Hollow_Perception 2021/02/21 12:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第五回(Ep.3前編)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 本作のボリュームの都合上、どうしても執筆にかなりの時間が掛かるため、Ep.3~4は「前編」「中編」「後編」と三週に分けていきたいと思います。

 さて、今週は、分割版におけるEp.3前編ということで、序盤について述べていきます。
 Ep.3は「起承転結」における「転」に当たる回。Ep.1~2に対する「解答編」とも言える内容であり、多数の謎が明かされていきます。

 ネタバレ有り記事につき注意。
 前回はこちら




Ep.3「Realize」(覚醒)


・分割版にのみ存在する、Ep.3タイトル画面のイラスト。

「幻影」を求めし少女の絶望

 Ep.2のラストで、自らの真意――「異能を奔放に振るい、人々を虐げる」という目的を静音に明かし、元・友人である彼女に協力を迫った煌華。
(しかし静音はそれを断り、煌華を失望させるために自殺を選んでしまいます。)
 Ep.3の導入では、そんな煌華の出自と目標が判明する、彼女自身による独白が行われていきます。

 彼女は貧しい家庭に生まれた「望まれない子供」でした。
 遊び人である父は、自身の金を煌華の養育に使わないといけないことに苛立ち、彼女に暴力を振るいました。
 夫の気を惹くことに精一杯である娼婦の母は、煌華に対してネグレクトを行っていました。
 そんな二人は、ある程度煌華が成熟すると、彼女に身体を売らせるようになりました。
 産まれてこのかた幸せであった時期がない彼女は、全てを「仕方ない」と諦め、下衆な大人達の意思に流されていきます。
 煌華は妊娠しにくい体質であったため、避妊がなされずに弄ばれる日々を送ります。
 しかしそれでも、数を重ねればいつかは「可能性」を引き当ててしまうものであり、彼女は妊娠し、出産しました。
 


 ・「子は親の自己拡張の為のコピーである」という考え方は、後にも出てきます。本作は「遺伝子」を題材にした物語なので、そういう話は避けては通れません。

 この経験は、全てを諦めていた筈の煌華を、真なる絶望の淵に叩き落とすものとなりました。
 世界に失望していた彼女にとって、「こんな世界に子供を産む」という行為は、自己の存在の全てを否定してしまうほどの大罪に思えてならなかったのです。
「世界の”被害者”を増やす」という罪を背負った彼女はその重さに耐えかね、ついに自殺を図ろうとしてしまいますが、失敗します。
 自殺を図るに至ったとき、ようやく彼女は、自らの中に眠る未練――「世界に対する強い怒り」を自覚するのでした。

「私に未だ、生きる理由があるというのなら、そんなもの、殺してしまえ」

 煌華は諦観から解放されて「生きる理由」を抱きました。
 彼女の目標は「命が管理される世界を創ること」。
「不幸になるような命は、初めから産まれないほうが良い」と、彼女はそう考えたのです。
 そして、その理想は最終的には「愚かな人々(=煌華にとっては非・異能者)を殺し尽くす」という破滅的な願い(方法論)へと至った訳です。

 このシーンは、単に煌華というキャラクターについて言及するに留まらず、重要な伏線にもなっています。
 煌華の「妊娠しにくい」という体質の意味。
 そして、彼女が産んだ子供の運命。
 全ては物語の真相と結末に繋がっています。
 また、上記の台詞は「Acassia∞Reload」におけるアカシアの独白の一部でもあります。
(原文は「教えて欲しい。この身が滅びぬ理由を。教えて欲しい。この心を折る方法を。そんな術は無いというのなら。私に未だ、生きる理由があるというのなら、そんなもの、殺してしまえ」)
 死を求め、しかし死ぬことが出来なかった煌華の呪いのような怒りは、アカシアに継承されてしまったのです。

救いがたい現実との対峙

 視点は零に戻ります。
 時系列としてはEp.2のラストの少し前。
 零と優利は、えもいわれぬ不安を感じて、自宅に戻った静音のもとへ向かいます。
 そこでは、静音が能力による殺戮を繰り広げていました。
 常に不幸への備えをしていた筈の零ですが、「静音が異能者であり、人を殺した」という予想外の事態に狼狽えます。
 彼は優利と共に静音を追いかけるものの、「拒絶」の能力によって空間に不可視の壁を作られて足止めされてしまいます。
 それでも何とか櫻岡市のビル屋上までたどり着いた二人。
(このとき、零が「あの櫻岡火災を繰り返してはいけないんだ」と独白しています。無意識下で記憶が戻りかけていることが分かる描写です。)
 しかし、間に合わずに静音は身投げをしてしまいます。
 慌ててビルを駆け下りていく優利をよそに、零は絶望に囚われます。
 それに追い打ちを掛けるかのように、「この場に居る筈のない人間」――煌華が彼の目の前に現れます。
 そこに、通報を受けて駆けつけた唯理。
 少し前に共に日常を楽しく過ごした筈の三人は、今ここで、最悪の再会を果たすこととなりました。


・煌華が「零が異能者である」と知っているのは所属組織から情報を与えられている為ですが、唯理に関してはEp.1中盤の戦闘にて様子を窺うことで予測を付けています。あの時、あの場には煌華が居て、唯理の視界を眩ませた訳ですね。

 唯理は煌華に状況を聞きますが、静音の死に動揺している彼女はまともに答えません。
 やがて彼女は、怒りに任せて人間を鏖殺する決意をします。
「劣った人間(=非異能者)に合わせて大人しくしている必要はない」と言い、唯理と零に協力を求めますが、”異能者が異能を使わない社会"を求める秩序の守護者である唯理は「たとえ誰かが我慢することになっても、命は平等に救われなければならない」と語り、その手を取りません。
(正確には、唯理の直接的な行動目標は「零に平和な日々を送ってもらうこと」にあり、その為に社会の安定が必要だと考えています。)
 零もまた、煌華の気持ちに共感してやりたいという感情はあるものの、負の連鎖を引き起こし、世界を滅ぼしてしまいかねない彼女の選択を受け入れることは出来ませんでした。
 自身の手を取らなかった唯理と零に怒りを感じた煌華は、二人を殺すことを宣言します。
(そうは言いつつも実際は、零を自身に協力させることを考え続けていましたが。)

「幻影」使いとの対決


 双眸を黄金に輝かせる煌華。
 この瞳は異能者が異能を発現した合図です。
(なお、一部のキャラクターは普段から瞳が金色ですが、これは”異能を常に発現させている”生粋の異能者であることを示しています。通常の異能者は非活性状態では金色でない瞳になっています。)

 すると突然、煌華が姿を消し、空間がビルの屋上から休日に三人で訪れた繁華街に移り変わります。
 困惑する零と唯理。そこに、どこからともなく銃弾が飛来します。
 それを戦闘経験から来る直感によって回避する唯理。
 二人は状況を分析し、煌華の異能が「幻影」――幻を見せる力だと推察します。
 しかし、能力が分かったは良いものの、その厄介に過ぎる力と煌華自身の技量に翻弄される二人。


・唯理の読心異能に「自分自身にも幻を見せて”偽の心を読ませる”」という荒業で対抗した煌華。アイドルすごい。(?)

 煌華は唯理を制圧すると、彼女を殺さずに痛めつけ、戦闘に参加出来ていない零に「力を見せろ」と挑発します。
”唯理を取るか、煌華を取るか”。
 そんな二択を突きつけられた零は苦悩します。
 必ず何かを切り捨てなければいけないこのような状況は、負の連鎖を嫌う零には非常に耐え難いものでした。
 しかし最終的には、彼は以前に見た「金色の髪の少女」(=唯理の前世)の夢に後押しされ、半ば無意識的に唯理を選び取る決断をします。
 すると、以前に異能に覚醒したときと同様、存在しない筈の記憶が蘇ってきます。


 それは、死にゆく者に優しい「幻」を見せて、安らかな死を迎えさせた記憶。
 この思い出によって目の前の「幻によって人を傷つけ続けた少女」に”共感”し、かくして零は「幻影」の異能に覚醒しました。

 零が異能に覚醒すること自体は煌華としてはむしろ望んでいたことですが、まさか自分と同じ異能に覚醒するとは思っておらず、自分自身も有している筈の「幻影」に翻弄されます。
 しかし、零の側も既にかなり消耗しており、あまり時間の猶予はない状態。
 彼は煌華を倒す為、覚醒済みの「観測」の異能を使用し、煌華の記憶に潜り込みます。(=Ep.3の冒頭)
 そして全ての真実を理解すると、彼はひどく心を痛めながら、彼女に「幻影」を見せました。
 それは、静音との幸せな思い出。
 まやかしに取り込まれてしまった煌華は、現実世界において足を滑らせ、ビルから転落してしまうのでした――。

 零は自分がやってしまったことを嘆きつつも、痛めつけられた唯理を救うため、更に新たな異能を求めます。
 そんな時、彼の脳裏に「金色の髪の少女を異能によって癒やした記憶」が浮かび、それが”誰か”に共感することによって、「治癒」の異能が発現しました。
(このときの共感先は、地上に居た優利であり、彼女は「治癒」の異能を持っています。)
 これにより唯理の傷を癒やすと、彼は消耗のあまり気を失ってしまうのでした。

 視点は煌華に移ります。
 ビルの屋上から落下しながら、加速する体感時間の中で彼女は絶望に囚われていました。


 結局のところ、煌華は口では攻撃的なことを言いつつも、唯理や零を殺す覚悟を持てないでいました。
 多くの人間に囲まれながら、その実は誰よりも孤独だった彼女は、真の仲間――端的に言えば「自分と対等な友人」を求めてしまったのです。
 そんな心の弱さを自虐しながら、最期に彼女は過去を振り返りました。
 
 三年前に、人の感覚を捻じ曲げて幻を見せる異能に覚醒したこと。
 多くの人間から金品や心を搾取する手段として、アイドルを始めたこと。
 異能による快楽の増幅を駆使して業界の権威者に取り込み、いつしか「生きた薬物」と呼ばれるようになったこと。
「幻影」に囚われた人間たちの反応を観察し続けることで、ある程度ならば「異能を使わなくても異能の効果を再現出来る」ようになったこと。
(映像上において人々が彼女に感じる魅力の正体はこの技術であり、異能そのものではありません。)
 今までの「奪われる」人生から一転して「奪う」側に回った煌華。
 最初は異能によって人々を魅了し、愛される毎日を楽しんでいましたが、そんな生活はいつしか空虚なものへと変わっていきます。
 彼女は、誰も本来の自分自身――おぞましい家庭に産まれ、おぞましい生き方をしてきた自分を見ていないことに気付き、強い孤独感を覚えました。
 だからこそ、学校で独りであることが当たり前であるかのように過ごしており、自身の異能による魅了が効かなかった静音に惹かれたのです。
(零も同様なのですが、彼や静音は異能を無効化している訳ではなく、他者に希望を持っていないため煌華にも何も期待しなかった……というだけに過ぎません。)
 しかし、独りであるがゆえに彼女は煌華の感情を受け取ってくれません。
 何とか静音の心を惹きたいと願った煌華は、静音に自分自身を求めさせる為、そして、自分と同じく傷ついた人間になってもらう為に、人さらいと遭遇した時に彼女を見捨てたり、誹謗中傷の発端になるような噂を流すなどしたのです。
 それで静音が弱り切ったところに現れて、手を差し伸べれば良いと――そう考えたのですが、静音は煌華の手を取りませんでした。
 また、同じ理由で惹かれ、異能に覚醒させて仲間に引き入れようとした零もまた、煌華を捨てた訳です。
 どこまでも孤独な彼女は「もし来世があるのなら、次は孤独感なんて覚えないくらいに強くなろう」と決意しながら、死に逝くのでした。

 さて。本作は「孤独」をメインテーマとした作品であり、これが物語、或いは登場人物たちの抱える課題となっています。
 そんな中で煌華が至った「孤独感などに負けないくらいに強い存在になる」という発想は一つの「課題に対する回答」であり、物語終盤において重要な意味を持つ考え方となっています。
 一応、本作の主人公は唯理ということになっていますが、後のことを考えると彼女や零だけでなく、煌華や静音も間違いなく「主役」と言っていい存在でしょう。

「作り変える者たち」

 視点が光騎に切り替わります。
 彼は、ビルの下で煌華が転落死する様子を見ていました。
 友人であり「組織」の仲間の死を見て残念そうにする彼ですが、もともと他者にあまり興味のない男であるがゆえに、深刻に受け止めることはしません。
 結末を見届けると、彼は組織の拠点へと帰りました。
 その後、煌華の死を「とある少女」に報告します。

 まだ姿も名も描写されませんが、この少女こそ、異能者によって構成された秘密組織《Alter》の長にしてEp.1~4(=本編)における黒幕である存在「プルミエール」――或いは、高嶺星生 です。
 彼女は光騎が唯一、尊重している他者であり、基本的に彼はプルミエールと同じ方針で動いています。
 そんな彼の願いは「秩序の破壊」でした。
 


 弱者が形成している社会を打破し、強者の為の世界を作ろうと言うのです。
 つまりは「異能者の為の世界を創造する」というのが彼らの行動方針です。
 煌華が至った答えに、彼らは既に辿り着いていた訳ですね。
 このタイミングでようやく、明確な「敵」が見えてきた形になります。
 ただ、飽くまで「分かりやすい敵役」を担当するのが彼らなのであり、「敵を討って万事解決」とはならないのが本作ですが……。

遠い記憶

 更に場面は変わり、今度は「僕」の視点となります。
 これは気を失っている零が見た夢であり、彼の封印されている記憶です。


 彼は「あの子」と呼ぶ誰か(=唯理の前世)を埋葬したあと、隣に居る少女に何やら話しかけました。
 すると彼女は「その少女が《アカシア・リロード》に繋がることはない」と言います。
 それを聞いて、彼は落胆しました。

 その後、話し相手である少女の姿が映されます。
 彼女こそが前述したプルミエールなのですが、この時点では名は明かされないため、その容姿を見た『Acassia∞Reload』プレイ済みの方は「もしかしたらアカシア?」と考えるかも知れませんね。
(実際のところ、二人は半ば同一人物みたいなものなのですが。)

 さて、ここの会話はこの時点だと完全に謎に包まれていますが、Ep.4にて全く同じシーンが入るので、今は解説を割愛します。

変わりゆく世界

 ようやく、視点が現在の零に戻ります。
 朝、彼は特事委員会の事務所で目覚めます。
 そして唯理と一義に状況を確認します。
 改めて静音と煌華の死を実感し、零は泣き崩れました。
 ひとしきり泣いた後、唯理は、昨夜の事件が世間で大きな騒ぎになっていると話します。
 (表向きは)テロ事件の犯人である高坂真司の娘、そして大人気アイドルである煌華が転落死したというのですから、無理もありません。
 また一義から、静音の母が自殺していたことを聞きます。
 零は一通り情報交換を行ったのち、帰宅しました。
(異能によって知った煌華の本性は隠しましたが。)


 その後は、急速に変わっていく社会が描写されていきます。


 真司に殺害された被害者の遺族の会見。
 死亡した会社役員らが真司を追い詰めて凶行に駆り立てたのですから、皮肉としか言いようがありません。


 これもまた皮肉であり、以前のシーンで唯理が「命は平等である」と語ったのに反し、この学生は「誰も必要としていない人間の為に、必要とされている人間が死ぬのはおかしい」と発言しています。
 平等なんて世界にはありませんでした。


 学生たちは不安に包まれ、無責任に適当な発言をして恐怖を和らげています。
「魔族」という言葉は完全に、気に入らない相手を中傷する為のレッテルと化しています。
 誰も「(”魔族”というミームのモデルとなった)変異体」と「異能者」の違いなど分からないし、仮に知ったとしても、こんなにも便利なレッテルを手放せないでしょう。


 夜の街では「魔族狩り」と称した暴行事件が起きていました。
 若者たちがストレスの発散の為に浮浪者に暴力を振るいます。
 そこに「最近、超能力に覚醒した」と語る異能者が現れ、浮浪者を救いつつ死体から金品を漁る為に、若者たちの頭を破裂させました。
(彼は「最近」と言っていることから、三年前の櫻岡駅火災ではなく、「ソルリベラ」によって覚醒しています。)
 零の怖れていた「負の連鎖」は、今まさに起き始めていました。


「魔族」と呼ばれた化け物――変異体による被害も増加の一途を辿っており、今夜もまた、人が惨殺されて捕食されました。
 変異体は「異能者になる素質が無かった人間」であり、そんな彼らを光騎は”失敗作”として強く見下しています。
 そして、彼が幼い頃から抱いていた放火癖のはけ口にするのでした。
 

 静音と煌華の死から一週間が経ち、視点は再び零に戻ります。
 彼は、静音が辿った運命の虚しさに悲嘆すると共に、煌華を殺してしまった自責の念にも駆られ、精神的に追い詰められて不登校になっていました。
 社会の変化もまた彼を苦しめ、自暴自棄にさせていきます。

「朝起きたらその時には、何もかも死に絶えていて、終わっていればいいのに」。

 そんなことを思いながら、全てを拒絶するかのようにベッドに潜り込み、眠ろうとしました。
 しかし、そこに唯理がやってきます。
 彼女は零を心配し、なんとか上手く時間を作って会いに来ました。
 零を慰める唯理ですが、彼はそんな気持ちを受け取ろうとはせず、自虐的な思いに取り憑かれています。
「全てを丸く収められる、最強の力があれば良かったのに」、と。
 しかし、唯理はそれを否定します。
 彼女は零に、全てを一人で抱え込んで欲しくなかったのです。


・後に判明する零の正体を思えば「神様なんかじゃない」というのは間違いなのですが、それでも唯理は、彼に「一人の人間で居て欲しい」と考えるでしょう。”神様である”というのは、孤独なのですから。
 

 ですが、やはり零は「もっとやりようがあったかも知れない」と考えてしまいます。
 お互いに平行線でした。
 零は無理やり会話を打ち切って、改めて眠りに入ります。


――と、今回はひとまずこの辺りで。
 次回はいよいよ、本作の導入で描かれた「三年前の櫻岡火災」について明かされます。
 

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