生と唯理」としての二人と過ごしていきます。
 しかし、星生の心の限界により、櫻岡火災は引き起こされてしまいます。
 なお、記憶を完全に継承している零は、普通の人間として生きるために隠していただけで、幼い頃から異能――ホロウ・ジェネレータへのアクセス権限を自在に使えました。
 一方で星生の場合はプルミエールの記憶を持っているものの「星生自身」はそれにアクセス出来なかったので、初めは異能を使えませんでしたが、極度のストレスによって覚醒しました。
 彼女が単なる「異能者」――「半・アルター」であるならば不可能だったことですが、彼女は肉体的には完全なるアルターだったので、「自発的覚醒」という例外的な方法で異能を獲得出来たのです。

 櫻岡火災の時、一酸化炭素中毒によって動けなくなった零は初めて異能の封印を解き、《観測》の力によって唯理の視点に憑依し、結末を見届けました。
(零の悪夢が唯理の視点で描かれていたのは、この時の記憶を想起していた為です。)
「せめて現実を見届け、受け止めよう」と思っての行いでしたが、結果的にそれが記憶封印に繋がってしまいます。
 愛する妹が自身の暴走を止める為に自殺するというのは、これまでの自己を否定するくらい、零にとってショッキングな現実でした。

 こうして回想が終わります。
 この後の経緯は、これまでの物語で描いてきた通りです。
 零は絶望によって全ての記憶を取り戻し、再覚醒しました。
 《共振》の異能によって、望んでもいないのに世界中の「孤独に共感出来る者達」を異能に覚醒させていく状態になってしまいました。
 そして、神了光騎との戦闘終了後の別れ際に、唯理に対して「大好きだ」と、ずっと伝えたかった想いを伝えました。
 もはや未練はありません。後は自身の異能によって世界の秩序をこれ以上壊してしまわないよう、星生がそうしたみたいに、自らを殺すだけです。
 なお、零は冷静に、淡々と感情を語っているように見えますが、孤独感による暴走状態に陥っているため、能力を制御出来ていません。
 もはや彼の心に希望はありませんでした。一見、彼自身でどうにか出来そうな問題なのに「独りで死ぬか、世界を壊してでも生き続けるか」の二択になってしまっているのは、そういった理由です。
(この状態の彼に対して「異能を制御すれば良い」と言うのは、鬱病患者に対して「鬱病を治せば良い」と言うのと同じことです。)

 零は絶望と決意を胸に、自ら選んだ死地へと向かっていきました。

変わりゆく世界

 次のシーンでは、零の異能によって変わっていく世界が、優利の視点で描かれていきます。
 世界中で、急速に増えゆく異能者。
 もはや、彼女の設立した特事委員会という小規模な組織では、どうしようもありません。
 世論が異能者に対する強硬的な考え、つまりは「暴力による排除」に傾いていっていることに嘆く優利。
 異能者の増加に関しては、零が生きる希望を得られればひとまずは解決することが分かっていますが、しかし優利は零の人格上、それが有り得ないことを誰よりも理解しています。
 実は、優利もアルターであり、ゼロのことを知っていたのです。
 彼女は文明を見守り続け、大規模な崩壊が見られた際にはそれを阻止する為に、社会的な働きかけをする役割を持っていました。その為、肉体的に或る程度アルターとの近似性が低くても、強引に記憶継承がなされてきたのです。
(従って、人格的にはアルターですが能力的には平凡な異能者です。)

 どうあがいても悲劇しか見えない絶望的な状況であるものの、優利は唯理の愛に一縷の望みを託します。
 彼女ならば、零を救って異能者の増加も止められるのではないかと。

 ここで、優利の独白によって本作のタイトルが掲げられます。
 解説記事で序盤から述べている「本作の真の主人公が唯理である」というのも、優利がそう認識しているからです。
「愛する者を救うため、強い意志を抱く者」を主人公とするならば、唯理は決して戦闘能力に優れずとも、間違いなく主人公と言えるでしょう。

零種<アルター>、降臨

 次のシーンでは、政府の戦闘部隊によって異能者の隠れ家への襲撃が行われます。
 半ば強引に部隊の装甲車に乗り込んだ優利は、彼らの性急な行動を咎めますが、部隊の者は「委員会が結果を出せていればこんなことにはならなかった」と吐き捨て、聞く耳を持ちません。
 結局、優利は彼らを止めることが出来ないまま、現場に到着してしまいます。


・隠れ家というのは、(組織名としての)「アルター」の拠点でした。

 そこには戦意のない異能者たちが匿われていました。
 戦闘部隊は彼らを容赦なく射殺します。
 一切の警告なく発砲する冷酷な行動によって、その場は即座に制圧された――かのように思えました。
 しかし、施設の奥から一人の少女が現れました。

 プルミエール――人類の始祖にして「神」とでも言うべき存在は、圧倒的な力を見せます。
 戦闘部隊は必死に抵抗しますが、彼女の放った剣波によって、櫻岡市の一画ごと消し飛ばされてしまいました。


・"与えた"というのは異能のことです。異能を使用出来ず、銃器で戦っている者達のことを見下しています。

 その暴虐に、優利はただ恐れおののきました。
 破壊性自体もそうですが、アルターは長い間、争いをしなかった生命体です。
 それが人間に対して暴力を振るっている様に、彼女は驚愕したのです。
 意図を問い詰める優利に対し、プルミエールは「罪のない異能発現者を撃った。生かしてはおけない」と語ります。
 ただ「自らが生き続けること」を是とし、何かに対して強いモチベーションを抱くことが無かったプルミエール。
 ですが現代の世界に蘇った彼女は、それとは異なり、明確な意志――人類に対する強い殺意を持っていました。
 その変化に戸惑っていると、今度はプルミエールの側が優利を糾弾します。
「優利が”文明を守る”という使命にもっと殉じていたならば、こうはならなかった」と。
「異能者を救えなかったことに責任を感じろ」と。
 自身がずっと抱えていた葛藤――「人として人間社会に埋没して生きるか、絶対者<アルター>として使命の為に生きるか」を改めて突きつけられ、苦悩する優利。
 そんな彼女に、プルミエールは野望を語ります。
 プルミエールは非・異能者を排除して、異能者の為の世界を作ろうとしていました。
 そして、その為に他者を覚醒させる力を持つ零を求めていました。
 それだけ話すと、どこかに去っていきます。
 
 一人残された優利は思案の末、決意しました。
 彼女はアルターとして、人の文明を守ることを誓います。
 その為にはあらゆる手段を選ばず、必要なら少数を切り捨ててやろうと誓います。
 それは、人間(=非・異能者)との決別を望む異能者たち、そしてプルミエールとは対立する道でした。

 異能者を愛し、彼らを虐げた非・異能者を滅ぼすことを目指すプルミエール。
 異能者を切り捨て、人を守ることを目指し始めた優利。
 アルターとしてどちらが正しいのか、それは分かりません。きっと、どちらも正義であり、どちらも悪なのでしょう。

世界ではなく、たった一人を救うために

 視点は唯理に移り変わります。
 彼女は特事委員会とは距離を置き、個人的に異能を用いて零を探していましたが、まるで見当も付きません。
 心は折れかけですが、それでも彼女の強い意志が潰えることはありません。
 そんな唯理のもとに優利から呼び出しが掛かり、特事委員会の事務所に行くことになりました。
 事務所にやってきた唯理に、優利は「零の殺害を決行する」と伝えます。
 唯理は激昂しかけますが、そこにある優利の意図――”唯理が零を救うという可能性に期待していること”を察し、「ならば自分が零を殺しに行く」と宣言します。
 望み通りの答えを聞き、優利は微笑みました。


・少なくともこの時の優利はまだ、個人的な情を抱いています。ゆえにこの台詞は、心からの想いです。

 優利から零の居場所と思われる地点を聞いた唯理は、空港に向かいます。
 そして、優利が事前に手配していた便でアフリカ大陸へ飛び立ちました。
 現地でも異能者が誕生しており、彼らの異能やそれに対抗する武装勢力によって都市は混乱状態に陥っていました。
 そんな様子を見て、零の生存によって異能者が増加し続けていることを実感しつつも、目的地――サハラ砂漠の、とある地点へと向かうのでした。


・何となく懐かしさを覚えているというのが、唯理が「少女」の生まれ変わりである根拠となっています。

人を救う決意

 視点は優利に戻ります。
 唯理を送り出した彼女は、事務所に集まった資料に目を通します。
 ここでようやく、結社「アルター」と「魔族」の秘密が明かされます。

 歴史上、星生のように先祖返りし、自然に異能に覚醒した者達は少数ですが存在していました。
 そんな、少数の孤独な異能者たちが集って出来た組織が「アルター」です。
 彼らは何度も何度も人間社会に潰されては、再興してきました。
 そして「アルター」は現代にも存在していました。
 当代の「アルター」の長である「王」――プルミエールは、三年前に自らを検体として、「ソルリベラ」と呼ばれる薬を生み出しました。
 これは、遺伝子に眠る「ホロウ・ジェネレータ」のアクセス権、すなわち異能を強○覚醒させるものです。
「ソルリベラ」は、完全覚醒した零が手もとに居ない間の、異能者を増やす代替手段として使用されてきました。
 但し、この薬を異能の素質が無い者が服用した場合、化け物――「魔族」に成り果ててしまうのです。
「アルター」の一員である光騎が言っていた「魔族が失敗作である」というのはつまり、そういうことです。
 プルミエールは「ソルリベラ」によって異能者を増やしつつ、ゼロの転生体であり(星生と同様に)優れた素質と共感性を持つ零を手駒にする為、煌華や光騎を使って彼を「人間への絶望」へと誘導してきました。
(二人とも我が強いので、命令とは別に個人的な目的もありましたが、恐らくプルミエールはそれも含めて彼らを尊重していることでしょう。)
 
 全ての真実を知り、もはや手遅れながらも、今からでもなにか出来ることがないかと考える優利。
 そんな時、事務所が暴徒によって襲撃され、自己の肉体を《治癒》によって再生出来る優利以外の職員がみな死亡します。

 群衆の愚かさや残酷さを実感する優利ですが、抱いた感情は怒りでも絶望でもなく、むしろ「愛する人類をより深く理解することが出来た」という喜びでした。
 彼女は、暴徒と化した群衆の前に姿を現します。

 シーンはそこで終わっていますが、このあと優利は、今まで秘匿してきた異能に関する全ての情報を明かし、人々や政府が求める「異能者の排斥」に貢献することを誓います。
 彼女のこの選択こそが後の社会の形成に繋がっている訳で、そう考えると、異能者の側に立って描かれる本作の物語的には「大悪党」となってしまったと言えるかも知れませんね。

 本作は半ば群像劇的な作品ですが、「迷いと絶望を経て、人間の為に生きる決意をした」という”物語”が描かれた点で、優利もまた主役のうちの一人でしょう。
「平和を愛する優しいお姉ちゃん」が至る結末が「人のために生きる”正義”にして、異能者を切り捨てる”悪党”」というのは、あまりに残酷な話ですが。

最後の真実、そして決戦

 サハラ砂漠のとある地点に到着した唯理は、異能によって零を発見します。
 その後、すぐに視点は零に切り替わります。
 死に向かう勇気を得るため、「少女」と出会った砂漠に立つ零。
 彼は、自殺の為に持ってきた星生のナイフを喉に突き立てようとします。
 しかし、彼にとって予想外の人物がそれを止めました。

 プルミエールとして覚醒した星生です。
 3年の時を経て成長しているのと、容姿をプルミエールに似せているので分かりにくいですが、肉体的には星生そのものです。
 彼女は零に真実を――実は表に出なかっただけで、星生として(本来の星生とは別の人格で)転生していたことを説明します。
 プルミエールをよく知る零からすれば「自己存在を秘匿しながら他人として生きる」というのは彼女らしくないことのように思えました。しかし実のところ、彼女はゼロの生き方から影響を受けており、「人を信じ、尊重してみよう」という心変わりをしたのです。
 しかし、星生を通じて十万年後の社会を見てきたプルミエールは、彼女を孤独に追いやった人類に失望してしまいました。
 皮肉にも、ゼロの生き様を親友として見守り続けたことによって得た人類に対する優しさが、一転して彼女を「人類の否定」に追いやってしまったのです。
 そんな彼女は、3年前の櫻岡火災の際、星生の合意を得て「プルミエール」として顕現しました。そして「アルター」を結成し、少数<異能者>の為に人類に抗う計画を始めたのです。
 彼女は零に対し、その戦いへの協力を仰ぎます。
 プルミエールとして覚醒したことによって孤独感を超克してしまった彼女は、《共振》による効率的な異能覚醒への誘導が出来ません。
「零ならば《共振》の力によって孤独な者達に世界へと叛逆する勇気を、力を与えられる」と。
 しかし、零はそれを断ります。
 彼は言いました。

「嫌なんだ。負の連鎖を起こすのは。憎み合って、互いに滅ぼしにかかるというのは」

 序盤から描かれてきた零の信念が、人類を憎む魔王の誘いを跳ね除けました。
 確かにプルミエールの行いは、ゼロが過去にしてきた「孤独な者達に寄り添う行為」です。
 しかし、その為に誰かを犠牲にすることを彼は認められません。
 そして、人類にはもはや、進化の為に犠牲を選別するような超越者、つまりはアルターも必要ないと語ります。
 遠い昔、ヒトを生み出したその日からずっと、ゼロ/零は「人が自分たちを拒むなら、”異端者”として素直に地球から去ろう」という決意を抱いていました。
 その決意を実行に移す時が来てしまっていたのです。

 お互いに相容れないこと、撤回出来ない理念があることを理解し、プルミエールは臨戦態勢を取ります。
 かくして、人類の始祖の戦いが始まりました。
 全てが必殺級の威力を持つプルミエールの猛攻を、零は《共振》によって器用に凌いでいきます。


・「魔王」「メンタルブレード」。プルミエールは後に登場するアカシアとは別人であるものの、深い繋がりがある為、彼女を連想させるような表現がなされています。

 しかし、容赦なく周囲の「普通の人間」を巻き込むプルミエールの戦い方に圧倒されていきます。
 まるで見せつけるかのように被害を増大させる彼女に対し、零は激昂しますが、やがて彼女の中に秘められた意図を察します。
 プルミエールは、零に彼女自身を否定する覚悟を決めさせようと、煽るような戦い方をしていたのです。それは袂を分かった親友としての、最後にして最大限の優しさでした。
 彼女の想いに応えるべく、零はアルターとしての真なる覚醒を遂げ、ホロウ・ジェネレータへの完全なるアクセス権を手に入れます。
 まさにプルミエールがそうであるように、本来、アルターは「異能」などという形式に囚われる必要はないのです。
 正しく、強く願いさえすれば、「ホロウ・パーセプション」の力で全てが叶うのですから。

 圧倒的な力同士の衝突を経て、プルミエールは最大級の現象改変を見せます。


・「魔王の睥睨」。訳すと《グレア・オブ・ルーラー》。「Acassia∞Reload」に登場するスキルです。

 周囲に「神としての威光」を具象化したかのような力場が形成され、零は立ち上がることすら出来なくなっていきます。
 更にダメ押しとばかりに強烈な熱線を放ち、零の肉体を焼き滅します。
 しかし、世界への愛、そして唯理に対する愛によって意志を強く持った彼は、死という概念すらも殺し、生物的には既に死んでいる身体を引き摺ってプルミエールに迫ります。


・《オーバーライド》も「Acassia∞Reload」でアカシアが用いるスキルであり、ゲームオーバーにならない「死殺」状態になります。

 そして、消えゆく意識を振り絞って、親友の身体に概念の刃を突き立てました。

 戦いが終わり、地に倒れ伏す零。
 彼は、プルミエールの手を取れなかったことを悲しみ、彼女に謝罪しました。
 そして、こう願いました。

「いつか生まれ変わった時、せめて誰かが、ひとりぼっちの君を見つけてくれますように」

 ”自分の代わりに誰かがプルミエールの手を取ってくれる”――そんな祈りは、すぐ後(Ep.-)にて成就することとなります。

 零はふと、自身に呼びかける唯理の声に気づきます。
 彼女は零が生きることを望んでいましたが、親友を手に掛けた零は、もはや「何かを選ぶ」という行為に絶望し切っていました。
 彼は死を受け入れると共に、唯理に対して「たくさんの孤独な人を救ってあげてくれ」と願います。
 まさに、原始時代に前世の彼女がそうしたように。
 そんな「残酷な願い」を聞かされた唯理は涙を流しながら、自分自身を大切にしない零や星生のことを糾弾します。
「自分自身への愛」。それは、この物語の登場人物の多くに欠けていたものでした。
 だからこそ、博愛精神を抱き、それを他者に示せる唯理は、他の誰よりも特別なのです。
 彼女は、飽くまでも生きることを諦めるつもりの零に「絶対に、独りになんかしてやらないからな」と宣言します。
 それを聞いて、零は穏やかな気持ちで無に還るのでした。


・零もまた、唯理のことを「主人公らしい」と捉えています。

未来へ

 視点はプルミエールに移り変わります。
 死した彼女の人格は「アカシア・リロード」に記憶されました。
「アカシア・リロード」の記憶領域、すなわち死後の世界で、自分とは別の存在として同じく記憶された星生と会話をしています。

 星生にとってプルミエールとは「身体を貸し与えていた協力者」とでも言うべき存在であるため、友人のようにフランクに話しています。
 プルミエールは敗北したことを悔やんでいますが、彼女に「砂漠に来ていた唯理を巻き込まないように戦う」ことを頼んで承諾してもらっていた星生は、糾弾するどころか感謝しています。
(非常に大規模な戦いが引き起こされたにも関わらず、その場に近づいていた唯理が無傷なのは、プルミエールと星生がこうして配慮した為です。)
 二人にとってもまた、唯理は特別な人間でした。

 二人は「次」、つまりは来世のことを考え始めました。
「アカシア・リロード」に居る為、その気になれば彼女たちは転生することが出来るのです。
 プルミエールは、ゼロが救った人類の未来を見守ることにします。
 そして、その時にもまだ人類が争いを続けるようならば、今度こそ彼らを滅ぼす――と。
 星生は、そんな彼女と共に「一人の人間」として生きることを望みました。
 櫻岡火災があった三年前以降、実のところ、星生は満たされた気持ちで居ました。
 プルミエールは強く、孤独であってもそのことを苦に思いません。
 そんな彼女の在り方に星生は憧れ、一つの存在で在れることに喜びを抱いていたのです。
 そして、「それを望んでいるのはわたしだけじゃない」と語ります。

 天上静音。
 佐咲煌華。
 魔王になることを望んだ彼女たちを含め、プルミエールは「孤独であることを求める者達全員を現世に連れて行く」と約束しました。
 こうして、かつて神であった彼女は存在理由を手に入れ、「魔王」となりました。

「生きる理由を果たして終わる」。
 それはまさしく「Acassia∞Reload」においてアカシアが願っていたことです。
 そう、後に登場するアカシアは、プルミエールの転生体なのです。
 正確には、プルミエールを核として星生や静音、煌華が融け合った「一人の存在」がアカシアです。
(完全に「アカシア」として一つに融合してしまっているため、彼女が星生らの記憶・人格を持っている訳ではありません。)

存在しない筈の選択肢

 零の死後、唯理は、個人で異能者の保護活動を始めていました。
 特事委員会は「武力を用いた異能者への対策および異能の軍用化」を目指す組織へと変貌してしまったため、現在の唯理にとっては敵となってしまいました。
 軍や警察、そして、かつて仲間であった優利に命を狙われて各地を転々としながらも、細々と活動を続けていきます。

 そして、それから七十年後。
 老いた唯理が、すっかり変わり果ててしまった社会について語ります。
 人類は、今ではすっかり(七十年前の誤解に端を発する呼称として)「魔族」としか呼ばれなくなってしまった異能者たちに対する非道な人体実験の果てに、素質が無くても使える”科学的異能”――《術式》を生み出しました。
 人類側が力をつけると、魔族側もまた、より人類に攻撃性を向けます。
 それに対抗するため、人類は更に強力な破壊技術を生み出します。
 そして《術式》の副作用によって「魔物」と呼ばれる化け物が出現するようになり、これらは人も魔族も無差別に攻撃しました。
(異能によっても魔物は少数出現するのですが、《術式》は異能と違って個人の経験から来る強烈な意志を必要としないぶん、”イメージの失敗”が多発してしまいます。その”ブレたイメージ”がホロウ・ジェネレータによって現実化されることで大量の魔物を出現させてしまうのです。)

「誰も傷つけずに救う」ことを目指してきた唯理の努力も虚しく、多くの者達が地球環境などお構いなしに争いを続け、世界は滅びに向かっていました。
 異能技術も含めて高度に発展した科学を用いれば、皆が過去の時代よりもより幸せに生きることが出来た筈なのですが、人の業がそれを否定していました。
 人の怒りと欲は肥大化し続けており、そういった意味で、もはや地球という場所は彼ら皆が共に生きるには狭すぎたのです。


 少し話がそれますが、荒れ果てた社会において争いを望まない人々の間で、電脳世界に移住する計画が立てられました。
 この電脳世界こそ、過去作『Choir::Nobody』の舞台です。

 結局、その電脳世界でも人類と「人類でないもの」――《電子精神》の争いが起きてしまったのは皮肉ですが、『Choir::Nobody』の結末を鑑みると、未来は決して悲観するだけのものではないとも言えるでしょう。
 なお、『Choir::Nobody』には「肉体を持った最後の人類」とされる「阿迦奢(あかしゃ)」という人物が登場します。
 これは裏設定ですが、阿迦奢の正体は魔族であり、アカシアとは無関係であるものの、彼女に準えてその名が付けられました。(アカシアは多くの魔族にとって憧れの存在です。)


 さて、話を戻します。
 唯理は、世界が変わっていく発端となった事件、すなわち本作で描かれてきた七十年前のことを、とある少女に語ります。
 こうして、物語は導入部分に繋がります。
 唯理が話している相手こそ、プルミエールの転生体である少女「アカシア」です。
 そして彼女は、煌華の孫でもあります。
「魔王」と呼ばれる最強の魔族であるアカシアは、生まれた時から人類に迫害され続け、彼らへの復讐を遂行していました。
 唯理はそんな彼女に自らの過去を話すことで、「存在しない筈の選択肢」 を提示します。
 すなわち 「人類を許す」 という選択です。
 まさにこの選択肢を提示することが本編の存在意義であり、『Acassia∞Reload』の前日譚としての本作の制作動機だったりします。(詳細はEp.-のラストにて。)
 アカシアは現時点では「人を救う理由なんてない」と言ってそれを拒絶しますが、「人にあらざる者ならば救ってもいい」とも付け加えます。
 それだけ伝え、彼女は唯理のもとを去りました。

 アカシアとの対話から数年後、唯理はついに寿命を迎えました。
 彼女は転生を望まない代わりに、死した零との再会を望みました。
 彼が死後の世界でも孤独に苦しんでいるかも知れないと、そう考えて。

愛が紡ぎし奇跡

 視点は天国――「アカシア・リロード」内部の零に移ります。
 そこに、彼と縁のある者は誰も居ません。
 彼が手を取らなかった者達――プルミエールや星生、静音や煌華は、「魔王」の夢を抱いて現世に旅立ってしまいました。
 少女たちの幸せを祈りつつ、零は転生せずに独り、消え去ることを選択します。
 元々、争いや恐怖から解放されることを望んでいたとはいえ、心には寂しさが渦巻いています。
 
「人は生まれた瞬間に、孤独になる。そうして、死ぬ時にもう一度、全てを喪って独りになるの」

 星生のそんな台詞を思い出し、「生まれた者は皆、最期は独りになるものだ」と諦観します。
 しかしそんな彼の前に、唯理は現れました。

 唯理は死後、零に寄り添うことで、星生が語った「孤独の運命」を否定したのです。
 二人は手を取り合って、人生の完結へと向かっていくのでした――。


 これにて物語は幕を閉じます。
 孤独への恐怖に支配されていた少年の心は、一人の少女の愛によってようやく解きほぐされ、彼は自己存在を肯定することが出来ました。


 本編は「零と唯理が"愛"で”孤独”に立ち向かう物語」として書かれており、零の救済によって一度、閉幕します。
 この結末がハッピーエンドかどうかは諸説あるところですが、少なくとも作者はハッピーエンドだと思っております。
 人間よりも遥かに長い間生きて、そのぶん膨大な時間、死について苦悩し続けてきた零。
 彼の元々の性格も相まって、「死を忘れて現世で平穏に生きる」という選択は出来ません。
 だからこそ、せめて死後に人生を肯定出来るような出来事があれば、それは最大限の幸せなのではないかと。
 
 なお、具体的には述べられていませんが、零と唯理は「アカシア・リロード」からの消滅を選びました。
 最期の再会によってハッピーエンドに到達した彼らの人生は完結しており、これ以上、繰り返す必要が無いのです。
 それでも、キャラクター心理やテーマ性の抜きにした純粋な感情としては、「アカシア・リロード」とは違う本物の天国で、失った日常を取り戻して楽しく過ごしてもらいたいな……なんて思ってしまいますね。
 そうしなかったのは他でもない、作者である私自身なのですが、私は”最近まで”原則、(何の理屈もない奇跡の表現としての)「天国」は描かないようにしていたんですよね。
 そういうのは見せるものではなく、信じるものだと思っているので。
(ですが、とある作品においては「そこを分かりやすく描いたほうがプレイヤーは救われた気持ちになれるな」と思ったので、そうしました。)

――さて、今週はこの辺りで。
 今回で本編は完結を迎えましたが、まだアカシアの物語が残っています。
 本作は全体として見れば「愛と存在理由の物語」なので、そのうちの後者を司る後日譚抜きにしては語れません。
 どうか「孤独であること選んだ側の者達」の未来を見届けていただければなと。

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