わたわた 2020/09/07 18:00

脚本『願いの果実』第1章「読み合わせ」その3

脚本『願いの果実』第1章「読み合わせ」その3

キャラクター 邦洋、良平、浩太、香南

 照明がつく。
 中央のイスに座る香南。
 邦洋と良平がそわそわしている。

良平 好きな劇団とか……。

邦洋 良平、まだだ。まだ聞くな。

良平 え~だめか。

邦洋 浩太がジュース買ってもどってくるまでの辛抱だ。

良平 初の女子部員だぞ。時間が経つほど質問事項が山積していく。

邦洋 みんな同じだ。しかし、今おまえがした質問を戻ってきた浩太がしてみろ。香南さんにとって、2度同じ質問に答えることになる。

浩太 確かに。それは失礼だ。しかし……。

香南 あの。

2人 はい。

香南 わたしのこと、カナでいいです。

2人 はい。

良平 この情報はどうする?おれたちが抜け駆けしたみたいになるぞ。

邦洋 分かった。本人から要望があったことを、おれたちから浩太に言おう。

良平 オーライ。

 浩太が戻ってくる。

浩太 ただいま~。ジュース買ってきたよ。カナから選んで。

邦洋・良平 おい!

浩太 え。

邦洋 知り得ないはずの情報を、なぜ知ってる?

浩太 何のこと。

良平 カナって呼び捨てしたことだ。

浩太 ああ、適当。

良平 適当!?

浩太 いいだろ、部員なんだし、フランクに呼び合えば。

邦洋 待て待て。まだ部員と決まったわけではない。

浩太 え。でも、部員になりたいってさっき。

邦洋 はっきりさせておく!

 邦洋が声を張り上げる。

邦洋 今、カナは想像上の演劇部にいるのであって、われわれと同じ世界にいるわけではない!

 香南が、ジュースをチューと飲む音。

浩太 邦洋、何を言ってる。

良平 おまえもジュースを飲め。

邦洋 説明させてくれ。

良平 いいからジュースを飲め。落ち着け。

香南 こういうことじゃないですか。わたしはこの部の内情を知らないのに、演劇部に入りたいと言った。つまり、わたしが入りたいのはわたしの描いている演劇部のイメージであって、そのイメージは、現実とはほど遠い可能性もある。

邦洋 いかにも。

浩太 ナイス、わかりみ。

香南 で、そのすり合わせをちゃんとしたいんですよね。

邦洋 まあ、お互いのためにも。

香南 ふうん。

 香南、3人の顔をまじまじと見つめる。

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