宮波笹 2020/08/27 20:50

800字小説書いてみた(シアワセの引き金)

製作中ゲーム「シアワセの引き金」から主人公イアンとライバルのブライトの過去の話。

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そして、誰一人として動かなくなった。
私、ブライト・ギブソンを除いては。

「終わったな」

おっと、もう一人いた。
ライフルを抱えた地味なコートの男。
イアン・シャムロック。ボスが言うには凄腕のスナイパーで、私の相棒だ。
任務は果たした、後は掃除屋に任せればいい。

「では、今日はこれで失礼させてもらうよ。家族の記念日なのでね」
「待てブライト……その恰好で行く気か?」

恰好、というのは返り血が付いた白いスーツの事だろう。
間違っても、明日にもゴミと間違われそうなコートを着ている男に服のセンスを指摘されたくはない。

「心配せずとも替えのスーツは用意している。もちろん、行く前にシャワーも浴びるさ」

今しがた人を殺してきましたという恰好で歩く殺し屋はいないだろう。
いたら今頃良くて檻の中、悪くて土の中だ。

「いや、そういう話ではなく……。大事な記念日なら、他に仕事を任せることも出来ただろ?」

何を言うかと思えば……。

「それは不可能だ。私は他人に任せられるような仕事を受けた覚えはない」

ああ、今回の仕事はこの2人でなければ成し得なかった。
他の者では今頃犬の餌だ。まぁ、私1人でも十分ではあったが。

「そうだ、お前はそういう奴だった……」

どうにもスッキリしないが、生憎レストランの予約時間が迫っている。

「記念日といっても大した事じゃない。明日は息子の発表会で、その前祝いだ」
「確か、6歳でボクシングを習ってたな」
「ああ……それがどうした?」
「おめでとう」

……は?

「何だその顔は。祝い事はめでたいだろう?」

ーーー

「まったく……」

まさかアイツから……「屍」の異名をもつ男から、あんな言葉を聞くとはな。
多少時間を無駄にしたが問題ない。

スケジュールは完璧だ。
前の仕事の痕跡は隅々まで消し、新しく下ろした白スーツに着替え、妻子の待つ場所へ向かう。
もちろん、バラの花束と新しいボクシンググローブも忘れていない。

「さぁ店に入ろうか」

本日2つ目の、大事な仕事だ。

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