【小説】一夜限りのホテルスタッフ
「じゃーねー、おやすみー」
ホテルスタッフから服を拝借し、中身をトイレの用具室に押し込む。これで俺も立派なスタッフの一員だ。
早速仕事をスタートさせる。
スタッフルームはワタワタしていた。
理由は2つ。4Fのレストランが水道管トラブルで使えなくなったこと。
そして、本日来るVIPが、そこで会食をするはずだったからだ。
俺は早速天からの声とでも言わんばかりに、伝言を伝える。
「支配人から、VIPを12Fのレストランにご案内するようにと」
当の支配人は、今頃雲の上……じゃない、夢の中だ。
ホテルスタッフは大変だ。
今度は夜景が人気の、12Fのレストランにやってきた。
そこでもまた、同じことを伝える。急な変更だが、そこはVIPを相手にしてきた高級ホテルだ。すぐさま準備に取り掛かる。
今度はロビーに出向き、例のVIPが来るのを待つ。
お出迎えじゃない、俺の役目はあくまでも伝言だ。
スタッフに配布されているものとは別の無線機をONにする。
「来たよ、ご到着だ」
後はもう簡単なもんだった。
やってきたVIPは、トロッコのレールにでも乗ってるかのように指定の席まで誘導される。当レストラン自慢の、夜景が見える絶好のポジション。
元々予定されていた窓のない2Fの宴会場ではなく、姿がハッキリと見える狙撃のベストポジション。
そして――
VIP……ターゲットは頭を打ち抜かれ、動かなくなった。
それを確認した俺は、混乱に乗じてその場を去る。
「確認したよ、さすが兄貴」
俺は状況を外にいる相手に伝える。
「いいからさっさと降りてこいケヴィン」
「はいはい」
制服も脱ぎ捨て、ホテルスタッフは引退だ。
あと、水道管の整備業者もね。
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