藤島 港/猫と心中 2022/07/14 21:05

『ゲテモノ喰いを待つ』制作よもやま話

2022年5月29日に公開したフリーゲーム「ゲテモノ喰いを待つ」の制作を終えての振り返り記事です。
制作中のあれこれや作中では言及できなかった設定など、いろいろと書いています。
ネタバレが山盛りなので、プレイ後の閲覧をおすすめします。

シナリオ関連の話

浩己ではなくカイナを中心に設定が決まっていった話

第2回crAsM.Mビジュアルノベルオンリーの感想記事で少し触れましたが、ゲテモノ喰いは「せっかくイベントに参加するならすごく短い作品でいいから何か新作を……!」と思い立って急遽作り始めた作品です。当初は「ご近所喧嘩は猫も食わない」くらいのサッと一瞬で終わる程度のものにしようと思い、そのとき思い浮かんだのが「よかれと思ってやったことが相手にとっては暴力であり取り返しのつかないことだった」という話でした。3月の上旬~中旬くらいのことだったと思います。
最初に思い浮かんだ時点では本当にさらっと淡泊に描くつもりで、話の方向性も定まっているし、そんなに難しいことはないだろうと思っていたのですが……ところがどっこい、今回はシナリオにかなり苦戦しました。
まず設定がなかなか固まらず、ああでもないこうでもないと二転三転しました。その中でわりと早めに設定がはっきりしたのがカイナで、カイナを軸にほかのことが決まっていった感じです。
今思うと、それもこの話の本質を表しているような気がします。この作品の主人公は浩己ですが、浩己を中心に作られた話ではないんですよね。まずカイナの抱えている世界が深く広がっていて、浩己はその一部をちょっと覗き見ただけの存在にすぎないのです。でも浩己は浩己の視点で見ているから、それがほんの一部にすぎないと気づかないし、だから「そんなの知らなかったよ!」という展開になって、自分は人よりよくものを知っているという浩己の自負が思い上がりと等しかったことが暴かれるんですよね。そう思うと、カイナを中心に設定が固まっていったのも道理のような気がします。
そんなわけで、浩己とジルは最終的な設定が決まるまでいろいろなパターンがありました。浩己がカイナと同年代くらいの子供だったり、ジルも悪魔ではなく日本的な鬼や妖怪の類だったり。舞台設定も現代日本や完全なるファンタジー世界の線も考えたり、まあとにかく設定を固めるのに難義しました。話のネタが思い浮かんでから例の「いつか作るやつリスト」に入ることなくそのまま作り出したので、リストで寝かせている間にじっくりネタが練られていく期間がなかったことが要因かなと思います。時間をかけてしっかり詰めていくのって大事だなと思った反面、そうしているうちに延々足踏みばかりになってしまう場合もあるので、勢いで一気に突き進むこともときには必要だし……進行のいい塩梅って難しいなあと思いました。

その世界では誰もが知っている常識をプレイヤーに向けてどう示すか悩んだ話

今作は「神忘れ」という存在が登場しますが、その説明をどうシナリオに落とし込むかというのも悩んだ点でした。何とか登場人物同士の会話だけで上手く書けないかと思ったのですが、その世界では誰もが知っていて今さら説明するまでもないことを登場人物に喋らせるとものすごく「プレイヤーに向けて説明している」というメタ感が出てしまって、上手くできませんでした。無念。
最終的に地の文を入れて普通に説明してしまったのですが、自分はゲームでは地の文をあまり入れたくないタイプなので、もっとほかに上手くやる方法があったのでは……と悶々しています。今作は今までの作品と比べてファンタジー成分がわりと多めで、説明しないといけない事柄がいつもより多かったので難しかったです……それもシナリオに時間がかかった一因ですね。
ちなみに地の文をあまり入れたくない理由なのですが、ゲームだと小説と違って画面があって絵として動くので、時間が目に見えるんですよね。その画面上の時間を止めずに地の文を入れるのがすごく難しいなと思っていて……会話シーンの最中に「神忘れとは~~である」とか「誰々が~~した」みたいな地の文を入れるとそこで一旦時間が止まってしまうのが個人的に気になるところなので……なのでせめてもの策で、会話シーンとは切り離しました。
流れを損なわずに地の文で程よく説明できる人、すごいですね。

浩己のようなキャラクターを主人公として据えることに少し迷った話

浩己は全体を通して「他人に対して悪意はないし悪人でもない、でも自分の視野でしか物事を考えていないが故に時と場合によっては相手からするととても暴力的で差別的な人間になり得る人、そしてその自覚がない人物」として書いていたのですが、自分で書きながら、この傲慢さや自分の差別的な部分に気づいていないところはプレイヤーに嫌がられそうだなあと少し悩みました。悪役として登場する人物ならとことん嫌な奴でなんぼだと思いますが、主人公という本来プレイヤーが一番感情移入や共感しやすいポジションに置く人物としてはどうなんだろう、と。プレイヤーと主人公の心情が離れていると、プレイヤーとしては冷めてしまいますし。最初からアンチヒーロー的な位置づけならそういうものとして読んでもらえるかもしれませんが、そっちに振り切ってるわけでもないのが浩己というキャラクターの難しいところでした。
でも実際、人間って善人と悪人に単純に二分できるわけではなくて、だからこそこういう諍いに繋がってしまうんだよなあと思ったので、ある意味一番人間臭いキャラクターになったと思っています。

当初の予定ではジルがもっと淡泊な性格だった話

設定が二転三転したという話でしたが、キャラクターの性格的な部分は、浩己とカイナに関しては概ね最初に思い描いたそのままのキャラクターになりました。浩己が「悪い奴ではないけど独善的」とか、カイナが「根本的に人間不信」とか。ジルだけ、自分でシナリオを書きながら「あー、こいつってこういう奴だったんだ」と徐々にわかっていったような感じでした。
最初に考えていたジルの人物像というのは、食事への強いこだわりもなく、だからカイナへの思い入れも特になくて、人間のことも特に何とも思っていないので(それは今も変わりませんが)、浩己がカイナを死なせたことも「人間って愚かだなあ」と人間より一段上位のところから俯瞰で眺めているだけという感じの、淡泊で、人間なんぞの行いで何を左右されることもない、ある意味神のような性質のキャラクターでした。
ところがいざシナリオを書き始めたら、思いのほかカイナのことを大事にしていて……最終的にできあがったシナリオ(本編)ではあまりよくわからないと思いますが、そこそこ書いて途中で没にしたバージョンがありまして、そっちでは浩己が事を起こす前にジルともっと会話をしていて、そのときのジルの言動がかなりカイナを守ろうとしている感じだったんですよね。それはカイナに対する情ではなくて自分の食事を邪魔されたくないからなのですが、食事にこだわりがなかったらカイナにこだわる必要もなく、カイナが駄目になったら適当に次の誰かを捕まえればいいだけなので、こんなにカイナを守ろうとするということは……と深堀りしていって、「食へのこだわりが強い美食家で食事の邪魔をされることが何よりも嫌い」なジルができあがりました。
ジルさんはお上品なのでカイナが死んでしまったシーンでも声を荒らげたりしていませんが、内心激おこです。激おこですが、怒りに任せてスパッとはやらずに浩己にとって一番残酷なことを冷静に考えて報復しています。そういうところはやっぱり悪魔です。(件の警官は取るに足らない相手なので瞬殺)。
お姉さんには若干八つ当たりしていますが、あれは浩己に対しての怒りよりも、人間なんぞにカイナを奪われる失態を犯した自分への怒りでしょうね。ジルは悪魔の中でも強いし、狙った人間を契約まで持ち込むのが上手いが故にほとんど失敗を経験したことがないから、人一倍(悪魔一倍?)自分の失態が許せないんじゃないかと思います。
そんな感じでジルは、感情的な部分が薄かった当初の想定から、激しい感情も持ち合わせたキャラクターへと変貌しました。もしかしたら、カイナとの出会いが彼をそのように変えたのかもしれません。

いろいろと書ききれなくて追録ができた話

本編を読破すると解放される追録ですが、自分が本編を書き終えたあと「一応物語としては終結したけど、言及できなかったことが多すぎるな」と思ったので、その補完のような位置づけで書き始めました。イラストやUI作りが終わって本編のスクリプト作業と並行しながら5月下旬まで書いていました。ギリッギリじゃないか。
正直間に合わないんじゃないかと思ったときもありましたが、カイナとジルの関係性がわからないと、浩己もちょっと運が悪かっただけというか、手を出した相手がたまたま悪魔という人智を超えた存在がバックについてる人間だったという不運さの方が目立ってしまうので、カイナとジルはお互いに満足した関係だったということ、そしてそれを浩己は知ろうともせず悪意なくぶち壊したのだということをきちんと見せる必要があると思い、何が何でも書き上げねば! と何とか書ききりました。書いている最中も「やべ~~間に合わねえ~~~~」と思っていましたが、今思い返してみても本当に綱渡り状態だったというか……よく間に合ったなと思います。本当に。

最後まで言い回し一つ一つに悩みまくった話

シナリオを書き上げたあとに細かい言い回しなどをちょこちょこ直すことは珍しくありませんが、今回は最後の最後まで手直しを入れまくりました。言っていることは同じでも、その表現の仕方にかなり悩みました。こう言った方がわかりやすいんじゃないかとか、同じことを言うにしてもこのキャラはもっとこういう言い方をするんじゃないかとか……言いたいことは決まっているのにそれを表すのに最も適した言葉にすることがすごく難しい、と感じました。今までそういう経験はあまりなくて、スクリプトをやりながらもずっとシナリオで悩んでいるという感じがすごくむずむずしました。
手直しはやり出すとキリがなくなるのである程度で打ち止めして先に進むのも大事なのですが、最後まで悪足掻きをしたおかげでしっくり嵌る言い回しにできた台詞なんかもあるので、どこまで深追いするのか、難しいところです。ボイス有り作品だと声優さんに台本を渡した時点で変更不可能になるので、ある意味諦めがつくんですけどね。

こんな感じで、今作は珍しくシナリオに四苦八苦しました。やっぱりじっくり寝かせてネタを練る期間がなかったからですかね……。
いつも「いつか作るやつリスト」にネタが溜まっていくばかりで出力が全然間に合っていない自分の機動の重さを嘆いていたのですが、思いついたからってすぐ作ればいいってものでもないのかな、と思いました。
でもゲテモノ喰いは最終的には納得いく形になったので満足しています。

イラスト関連の話

キャラデザの話

浩己の話

シナリオ関連の項で触れましたが、浩己とジルは設定が二転三転したのでキャラデザもなかなか方向が定まりませんでした。今回はシナリオとキャラデザをほぼ平行して作っていたのですが、前述の没にしたバージョンでは浩己は怪我の療養で帰省するのではなく単に田舎の支社に左遷された設定でシナリオを書いていたので、立ち絵も下絵の時点では骨折していませんでした。

その後シナリオがな~んかしっくり来なくて、設定を見直して一から書き直したときに浩己は骨折しました。
浩己のキャラデザで目指したところは「都会人で時代の先端にいるけれど、洗練された生粋の上流階級ではない」感じです。当時はまだ庶民にとっては洋服より和服が一般的ですし、田舎ならそれは尚更ですが、浩己は「都会で時代の先端を行く仕事をしている自分」に大きな自負があるので、地元に帰ってもある意味都会の象徴である洋服のままでいるだろうなと思いました。
でもやっぱり生粋の上流階級の人間ではないので、いいとこの令息のようにはなれないだろうな、と。それで、洋服という先端の服を着ているけどお洒落とか洗練されている感じはしない服装を目指してああなりました。もしかしたらあれでも当時の人から見たらハイソサエティなのかもしれませんが……時代ものを作る度に思いますが、当時の人たちのリアルな感覚を知るのはとても難しいですね。歴史的な出来事などはまだ史料が残りますが、そうじゃない普通の日常のこと、わざわざ書き残すほどのことではないと当時の人は思うであろう普通の生活のことって、少し調べたくらいじゃ全然出てこないので。きちんと知ろうとしたらかなり時間と手間をかけて調べる必要があるので、突貫で作るとこういう部分が甘くなりがちでいけませんね。

カイナの話

カイナのキャラデザは最初にぱっと思い浮かんだのをそのまま形にした感じで、特に悩んだ点はありませんでした。最初から洋服のイメージだったので、カイナがいた天恵の会やジルも洋のイメージになりました。一度和装のカイナも描いてみたのですが「なんか違う……」と思いましたね。
天恵の会は教会の孤児院のようなものをイメージしています。と言っても表面上そう装っているだけで、実際は何の宗教みもないただの人身売買集団ですが。売り物としてそれなりに身綺麗にされていたと思うので、そこそこ上等な服を着ています。当時は戦中であらゆるものが不足していた時代なので、カイナの服装はかなりいいとこのお坊ちゃんのような感じではないでしょうか。
カイナのキャラデザで一番を気を使ったところは表情です。他人に何も期待していない、そんな表情です。でも、本編では終始そんな顔をしているカイナが、追録のジルと一緒に過ごしているシーンではいろいろな表情を見せているというのが一番の闇だなあと思います。カイナのためを思って行動した浩己はカイナを困らせることしかできなくて、全部自分のために行動していたジルがカイナを笑顔にしている。正しいことであるはずの「人助け」という善意に潜む闇を感じました。
ちなみに、青色の紐リボンのようなものはジルがカイナにつけさせたものです。ほかの悪魔に「これは俺の」とわからせるためのアイテムです。なので追録でカイナと出会ったときはまだジルが身につけています。ジルさんは悪魔界ではかなり知られた存在なので、「あのジル・ヘッセンの飼い餌に手を出したら死だ……!」と、大抵の悪魔は逃げていきます。
カイナがつけているときの結び方は「二重叶結び」といって、御守りなどによく使われる結び方です。名前の通り「二重に願いが叶う」という意味が込められていて、カイナとジルの「どっちもほしいものが手に入る」という関係にぴったりだと思いました。たぶんジルはそれを知っていて毎朝結ってあげているのだと思います。

ジルの話

ジルの最初のイメージは「カイナのバックにいる人外の何か」くらいでものすごく漠然としていました。悪魔のほかに、昭和初期という世界観に寄せて和ものの妖怪や鬼のような線も考えたり。烏天狗っぽいものを考えていたときのスケッチがスケブに残っていました。

ジルが最終的に悪魔になったのは、カイナが洋のイメージだったことが大きいです。カイナの項で触れましたが、カイナのイメージから天恵の会も西洋的な教会のイメージになったので、教会=聖なるもの、の対になる存在として、悪魔は象徴的ですよね。
悪魔のイメージも様々ありますが、「何かを代償とすれば人間の願いを叶えてくれる」という多くの人が共有しているであろうイメージがカイナと関係を結ぶ上でしっくり嵌ったという理由もあります。ジルとカイナの関係は情とは完全に別物の、ビジネスライクな関係として描きたかったのです。カイナは人間の善性を信じられないので、ただ「不憫だから助けたい」とか行き倒れてたから気まぐれで拾った(自分を拾うことによって相手に何の利があるのかわからない)とか、そんな相手にはついていかないと思いました。だから、「助けてくれるけれど善意などではなく対価を得るため、そしてそれを隠さず明示して話を持ちかけてくる」という、カイナが納得して手を取るであろう存在として、悪魔がぴったりだったのです。
悪魔と決めてデザインを考えた際に一番意識したことは、とにかくイケメンにすることです。自分の画力の問題で実際にそう見えるかどうかは問題がありますが、こう、雰囲気として「イケメンなんだろうなあ」ということが伝わるように頑張った……つもりです。
何故イケメンにしたかというと、人間を誘惑し唆す存在なら見目がいいでしょうし、中でもジルは狙った人間を百発百中で契約まで持ち込めるような上位の存在なので、顔もとびきりいいに違いないと思ったからです。とは言えそこは「自分の思うイケメン像」が反映されているので、自分の好みが大いに出ていると思います。
配色は日本人にとって「外国人」の一番オーソドックスなイメージの「金髪碧眼」にしました。神忘れだけでなく外国人への差別もあの場には存在しているので、当時の日本人にとっての「外国人」の象徴として描きました。悪魔なので「外国人」とはちょっと違うわけですが。
ジルはもともとヨーロッパにいて、日本の開国によって人間たちの日本とヨーロッパの行き来が盛んになったときに、まだ見ぬ美味なる魂を求めて新たな地・日本にやってきたという設定です。ある意味人外の「外来種」みたいな感じで、天敵である天使も日本にはまだ少ないし、かなり快適な環境なんじゃないかと思います。
ちなみにカイナとの会話で出てきた「以前いた国」はドイツです。カイナという名前はドイツ語の「keiner」からとりました。意味はジルの説明した通りで、英語の「none」に相当する単語です。
ジルとしてはちゃんと意味があって選んだ単語ですが、名前がなく名前をほしがっている相手、しかも神忘れとして社会から「いないもの」として扱われてきた相手に対してそのまま「ない」と名づけるのはだいぶデリカシーがないですね。その辺が人間に対して何の情もないことの表れだなあと思います。美味しく食べられればほかのことはどうでもよし。
悪魔ということで、普段は人間に擬態しているとして、角やら翼やら尻尾やらがある本来の姿も少し考えましたが、「なんか違う……」と思ってやめました。絵面的にそういう変化があった方が人外感がはっきり出ていいんじゃないかと思ったのですが、実際描いてみるとファンタジーみがすごく強くて、急に全然違う作品のキャラクターが出てきたみたいな違和感がすごかったので。それで蝙蝠的なものが舞っている程度になりました。
前作の「紙一重の想い人」のときもそうでしたが、ファンタジー要素はあるものの、まるっきりファンタジー世界が舞台なのではなくあくまでベースは現実の世界なので、いかにも異世界ファンタジーなデザインは浮いてしまうんですよね。浩己やカイナにとってジルは間違いなく「異世界」の存在ですが、同じ作品の中に登場する以上ある程度の統一感や親和性はないと違和感になってしまうんだなあと気づかされました。
ちなみにシルエットで登場するジルの姉の周りを飛んでいるのは蝶なので、何が舞ってるのかは悪魔によって違うようです。

一見神々しさがありつつ毒々しいタイトル画面を目指した話

本編のシナリオを書き終えてキャラデザも済んでからタイトル画面用の絵を描き始めたのですが、最初に考えていたのは今とは全然違うデザインでした。浩己とカイナが背中合わせで座っていることは変えていないのですが、背景を新聞の紙面っぽくしようとしていました。でもそれだといまいちインパクトが足りなかったし、紙面となると言葉での表現になってしまうので、ネタバレなしに何かを暗示することが難しいと思いやめました。画面上には浩己とカイナしかいないけど、ジルの存在を匂わせる何かを忍ばせたかったので、ネタバレを防ぐなら何の説明もなく象徴的なものを絵で置いておく必要があると思いました。それで浩己とカイナを皿の上に乗せて、ナイフとフォークを不穏な色でバックに置きました。
一番奥のステンドグラスっぽいものはまんま教会のステンドグラスのイメージです。天恵の会が教会の孤児院のようなイメージだったので、そこから来ています。教会もステンドグラスもナイフ&フォークも洋のもので日本要素が足りないと思いステンドグラスの柄を和柄にしましたが、焼け石に水だった感が否めません。浩己かカイナが和服だったらいい感じに近代日本感が出た気がしますが。
ステンドグラスの柄は、左が「麻の葉」と「亀甲」の合体したもの、中央が「青海波」、右が「七宝つなぎ」です。それぞれ意味がありまして、麻の葉柄は「子供の健やかな成長や魔除け」、亀甲柄は「長寿」、青海波柄は「穏やかで平和な暮らしが永く続くこと」、七宝つなぎ柄は「良縁や円満、調和」の祈りが込められた柄だそうです。ジルのカイナに対する「健やかに長生きしてほしい(=長く美味しく味わいたい)」という思いと、カイナにとってもジルにとっても2人の出会いは千載一遇の良縁であるし、円満な関係であることを表す柄として選びました。それを3人のテーマカラー(浩己=黄色、カイナ=水色、ジル=黄緑)で塗ったらかなり派手になったので、もう少し抑えた方がいいのかなと思ったのですが、ここまで来たらとことん派手にして有毒生物みたいに毒々しさを出そうと思いました。教会っぽさが強いと幻想的で美しいビジュアルなってしまって、ゲーム本編の残酷さが隠れてしまいますし。「一見神々しいけど絶対何かヤバい」と思わせるデザインを目指してこうなりました。
画面の四隅にあるのは紫陽花柄です。「高慢」が紫陽花の花言葉の一つなので、浩己のことを意味して置きました。
完成してから「ちょっと派手すぎたかな……でも紙一重もこんな感じだしな~」と思って紙一重のタイトル画面を見たら、紙一重の方が全然大人しく見えてちょっと笑いました。紙一重も強い色を使ってはいますが、蛍光色ではないのが理由だと思います。今回は色の派手さに光がプラスされてよりギラギラした画面ができあがりました。

UI関連の話

縦書きの画面を構成するのが難しかった話

今回のUIは浩己が新聞記者ということで新聞の紙面のようなデザインにしたのですが、縦書きのレイアウトというのが意外と悩みました。ゲームを作るようになってもう10年近く経ちますが、縦書きの画面を作った経験はなかったので。なんかこう……上手く言えないのですが、必要なものを効率よく画面内にすっきり収めるのが縦書きになった途端急に難しくなったように感じました。実際の新聞を見て参考にしたりしましたが、新聞って紙面そのものは縦長なので、ゲームの横長画面とそもそも前提が違うんですよね。横長画面の中で新聞の紙面っぽくすることに思いのほか苦心しました。
とは言えゲーム画面そのものを縦長にすると横長のPCモニターとの相性が悪いですし、自分は横が広い画面で立ち絵が左右に移動する演出などを見せたいので、やはりゲーム画面自体は横長がいい……というジレンマを感じましたね……自分は和ものをわりと作るのでまた縦書きレイアウトに挑むときがきっと来るので、「横長画面の中での縦書きデザイン」の腕を磨きたいと思います。

スクリプト関連の話

前よりマクロを活用した話

スクリプト作業に入った時点でスケジュールに余裕がないことははっきりしていたので、少しでも作業効率をよくしようと、今まであまり活用してこなかったマクロを最初に整備しました。今まではなんか……マクロを活用した方が作業自体の効率がいいのはわかっていましたが、似た記述を繰り返すことの手間よりもマクロを構築することの方が面倒くさいな……と思っていたのです。マクロを作るときって「頭で考える」ターンが発生するので、手を動かすことより頭を動かすことの方が面倒くさいというか……どういう演出にしようかとか、そっちの方に頭のリソースを割きたいと思ってしまって、何も考えずにただコピペやらすれば済むことならそれでいいやと思って、今まであまりマクロを活用していませんでした。
でも今回は単純に作業時間をカットしないとまずいという状況だったので、いちいち手打ちしてる場合じゃねえ! と一念発起して最初にマクロを整備しました。別に大したことはしていないのですがその後の作業はまあ楽になりましたね。
次の作品を作るときもエディターの置換機能を使って少し調整すればそのまま使えますし、今後の制作も少し楽になりそうです。

頭で思っているのと実際に画面で動かしたときの印象が違った話

モブの首がパーンと吹っ飛ぶシーンのことなのですが、せっかくゲームという動的表現ができる媒体を使っているのだからと思ってあのような演出を組んだら、思った以上に迫力というかインパクトが強くて「これ注意書きがないとまずいやつか?」と予想外の悩みが発生しました。こうしようと頭の中で考えていたときは、立ち絵もシルエットだし、大量に出血するような表現もないし、絵面にグロさはないから問題ないだろうと思っていたのですが……実際に動くのを見ると「理屈上の『グロくない』と実際に目にしたときの印象は違う」と感じました。
ホラゲなどではもっとエグい表現もありますし、これくらいは平気なのではと思いますが、最初に自分で見たときに若干でも「ヒェッ……」と思ったなら、その感覚を軽率になかったことにするのはどうなんだろう、と……。
本音を言うと「残酷な描写があります」という注意書きすらある意味ネタバレなので、できれば注意書きは入れたくありませんでした。でもこの作品はホラゲと違って、「惨いことが起こる」という前提を、プレイ前のプレイヤーと共有していないんですよね。であるならば、やはりそういったものが苦手な人が何も知らずにプレイしてしまうことを避けるための措置は必要だと思いました。表現そのものを規制されないためにも、住み分けができるようにしておくのは大事ですね。

今までやったことがない演出に起因するエラーを完成目前に発見して焦った話

浩己がジルやカイナと会話しているときに徐々に日が暮れていく演出のことなのですが、最初は単純に長い時間をかけてフェードさせていました。それで想定通りに動作していたので、何の問題もないと思っていたのですが……完成直前の最終デバッグで発見したのです。フェードしている最中にセーブしたデータを読み込むとエラーになることを……!
自分の記述の問題かと思って思い当たることを少々やってみたのですが改善せず、エラーコードをwikiで調べてみたら、エンジン側の問題である可能性が高い、とのことでした。つまり自力でどうにかすることは不可能……! 時間もないのにここに来てどうする!? と、「やっと完成だ~」モードから一転、かなり動揺しました。だから余裕をもって作れと……。
でもこういうときってゾーンに入るというか火事場の馬鹿力というか、すごい勢いで代替案を考え出すんですよね。フェードしている最中にセーブするとアウトということだから、短時間のフェードで細切れに少しずつ変化させていけばエラーを回避しつつ似たような表現ができるのではと閃いて、背景や立ち絵の色調の変化を全部で10回に分け、ワンクリックごとに1段階ずつ変化させる、という形に変更して事なきを得ました。
何とかなったからよかったものの、直前になって未知の不具合に出くわすのは普通に危ないですし心の平穏にもよくないので、短期制作とはいえ最低限のゆとりは大事……と痛感しました。

素材関連の話

写真素材の加工を頑張った話

今作の背景は(一部を除いて)フリーの写真素材を加工して作りました。立ち絵との親和性という意味でできればイラスト素材を使いたかったのですが、イラスト素材で「昭和初期」に合致するものはそうそうないと今までの背景素材探しの経験上わかっていたので、自分で描けない以上写真素材を使わせてもらうほかあるまい……と思った次第です。
これまでの作品でも写真素材を使ったことはもちろんありますが、自分の加工技術や知識がイマイチだったため、立ち絵が「イラスト」であるのに対して背景の現実感が強くて、その不自然さがすごく気になっていたんですよね。しかも自分の絵が以前よりかなり彩度が強く鮮やかになっているので、ますますリアル写真は馴染まない……と思い、今回は加工をがっつり頑張ってみました。

これをこうして、

こうじゃ!
(出典:明治村画像庫2

ちゃんと勉強したのとソフトの力により、それなりにいい感じの加工ができました。やっぱり何となくでやっていた頃とは違いますね。
詳しいやり方は書くと長くなるので省略しますが、別に難しいことはしていないので、ソフトさえあれば誰でもできると思います。自分はクリスタとAzPainter2を使いました。
素材の供給量としてはイラストより写真の方が圧倒的に多く種類も豊富なので、加工がもっと上手くできるようになれば、余程特殊なものでなければ背景素材難民にならずに済むかもしれません。

昭和初期が舞台だけど「和」より「洋」を意識してBGMを選んだ話

戦前というと和の印象が強いイメージですが、開国~終戦までの近代日本って、和と洋が絶妙に混じり合っていて、全体的には和なところに少しの洋があることで逆に洋の存在が際立って、実は今以上に「洋」の存在感が大きかった時代だと思うんですよね。この作品もザ・日本の田舎というところにジルとカイナという洋の存在(カイナは日本人ですが)があることで、いかにも和な音楽より洋の音楽の方がしっくり来ました。
音楽における「洋っぽさ」として特に意識したのは拍子です。すべてが当てはまるわけではありませんが、ざっくりした印象として、3拍子の曲が洋の香りがします。ワルツとかメヌエットとか。作中で使った全11曲中7曲が3拍子の曲です。
最初の浩己が帰省して外を歩き回っているシーンで流している曲だけ「日本の田舎」の印象を出したかったので意図的にいかにも日本な感じの曲を探しましたが、あとは和っぽさは封印しました。
余談ですが、ジルが警官の頭をパーンと吹き飛ばした瞬間から流れ出すdecoybirdさんの「Waltz-AntiClockwise」を心の中でずっと「スーパージルさんタイム」と呼んでいました。曲名が英語でなかなか覚えられなかったのだ……。
読むことを邪魔しないように、こういう激しい曲は普段あまり使わないのですが、このシーンはとんでもないことが起きていることへの混乱とそれがほかならぬ自分のせいであることへの動揺で「何か言われているけど頭に入ってこない、頭が回らない」浩己の心理状態を表す意味もあって、落ち着く隙もない激しい曲を使っています。

初めてBGMを自作した話

今回、初めてBGMを自分で作ってみました。以前からBGMも自分で用意できればなあと思っていたので、一つ目標が達成できた気分です。いきなり何曲も作るのは難しいだろうと思ったのと、普通にスケジュール的余裕がなかったので、今回は作品の顔になるタイトル画面とエンディングの2曲だけ作りました。いずれは全曲自作で揃えた作品を作りたいです。
世にこれだけたくさんのフリー素材がある中で自分で作りたいと思うのは、もちろん一番の理由は自分のイメージ通りの曲を使いたいからなのですが、そのほかにループの可否が結構切実なんですよね。素材多しと言えどもループ可能なものに絞るとごっそり数が減ります。おまけにループに対応しているかどうか実際に聴いてみないとわからない配布サイトさんも少なくないので、そういう意味でもループ可能で自分の求めるイメージに合致した素材を探し出すのって、意外と大変で……BGM探しに時間がかかっていると、「素材がないなら自分で作ればいいじゃない」と頭の中でマリー・アントワネットが……(笑)
いつか全曲自分で作って、自分のゲームのサントラを作るのが次の目標です。

タイトル画面のBGMに悪魔の力を借りた話

作曲の勉強で読んだ本で「ディミニッシュコード」なるものを知ったのですが、あまりに不気味な響きであるが故に「悪魔が宿っている」と言われ、教会で鳴らすことを禁じられた時代もあったほどだったとの説明を読んで、「そんなコードがあるなら使うしかないじゃん!」と興奮しました。確かにディミニッシュコード単体で聞くと不気味でしかないのですが、前後の流れを上手く作ればめっちゃエモくなる(要約)と書いてあったので挑戦してみたら……エモいかどうかはわかりませんが、いい感じに嵌った~! と自分は感動しました。
というのも、ディミニッシュコードを使ったところが一番甘い響きになったんですよね。悪魔が潜んでいるところが一番甘美だなんて、カイナにとってはジルと共に過ごしたときが人生の中で一番甘やかな時間だったことを物語っているようじゃないか、と。
悪魔繋がりでやってみようと思っただけでしたが、思いがけずタイトル画面に相応しい曲ができて「これが悪魔の力か……」と思いました(違う)。
プロの人から見れば理論上当たり前のことなのかもしれませんが、ビギナーズラックを感じました。

その他の話

次回作の話

相変わらず「いつか作るやつリスト」が全然消化できていないくせにリストにない新作が突然割って入ってきた今回の例があるので、次の作品が何になるのか、自分でもまったくわかりません。ただ、前回の紙一重の制作振り返り記事にも書いた通り、1年に1つくらいは何か完成させないと自分の気分が鬱々してくるので、1年経つ前にまた新しい作品を出したいと思っています。
何が飛び出すかわかりませんが、次の作品もまた手にとって下さる方がいれば嬉しいです。


ということで、「ゲテモノ喰いを待つ」制作の振り返りでした。何度も書き直したりして書いても書いても終わらないので永遠に書き終わらないんじゃないかと思いました。
作曲や写真素材の加工など、今までと違うことにトライしたこともあると思いますが、短い作品なので作中に表れなかった設定などが多かったからだと思います。
これでもまだすべてを語り尽くしたわけではありませんが、全部を明らかにしてしまうのも考える楽しみが削がれますし、これくらいにしておきたいと思います。
長々と最後までお読み下さり、ありがとうございました! 藤島でした。

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