R-ion/要餅 Apr/11/2024 21:06

イドコロあれこれ(没シナリオ編)

ごあいさつ

こんにちは。見てくれてありがとうございます。この記事は拙作【ナツノイドコロ】のネタバレを多分に含みますのでご注意ください。シークレットバッジまで取ってくれた方向けです。

▼作品ページ
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▼いままでの記事
キャラ紹介編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1114632

シナリオ解説編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1115246

制作のあれこれ編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1116204

はじめに

アプデの過程で没にしたシナリオ二編です。ゲームに組み込む前提で書いてるのでかなり読みづらいと思いますがせっかくなので公開します。ちょっとした裏話つきです。

没シナリオ

染まりゆく灰色

「あー、重い…なんでこんなたくさんあるんだよ…」

「ねー、」

「ありがとなー、幾ノ原。助かった。」

「大丈夫だよ。じゃあ僕行くね~」

「おう、ちゃんと昼飯食えよ~」


「…はあ、」

 もう八月も終わりだというのに、相変わらず忙しい。どうしてこんな時期に行事が集中しているのだろうか。正直あまり興味もないが、周りが盛り上がっているのに自分だけやらないという訳にはいかない。自分だけではないのは分かっている。きっとどのクラスにも数人は自分のような無気力な少数派がいるのだろう。それでもその中の大多数は口を噤んでクラス…あるいは部活動でもいい、そういった枠の中におとなしく収まっている。学校行事というものはそんな小さな犠牲の上で成り立っているのだ。

 蝉の声がうるさい。人混みから離れたと思ったら途端に主張してくるあたり、蝉も人もさして変わらないなと思う…僕も暑さでどうにかなってしまったのかもしれない。昼間の日光に光るアスファルトを見下ろしながら、夏休みを通り過ぎてわずかに柔らかくなった日差しの中で彼の姿を探していた。

 どこにいても聞こえてくるような騒ぎ声もここでは遠くなって、景色に溶け込んでいる。…相変わらず主張の激しい蝉の声にはこの際目をつむろう。静かな場所は好きだ。こんな暑い日は図書室にでも籠りたいけれど、あいにく体育祭の準備期間は開いていない。空いた時間をどうひとりで過ごそうか…自分を含めてそんなことを考えている少数派の人々が困り果てるまでがこの学校の風物詩、とでも言ったところだろうか。
 それはきっと彼も同じだろう。

 体育館の裏、わずかにある日陰のほとりに、赤みがかった髪の少年の影がひとつ。僕は迷わず声をかける。

「緋色くん」

「…先輩、」

 最初の方は微妙な顔をしていたけれど、最近はかすかに笑ってくれるようになった。

「やっぱり、ここにいた」
「みんな同じこと考えるよね。」

「図書室、この時期は開いていないので…」
「さぼり禁止のためらしいですけど…迷惑な話ですよね。」
「涼むためだけに保健室に行くわけにもいかないし…」
「まあ、どれだけ規制してもさぼる人はいるんですけどね…ここに二人。」

「僕もカウントしてあるんだ?」

「ここに来ている時点で同類ですよ。」

「あはは、確かにね。」

 しばらく彼とつるんでいて分かったこと、彼は意外と話好きだ。話を振ればけっこう答えてくれるしおとなしそうに見えて時折なかなかきついことを言う。思慮深くて繊細、でも意外と図太い。彼のことを言い表すならそんなところだろうか。
 その暗い瞳の奥に何を隠しているのか…かなり興味がある。いや、もはや興味とはいえないのかもしれない。言葉を交わすうちに自分が彼に対して抱いているものが、もはや『興味』とは違う何かに変わりはじめていることを自覚していた。ー自分らしくもない、出まかせに言った冗談が、本当になろうとしている。

…でも、今はー

「ー先輩?」
「…昼休み終わりますよ。」

「うそ、もうそんな時間?お昼どうしよ…」

「ちゃんと食べてください。」

「えー持ってくるのめんどくさい…」

「ここで食べるんですか…」

「当たり前でしょ?」

「…」
「じゃあさっさと持ってきてください。2分くらいなら待ってあげます。」

「…えっ、」

「あ、今からカウントします、過ぎたら帰りますからね。」

 緋色くんがスマホを手に微笑む。画面にはきっちりと2分、タイマーがセットされている。いつにも増して楽しそう…だけど今はそれどころじゃない。

「ちょっと待って、」

「廊下は走らないでくださいね」

「ひどい!三年教室って遠いんだよ⁉」

「知ってます。先輩足速いので。」

「だからって2分はない…」

「ほら、もう30秒過ぎてます…1分足してあげるので頑張ってください。」

「わかった、分かったから!」
「ちゃんと待っててねー!」

「…」
(行ってしまった…)

 手元の画面ではタイマーが規則正しく動いている。あと1分半。…あの様子だと本当に時間内に帰って来そうだ。あんなに焦っている先輩は初めて見た。ちょっと面白い。
 気さくだけどマイペース。あまり人の話を聞かない…いつも見ている先輩は言葉で言い表すならそんな感じだ。あれで優等生やっていられるんだから不思議なものだ。自分以外に対してはどんな感じなのだろうか。

(…静か。)

 さっきまで先輩がいた日向の方を見つめる。最近、昼休みを少し楽しみにしている自分がいる。先輩が来るからか、夏が終わるからか…どちらかなんて、考えずとも分かることだ。でもなんとなくそれは言わない。先輩が調子に乗るからというのもあるけれど、それとは違う気持ちもある。もう少し、もう少しだけ…この心地よい『居場所』にいさせて欲しい。そう願わずにはいられない。
 自分勝手かもしれないけれど、こっちもつきまとわれているのだから少しくらいわがままを言ってもいいはずだ。もうちょっと先輩には付き合ってもらおう。

(…あと、どれくらいで戻って来るかな。)

 ずっと開いていたタイマーの画面を閉じる。どっちにしろ間に合わなくてもここに残っているつもりだったし、もうこの画面は関係ない。
 まだ夏の気配を残す空を見上げながら、校舎の方から急いだ足音が聞こえてくるのを待っていた。

藍色と飴の味

ーケガ、どうしたの?

ー大丈夫?

 また、いつもの景色。あの夏の日の思い出。…どうせ夢だ。お兄さんはあの日のまま。なのにボクは、……ボクは…なんだっけ。

ーえっと…ばんそうこう、あるんだ。貼ってあげるよ。

ーほら、手出して…

 ポケットから飴の代わりに絆創膏を取り出して、手を差し出す。ボクは迷いなくその手を取る。傷だらけの白い腕が目に入って、顔をしかめた。そんなものは見たくない。どうせ夢なのだから。ふと顔を上げる。お兄さんの顔が見たい。焼き付けたい。ぼやけて見えなくなってしまう前に…

 そこで、ぼやけてしまう。ボクが本当に欲しいものはこの先にあるというのに。でも、仕方ない。だってそんなやり取りはしていない。そんな優しさは知らない。知らないことを夢に見ることはできない…そういうふうに、できている。

『この先』を掴める日は、来るのだろうか。

「ーー!」

 途端に頭が冴える感覚。どうやら寝てしまっていたようだ。演習問題の解説はもうだいぶ後半の方に差し掛かっている。ぐちゃぐちゃになったノートを前にため息をつく。色あせた現実と三日後の小テストのことを考えながら、手の中のハッカ飴を見つめる。もうちょっと夏が続いたらよかったのに…そんなことを考えていたら、授業終わりのチャイムが鳴った。ノートは真っ白のままだった。


 10分休み。クラスメイトたちがせわしなく椅子を引く音が教室中に鳴り響く。この時間
をどう消費するかは人それぞれだが、今日は単語テストがあるからかみんな単語帳を食い入るように見つめている。ボクはロッカーから単語帳を取り出そうとしているクラスメイトに声をかける。

「ーねえ、」

 名前はーなんだっけ。いつも隣から向けられてくる視線の持ち主…正直関わりたくないけど、この際仕方がない。…どうしても、確かめなければいけない。

「…え?」
「……、ぼくに言った?」

「…うん。」

「「…」」

 沈黙が重なる。周りの音が止んで、時間が止まったみたい。

「…なに、なんか言ってくれないと困るよー?」

「…ぁ、」

「なんか聞きたいことー?課題の提出期限とか?」

 ボクの警戒心を読み取ってか、そっと距離を置いてのんびりとした口調で尋ねてくる。クラスで浮いてるように見えたけど、思ったより友好的に接してくる。単語テストは次の時間だったような気がするが…そんなことは全く気にしていないようだ。

「…えっと、」

「うん」

「…」
「…保健室の、ハッカ飴…買ってるの、誰…?」

「…え、」
「あー…えっと…」
「保健室の若い先生だよ。ほら、いつも事務作業とかしてる…会ったことない?」

「知らない…」

「そっかー」

「…」
「えっと…ありがとう。」

「どういたしまして~」

「…何だったんだろ、いきなり…」
「保健室行くのかな、今日せんせーいないけど。」
「…そだ、単語確認しないと…」

「…」

 またもらってしまった。個包装のビニールを指先で潰す。口の中には甘いような、苦いような。あの日と同じひんやりとした感覚が広がっている。特段好きというわけでもないけど、これは薄れゆくあの日の思い出に浸り続けるために必要なことだ。あの人も、飴じゃなくて絆創膏をくれればよかったのに。そうすれば今頃口の中が口内炎だらけになることはなかった。

「せんせー!」

 いつの間にか昇降口まで来ていたようだ。知った声が聞こえてくる。今彼にはあまり会いたくない。引き返そうかと顔を上げて…

 ボクは、固まった。

「せんせー今日休みじゃなかったの?」

「そんな簡単に休めるわけないだろ。ちょっと遅く来た。」

「あはは、そうだね!」
「ねぇ、ついてっていい?」

「また授業サボるつもりか…」

 遠くから聞こえてくる、他愛もないやり取り。…いや、そんなことはどうでもいい。それよりも、その隣にいる…

「…『せんせー』…」

 …その顔を、ボクは知っていた。

 ーもしかしたら、掴めるかもしれない。

 何度も夢見た、『その先』を。

ちょっとした話

「染まりゆく灰色」

この二人の絡みが見たくて書きました。このシナリオ書くの本当に楽しかった。緋色と灰が送っているなんてことない日常の一幕をイメージしています。お兄さんの本編とは違う一面を見ることができるシナリオとして書きましたが、長いのとセリフ部分が多くサウンドノベル形式向きじゃないということでボツにしました。個人的に気に入っていたのでここで供養できてよかったです。本当に。作者はこの二人の組み合わせが大好きなので。最後の方は作者も「こいつ…」と思いながら書いてました。先輩からの好意をある程度分かっていて翻弄してやがります。悪い奴だ…。まあ先輩もなんやかんや楽しそうだしいいんじゃないですかね。

このへんの日常的な話を書くためにあんまり考えてなかった彼らの高校の設定をやんわりと決めました。念のため真白と藍の学校もちょっとだけ決めていますがこっちは使い道がなかった。まあ真白ほとんど授業受けてないし…藍は保健室にしか出てこないし…でもこういう設定があるとお話に奥行きが感じられていいですよね。私は好きです。詳しくはキャラ紹介編をチェックです。(露骨な宣伝)本当におまけ程度ですが…

「藍色と飴の味」

藍と真白の貴重な絡みが見られるシナリオです。夢オチ好きだな私。真白のお兄さんに対する思いを拗らせた部分を書きたかったのですが、本編と少しズレてしまうのと隠しキャラである藍と出会った前提みたいな部分が強く、「これ初見じゃ分からないだろ…」となったのでボツにしました。ところどころ細かい文章を「呼びかける白」に引用しています。飴の味の表現はお気に入りです。藍と真白は隣の席ですがほとんど話さないし接点も無いに等しいです。でも藍は真白のことが気になってるし真白もそれをなんとなく感じ取っている。今後何か起こりそうでわくわくしますね!

藍を隠しシナリオ以外でなんとか出せないかと考えた結果です。結局これ以上の出し方が思いつかなくて隠しキャラに。藍は10年後の世界線のキャラなので出すなら白シナリオかなと思って…でもこの位置のシナリオの主役は真白にしたかったのと本編・他シナリオであまり出せなかった真白自身(思想的なもの)の掘り下げをしたかったのでがらりと変えました。あとお姉ちゃんとの関係も整理したかったので…今思えばここで方向性変えてよかったと思います。ここの感想をもらえたときは嬉しかったです。

記事の感想について

ここだけ見る人もいると思いますので一応。
全体公開なので好きにつぶやいてくださって大丈夫です。本編のネタバレを含む内容の場合はワンクッション挟むなどの配慮をお願いします。

さいごに

こんな自己満足の塊みたいな記事をここまで読んでくださりありがとうございます。余力があれば今度制作当時のあれこれを備忘録代わりに書こうと思います。ラフとか載せるつもりです。書ければですが…
勢いで始めた裏話記事ですが、最後までお付き合いいただけたら幸いです。よろしくお願いします。

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