宮波笹 2020/09/02 16:56

【小説】ハジマリの引き金

「誰か、この子を引き取ってくれる者はいないのか?」

それは、タチの悪いオークションのようだった。
大伯母の葬儀で、その夫……大伯父にあたるゴードンは親族を集めこういい言い放った。

「妻も死んだ。ワシ一人では到底育てられない。そこで誰かにこの子を任せたい」

自分たちが引き取った、14歳の養子・ミューシャを。

始まったのは競りではなく押し付け合いだ。
聞かれてもいないのに、口々にお断りの理由を語りだす。
それは俺も同じ。俺は元々、お呼びでない身だ。
一人帰ろうと席を立つ。

「おお、この娘を引き取ってくれるかイアン」
「え……?」

立ちあがった俺に一同が視線を向ける。例の娘もだ。

「いや、俺は帰らせてもらいます。俺には関係のない話だ」
「ほう、どうしてそう思う?」
「俺は独り身です。子供を育てた経験なんてない」
「独り身? 余計なしがらみがなくていいじゃないか。なに、成人するまでたったの6年だ。6歳児を引き取るよりマシだろう?」

ゴードンは愚かな獲物を逃がす気はないらしい。

「その子の意志はどうなる?」
「! わ、私は……おじい様がいいとおっしゃるのなら、それで……」

そう、うつむき加減に答えた。
つまり、この子の意志も関係ないということか。

「申し訳ないが、他を当たって欲しい」

そう言って扉に向かう。
部屋から出てこの話は終わり。そうなるはずだった……。

「お前たちがどれだけ我々に迷惑をかけたか忘れたか?」

ぴたりと足が止まる。否、動かなくなる。

「それは……」
「兄弟そろって家族に迷惑をかけたのだから、たまには役にたて」

どうやら、俺に拒否権というものは存在しないらしい。

「……ついてこい」
「あ、はい……」

娘は大祖父の前で立ち止まり頭を下げる。

「おじい様、お世話に……なりました」
「いいから早く行け」
「……」

一人来たはずの道を二人で帰る。

この決断が、何かの引き金になるだろう。
その銃口がどこに向けられたのか、俺にはまだ分からない。

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