Hollow_Perception 2021/03/28 12:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・最終回(Ep.-)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 ネタバレ有り記事につき注意。また、関連作品『Acassia∞Reload』の重大なネタバレも含んでおります。
 なお、毎週記事を1本上げてきた本ページですが、今週からしばらくは新作『破天鬼姫永羅伝』の制作に集中するため、不定期更新にしようと思います。
 記事執筆、かなり大変なので……。
 どうしても書きたいネタが思いついたら書きますが。

 さて今週は、いよいよ最終章「Ep.-」について述べていきます。
 物語は現代編から未来編へと移り変わり、完全に一変した世界とその結末が描かれていきます。
 人類の歴史を巡る壮大な物語の終着点である本章では、現代編のキャラクターは一人も登場せず、単体では一見して完全に繋がりのない、別物のようになっています。
 しかし、これまでたびたび解説してきた通り、現代で各キャラクターが紡いできた因果は本エピソードの展開に密接に関わっているのです。
 また、本エピソードは『Acassia∞Reload』に直接繋がる前日譚 となっております。
 実は『Acassia∞Reload2』なる続編(前日譚)をかつて構想していたのですが、それに当たるのがこのエピソード――正確には、前半の”地上パート”(アカシアが《無限遠の牢獄》に来る前)です。

これまでの解説記事

・第一回(Ep.1前編)
・第二回(Ep.1後編)
・第三回(Ep.2前編)
・第四回(Ep.2後編)
・第五回(Ep.3前編)
・第六回(Ep.3中編)
・第七回(Ep.3後編)
・第八回(Ep.4前編)
・第九回(Ep.4後編)

Episode.ー「Transcendence」(超越)


・これまでは文章を読み進めていくだけの、完全なるノベルゲームだった本作。しかし、最終エピソードにおいて初めて(演出として)「プレイヤーが干渉する場面」が登場します。

《虚数認識論(ホロウ・パーセプション)》

 Ep.-を開始すると、改めてサークルロゴが表示されると共に、謎の文言が映されます。

 これは、「プレイヤー」がホロウ・ジェネレータに導かれて「プルミエール」という人物に接続したため、その人物に力を供給する為の観測用インタフェース、つまり本作「ReIn∽Alter」をシステムが作り上げたことを意味しています。
 Ep.4にて本作がメタフィクションの側面を持つことは明かされましたが、Ep.-ではより明確に「プレイヤーが一人の少女を観測し続ける」という形で描かれていきます。
 なお、観測対象である「プルミエール」はEp.3~4に登場したその人ではなく、これから登場する、彼女の転生体である少女「アカシア」のことを示しています。
 転生の際、(煌華や静音、星生といった)他者の人格が混じって新たな存在となったため、アカシアには前世の記憶がありません。
 ですが転生体であるのには間違いないため、システム上では「プルミエール」として登録されています。
 本人と言えるか別人と言えるか、微妙なところですね。(その点は唯理もそうなのですが。)

 さて、演出と共にインタフェース「ReIn∽Alter」が起動します。
 観測時代は、唯理が寿命で死亡してからそれほど経ってない頃。
 そこには唯理の話し相手であった少女、そして煌華の孫でもある少女――アカシアが居て、プレイヤーに話しかけてきます。

「Acassia∞Reload」において「主人公=アカシア」と「プレイヤー」が別個の存在であるのは、攻略を進めた終盤で明かされることでした。
 しかし、本作はいきなりアカシアという存在について判明するため、最初から両者間においてメタフィクショナルな繋がりがあることが分かります。
 アカシアはプレイヤーに対し、協力を求めます。
 存在する世界が違うため直接干渉は出来ませんが、 《虚数認識論》の力により、プレイヤーはただアカシアを認識し、見守り続けるだけで彼女の力を増幅させることが出来ます。

 彼女はプレイヤーに自身を知ってもらうため、過去を話し始めます。
 アカシアは生まれた時から異能者であり、見た目も親(=煌華の娘とその夫)とは大きくかけ離れていたため、人間達の運営する「魔族(=異能者)研究機関」に捨てられてしまったのです。
 なお”生まれた時から異能者”というのは、アカシアが零と同様、完全なるアルターとして生まれたことを意味しています。彼女の場合は記憶は無いものの、本能的にアルターとしての素質を有していました。
 肉体的にはアルターでも人格的には人間であったため精神的ショックを受けるまで覚醒しなかった星生や、その他の異能者たちのように、通常は「苦痛からの解放を求める強い願い」か(ソルリベラのような)生物学的干渉、或いは(零や星生の力のような)異能的干渉が無ければ力は覚醒しません。
 しかしアカシアはそうではなかったので、研究対象として強く興味を持たれました。
 アルターとして生まれた彼女は、(覚醒の際に「強い願い」による遺伝子の解放が必要ないため)まさしく「全能」とでも言うべき異能者でした。

 研究機関では人権を無視した非道な人体実験が繰り返されました。
(なおこの研究機関は、新生した特事委員会の関連組織です。)
 すぐに親元から離れたため、まともに情操教育を受けていないアカシアは「異能で他の異能者を殺す」という残酷な実験に淡々と参加していきますが、その最中、事故により彼女は死亡してしまいます。
 しかし、彼女の肉体は既に元通りになりました。
 その驚異的な不死性を見てますますアカシアに興味を持った研究員たちは、彼女を残虐に殺害していきます。
 死を繰り返す中、「なぜ自分は死なないのだろう」と考えたアカシアは、自分の奥底に眠る殺意――「存在理由」を自覚しました。
「人類への強い憎しみ」がアカシアに「アカシア・リロード」を起動させ、死亡時に異能によって「自身と全く同じ肉体」を生み出しつつ瞬時に転生することで、無意識に不死性を獲得していたのです。
 彼女は憎悪のままに研究所の人間を皆殺しにして脱走した後、人と魔族の争いで荒んだ外の世界でも同じことを繰り返し、いつしか人間たちから恐怖されるようになりました。

 こうして、人類の抹消を目論む「魔王」が誕生しました。


・ヒロインに言われたい台詞ナンバーワン。

 補足ですが、アカシアが抱く存在理由の由来は、彼女の人格形成の元となった少女たちが生前に抱いていた意志です。
「存在理由」で武装して弱い自分を捨てることを求めた者達の願い通り、アカシアという「魔王」にして「最強の異能者」が生まれたのです。


・Ep.3のこの場面、そしてEp.4におけるプルミエールと星生が、魔王の誕生に繋がっていた訳です。

 なお、これは裏設定ですが、アカシアに「アカシア」と名付けたのは両親や研究所の所員ではありません。
 外の世界で「魔王」として知られるようになるにつれて、魔族たちの中には逆に、彼女を女神のように捉える者達も現れ始めました。
 そして、魔族たちの間で信仰される「記憶の女神・アカシア」にちなんで彼女もそう呼ばれるようになり、やがて自ら「アカシア」と名乗るようになったのです。
(この「記憶の女神信仰」は、まさしく同じ女神を崇めていたアルター達が遺した記録から生まれたものです。)

「人でなくなった少女」との出逢い

 アカシアがプレイヤーと共に人類と戦い始めて、500年が経過します。
 別世界の存在であるプレイヤーは作中世界の時間軸に縛られず、アカシアもまた不老不死であるため、しれっと物凄く時間が経過しています。
《術式》、つまり「異能者でない者にも使える異能」の発明によって通常の人間までもが強大な力を持つことになった世界では、大規模な戦争の結果として進んでいった環境変化により一年中雪が降っていました。
 そんな一面の雪景色に、アカシアは赤い染みを作り続けます。

 ある日、アカシアは銃器で武装し、《術式》も用いる武装集団に襲われます。
 飽くまで「普通の人間」である彼らですが、《術式》によって炎弾などを放って攻撃してきます。
 とはいえ、最強の異能者であるアカシアに勝つことは出来ず、簡単に屠られてしまいます。
 この時代、つまり「プレイヤーと出会ってから『Acassia∞Reload』の状況に至るまで」のアカシアは全盛期です。ただ敵意を発して威圧するだけで重力場が具現化し、周囲の人間を文字通り圧死させてしまいます。
(この力は『Acassia∞Reload』の強力な必殺技的スキル《グレア・オブ・ルーラー》を表現していますが、実態は必殺スキルというよりもむしろパッシブスキルに近いです。)
 更に、光剣を生成して振るうだけで数千人を吹き飛ばすようなことも出来てしまうので(これは『Acassia∞Reload』の通常攻撃に当たります)、普通の人間が多少強くなった程度ではまるで歯が立ちませんでした。

 しばらく戦っていると、アカシアはピンク髪の少女と出会います。

 このビジュアルと発言で『Acassia∞Reload』をプレイした方はすぐにピンと来ると思われますが、彼女は『Acassia∞Reload』に登場した 「平凡な人間の少女」――メイベル です。ゲーム中では 「ポータリア」 と表記されていることの方が多いですが、本名はこちらです。
 彼女は普通の人間なのですが、他の人間たちに「お前は魔族だ」という言いがかりを付けられて暴行に遭っていました。
 本編のEp.3でも似たようなシーンがありましたが、この時代にはありふれていることです。(なお静音に関しては、この時代の定義で言うならば噂通り、実際に魔族=異能者だったということになってしまいますね。)
 アカシアは彼女を取り囲んでいた者達を容赦なく一掃します。
 彼女に救われたメイベルですが、飽くまでメイベルは人間であるため、人類の敵であるアカシアに感謝するどころか「人殺し」と吐き捨てます。
 そんな彼女を、アカシアは殺しませんでした。
 アカシアはメイベルが「言いがかりの被害を受けているだけの人間」であることを見抜いていましたが、それでも彼女には手を下せなかったのです。
 その境遇ゆえに「怒り」以外の感情を知らなかったアカシアは、この時初めて、まだ無意識ながらも「自分とは異なる他者の存在を許す気持ち」を微かに芽生えさせました。

 一方でメイベルは、自分を殺さなかったことについて「お前は人間じゃない」と言われているように感じてしまい、激昂します。
 500年間、人を屠り続けてきた魔王が、まさか「慈悲」という「気まぐれ」を起こすなどとは想像出来ないので、無理もありません。(アカシアもアカシアで、自分自身の気持ちに戸惑っているので上手く表に出せません。)
「私は人間なのだから殺せ」と主張するメイベルに対し、アカシアはこう言って一蹴し、その場を去ろうとします。

「つまらないヒト」

 これはアカシアが、人間から自分に対する恨み言を吐かれた時によく返している言葉です。
 つまり、アカシアはメイベルが人間だと認識した上で、それでも殺さない選択をしたのです。
 それに対しメイベルは慌てて、アカシアの背中に呼びかけます。

「いつか絶対……私を殺しなさいよ! 私はメイベル! この名前、忘れないで!」

 アカシアは答えることなく去ってしまいました。

 さて、このシーンは『Acassia∞Reload』内で描写される、アカシアとメイベル(ポータリア)の出会いの描写と完全に同じです。
 しかし、『ReIn∽Alter』でここに至るまでの物語を見てきて、また違った印象を抱くのではないでしょうか。
 メイベルは(作中設定ではなくテーマ的に)「人類の代表」とでも言うべき立ち位置に置かれており、アカシアが彼女とどう接するかが、「孤独な異能者と”その他大勢(=人類)”のすれ違い」を描いた本編の終着点として大きな意味を持っている訳です。

魔王討伐戦

 メイベルとの出会い以後も、アカシアは再び気まぐれを起こすことはなく、変わらず人類との戦いを続けていました。
 それから数カ月が経った、ある日。
 アカシアは百万人を超える人類側の軍勢と、一人で戦うことになります。
 ここは全盛期のアカシアの圧倒的な強さを描写するシーンであり、同時に、数の暴力と意志力でそれに食い下がる人類側の執念を描くシーンでもあります。
 このシーンでアカシアが使う技は『Acassia∞Reload』にもスキルとして登場しているので、あちらをプレイしてから読むと「あ、この技は……!」みたいなことが分かる楽しさがあるかも知れません。
 


・人類側がやり過ぎなくらいに兵器を持ち込んでいるのもあって、本作で最も派手な戦闘シーンかも知れません。

 殺意による力場形成や光剣の一閃により、一瞬で数千人から数万人の敵を吹き飛ばすアカシア。
 しかし人類側は「たった数万人」死んだくらいでは折れません。
 彼らは”お返し”と言わんばかりに《術式》や火器による集中砲火を叩き込んできます。
 その戦いぶりは「個にして最強」なアルターと真逆――まさにゼロが恐怖した「個を犠牲にして全体を存続させる」地球生物の在り方と同じでした。
 人類は対人レベルの攻撃だけでなく、衛星による運動エネルギー弾爆撃(俗に言う”神の杖”というやつです)で核兵器を超える威力の攻撃を連発したり、巡航ミサイルなども使用します。
 極めつけは広範囲に熱線と放射線を拡散する対軍用術式《レイ・オブ・ヴァーミリオン》。異能者は遺伝子に眠る因子を発現させている都合上、強力な再生能力を持たないならば遺伝子を破壊する放射線は非常に有効な攻撃手段となります。
 アカシアの場合は「死と転生」を即座に実行することが出来るため、遺伝子破壊すら意味をなしませんが、それでも苛烈な攻撃により精神的には確実に消耗していきます。
 アカシアは時間停止の異能(『Acassia∞Reload』でいう《クリミネイトタイム》)や、人間側の其れを再現した《レイ・オブ・ヴァーミリオン》を用いて人類側の軍勢を殲滅しますが、彼女の側も消耗によって気絶してしまいます。

 人類側は元より「百万人以上を犠牲にして、僅かでもアカシアに隙を作る」ことが目的だったため、手際良く彼女を捕らえて、とある場所に収容するのでした。

無限遠の牢獄

 アカシアは見知らぬ施設に捕らわれてしまいます。

 状況とBGMで『Acassia∞Reload』プレイヤーは即座に察しが付くかも知れませんが、メイベルがこの施設について説明します。
 この場所こそ『Acassia∞Reload』の舞台である「魔王を収容するための施設」――《無限遠の牢獄》です。
 彼女いわく、ここは「宇宙空間で発見された未知の装置を中心にして建設された、居住施設」。
 その装置とはアルターが地球にやってくる際に乗っていた、ホロウ・ジェネレータを搭載している宇宙船です。
 元々は人類が地球を脱出して新たな居住領域として用いる為に作られた施設なので、ホロウ・ジェネレータから(通常の人類でも利用可能な形で)エネルギーを採取する機能も持っています。
(完全に濡れ衣ですが)「魔族」であることの罪を問われて拘束されたメイベルは、「ポータリア」 という名を与えられ、施設の機能により不老化させられた上でアカシアの監視役を押し付けられていました。

 状況を理解したアカシアはポータリアが止めるのも聞かず、すぐに脱出を試みます。
 彼女は、アカシアを狙うように改造された魔物たちを斬り伏せながら施設を探索していきます。


・ゲーム中だと結構苦戦する敵ですが、今のアカシアは記憶を一切喪っていない、いわば「完全状態」であるため、さらっと倒しています。


・『Acassia∞Reload』にも1マップとして登場する図書館で、アカシアはポータリアに扉のロックのヒントを教えてもらいます。ちなみにロックのパスワードは「raisondetre(レゾンデートル)」でしたが、これは「存在理由」を意味する言葉です。(ツクールでフランス語が使えない都合上、正確な表記ではありませんが。)


・施設の奥の方は一面が透明なスクリーンで構成されており、外の宇宙空間を見透せるようになっています。

 探索の果てに施設の最奥部に辿り着いたアカシア。
 そこには彼女いわく「全ての源」である、「結晶状のもの」が浮かんでいました。
 それこそ、アルターの生み出した「神(=プレイヤー)との接続手段」であるホロウ・ジェネレータです。


・この子が座っている結晶がまさにその物です。

 ホロウ・ジェネレータの傍に有る、地球への転移陣を起動させようとしたアカシアですが、そこに黒い騎士のような姿をした強力な魔物が不意打ちを仕掛け、彼女を刺殺してしまいます。
(これは『Acassia∞Reload』に登場するラスボスより強い敵「魔剣殺し」です。)
 とはいえ、アカシアは不死身なので何の感慨もなく転生します。
 しかし復活した彼女は、初めてここに来た時に目を覚ました地点に戻されていたと共に、幾つかの記憶が失われていました。


・これは年老いた唯理と交わした会話のことです。しかし、具体的な内容は忘れてしまっていました。
 

 アカシアは自身の記憶がこの施設の機能によって奪われているかも知れない可能性を考え、施設各所に自身の記憶を記録として遺していきます。
 これは『Acassia∞Reload』における「記憶の痕跡」です。人間がここに来て痕跡を消去するリスクを怖れて、一箇所には集めないようにしています。
(この時、アカシアはあえて人類側の視点で記述された記録を遺しています。その為、本編で明かされた事実とは異なる捉え方で説明がなされている場合があります。)
 探索を進め、再び騎士の魔物と対峙します。
 今度は不意打ちこそ避けたものの、その圧倒的な戦闘力を前に、初回の記憶消去で幾らか術技を忘れてしまったアカシアは苦戦し、敗北します。
(最初の死を迎える前、彼女は記憶の痕跡を遺していませんでした。つまり『Acassia∞Reload』において全ての記憶を取り戻した後ですらアカシアの全盛期ではなかった……ということになります。)
 そして再び、彼女は死を迎えます。

 その後、「アカシアとの接続が不安定である」という旨のエラーメッセージが(接続用インタフェースとしての「ReIn∽Alter」の画面上に)表示されます。
 ホロウ・ジェネレータは問題解決の為、緊急用の新しいインターフェースを構築し始めました。
 アカシアが自分の正体やホロウ・ジェネレータのこと、プレイヤーのことなどを忘れていったことで、プレイヤーとの接続が不安定化してしまったのです。

「戸口(ポータル)」の孤独

 視点はポータリアに移ります。
 彼女は死ぬ度に記憶が失われていくアカシアの姿を見て、心を痛めていました。
 《無限遠の牢獄》にはアカシアの記憶を奪う機能が備わっていたのです。
 それは「死なない魔王を殺す数少ない方法」であり、同時に、アカシアに対する人類の嫌がらせでもありました。
(なお、ホロウ・ジェネレータを破壊すればアカシアは無力化出来ますが、そこからエネルギーや《術式》の恩恵を受けている人類側には出来ない決断でした。そもそも超技術で作られたコンピュータを破壊出来るかは怪しいですが……。)

 この状態では「アカシアに自身を殺してもらう」という約束を果たせません。
 一方で、飽くまで人類の中に居場所を求めるポータリア自身は「アカシアの監視役」という、人間達から与えられた「存在理由」を放棄してアカシアを手助けする勇気も持てません。
 存在理由に縛られて生き続けるか、それとも、自身の願いを優先するか。
 数千年か数万年間、ポータリアは孤独に苦しみながら、ひたすらに死にゆくアカシアを眺め続け、葛藤しました。

 度々地上の様子を窺っていたポータリアは、長い時を経て変わり果てた人類について独白します。
 人類は過酷化する世界に対抗する為、《阿頼耶(あらや)計画》なるものを立てて、同じ肉体の中に無数の精神を持つ一体の怪物――「アラヤ」へと変わってしまったのです。
(アカシアとは似ているようで違います。この怪物は、元となった人類の精神を融合することなく保持しています。)
 アラヤは無数の並行する人格から繰り出される強力な術式によって魔族たちを殲滅し、地球を支配しました。

 もはや、人と魔族の戦いは終わっていました。
 ですがポータリアは未だ、アカシアが記憶を取り戻し「魔王」として再び君臨することを夢見ています。
 そして彼女は、かつてアカシアと共に在ったと言われている最強の味方――「プレイヤー」に助けを求めるのでした。
(アカシア以外の人々は「プレイヤー」の存在を認識している訳ではありませんが、アカシアの振る舞いから、そういった存在が有り得ることを仮定しています。)

Acassia∞Reload

 ポータリアの独白後、視点は「(アカシアを観測するインタフェースとしての)ReIn∽Alter」に戻ります。
 ついに緊急用の新しいインタフェースの構築が完了し、起動します。
 その名は『Acassia∞Reload』。


・インタフェース起動画面としてタイトルロゴが表示されます。作品の中に別の作品を含む入れ子構造にするという、メタフィクション的演出。

 プレイヤーは転生システム「アカシア・リロード」内に保存されている、物理空間の本人とは異なる「アカシアの記録」に救済を頼まれます。


・これは「プレイヤーの意志による干渉」が出来るようになったことを示す演出です。

 プレイヤーがアカシアの救済を約束します。
 かくして『ReIn∽Alter』は『Acassia∞Reload』へと移行し、記憶の無い少女と「あなた」による、新たなる戦いが始まります。

 新たなるインタフェースは、より複雑にアカシアに干渉する力を持っていました――具体的には、「RPGの主人公」として、プレイヤーは彼女を操作することが出来ました。
 これによって、アカシアを脱出に導いていきます。
 その過程はダイジェストとして描かれていますが、詳しくは『Acassia∞Reload』をお楽しみ下さい――ということで。
(そもそもこの後の展開や台詞は一部を除いて『Acassia∞Reload』そのままなのですが。)

 プレイヤーの助けによってアカシアが「魔王」に戻ったことにポータリアは喜び、魔王と人類の最後の決着を見届ける為、共に地球に向かいます。
 

決戦

 地上に降り立ったアカシアは、人類の成れの果て「アラヤ」と最後の決戦を行います。
 全長1キロメートルというとんでもない大きさを持つ巨人であるアラヤは、地球全土を焼く程の術式攻撃を行いますが、アカシアは同じく地球規模の重力場を発生させ、全てを捻じ伏せます。


・この光線は『Acassia∞Reload』でアラヤが用いる攻撃スキル《百億の願い》です。ちなみに、ここでアカシアが言っている台詞は『Choir::Nobody』終盤の台詞「そんな死、”永劫”によって殺してしまえッ!」のセルフパロディです。というか「死を殺す」という表現自体が、僕の作品のクライマックスにおけるお約束の一つと言えます。

 やがて、アカシアはアラヤを撃破しました。
「人類を滅ぼす」という、一生分――或いはそれすらも越える、前世からの願いを達成し、彼女はプレイヤーに感謝を述べます。
 しかしそこにポータリアがやってきて「まだ終わっていない」と言います。

「剣」か、「少女」か

 アカシアにはまだやるべきこと――「最後の人類の討伐」がありました。
 逡巡しているアカシアの心に、忘れていた筈の記憶が蘇ってきます。

 それは、かつて唯理がアカシアに語った、「強さを他者に振りかざすのではなく、強さで以て他者の手を取ること」ことを説く言葉。
 記憶の痕跡に刻み損ねたため、誰の発言かはもう忘れてしまっていますが、それでもその言葉自体はアカシアの心の奥底に刻まれていました。

 唯理の願いを想起し、アカシアはその言葉の意味をようやく理解しました。
 彼女が今まで屠ってきた弱者の気持ちを理解出来なかったのは、「孤独」というものを知らなかったからです。
 ずっと、プレイヤーと共に在ったのですから。
 アカシアはそのことに気付き、最後に残された孤独な人類であるポータリアを許そうと思い始めます。
 しかし、「優しさ」という感情を知ったばかりの彼女は、どうすればポータリアの救済になるのかが分かりません。
 そこで彼女はプレイヤーに問いかけます。

 これが、本作で唯一の選択肢です。
『Acassia∞Reload』にも存在する選択肢であり、本作の物語の全ては、このシーンの為に在ると言っても過言ではありません。
「ポータリアを殺す」 というのは、自身の「存在理由」を貫徹すること。
 同時に、ポータリアを「敵」――すなわち「人間」として認めてやること。
 つまり、煌華たちが望んだ道を選ぶのがこの選択です。
「ポータリアを殺さない」 というのは、存在理由を放棄して、心の奥から自然と湧き出してくる「愛」を示すこと。
 唯理の望んだ道を選ぶのがこの選択です。

 これまで描いてきた 「存在理由」「愛」 の対比、そしてゲーム冒頭で唯理が言っていた 「存在しない筈の選択肢」 の意味 ――全てが、ここでようやく収束するのです。
 唯理が過去(本編の出来事)を語ったからこそ、存在理由を達成する為に突き進むのみだった筈の「魔王」は、「存在理由を放棄する」という有り得ない選択肢を思い浮かべられたのです。

 メタ的な話をすると、唯理という「ポータリアを殺さない選択を思い浮かべる理由」を描いてきたことで、本作においてようやくこの選択は等価なものとなりました。
『Acassia∞Reload』の段階ではこれらの過去は述べられていないのでポータリアを殺さない理由付けが薄く、ゆえに、あちらでは「ポータリアを殺さない」エンドは「(トゥルーではなく)ノーマルエンド」という扱いになっていたのです。

 さて、この選択肢を選ぶことで、物語はいよいよエンディングを迎えます。

エンド・オブ・リロード

「ポータリアを殺す」を選択した場合のエンディングです。
『Acassia∞Reload』ではこちらがトゥルーエンドとなっており、これを見るとセーブデータが消去されます。

 プレイヤーの提案に従い、アカシアは存在理由を貫くことを選びました。
 ポータリアは自分を「人類」と認めさせたこと、そして「自分の死によって魔王の生きる理由も潰える(すなわち、魔王を殺すことが出来る)」ということを勝ち誇って死んでいきます。
 最後の人間を殺したことにより、もはや寿命を超越して生き続ける理由を失ったアカシアもまた、消えていきます。
 彼女は改めてプレイヤーに感謝を述べます。


・かつてアルター達は、繁殖力の喪失によって種族ごと消えゆく絶望を紛らわすため、全てを記憶する力を持つ女神「アカシア」を信仰していました。長い時を経て、(この)アカシアもまた「記憶されること」を望みました。

 ポータリアとアカシアの死をもって物語は終わります。
 魔王はその存在理由を達成し、前世から続く「孤独との戦い」に勝利したのでした。

 この一文は『Acassia∞Reload』には無かったものです。
「一人でも手を差し伸べた者」というのは言うまでもありませんが、プレイヤーのことです。
 零はプルミエールに対し、まさにそのような存在が現れてくれることを願いましたが、それが成就した訳です。

 最後は、プレイヤーが救った「孤独な者」――星生、煌華、静音、プルミエール、アカシアが順番に映し出されていき、閉幕します。

魔王の超越

「ポータリアを殺さない」を選択した場合のエンディングです。
『Acassia∞Reload』ではこちらがノーマルエンド「魔王の死」となっており、このルートに入ってもアカシアは最後には(決断をし切れずに)自死し、再びやり直しになります。
 ですが本作においては、結末が少し異なります。


 
 アカシアはプレイヤーの提案通り、ポータリアを殺さないことを選びました。
 ポータリアは激昂し、「あなたの存在理由は『人を滅ぼすこと』の筈」だと語ります。
『Acassia∞Reload』ではそれに対し、アカシアは単に「最後の決断を先延ばしにする」という旨の発言をしていましたが、本作ではポータリアの発言をきっぱりと否定しています。

 アカシアは存在理由の達成を先延ばしにするのではなく、存在理由そのものを手放すことを――魔王を辞めることを宣言しました。
 理由なんて何も要らない、ただ他者と共に生きることを、アカシアは肯定したのです。
 ポータリアは「あなたのことがもっと嫌いになった」と言いつつも、笑顔で、差し伸べられた手を取りました。
 こうして魔と人は、最後の最後でやっと、お互いを尊重し合うことが出来たのです。

 二人は終わった世界をあてもなく彷徨い、理由もなく生き続けます。
 やがて、アカシアは肉体的寿命により穏やかな死を迎えます。
 ホロウ・ジェネレータから供給されているエネルギーによってポータリアは不老を保ったままですが、アカシアの死亡によりプレイヤーが本作の世界を完全に去れば、いずれエネルギーの供給は途絶えて彼女も死を迎えることになるでしょう。

 そんな彼女は、プレイヤーにこんなことを望みます。

 これからポータリアも死に、誰も居なくなってしまう世界。
 それでも、全てを見届けたプレイヤーが忘れないで居てあげれば、決してアカシアが孤独になることは無いのだと。
 ポータリアは、プレイヤーに「記憶の神」であることを望んだのです。

 そして彼女はこう言って、物語は幕を閉じます。

「さよなら。この生命が尽きた後、また会う日まで」

 最後に唯理とポータリアが描かれているスチルが順番に映し出され、本作は完結します。


あとがき

 これにて『ReIn∽Alter』完全解説記事は完結です。
 本作は哲学観、SF設定、複雑な人間心理などが入り混じった難解な作品ですが、そのぶん強く想いが込もっている作品でもあります。
 一見、かなり救いのない展開が続いていますが、根底にあるメッセージ性は「きっと誰かが手を差し伸べてくれる」という、非常に肯定的なものです。
 同族とも人間とも相容れない零を、唯理が救ったように。
 現世には一人も味方が居なかったアカシアを、「あなた」が救ったように。
 孤独な者が、救いのない世界においてそれでも生きる希望を見いだせるような、そんな物語が書きたいと思ったのです。

「孤独」に立ち向かう「愛」と「存在理由」の壮大な物語、もし最後まで見届けて頂けていたならば幸いです。

 ところで以前に投稿したこのイラストですが、本作の物語を振り返った上で見てみると、煌華ちゃんのアカシアに対するコメントの意味が分かります。


 彼女はまさに「煌華(そして、それに共感した者達)にとっての魔王」でした。
 また、ゲーム中ではあんな別れ方をした唯理ですが、ここでは「ともだち」と書かれています。
 相容れない者同士が、それでも友人になれるような、そんな世界があったら良いですね。

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