【小説】俺のヒーロー
キャラメル味のポップコーンをコーラで流し込みながら、ケヴィンはアクションヒーローモノのDVDを見ていた。ソファーの隣では、兄のイアンがいい加減にしてくれとばかりにぐったりしている。
それもそのはず、本日これで3本目だ。
「兄貴何寝てるのー、今がいいところなんだからさ~」
最近の3D技術は素晴らしい。あたかも自分がヒーローとなって空を飛び、ビルからビルへ飛び移ってるかのような追体験をさせてくれる。……が、
「さっきも見ただろ……」
「あれはシーズン2! ここからが面白いところなの」
「どれも同じだろ……」
せめて違うシリーズを見せてくれたら、イアンももう少しまともな返答が出来たかもしれない。精々クモがバッタに変わった程度の違いかもしれないが。
「お前は本当にヒーローものが好きだな」
「兄貴は好きじゃない? じゃあダークヒーローモノは?」
ケヴィンが持ってきた紙袋をゴソゴソと漁る。止めないと今度はダークヒーローシリーズの3本立てが始まってしまう。
そういう問題じゃない……と言おうとしたイアンの携帯が鳴る。時を同じくしてケヴィンの携帯も鳴る。ということは、仕事だ。
「ちぇ、いいところなのにさ」
そう言ってケヴィンはもう10回以上は見たであろうDVDを消す。
イアンが安堵したことは言うまでもない。
「でもまー仕事はしなくちゃね」
「いいのか、正義のヒーローにケンカを売っても」
彼らの仕事はそういう仕事だ。ヒーローとは決して分かり合えない、殺しの仕事。
「いいんだよ、俺のヒーローはここにいるし」
と言って、ケヴィンが兄の肩をバンバン叩く。どこが、と返すイアンだがそういうヒーローも悪くないと思った。
兄は、いつだって弟にとってのヒーローだ。
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