宮波笹 2020/09/03 20:58

【小説】隠された世界

スコープの先では、血まみれの男が雪の中をさ迷っていた。

狙いを定め、サイレンサーを付けた引き金を引く。
男の足から血が噴き出し、白い地面を染める。が、倒れるのを何とか堪え、また見えぬ敵から逃れようとさ迷い歩く。

次は腕。あえて動かなくなった腕の方がいいだろう。
俺の趣味ではない。なるべく時間をかけて苦しませろという、依頼主からのご要望だ。
自分に積もった雪を軽く振り払う。長期戦で体力を削られるのは良くない。

何度目かの一方的な攻防の末、ターゲットの男が倒れた。
しばらく観察を続けるも動く様子がない。まさか、これで諦めて帰ってくれると思ってるわけでもないだろう。クマでもあるまいし。

間を空けてさらに2~3発打ち込む。が、望んだ反応は返ってこない。
流れた時間を示すように、雪が男の上に積もっていく。
下へ降りて確認したいところだが、この雪だ。足跡が残ってしまう。

そろそろか。
確実に任務をこなすため、頭を打ち抜く。

街の通りではイルミネーションが点火し、それを目当てに通行人が集まっていた。そんな姿を横目に、ボスに殺し完了の報告をする。

「ええ、無事終わりました。それで、処理は……」
「いい、ほっとけ」

イルミネーションが新たに点灯し、歓声があがる。
現場はすぐ近くだ。人目にふれる危険もある。
ボスは、そんな俺の考えを察したようだ。

「どうせ、雪が全部隠しちまう。ヤツらは昔からそうだ」

雪がより一層強く降りだした。
皆一様にイルミネーションと雪を写真に収めている。その幻想的な風景の裏で、殺しが行われたことなど思いもしないだろう。
……少し、時間をかけすぎたようだ。マフラーを締め直す。

「汚ねぇモノは不要とばかりに隠そうとする、とんだ殺人鬼だ。おキレイな世界に俺らは要らねぇんだと」

頭に積もった雪を振り払う。
血の痕跡はほぼ隠れてしまっただろう。夜明けには、そこに人がいることも気づかないかもしれない。

「さて、終わったばかりでワリィが次の仕事を頼もうか、イアン」

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