皐月うしこ 2019/06/27 12:10

即興小説「投身少年は何を見る」

少しホラーを目指した作品。
(一年ほど前に別の場所であげたものをコチラに移植)

即興小説「投身少年は何を見る」

身投げした瞬間、体はふわりと宙を浮き、困ったことに空へと吸い込まれていった。おかしい。どう考えても飛び降りたはずなのに、地面に向かっていくはずの体はどんどん上昇して、ついに雲の上にまで昇って行ってしまった。

「やあ」

見慣れない声がすぐ真横から聞こえてくる。

「やあ」

雲の隙間から見える地面をにらんで、僕はその声に返事だけを飛ばした。

「へぇ、珍しいね。キミは私に驚かないんだ」
「それどころじゃないからね。だいたい、困るんだよ」
「なにが?」
「僕の体がぐちゃぐちゃにならないと困るんだ」
「だれが?」

そう問われて、初めて横を向いて絶句した。

「お望み通り、キミの体はぐちゃぐちゃだ。ああ、せっかく美しい顔をしていたのに勿体ない。だけど、おめでとう。これでキミも晴れてこちら側の世界の住人だよ」

その日、喉の奥から湧き出た嗚咽が恐怖の叫び声をあげながら僕の耳をつんざいた。
ラクになれると思ったんだ。アイツの涙が見たいとおもった僕の目は、もうどこにもなかった。(完)

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