Hollow_Perception 2021/01/24 12:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第一回(プロローグ~Ep.1前半)

 お疲れ様です、anubisです。
 今週からは、何回かに分けてノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 解説はゲーム中の進行に沿って(EP.1,2,3,4,-の順番で)行っていきます。
 内容を詳細に掘り下げるため、当然ながらネタバレ注意ですが、いわゆる「副読本」のような形でこちらを読みつつプレイするというのも良いかも知れません。
(間接的に、関連作品である『Acassia∞Reload』のネタバレも含みます。)





作品概要

 まず本作は、過去作『Acassia∞Reload』の前日譚に当たります。
『Acassia∞Reload』では静寂に包まれた幻想的な終末世界が描かれている一方、本作は「”現代”異能バトルもの」です。
 はじめ、両作品の接点は明確には見えてきませんが、やがて、現代的世界がその形を変えていく様子が描かれていきます。
 ですが、「『Acassia∞Reload』の前日譚であること」を示唆するような描写自体は導入から展開されているので、それを踏まえた上で、最初のエピソードを見ていきます。

Ep.1「Actualize」(顕現)

プロローグ――櫻岡駅火災事故、或いは全ての始まり


・『ReIn∽Alter』統合版では見られない、Ep.1専用タイトル画面。

 本作の物語は、本編の三年前に起きた「櫻岡駅火災事故」の描写から始まります。
 本作の主な舞台となる街「櫻岡(さくらおか)市」の中央駅を中心にして起きた、原因不明の大火災です。


 そんな危険な状態にある駅に、自ら向かっていく「私」。
 この人物は、本編のメインヒロインとして後に登場する「東岸唯理(とうぎし・ゆいり)」です。
 本作で真に「主人公」の役割を持っている登場人物は唯理であり、故に、彼女の視点から物語が始まる訳です。
 彼女は、どこかから流れてくる、とある人物の「孤独感」を感じ取ります。
 本作は「孤独」をテーマとした作品ですが、まさにそのような想いが導入の時点で描かれ、物語の軸として存在しています。
 その人物とは唯理の友人である「高嶺星生(たかみね・せな)」であり、(詳細は後述しますが)彼女は「他者に想いを伝えて共感させ、異能に覚醒させると共に、自身が同じ力を使用出来る」異能――《共振》に覚醒しています。
 この力により、唯理は星生が感じている強い孤独感を受け取ると共に、「星生を孤独から救い出したい」という想いを核にして「視点を分離させて他者を見守る」異能――《観測》を覚醒させました。
 またこの時、彼女以外にも周辺に居た多くの「素質ある者」=「孤独感への同調が可能な者」が異能を覚醒させました。
 これは裏設定ですが、この時、櫻岡駅には後々登場する「神了光騎(じんりょう・こうき)」という青年が居ました。彼は星生の力によって《発火》の異能を覚醒させると共に、彼の持つ《発火》を星生が「借用」することで、櫻岡駅の火災は発生しました。

 異能によって星生の居場所を突き止め、そこへ向かう唯理。
 自殺を図ろうとする星生を唯理は説得しようとしますが、世界に絶望し切っている様子の彼女は、それを聞き入れようとはしません。

「人は生まれた瞬間に、孤独になる。そうして、死ぬ時にもう一度、全てを喪って独りになるの」

 星生がどのような境遇であったかはこの時点では述べられていませんが、彼女の抱えている絶望感は、この台詞に集約されています。
「救いのない世界に生まれる」辛さ、「救いのない世界で生きる」辛さ、「たとえ少しばかりの幸福を得たとて、結局、死の前では全てを剥奪される」辛さ――始まりから終わりまでの全てに失望した彼女は、友人の言葉を無視して、高所から飛び降り自殺してしまいます。
 唯理は、このとき友人を救えなかった後悔を、一生忘れることが出来ませんでした――。

 そして、プロローグはこんな一文で締め括られます。


 物語のラストにて明かされることですが、実は『ReIn∽Alter』本編の物語は、「本編から七十年後の年老いた唯理が、異能者の少女『アカシア』に昔話をする」という体で語られているものです。
 人間(=非・異能者)を憎む最強の異能者であるアカシアは、人々を殺して回っていました。
 そんな彼女に対して「人間を許す」という選択肢を与えるべく、唯理は昔話をしたのでした。
 ここで言う「もう一つの選択肢」とは、本作や『Acassia∞Reload』のラストに出現する選択肢――「アカシアが最後に残った人間の少女を殺すか、殺さないか」のことを示しています。
 即ち、本作の物語は全て、人間に強い恨みを持つアカシアが「それでも”人間を許す”という選択肢を思い浮かべられたのは何故か」という謎の解明に繋がっていると言っても過言ではありません。

とある少年の、退屈な学園生活

 プロローグ終了後はテキストウィンドウの表示が切り替わります。そして、表向きの主人公の少年――「高嶺零(たかみね・れい)」の視点で物語が描かれていきます。


 これ以降、主人公の視点で描写がなされている場合は下段テキストウィンドウ、主人公以外の視点の場合は全画面テキストウィンドウによる描写がなされます。
 より正確な表現をするならば、「(零ではなく)東岸唯理の視点の場合は下段テキストウィンドウが使用」されています。
 これは終盤にて判明することですが、実のところ唯理は、零に対して《観測》の異能を使用し、彼の視点を盗み見していたのです。

 ともかく、朝、自室で目覚める零。
 彼は櫻岡駅火災事故の悪夢(=プロローグ)に悩まされていました。
 無論、単なる悪夢ではなく、実際に起こった出来事です。
 零は「自分はその場に居なかった、飛び降りた少女のことも知らない」と独白していますが、これは自らの記憶を封印した末の「無自覚の嘘」であり、防衛機制による自己暗示です。
 後(=Ep.3)にて詳しく掘り下げられますが、彼は、その場に居たのでした。
 零が唯理の視点で描かれている夢(=過去)を見たのは、先に零が《観測》の異能と同じ効果を持つ力を覚醒させており、離れた場所から彼女の視点を追っていた為です。

 記憶を封印してこれらの真実から自身の心を守り続けている零は、悪夢を忘れ、目の前の現実を生きようと気を取り直します。
 そこにやって来たのは、彼の”義理の”姉「高嶺優利(たかみね・すぐり)」


 才色兼備で学園の人気者、そして、超絶世話焼きな彼女。
 口癖は「お姉ちゃんだから良いでしょ!」で、面倒臭がる零に対して世話を焼きつつも色々と押し付けがましくしている、ブラコンで束縛気質な姉です。
 三年前から現在にいたるまで零と優利は二人暮らしをしており(優利が養子になったのも三年前)、両親は仕事で別居している……ということになっています。真実はEp.3にて明かされますが、もっと深刻な理由により両親は息子から距離を置いていました。

 優利は嫌がる零を無理やり付き合わせ、一緒に登校します。
 零は内気な性格で、学園――或いは社会そのものに居場所を感じられていません。その為、ひと目のつくところで人気者である優利と共に居るのが(嫉妬を買うため)嫌なのです。しかし、あまり人の気持ちが分からない優利は、零が嫌がるのを気に留めません。

 学校に到着した零は、上級生である優利と別れ、教室に行きます。
 そして授業の開始まで、インターネット上でニュースの閲覧を行うことにしました。
 彼は、世界中の不幸なニュースを見ることを趣味としています。
 それは「他人の不幸を他人事として楽しむ為」ではなく、むしろ真逆で、「”この世の救いの無さ”を理解して実感を得ることで他者の不幸に共感し、自分や他者に降り掛かる絶望に精神的な備えをしておく」という動機のもとで行っています。
 一言で説明しようとするとかなり難解になってしまう心理ですが、要するに彼は、「この世に確かに存在する不幸」から目をそらしたくなかったのです。
 彼は「櫻岡市火災事故」という不幸な記憶は封印してしまっているので、一見矛盾した心理ですが実はそうではなく、むしろ今の性格は「直視すれば壊れてしまうような、不幸な記憶を取り戻して本来の自分に戻りたい」という「自殺衝動」が由来となっています。
 これもEp.3にて明かされる真相ですが、記憶を失う前の彼はわざわざ不幸なニュースなど見たがらない、繊細な性格の持ち主でした。(この趣味はとある人物から影響を受け、引き継がれたものです。)

 そんな彼ですが、最近気になっているトピックは、「魔族」なるネットミーム。


「人食いの化け物」であり、近年発生している未解決の猟奇殺人事件に関連付けられて語られています。
 完全にオカルトですが、零は「魔族は本当に存在するのではないか」という「最悪の想定」をしていました。(これも「絶望への備え」の一種。)
 そして「どうせ絶望させるなら、当たり前のように日常を生きている大多数の者達ではなく、社会に居場所を感じられない自分にしてくれ」とも。

天真爛漫なアイドル

 ネットニュースを読みながらそんなことを思っていると、彼に、とある少女が声を掛けます。


 なんとなく皆が避けている零と、同級生の中では唯一関わりがあるその少女は、「佐咲煌華(ささき・きらか)」
 学生アイドルでもある彼女は非常に陽気な性格で、優利とはまた別の方向性で、学園一の人気者です。
 誰とでも馴れ馴れしく絡み、時には下品な冗談なども言って他者を呆れさせつつも親しみを感じさせる――そんなキュートな少女です。
 一方で零は彼女のことを、「自分に絡む理由が分からない」「他の生徒達の憎しみを買う」などといった理由で苦手に思っていますが。

 煌華は騒がしくウザ絡みをしつつも、ふと、こんなことを言います。

「『魔族』が気になるの? 興味あるの?」

 一瞬、違和感を覚える零ですが、意図は煌華の口からすぐに語られます。
 彼女は世間の様々な話題について言及する雑談動画を投稿している配信者でもあり、「ちょうど魔族を取り上げた動画を投稿したから観てくれ」とのことでした。
「どうせ情報源としては役立たずだろう」と悲観しつつも、零は渋々視聴することにしました。
 なお、煌華が零を「魔族」という存在へ誘導したのは「再生数稼ぎ」以上の意図があってのことですが、それはまた後述。
 登場人物全員が何かしらの秘密と真意を抱えつつ行動している本作ですが、彼女もまた例外ではありません。

 さて。場面は変わり、昼休み。
 零は優利の作ったハイクオリティな弁当を、「姉にここまでされるのは恥ずかしい」と思いつつも感謝して頬張ります。
 その後、煌華の動画を観ることにしたのでした。


 動画の中で煌華は、魔族に関する基礎知識を話していきます。
 3年前から多発している猟奇殺人事件のこと。
 それの犯人こそ「魔族」なのだと疑われていること。
 報道上に確からしい情報が全く出回らないこと。
「魔族が人を殺してるところを動画撮影出来たら再生数が取れる」などという、ブラックな冗談も言ったりしています。
 そんな動画に、零は見入ってしまいました。
 情報そのものに新規性は無かったのですが、煌華の持つ「視聴者を魅了する類稀なる話術」に惹かれてしまったのです。
 隣で動画を観ていた優利は、何か思うところがあるような態度を見せますが、特に話しません。
 温厚な性格の為、物騒なニュースや噂を避ける優利。しかし実のところ、魔族については「それが単なる噂ではなく、確かに実在すること」も含めて知っていたため、そのような態度を取ってしまったのです。

拒絶する少女

 その後、学園でのシーンが終わり、零は帰宅します。
 彼は優利に連れられ、不登校の少女「天上静音(てんじょう・しずね)」 の家に訪問します。
 優利はその世話焼きぶりを発揮し、静音の通学を再開させたがっていました。一方で、零は「そっとしておいてあげた方がいい。逃げたって良いじゃないか」と考えており、あまり乗り気ではありませんが。
 ともかく、静音の家の前に着く二人。
 そこには、誹謗中傷の落書きがなされていました。


 落書きによれば「静音は魔族(=猟奇殺人者)だ」とのこと。
 彼女は単なる学生の少女であり、そんな筈がありません。完全に、いわれのない攻撃です――少なくとも、この時点ではそう描かれています。
 実のところ、これは煌華が人々をそう煽動した結果なのですが、彼女の真意はまた後述。
 落書きを片付けたのち、静音に部屋に招かれる高嶺姉弟。
 

・余談ですが、彼女の部屋にあるペットボトルには、彼女の○○○○が入っています。可愛いね。
 静音は完全に精神的に参っており、”離婚した両親の片割れである母から「早く死んでくれ」と思われているだろう”と語ります。
 ”頼んでもいないのに自分を産むな”とも。
 彼女のこの主張は本作のテーマの一つでもあり、プロローグでも少女が「生まれる絶望」について語っていました。
 本人は不登校、親はパートで働く母しか居ない、猟奇殺人犯扱いされる――そんな状況である静音は、最もこの苦しみを重く感じています。
 しかし、日々を穏やかに生きている優利には、彼女の気持ちが分かりません。
 自分の親に対して否定的なことを言う静音に怒りかける彼女を、零が止めます。
 弱者の気持ちに寄り添える彼は、ただ静音が本音を話してくれたことに感謝し、肯定するのでした。
 零の静音に対する優しさは、彼が「世界の不幸に寄り添い、共感していく在り方」を選んだことによって得た、最も価値あるものかも知れません。
 ともかく一旦落ち着き、飽くまでも「学校には行かない」と主張する静音を肯定する優利。

・零のこの「存在理由」に関する独白もまた、本作全体に通じる話です。
 今日は帰宅することにした高嶺姉弟。
 しかし、静音はそんな二人を引き止め、「アニメを観よう」と言い出します。
 この時観たアニメは『Probability Sky』。こちらもこちらで物語の紹介記事があるので、よろしければご覧下さい。

 アニメを観たあと、帰宅した二人。
 零は母親みたいに口うるさく「風呂に入れ、早く寝ろ」などと言う優利を見て、「母親」に対して思いを馳せます。
 三年前から別居している両親ですが、彼らに関する記憶が曖昧になっていたのです。
 この時は、その違和感について深く考えないようにする零。
 実は、両親に関する記憶もまた、零が自ら封印したものです。
 彼は静音と違い、両親に嫌悪感や不信感を抱いている訳ではありませんが、両親の存在が「彼が最も無かったことにしたい、とある事実」に繋がっているため、連鎖的にその記憶を封印してしまっているのです。(詳細はEp.3にて)
 違和感を無理やり払拭した彼は、今度は「魔族」について考えます。
 煌華の動画の影響で、より強く興味を惹かれた零は、「魔族に会ってみたい」と考えます。

「僕<にちじょう>を、壊してくれ」

 そんなことを、願いながら。
 これもまた、「自殺衝動」によって生まれた感情です。
 零の独白を追うと「世界が変わること」を望んでいるように見えるのですが、その実、彼はむしろ基本的に「自分が変わること」つまり「主観的な世界の変革」を望んでいます。
 彼は穏やかな人間であり、負の連鎖によって人が傷つけ合うことを嫌います。
 その為、物語を通して、少なくとも本人の意思の上では「自身の思うままに世界を書き換えること」は全く望んでいないのです。
 これを理解した上で読み進めると、彼の究極的な願望、そして彼が物語の最後で「あの選択」をした理由が分かるかも知れません。

 ある意味、この作品は「セカイ系を否定する物語」なんですよね。



――といったところで、今週は終わりです。
 序盤はキャラクターの紹介と現状の描写がメインですね。
 次はいよいよメインヒロイン……或いは主人公の登場シーン。
(本作、作者は唯理ちゃんが主人公で、零くんがヒロインだと思っています。)
 

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