Hollow_Perception 2021/02/28 12:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第六回(Ep.3中編)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 今週は前回に引き続きEp.3。その中盤となっております。

 ネタバレ有り記事につき注意。
 前回はこちら




Ep.3「Realize」――中編


・このタイミングでようやく、物語の導入にして本作の象徴的なシーンであるこの場面の謎が解き明かされます。

孤独な者達の物語

 前回、静音を救えなかったことや煌華を死なせてしまったことを悔やみ、精神的に追い詰められた零。
 ここでは、そんな彼が以前からずっと見てきた、櫻岡市火災事故の夢が描かれます。
 夢の中で自殺した少女の孤独に共感し、彼はこんなことを思いました。

「そう、僕という語り手が紡ぐ物語の登場人物は、誰もが孤独なのだ。」

 そもそも人は生まれた時点で孤独なのだと。
 孤独だから他者に愛を求め、愛し合えない他者を否定するのだと。
 そして、死はそんなあがきすらも全否定し、人に最期まで孤独を叩きつけるのだと。
「人は、生命は、最初から最期まで孤独でしかない」と言うこの一連の独白こそ、もっとも本作のメインテーマに直結している描写と言えます。
 物語やキャラクター、世界に与えられた「前提」であり、何らかの方法で対処・否定すべき命題となる訳です。

 零は、夢の中で自殺する少女について、こうも言います。

「この物語にハッピーエンドとして付けるべき結論は、きっと、君の救済だ。」

 零は彼女を孤独と死から救う為、手を差し伸べようとしましたが、身体が動きません。
 結局、予め決められた夢の筋書きには抗えず、零は更に深い自己嫌悪に陥ります。
 そして、夢の最後にこんな描写が入ります。


 
 零が「自分」だと思っていた人物は、女性でした。
 以前にも述べましたが、これは唯理の視点で過去を追体験している夢です。

 さて。この一連のシーンは非常に抽象的ですが、「物語上の課題」を提示している最重要場面でもあります。
 要は本作は、「人は孤独でしかない」という絶望を打破する物語なのです。
 それが誰によって、どのような形でなされるのかに深いカタルシスを込めたつもりです。

姉の愛

 夜中に飛び起きて、自身を苛む悪夢について考察している零。
 彼は徐々に、自身の中に眠る根源的な孤独感を自覚していきます。
「学園における他者との分かりあえなさ」などといった表面的なものではなく、人を孤独に追いやる世界の在り方そのものに対する絶望があるのだと。

 そんな彼のもとに、同じく起床していた優利がやって来ます。
 彼女は彼女で、周囲や世間の変化に苛まれ、不眠症気味になっていました。
 ですが不安を表には出さず、むしろ零の不安を癒やすように、彼を抱きしめます。


・お姉ちゃんの扱いを考えると意外かも知れませんが、作者は姉属性萌えです。

真相

 それから零はしばらく、登校せずに過ごします。
 時折訪問してくる唯理から世間の状況を聞いてはいますが、自らそこに向き合う気は持てませんでした。
 魔族の発生件数の増加。
 社会からの、魔族と異能者を混同したうえで十把一絡げにしたバッシング。
 それに反応するかのように起こり始めた、異能者による犯罪。
 異能や魔族といった超常的脅威に対応し切れず、確実に社会は滅びへと向かっていきます。

 そして、ある日。
 ストレスで毎日のように悪夢を見続けている彼は、これ以上この日々が続けば潰れてしまうと思い、ついに、優利に自身の過去を問う決意をします。
 不安による自滅衝動が高まったことで、記憶の封印にも限界が迫ってきていたのです。
 優利は「ついにこの日が来てしまったか」とでも言いたげに悲痛な表情を見せながらも、零を精神的破綻から救う為、真相を語り始めます。

 まず、零が解離性健忘――つまり、心的外傷による記憶喪失を患っていることが語られます。
 彼は三年前の櫻岡市火災事故以前の記憶を失っていたのです。
「零は記憶を失っているだけで、真実を見てきた」というのは読解の為の大前提となるため、序盤から説明していましたが、作中で明言されるのはここが初めてですね。
 今まで様々な違和感――たとえば両親の記憶が不確かであることや、家の中に誰が使っているのか分からない部屋があること、唯理が不自然に自分に執着していること――を抱きつつも、それを何故か深く追及しなかった零。
 全ての原因はここにありました。
「不幸を直視すること」を望んできた彼が、実は不幸な記憶を切り離していたという、皮肉な事実が判明します。
 以前にも述べた通り、「切り離した不幸な記憶」を復元する為に今の性格形成がなされたので、実のところ矛盾している訳ではないのですが。

 その後、零と優利は「空き部屋」に入ります。
 零が持ち出したナイフがあった部屋であり、静音に貸し出していた部屋でもあります。
 そこで優利は真実を語りました。
 この部屋を使っていたのは、零が存在ごと忘れてしまっていた妹――高嶺星生(たかみね・せな) でした。
 零の悪夢に登場する銀髪の少女こそが星生であり、零の家族だったのです。

 彼女について思い出そうとした瞬間、深層意識が強い拒絶反応を示します。


 
 星生という存在は、零が記憶を封印するに至ったトラウマの「核」とでも言うべきものであり、簡単にそこに触れることは出来ません。
 自我が崩壊しそうな痛みに負け、一旦、自発的な想起は中止します。
 それでも、もはや彼は自分自身の自滅衝動を止められず、優利に続きを促します。
 それ程に、社会の現状は彼にとって耐え難いものだったのです。

・”自らを守る為の生存本能によって忘れた記憶をわざわざ取り戻そうとする積極性は、希死念慮のようなものである。”と、ここで述べられています。

 優利が話を再開します。
 櫻岡市火災事故の時、銀髪の少女――星生だけではなく、零がその場に共に居たことがここで明かされます。
 そして、優利は「星生は恐らく火傷で死んだ」と語りますが、これは彼女の勘違いです。星生が自分の意志で飛び降りて自殺したのを見たのは唯理だけであるため、優利は星生が火傷で死に、その遺体が消し炭になってしまったと思いこんでいるのです。
 後に判明することですが、実のところ星生は生きており、遺体が消し炭になったのではなく、落下後、その場から離れていました。
 ですが、この思い違いのせいで優利は、火災事故以後の星生の動向を掴めずにいました。

 星生の死について知った零が「自分はそのとき何をしていたのか」と聞くと、優利は「ひとり、一酸化炭素中毒で気絶していた」と語ります。
 その経緯――「なぜ自分と星生は別の場所に居たのか」「そもそも自分と星生は火災の現場である櫻岡駅に何をしに行ったのか」といった点について違和感を覚えた零。
 これも未だ思い出すことは出来ません。また、二人の傍に居た訳ではない優利の視点では未知であるため、彼女の口から語ることも出来ません。
(真相はEp.3後編にて語られます。このシーンの説明は飽くまで優利視点のものであり、後に描写される唯理視点での回想の方がより正確かつ詳細です。)
 ともかく、確かなのは「妹である星生を救えなかった」という一点であり、零はひどく自己嫌悪を覚えました。
 身の回りの人間を誰一人として救えなかったことに絶望し、零は今までで最も明確な孤独感を覚えました。

 ふと星生の写真を見たがる零ですが、彼女が写ったものは一つもありません。
 二人の両親は、娘が死に、息子の記憶が壊れてしまったショックから、子供たちの写真を全て破棄してしまったのです。
 それだけでなく、「子供が居た」ということ自体から逃避したくて、彼らは優利に零を託して自分たちは別居していました。
 あまりにも酷い話ですが、星生を忘れてしまった零は「自分もまた、他人を責められるような立場じゃない」と言い、彼らを非難することはしません。

 一通り話し終えたところで、零は「近いうちに記憶の封印が完全に解かれる時が来る」と予感しつつ、眠りに就きます。

優利の苦悩

 視点は優利に移ります。
 彼女は強いストレスのあまり、嘔吐してしまいます。
「私には人の気持ちが分からない」と語り、それ故に他者を救えないことを悔やんでいました。

 優利は世界を、人間のことを愛していました。
 だからこそ、世界に嫌われ、世界を嫌った弱者たちの気持ちが分からないのです。
 この矛盾はEp.1の時点で、静音に対する、少し押し付けがましい振る舞いに出ていました。
 優しい優利ですから、自分が間違っていると分かれば歩み寄ろうとはします。ですが、根本的に価値観がズレているため、彼女と「救いを求める者達」の間の溝は永遠に埋まらないのです。
 そんなままならなさに苦しみ、優利は「もう何の責任も取りたくない」と独白します。
 そして、この時初めて、社会に適応出来ていた筈の彼女は身をもって「孤独」という感情を理解するのでした。

 さて、このシーンでは優利の「優しいがゆえの苦悩」が描かれていますが、それだけではありません。
 明らかに彼女は「変わらない平穏を維持する」という行為について、単に「優しいから」というだけではなく、使命感を覚えています。
 そして(純粋に心からの望みというよりは)使命だからこそ、上手くいかない現実に対して投げやり気味になっているのです。
 そんな優利の使命感の正体、そして彼女という存在に隠された秘密は、Ep.3の後編やEp.4で明かされます。


 視点は零に戻ります。
 優利は、感情を露わにして彼に泣きついていました。
 彼女の事情は分からないまでも、静音の死や環境の変化に戸惑っているのだと察し、零は優利をやさしく受け止めるのでした。


・成人向け作品ならこの後……。(零はそういうことしない男ですが。)

 視点移動の演出が入り、唯理に移ります。
 零と優利の家に訪問した彼女に、優利は「真実を話した」と伝えます。
 これに対し唯理は「分かってるよ」と答えました。
(「唯理が異能で零の様子を窺っている」という事実に繋がるやり取りです。)
 優利は悔やんでいますが、唯理は「仕方のないことだ」と語ります。
 結局、根本的に零を救うには、ゆっくり時間を掛けて真実と向き合っていくのに付き合うしかないのだと。

 ここは非常に短いですが、唯理と優利が真実を共有し、協力して零の「仮初の平穏」を守っていたことが分かるシーンとなっています。


 その後、再び零の視点に戻ります。
 訪問してきた唯理は、零を付き合わせて散歩に出掛けました。


・その時に言った台詞がこれ。彼女は後に「世界か一人か」の二択で本当に後者を選んでしまう訳ですが、この意志力が「真の主人公」たる所以ですね。

 そして、彼女は零に真実を打ち明けます。


 唯理は中学時代の零や星生の親友であり、それゆえに零に特別な感情を抱いていたのです。
(これは恋愛感情ではなく、性的な側面を含まない、もっと抽象的な愛情です。唯理はバイセクシャルという訳ではありませんが、星生に対しても全く同質の愛情を持っています。)
 唯理の自分に対する執着の真相を理解し、零は涙を流して喜びました。
 自らも孤独感を抱えながらも零のことを想って、影から見守り続けた唯理。
 その優しさに、愛に、零は感謝を述べました。
 そして、「いつか自分の過去全てと向き合って、少しでも君に近づく」と宣言します。
 唯理もまた「それまでも、それからもずっと一緒に居てやる」と伝えます。
 二人はようやく、お互いの間にあった筈の絆を再認識することが出来たのでした。

――と、今回はこの辺りで。
 ここで終わっていたら、少なくとも零と唯理、優利の関係については丸く収まったかも知れませんね……。
 ですが、それをさせないのがこの作品。
 この物語の主役は、彼らだけではないのです。

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