13話:吸血鬼の文化?
「えっ、せ、セナ? な、なんで舐めたの?」
「ご、ごめんなさい……」
「あ、いや、別に大丈夫だけどね?」
セナが謝ってくるから、私はそう言った。
普通に噛んで血を吸われるだけだと思ってたから、びっくりしただけなんだから。
「吸血鬼の文化とか、私は知らないからさ。何かするなら、先に言っといてくれると、嬉しいかな」
私は次から、予想と違うことが起こってびっくりしないように、事前に教えてくれるように頼んだ。
「ぶ、文化、ですか?」
「え……うん。何か、吸血鬼的に、舐めなきゃいけない何かがあったんじゃないの?」
思わずといった感じで、そう聞いた。
だって、そうじゃないんだとしたら、舐められた意味が分からないから。
「あ、はい! 文化です! 吸血鬼の文化です!」
「うん。そうだよね」
まぁ、分かりきってた答えだけど、聞けてよかったよ。
「それで、もう血を飲むの?」
飲まれるのなら、心の準備をしておかないと。痛そうだし。
牢屋では指だったし、状況が状況だったから、痛みなんて考えてる暇がなかったけど、今は結構落ち着いてるし、普通に首元は痛そうだしね。
まぁ、多少痛いくらい、セナの為と思えば全然大丈夫だけど。
「も、もうちょっとだけ、舐めていいですか?」
セナは顔を赤らめながら、遠慮がちにそう言ってきた。
いくら文化で仕方ないとはいえ、舐めていいのかを聞くなんて、恥ずかしいよね。
……だから、最初舐められた時は聞かれなかったのかな?
「うん。もちろんいいよ」
私の返事を聞いたセナは、すぐに私の首元を舐めようとしてきた。……それを私は避けた。
「や、やっぱり待って」
だって、大事な事を思い出したから。
「せ、セナ……わ、私臭くない?」
そう、昨日は水浴びすらできてなかったし、今日もまだ、体を拭いてない。……絶対に臭い! 今の私を舐められるのなんて、流石に恥ずかしすぎる。
……いや、セナに拭く前に血を飲みたいってお願いされたから、拭いてないんだけどさ。……舐めるなんて聞いてなかったから……
「私はマスターの匂いだったら、どんな匂いだって好きです!」
セナはそう言いながら、私の首元を有無を言わさずに舐めてきた。
「あっ、ちょ……」
う、嬉しいけどさ! 答えになってないし。
それに、そういうことをする時は、事前に言ってって言ったばかりなのに、何も言わずに舐めてきたし。
「ますたぁ……」
セナは私のことを呼びながら、体をくっつけてきて、私が逃げられないようにしながら、痛くない程度にギュッとしてくる。
「せ、セナっ……」
私は首元を舐められ続けて、力が抜けてきたから、体をセナに預けた。
「ますたぁ……美味しいです。好きです……大好きです……」
「まっ、だ、飲まないのっ?」
声が少し高くなってしまいながら、聞いた。
すると、セナが私の首元を噛んだ。……それを理解した瞬間、私は思わずセナの背中に腕を回して、抱きついた。
ただ、首を噛まれたはずなのに、全然痛くなかった。
セナはチュウチュウと音を立てて、私の血を吸っている。
指の時はこんな音立ててなかったから、わざとなのかもしれない。
そして、セナはしばらく私の血を飲むと、私の首元から口を離した。
飲み終わったはずなのに、セナは私に抱きついたまま離れない。……それどころか、息も荒い気がする。
そういえば、牢屋の時も、息が荒かったような……
「セナ、大丈夫?」
「は、い……だい、じょうぶです」
全然大丈夫じゃなさそうな声で、セナはそう言った。
「ほ、ほんとに大丈夫なの?」
「は、い……このまま、ますたぁに、くっついてれば、大丈夫です」
…暖かいし、セナがくっついてる分には全然いいんだけど……体を拭きたいから、少しでいいから離れてくれないかな?
私は体を拭く時だけ、セナに離れてもらおうとしたところで、やめた。
「ますたぁ、ますたぁ、ますたぁ……」
セナが体を私に押し当てるようにし、とろけるような声で 私のことを呼び続け始めたから。
「せ、セナ? 今日は、もう寝よっか」
何となくだけど、今のセナに肌を見せるのはマズいと思った私は、セナとベッドに移動して、布団に一緒に入った。
息が荒く、何かを我慢しているような様子のセナを布団の中で抱きしめながら、私は目を閉じた。