Hollow_Perception 2021/01/31 12:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第二回(Ep.1後半)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 ネタバレ有り記事につき注意。
 前回はこちら




Ep.1「Actualize」後半


・Ep.1後半は初のバトル描写が入ります。

「魔族」と異能者たち

 天上静音の家から帰宅した零が眠りについた後、東岸唯理の視点を描いた場面に切り替わります。(プロローグを除いた)本編ではここが初登場となります。


 なお、場面転換時にこのような二重螺旋状の演出が入ることがありますが、これは、唯理が《観測》の異能によって分離していた視点を自分自身に引き戻したことを意味しています。

 唯理は警察官の呼び出しに応じて櫻岡市の公園に駆けつけましたが、警察官はまるで猛獣に全身を貪られたかのような、猟奇的な死に方をしていました。
 犯人は、唯理が「対象」と呼ぶ存在。
 そうーー呼称こそ違えど、「魔族」はまさしく噂通りの「人を惨殺する化け物」として実在していたのです。

 唯理は「《reIn(リーン)》ーー発現」 と念じて《観測》の異能を発動し、魔族を探し当てたのち、対峙します。
(これは異能を安定して使用する為の自己暗示に過ぎないため、言葉で唱えても、脳内で念じても、どちらもしなくとも異能を発動させることは可能です。)


・先週の記事で述べた通り、唯理の視点を描いているシーンでは零と同じく下段テキストウィンドウが使われています。

 唯理は魔族に対処(具体的には殺害)することを任務として引き受けていました。
 非常に凶暴であり、高い膂力を持つ魔族。
 しかし唯理は、少女らしい華奢な身体つきにも関わらず、徒手空拳の状態で繰り出す格闘術でそれをあしらっていきます。
 プロローグにおける異能覚醒から三年が経過した現在の彼女は、自身の《観測》を高度に使いこなすことが可能となっていました。
 具体的には、敵に対して視点を分離させることで心理を読み取ることで、戦力差を打ち消す情報アドバンテージを得ることが出来るのです。
 無論、心が読めても身体がついていかなければ意味が無いため、体術の訓練も相当に積んできていますが。
 ともかく、魔族の力任せな攻撃をかわしながら追い詰めていく唯理。
 しかし、突如としてそこに介入者が現れると共に、魔族が発火していき、やがて息絶えます。
 対処すべき存在が消失したとはいえ、この事態は予期しないものであった為、唯理は警戒を解きません。

 唯理の目の前に現れたのは、《発火》の力を持つ異能者。
 この時点では名前は明かされませんが、「神了光騎(じんりょう・こうき)」 という軽薄そうな雰囲気の青年です。


 謎の異能者である彼に素性を問いただす唯理ですが、適当なことを言ってまともに取り合ってくれません。
 唯理は、しぶしぶ異能を用いて素性を暴くことにしました。
(彼女の異能はこういった状況下で非常に有用ですが、なまじ良識があるが故に、見知らぬ他人のプライバシーを簡単に暴いてしまうことに抵抗感を持っています。)
 しかし突然、唯理の視界が暗闇に包まれます。
 すぐに視界は回復しましたが、不意を突かれて異能の発動が失敗し、光騎に逃げられてしまいました。
 その場には姿を現していませんが、実はこの視界の悪化は、物陰に隠れていた煌華の異能によるものです。
 後に彼女が異能者として唯理の前に現れた時、(見た目で分かりやすい異能ではないのにも関わらず)唯理が異能者であることを察していたような素振りを見せますが、それは、この時に戦う姿を見ていたからです。
 なお、これは裏設定ですが、光騎の言っている「”アレ”の先約」とは煌華のことであり、二人は恋人ではないものの、性的な繋がりがある「遊び友達」だったりします。

 光騎が魔族を殺した理由は後々に明かされますが、彼の「趣味」です。
 或いは、彼が唯一心から敬愛している、とある少女からの指示でもあります。
(後者は作中では明言していませんが。)

 見失ってしまった光騎に対し、唯理は不審に思いつつも「今は目の前の事態の収拾」が最優先と考え、死体の隠蔽や警察への連絡などを行っていきます。
 実は魔族に関する情報を隠蔽していたのは警察だったのですが(そのため正体がはっきりしないままミーム化していました)、事件の件数が増加してきており「そろそろ隠蔽の限界が来ている」と悟る唯理でした。
 多くの一般人にとって「魔族」というものが「実態のはっきりしない噂」であることは、後の展開に繋がる大きな禍根となっています。(そもそも現時点で静音がその被害者になっていますが。)
 当然ながら、警察や「それに協力する、唯理が所属している組織」は混乱を引き起こさない為に情報を隠蔽していた訳ですから、そう考えると皮肉ですね。

何も変わらない日常

 視点は零に戻り、学校に居る彼の様子が描かれます。
 学校では、生徒たちが昨夜発生した「猟奇殺人事件」(=先のシーン)について盛り上がっています。
 恐怖を口にする彼らですが、あまり当事者感は見られず、どこか他人事のように語り合っています。
 一方で、零は他の生徒達の会話には加わっていませんが、魔族について考察し、「魔族の実在」という「最悪の想定」をより強めています。
 偶然通りかかった通行人が撮影したものであり、僅かな間だけネット上にアップロードされていた「被害者である警官の死体の写真」を見た零。
 彼はそこから「人間はこのような殺し方を選ばない、何か人外的な存在によるものだろう」と考えました。(また、櫻岡市は猛獣が出没するような場所でもありません。)
 魔族について考えれば考えるほど、「魔族を実際に見てみたい」という思いが高まっていきます。
 この時の彼にとって、魔族とは間違いなく「退屈で閉塞的な日常を破壊する希望」でした。
 たとえ魔族によって自分が死ぬことになろうとも、それ以上に、「日常の中で息が詰まるような生活を続け、緩やかに苦しみながら死んでいく」ことを彼は怖れていたのでした。

 そんな零に、いつも通り煌華は声を掛け、とりとめのない会話を展開していきます。


 煌華については後のエピソードで詳しく語られますが、この台詞自体が自虐だったりします。彼女こそまさに、ここで言う「他人に認められること」を求めた人間なので……だからこそ零に惹かれた訳ですが。
 煌華は、「自分を否定している」のではなく「自分の弱さを正しく自覚している」零に対して好意的なことを述べます。
 終始どこまでが真意か分かりにくい発言をする彼女ですが、基本的に、零への好意は全て真実です。実のところ、心の底では大抵の人間を信用していない彼女にとっては珍しく「好きな他人」と言えます……”二番目に”ですが。
 もし零にその気があれば、本作で彼女もヒロインとして攻略出来たかも知れませんね。(※出来ない)

 話題は煌華の動画と魔族に移ります。
「本気で魔族を探しに行こうだなんて思わないで欲しい」と煌華は言いますが、これは建前で、実際はむしろ零をそこに誘導し続けています。
 彼女は魔族の実在を知っている為、零に「魔族の実在を信じているか」と問われると「うーん。どうなんだろうね?」などと曖昧に濁しました。
 ひとまず会話はそこで終わり、シーンが移り変わります。

セカイを壊す日

 学校から帰宅した零。
 彼は学校における他の生徒達を思い出しながら独白します。
「結局のところ、多くの者にとって、無関係な他人の不幸などは他者との話題共有の為の使い捨てコンテンツなのだ」と。
「誰も彼も、自分が世界から置いていかれる側に立つ可能性など、想像だにしない」と。
 そのような救いのない摂理が、「被害者を犠牲にして成り立っている日常」が、零にとって非常に絶望的なものでした。
 この心苦しさが、ある種の自殺願望的な感情をより高めていき、彼はついに「魔族を見つけること」を決心します。


 一応程度に身を守るものを持っていこうと考えた零は、空き部屋を物色すると、何故かアウトドア用のナイフ が見つかります。
 不可解に思いつつも「恐らくは父親にアウトドア趣味でもあったのだろう」と無理やり納得する零。
 これは本作におけるキーアイテムの一つとでも言うべき存在であり、本編のラストにも登場します。
 あまりにも救いのない運命ーーその始まりと終わりを司る物品ですね。

 ナイフを護身用として隠し持ち、家を出ようとする零。
 そこに優利がやってきます。
 なにか不安を感じた彼女は、「コンビニに行くだけ」と語る零に対して「自分も一緒に行く」と提案しますが、零としてはあらゆる意味で優利を巻き込みたくないため、彼女を強く拒絶します。


「お姉ちゃんなんだから心配して当たり前」と食い下がる優利にうんざりし、つい、零は声を荒げて彼女の束縛気質な性格を否定してしまいました。
 しかし、やがて二人とも冷静さを取り戻し、互いに謝ります。
 優利はしぶしぶ納得し、零を一人で送り出すのでした。

 前回でも述べた通り、優利は魔族が存在することを知っています。
 これは煌華も同様ですが、彼女が零を魔族に誘導する立場である一方、優利は「魔族などというものには関わらせたくない」立場の人間です。
 しかし、優利には迷いがありました。
 彼女が零に対して束縛気質なのは、彼や世界を「”退屈な日常”の先にある絶望」から守り通す為です。しかし「他者が”より正しいと考えられる”方向に動いてくれない」という経験を重ねてきた為に、そんな自身の在り方に疑問が生じてきていたのです。
「たとえ自分の目には破滅が見えていようと、他者がそれを望むのならば、その想いに寄り添って尊重してやるべきなのではないか」と。
(この迷いや不安が爆発するのがEp.3となります。)

日常の先へ

 街に繰り出す零。
 このとき一瞬だけ、視点変更を意味する二重螺旋演出が入り、すぐに元に戻ります。


・ここで驚いているのは零ではなく唯理であり、零が魔族との遭遇を試みようと行動し始めてしまったことに反応しています。

 零が人のうめき声を聞きつけて公園へ向かうと、そこでは、同じクラスの男子生徒が化け物に捕食されていました。
 化け物ーー魔族は、次の獲物として零を狙います。
 明らかな異常事態ですが、彼の心は冷静でした。

 自身の弱さを自覚し、世界の絶望を正面から受け止めて苦悩してきた彼は、たとえ目の前に「これから自分を屠るかもしれない存在」が居たとしても狼狽えないのです。

 かくして魔族との交戦を開始する零。
 人体を一撃で砕く魔族の殴打を的確に躱しつつ、撃退する方法を考えていきます。
 そんな中で、彼は自分の内側に「何か」が眠っていることに気付きます。
 


・『ジョハリの窓』とは、自分を「公開された自己」「秘匿された自己」「自分は気付いておらず他人だけが気付いている自己」「誰も知らない自己」の四つに分類する心理学的手法です。
 その未知のエリアに接続した彼は、ある光景を目にします。

 どこか現代文明とは程遠い場所で、「零の知らない零」は鬱蒼とした森林に恐怖し、「世界を見通すこと」を望みました。

 この時はまだ彼は自覚していませんが、このビジョンは「封印した記憶の一つ」です。
 記憶を封印したのは三年前であり、それ以前には普通に現代社会を生きてきた筈の彼ですが、それにも関わらずこのような記憶を持っています。
 この記憶の正体は物語の核心に繋がるもので、Ep.4にて明かされます。

 ともかく、記憶の中の自分自身が抱いた想いを軸にして、零は異能に覚醒します。
 それは唯理の《観測》と同様に、視点を身体から分離させるものでした。
 なお、零が異能者として持つ力は星生と同じく《共振》 であり、「自分自身の想いと他者の想いを同調させる」ことによる異能複製を可能としています。
 つまり異能の根源として、零自身の不可思議な記憶だけでなく他者の存在も必要となってくる訳ですが、この共振対象は、この場に向かってきている唯理です。
 零は「この時点ではまだ出会っていない”筈の"少女」から、異能を拝借しましたーーこれもまた「封印した記憶」の中に真実が眠っており、実のところ二人は友人関係なのですが。

 《観測》の異能を使い、読心なども駆使して魔族との戦いを進めていく零。
 ナイフによって魔族の片腕を傷つけますが、それでも止まりません。
 やがて絶体絶命の状況になり、いよいよ諦めかけます。
 しかし、飛来した銃弾が魔族を撃ち抜き、彼を救いました。
 銃弾を放ったのは、金髪の少女ーー唯理でした。
 


 零にこの場から去るように強く言う彼女ですが、「ここで逃げたらまた日常に逆戻りになってしまう」と考える零は聞き入れません。
 仕方なく、彼を無視して唯理は魔族に向き直ります。
 そして体術によって魔族を制圧してしまうのでした。

 厳しく、或いは感情的に零を咎める唯理。
 しかし零はひどく疲労しており、それどころではありません。
 気を失った彼を唯理は介抱します。魔族の返り血まみれでそのまま自宅に帰す訳にもいかないので、ひとまず自身のアパートに連れて行きます。

・メインヒロインによる膝枕イベントは最高のお約束。
 状況を説明した後、唯理は自身の名を名乗ります。
ーー現状、零が一方的に唯理を忘れている状態であり、彼女にとっては二度目の自己紹介に当たるので、そう考えると切ないものがあります。
(それでも友人であったことを彼女が話さない理由は、Ep.3にて述べられています。愛ゆえに自身の孤独感を押し殺し、そうするしかなかったのです。)
 しかし、無意識下で記憶を取り戻しかけている、或いは記憶の解放へ向かうことを望んでいる為か、唯理に名前を呼び捨てすることを求められると、それをすんなり受け入れます。
 以前の学園パートにおいて、煌華に同じことを求められて結局「煌華”さん”」と遠慮がちに呼んでしまう描写があるのですが、これはその対比となっています。
 ま、負けヒロイン……!(まあ煌華ちゃんはそもそもヒロインじゃないけど……)

 唯理は名を名乗った後、自身が実は零の同級生であったことを明かします。
 いわゆる不登校状態になっていた訳です……その理由は、同様な状況の静音のそれとは全く異なりますが。
 彼女は、魔族と戦う任務を政府から請け負っていることを説明します。
 零が、そんな少女に出会えたことに嬉しさを覚え、「世界が壊されたこと」を実感しながら、Ep.1は幕を閉じます。


・分割版ではここで次回予告が入ります。

……と、今回はこの辺りで。
 Ep.1は完全に、起承転結における「起」ですね。
 各キャラクターの状況を説明しつつ、この先で描かれていく「変化」への導入が描写されます。かなり教科書的な構成の一話かも知れません。
 Ep.3に繋がる伏線が相当ありますが、プロローグの話し相手(=アカシア)や零の深層記憶の正体など、Ep.4に繋がる核心的なものも少しありますね。
 Ep.3の時点で「現代異能バトルもの」としてはあらかた決着が着き、ラストは別の領域へと物語がシフトするので、各キャラクターの苦悩だとか家庭の状況だとかそういう「個人的な課題」は主にEp.3で回収されるんですよね。


 

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