【小説】冷たいバイオリン
見た人がうらやむほどの豪華な……でも、冷たい豪邸に引き取られたのは2年前だった。
私を引き取った老夫婦の夫は政治家で、子供がいなかった。
そのためか、おじい様は慈善活動に積極的で私以外にも多くの養子を引き取っていた。
出会った日におじい様にハッキリ告げられた。
「お前を引き取ったのバイオリンが弾けるからだ」
と。
養護施設にいたカワイソウな養子を引き取って、彼女が独り立ちするまで立派に支援する。バイオリンは、その実績を披露するのにぴったりだった。
私は……それでも良かった。
理由はなんであれ、私を迎え入れてくれた。戸籍には入れてもらえなかったけど、家に入れ、食事を与え、いいところの学校に転入させ、生活費を工面してくれた。さらに投資と言って高価なバイオリンを買い与えてくれた。
別の理由があるとはいえ、それは並大抵のことではない。
必要とされているのなら……その恩は返したいとおもった。
だから、バイオリンの練習は欠かさなかった。先生の言いつけは守ったし、努力もした……つもりだった。
「君はバイオリンが好きじゃないんだね」
ある日、バイオリンの先生にそう言われた。
やる気があるのか? と聞かれたら私は当然あると答えただろう。それが、私に求められていることだから。それが出来なければ、私はまた……。
でも、好きかどうかは分からない。昔は好きだったのかもしれない。でも、今は……。
その年の冬、おばあ様が亡くなった。私は葬儀に同行するよう言われた。
不謹慎だけど、私は内心嬉しかった。他人を葬儀に呼んだりはしない。少なくとも葬儀に同行を許されるぐらいには私は認められたのだと。
そこで…
「誰かこの子を引き取ってくれないか」
おじい様は、親族に向かってそう言いはなった。
そうか、私はまた要らなくなったんだ。
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