28話:おかしくてもいい
「セナ、依頼の報酬分のお金だけ持って、この街から出よっか」
私はセナを撫でながら、そう言った。
宿屋で部屋を借りちゃってるから、お金がもったいないかもしれないけど、早く出た方がいいと思うしね。
「わ、かりま、した」
もうセナは泣いてないけど、嗚咽が酷くて、まだ上手く喋れないみたいで、たどたどしていけど、笑顔でそう言ってくれた。
そんなセナと手を繋ぎながら下の階に降りて、お金を取った。
「セナ、この人たちの状況なんだけど、どのくらいの距離までなら直せる?」
私は目の焦点が合ってない人達を見ながら、そう言った。
このままにしておけば、暫くはギルドマスターが死んだことがバレないかもしれないけど、このままにしておいて見つかる方が問題が大きくなりそうだし、普通にここに居合わせただけの人たちが可哀想だし。
「ど、こからでもっ、なお、せます!」
「だったら、私たちが街を出たところで、直してくれる?」
「も、ちろんで、す!」
私がそう聞くと、セナは元気よく、頷いてくれた。
「た、ただ……」
その後に、セナは俯きながら、言いにくそうにして、何かを言おうとしてくる。
「ただ、どうしたの?」
「あ、あいつ――あの人、だけ、は、な、直したくない、です」
そう言ってセナは、さっきの職員の人を指さした。
正直、セナが直したくないなら、私は別にいいけど、直した方が、まだ問題にならないとも思う。
「私に失礼な態度をとったから?」
もしそうなんだとしたら、私は気にしてないから、直してもらおうと思ってそう聞いた。
「は、はい……」
「だったら、私は気にしてないから、直してあげて」
「……ど、どう、しても、直さない、とだめ、ですか?」
セナは遠慮がちに、上目遣いでそう聞いてきた。
「だめって訳じゃないけど……直したくないの?」
そう聞くと、セナは黙ってこくんと頷いた。
「私は気にしてないよ?」
一応、念の為に私はもう一度そう言った。
「は、い……で、でも、わ、たしが、嫌、なんです……わ、たしのせいで、こ、こんなこと、に、なってる、のに、わ、わがまま、で、ごめ、んなさい」
すると、セナはまた、目に涙を貯めながら、そう言ってきた。
「セナの力なんだから、セナの好きにしたらいいよ」
騒ぎが大きくなるとは思うけど、セナが本当に嫌なら、私的には全然仕方ないと思う。……そもそも、正直今更騒ぎが大きくなった所で、あんまり変わらないと思うし。
そう考えたから、私はセナを抱きしめて、頭を撫でながらそう言った。
すると、さっきまでは罪悪感からか、私が抱きしめても、セナは何もしてこなかったのに、今回は私が抱きしめると、セナの方からもギュッと抱きしめてくれた。
それが嬉しくて、私の方からも少しだけ力を強くして、セナをギュッとした。
こんな状況で幸せな気分になるなんて正直おかしいと思うけど、セナがいてくれるなら私はおかしくてもいいと思って、周りを気にせずにセナに抱きついて、満足するまで過ごした。