25話:マスターに迷惑をかけないように
※セナ視点
「行ってきますね。何かあったら、私を呼んでもらえれば直ぐに来ますので」
「えっ、う、うん。こ、この人達、元に戻るんだよね?」
「マスターが望むのなら、戻しますよ」
私はマスターにそう言って、階段を登りだした。
……早く殺して、マスターの所に戻ろう。
あ、でも、一応立場が偉い人を殺しちゃったら、マスターに迷惑がかかるかもしれない。……マスターに殺してもいいか、聞いておけばよかった。……少し前のあの門番みたいに、こっそり(マスターにバレないように)できるならともかく、今回の奴は、呼び出されてるところをマスターに見られちゃってるし、マスターに隠せない。
だからといって、何もしないでマスターの元に帰るっていう選択肢は無い。
マスターを放っておいて、私だけを呼び出すことも気に入らないし、何より、マスターが報酬を寄越せって言ってるのに、全く渡す素振りを見せないこいつらを許せない。マスターが寄越せって言ってるんだから、さっさと寄越せばいいのに。
「セナ、早く戻ってこないかな……」
私が階段を登りながら、イライラしていると、マスターのそんな声が聞こえてきた。
マスター、可愛いなぁ。だって、小声で言ってるってことは、私に聞こえるとは思ってなくて、言ってるって事だもんね。
「えへへ」
さっきまでの感情なんか消え失せて、私は、だらしない笑を零してしまった。
こんなの、しょうがないに決まってる。だって、マスターにこんなこと言われて、嬉しくないはずがないんだから。
あぁ、このまま引き返して、マスターに抱きつきたい。それで、マスターの体温や、胸の柔らかさを感じたい。……でも、そんなことしたら、ギルド側が違う方法で無理やり接触してきて、その結果マスターに迷惑をかけることになるかもしれないから、さっさとここで終わらせよう。
さっきは殺しちゃったらマスターに迷惑をかけちゃうかもって思ったけど、仮に殺して、追われることになったとしても、どうせ私とマスターは、既に追われてる身。だったら、今更ギルドに追われようがどうでもいいはず。だって、マスターには私が居れば充分なんだから。
そう考えて、もうさっさと殺しに行こうと思ったけど、私は身分証の事を思い出してしまった。
……身分証も使えなくされるのかも。……だ、だめ。殺せない。身分証を使えなくされるのは、絶対にマスターに迷惑をかけてしまう。
……もういっその事、眷属にして言うことを聞かせる? 有り得ない。
一瞬でも考えてしまったことを否定するように、私は首を横に振った。
だって、眷属にするには、眷属にする対象に噛み付いて、私の血を流さないとだめなんだから。有り得ない。マスター以外の体に私の口を、牙を付けるなんて、考えたくもない。
……こんな事考えてたら、マスターの血が飲みたくなってきてしまった。……マスター、お願いしたら、今日も飲ませてくれるかな?
そんなことを考えていると、とうとうギルドマスター室って書かれた扉の前に来てしまった。
……マスターに迷惑をかけないように、なるべく穏便に話し合おう。
そう決めて、私は扉を開いた。
「おう。よく来たな。早速だが、あんななんの力もない奴の下に着くのはやめて、俺の元に来い、権力が怖いかもしれねぇが、俺なら――」
開口一番に開かれた言葉を最後まで聞き切る前に、気がついたら私は、ふざけたことを言うゴミの四肢を吹き飛ばしていた。