Hollow_Perception 2021/03/07 12:00

作品に関するご報告/『ReIn∽Alter』完全解説記事・第七回(Ep.3後編)

 お疲れ様です、anubisです。
 初めにご報告ですが、短編ノベルゲーム『対象She-11に関する記録』が、
『ティラノゲームフェス2020』にて佳作を頂きました。
 プレイおよび応援して下さった方々、ありがとうございます!
 未プレイの方は、ご興味を持たれましたら是非。



 さて、今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 今週はEp.3の後編となっております。

 ネタバレ有り記事につき注意。
・Ep.3前編
・Ep.3中編






Ep.3「Realize」――後編


・Ep.3終盤では唯理の視点で、プロローグに登場する「銀髪の少女」の謎が明かされると共に、物語が急展開を迎えます。

少女の真意

 前回、零は唯理がかつて友人であったことを知り、ずっと自身を想ってくれていた唯理と共に、前向きに生きていくことを決意しました。
 その後、視点は唯理に切り替わります。
 ひとり帰宅した彼女は、喜びを隠せない様子でした。
 零に余計な精神的負荷を与えないよう、「忘れ去られた者」として彼を影から見守り続けた唯理。
 実は、異能によってずっと零の視点を観測していたことが、ここで明かされます。
 
 そんな強い少女である唯理ですが、本当は零に記憶を取り戻してもらい、かつての間柄に戻りたがっていました。
 彼女もまた、孤独を感じていたのです。
 そういった感情を「我欲だ」と自嘲気味に言いつつも、こんなことを独白して、我儘な人間なりにせめて零を孤独から救おうと誓います。

「世界に居場所が無いのに『それでも自分には存在意義がある』と叫び続けるのは難しい。
そうして孤独で泣いている時は、誰かが手を取ってやらねばならないんだ。」

 これは本作のメインテーマであり物語の課題でもある「孤独」に対する、煌華が出したのとは別の回答です。
 そして「存在意義」は「Acassia∞Reload」から引き継がれている、「孤独」に繋がるテーマです。それは「孤独に耐える為の武器」となるものですが、同時に「自身を孤独に縛り付ける枷」にもなる概念なのです。
「存在意義を強固に確立することで孤独に耐えるのではなく、ただ誰かが傍に居てやればそれでいい」と――唯理はそう言い、やがてそれを実践することになる訳です。
己を貫く強者に至ることが出来る「存在意義」
弱くとも他者と手を取り合い、支え合うことが出来る「愛」
 この二つの概念の対立は、そのまま物語の結末にも繋がっています。

 さて。決意を固めた唯理は、ふと、過去に思いを馳せました。

愛と絶望の記憶

 回想はまず、唯理の出自から語られます。
 彼女は大企業の幹部の両親から生まれた一人娘であり、いわゆる「お嬢様」として何不自由なく暮らしていました。静音や煌華とは大違いです。
 ただ、完璧主義かつ潔癖な両親の教育方針によって、彼女はいささか繊細に育ち過ぎました。
 両親いわく「低レベルな群衆」から悪い影響を受けないよう、唯理は可能な限り孤独な状況に置かれて育ったのです。
 (小学生時代の彼女は不登校であり、家庭内学習を経て特例的に卒業資格を貰っています。)
 ですが初め、唯理自身はそれが普通だと思っていたため、別段、気にしませんでした。
 しかし中学に進学後、ある時期から「競争相手の確保」の為に登校させられた唯理は、学校という場で初めてまともに接した「赤の他人」に、ひどく恐怖心を覚えました。
 自分とは全く違う、理解できない思考で動く他者が怖くて仕方がなかったのです。
 この時、初めて彼女は「孤独」という気持ちを理解しました。

 唯理は教室から逃げるように屋上に出ます。
 そこで、運命的な出会いを果たすのでした。
 屋上には、中学時代の零、そして妹の星生が居ました。
 


・星生はネット上の不幸なニュースを見ていますが、これは後に零に引き継がれた趣味です。この時期の零は「そんなの見てて楽しいか?」などと言い、興味なさげです。

 星生は儚げな雰囲気、厭世的な物言いに反し、唯理に馴れ馴れしく絡んできます。
 狼狽える唯理ですが、何故か高嶺兄弟にシンパシーを感じたため、不思議と悪い気はしませんでした。
 彼女は零や星生を見て「記憶を超えた深い親近感を感じた」……と語っています。
 この正体はEp.4にて明かされますが、唯理の前世から継承した「孤独な者たち」への愛情です。転生によって記憶は失ってしまっても、想いは残っていたのです。
 
 そんな出会いから、三人は友人付き合いを始めました。
 他者に恐怖する唯理にとって学校生活は苦痛そのものでしたが、三人で過ごす、平穏で楽しい時間だけは特別でした。
 「宝物のような経験であった」とまで言っています。


・唯理の前髪ぱっつんは星生の影響です。星生と出会う前の唯理、そしてスチルに描かれている前世の唯理は、ぱっつんじゃないんですよね。

 しかしある日、唯理は星生がいじめを受けていることに気付きます。


・星生は学園内においてどのグループにも属していないため、いじめの対象になっていました。

 被害者だというのに、まるで「人間なんてそんなもの」とでも言いたげに達観した様子の星生を見て動揺する唯理。
 星生に対して大人に助けを求めるよう言いますが、彼女は心底、世界に失望しており、他者に助けを求めようとしません。
 他者に対する恐怖はあれど「本質的に人は善なるものだ」と考えていた唯理にとって、星生の厭世的な思考は恐ろしいものでした。
 感情を乱す唯理を慰めるように、被害者であり苦しんでいる筈の星生が抱きしめて、こう言います。

「人は生まれた瞬間に、孤独になる。そうして、死ぬ時にもう一度、全てを喪って独りになるの」

 どうせ「生きること」とは「孤独であること」と同義なのだから、自身の苦しみにも何の意味もないと、全ては「仕方のないこと」だと……彼女はそう語るのです。
 星生は、自らの諦観を理解して落ち着いてもらおうと話し続けますが、唯理が泣いているのを見るに見かねて、零が止めます。
 
 それ以降も三人は友人関係を続けましたが、唯理は星生について不安を抱え続けていました。そして零もまた自身と同じように、星生を幸せにしてやりたくても出来ないことに苦しんでいると気付きます。
 ある日、唯理は高嶺兄妹の家に遊びに行きましたが、そこでアウトドア用のナイフを発見しました。
 Ep.1で零が武器として使っていたものですが、本来の持ち主は星生であり、彼女は「いつでも使える自殺の手段として持っておきたかった」などと語るのです。
 
 唯理は幸せと不安の入り混じった毎日を過ごしていき、そして――「その日」がやってきました。
 「現在」から三年前。櫻岡市火災事故における高嶺兄妹の真実が描かれていきます。
 零から「星生が失踪した」という連絡を受けた唯理は、慌てて彼女を探す為に家を飛び出しました。
 そして星生の思念――《共振》の異能によって拡散された「孤独に苦しむ心の声」に導かれ、櫻岡駅へと向かいます。
 異能を暴走させて多くの異能者を覚醒させると共に、彼らの能力を得ていく星生。
(火災は、このとき覚醒した光騎の《発火》を星生が獲得することによって引き起こされています。)
 彼女は、本当は辛かったのです。ただ、彼女にとって大切な他者である零や唯理にすらも希望を抱いていなかったから、助けを求められなかったに過ぎませんでした。
 (充分に星生は愛されているように見えますが、それは物語が零や唯理の視点で描かれている為であり、彼女自身がどう思うかはまた別のお話です。)
 櫻岡駅に到着したとき、唯理は星生への共感が強まったことによって異能――《ReIn》に覚醒しました。

 星生(と零)の異能は「共感をトリガーにして異能を発現させるもの」であるため、当人の「孤独感」を核にして発現しています。
 たとえば煌華は孤独から癒やされる為に、自身をより良く見せる「幻影」の異能に覚醒しました。
 静音は自身を孤独に追い込む者達に抗う為に、全てを退ける「拒絶」の異能に覚醒しました。
 そして唯理の場合は、傍に居る者が知らないうちにどこかに行ってお互いが孤独になってしまわないように、その者を見守る「観測」の異能に覚醒しました。
 
 唯理は異能を用いて星生の居場所を突き止め、駅構内のビルを駆け上がっていきます。
 途中、火傷と一酸化炭素中毒で動けなくなっている零を見つけます。
 唯理は彼を介抱しようとしますが、「僕なんかより星生を……」と言い、強く拒絶します。
 彼女は両方を助けたいと思いつつも、しぶしぶ星生のもとへ急ぎます。

 しかし、結果はこれまで何度も描かれてきた通り、星生の自殺で終わります。
 ここからは「零の悪夢」には描かれていない部分となります。(零は実のところ、ここまでは身体を動かせないながらも観測し続けていました。しかし、ここで意識が途切れています。)

 友人を救えなかったことに泣き崩れる唯理。
 そこに現れたのは、優利でした。
 彼女は異能力の実在を語ると共に、その異能で零を救ったことを伝えます。
 そして、自らを「社会の秩序を見守る使命を帯びた異能使い」「特事委員会の創設者」と語り、唯理に協力を要請します。


・この時点では高嶺家に介入していなかったため、「高嶺」姓ではありません。

 彼女は、”自分には人を救う才能――「時間を掛けて他者と分かり合って、心を救ってやる力」が無い”と語ります。
 だからこそ、出来るだけ多くの協力者を求めていました。
 しかし唯理は、「嫌だ」と言います。
 ここまで「秩序の味方」として描かれてきた唯理ですが、その正体は、ただひたすらに友人を愛した一人の少女でしかありません。たびたび零の前で出していた「世界よりも一人を優先する」唯理こそが、真の彼女です。
 友人を救わなかった世界を守ってやる道理など、彼女には無かったのです。
 ですが、「社会の為ではなく、零の為ならば、協力してやってもいい」とも言います。
 こうして唯理は、遺されたたった一人の為に秩序を守る異能者となりました。
 また、特別な異能者である零を傍で守り、日常に留めておく為、優利は彼の姉となりました。


 回想を終えると、唯理は視点分離によって観測している零の様子に異変を感じました。
 複数の人間が高嶺家に押し入っていたのです。
 唯理は慌てて、連れ去られる高嶺姉弟を追いました。

覚醒

 視点は零に移り変わります。
 ここは唯理の異能行使が中断されているため、全画面テキストウィンドウが使われています。
 気絶させられた後、目を覚ました彼は、視界を塞がれた状態で拘束されていました。
 そんな彼に、軽薄な声色の男――神了光騎が声を掛けます。
 彼はまず、煌華についての真実を明かしました。
 煌華は光騎の仲間であり、零を籠絡して味方に引き入れることを目的としていたと言うのです。
 煌華が世界への反逆を目論んでいたことを思い出し、零は「僕は協力しない」と伝えます。
 すると光騎は「俺は最初から”協力してくれ”と頼む気なんてない」と言い、部下の男達に命令して、その場に居た優利を○問させます。
 そして、そこには唯理も居ました。
 光騎は零に対して「どちらか一方を救うことを選べ」と言います。
 以前と同じく、またもや零は「最悪の二択」を押し付けられてしまうのでした。
 それに対して回答を出せずにいると、優利は更に残虐な○問を受けていきます。


・ここは作中で一番、優利の本音が出ているシーンと言えますね。彼女も根は結構黒い……というより「普通」に成りたがってるので「普通じゃないことを是とする社会の敵」に足を引っ張られるのが嫌なんですよね。

 零はすぐ傍で繰り広げられる惨劇に悲嘆し、話の通じない者達から大切な人を救い出す唯一にして最悪の方法が「武力で排除する」しかないと悟ります。
 そして彼は苦悩の果てに、ついに「主人公」――「自分の大切なものの為に、誰かの願いを踏みにじる”悪”」になることを決意しました。
 
 零は真の異能を覚醒させます。


  彼の能力は星生と同じ《共振》。
 他者と孤独感や絶望を分かち合う力です。
 零が淡々と独白をしているので自分の意思で異能を覚醒させたように見えますが、実際は精神的ストレスによる暴走状態に陥っており、冷静さを失っています。
 これによってあらゆる枷が解き放たれ、彼は全ての記憶を――彼自身を死に向かわせる過去を取り戻しました。
 その内容はEp.4にて語られるので、ここでは割愛します。
 
 零は《共振》によって複数の異能を駆使して、自身の拘束を解くと共に優利を○問していた男達を殺害します。

・この時、光騎とも共感を果たしており、彼が抱く孤独感を読み取ります。彼は生来の気質ゆえに孤独な人生を歩んでいましたが、そうであることをむしろ肯定的に捉えていました。

 それを見た光騎は、嬉しそうに零を挑発し、建物の外へ誘導します。
 彼の「組織のメンバー」としての目的は零を現在の状況に追い込むことでしたが、個人的な目的は「強力な異能者であるらしい零と戦うこと」だったのです。
(ちなみに光騎自身は零の能力の性質について、主である「魔王」からは知らされてはいませんでしたが、その個人的目標ゆえに「強ければ何でも良い」と思っていました。)

《共振》の力

 零は《共振》の《ReIn》を駆使して、様々な異能<ねがい>を使っていきます。
 ここで登場する異能は本作で既に出ているものもありますが、中には「Acassia∞Reload」でアカシアが使うスキルをイメージしたものもあります。
 傷を癒やす「治癒」の力。(優利のもの。)
 炎弾を放つ「発火」の力。(光騎のもの。)
 索敵をする「観測」の力。(唯理のもの。)
異能を減衰させる水を放つ「消沈」の力。(アカシアの「ブラウ・カスケード」。)
攻撃を退ける「守護」の力。(あちらは《術式》のため厳密には別物ですが、アカシアの「ロジックシェルター」。)
切断能力を持った嵐を起こす「刃嵐」の力。(アカシアの「ヴェールトゥ・プレッシャー」。)
敵を焼き尽くす「閃光」の力。(アカシアの「アルギュロス・パルス」。)
自身の負った傷を相手にも押し付ける「報復」の力。(アカシアの「ネロ・ヴェンデッタ」。)

 数多の異能を駆使していきますが、それでも圧倒的な練度を持つ光騎に苦戦する零。
 


・光騎はろくでもない男ですが、しかし、自身より圧倒的に強い「魔王」への憧れのお陰で、向上心に関しては尋常ではありませんでした。

 物理的に物体を燃焼させるだけでなく、概念すらも燃やす《発火》の力に翻弄される零。
 しかし、やがて圧倒的な異能の手数により、勝利を掴み取ります。
「主人公らしく」愛する者を勝ち取った零ですが、彼自身の心に残ったのは、虚しさだけでした。

別れ

 視点は唯理に移動します。
 彼女は零を慰めるように抱きしめますが、彼は「僕がここに来て、ここに生まれたのが悪かった」と自己否定しています。
 そして「どこか……多分、寂しいところへ行く」と言います。
 星生も自殺の際に似たことを言っていたため、今度こそ救おうと彼の手を掴もうとしますが、躱されてしまいます。
(星生は「多分、寂しくないところへ」と言っていたので、意味合いは真逆ですが。)
 泣き崩れながら、どこかに去っていく零を見送る唯理。
 そこに、まさに星生の時と同じように、優利がやってきます。

 彼女は状況を説明しました。
 零は星生と同じ異能に覚醒し、多くの「孤独な者達」を異能者として覚醒させているのだと。
 それを聞いて、唯理は零を探そうと立ち上がります。
 優利は「この状況は零は死なないと止まらない。そして彼は、自殺によって決着をつけようとしているのだろう」と言って唯理を止めようとしますが、彼女は振り払います。
 これでは星生の時の再現にしかなりません。唯一、彼女の死に際を見た唯理としては、なんとしても零を救いたかったのです。
 
 唯理が立ち去ったところでシーンが終了します。

再起<リロード>

 視点は、死亡した筈の静音に変わります。
 目を覚ますと、彼女は何故か学校に居ました。
 困惑しつつも、同じくその場に居た煌華に声を掛けます。

 死を自覚して諦観を見せる静音でしたが、そんな彼女に煌華は「まだ全然終わってないよ」と言います。
 死後の世界だというのに、彼女はまだ未来を――夢を見ていました。
 そして再び、復讐の旅に静音を誘います。
 静音は煌華の今までの行いを許した上で、再び友人として彼女に付き合うことを決意します。
 
 こうして、復讐の為に「強く在ること」を望んだ二人の少女は、手を握り合って言いました。
 
「「一緒に、魔王になろう」」

 このシーンは死後の世界――正確には、「人の記憶=人格を保存するシステム」である「アカシア・リロード」内部の描写となります。
「アカシア・リロード」は本作における最重要要素であり、Ep.4にて語られるため今は割愛しますが、「存在理由」を抱いたまま死んでいった者達を転生させることが出来ます。
 まさにその名の通り、「Acassia∞Reload」に直接繋がるものとなっています――そして、二人の少女の行く末もまた、同様に。

 この扱いからも分かる通り、煌華と静音もまた、本作の主役と言える存在なんですよね。
 彼女たちは「孤独」という壁に対して、唯理とは別の回答を叩きつける、対立的な役割を担っている訳です。
 唯理は「愛でもって孤独を癒やすこと」を唱えました。
 それに対し、煌華と静音(そして光騎や彼の言う「魔王」)は「強固な存在理由を貫いて他者を寄せ付けない”強き孤高”であること」を願うのでした。

 ここは煌華という少女に関する本質が描かれるシーンでもありますね。
「愛されることを知らなくて、幼い日の気持ちのまま育ってしまった」という”静音評”は、最も本質に迫った認識と言えます。
 煌華はただひたすらに哀れな子供だったのです。だからこそ静音はそんな、愛されなかったせいで大人になれなかった少女について「放っておけない」と感じているのでした。
 


 そういった二人のシーンが描かれ、Ep.3は終了します。
 分割版だとここで最後の次回予告が流れます。


――と、今回はこの辺りで。
 次回はようやくEp.4。全ての謎が解き明かされるパートです。
 本作は結末に全てが繋がるような構成となっている作品なので、解説としても最後が一番、やりがいを感じます。
 ここから「現代異能モノ」がガチガチのSFに変わっていくので、読解を追いつかせるのが大変だった方も居るかもしれません。
 

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