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2021年 02月の記事 (4)

Hollow_Perception 2021/02/28 12:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第六回(Ep.3中編)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 今週は前回に引き続きEp.3。その中盤となっております。

 ネタバレ有り記事につき注意。
 前回はこちら




Ep.3「Realize」――中編


・このタイミングでようやく、物語の導入にして本作の象徴的なシーンであるこの場面の謎が解き明かされます。

孤独な者達の物語

 前回、静音を救えなかったことや煌華を死なせてしまったことを悔やみ、精神的に追い詰められた零。
 ここでは、そんな彼が以前からずっと見てきた、櫻岡市火災事故の夢が描かれます。
 夢の中で自殺した少女の孤独に共感し、彼はこんなことを思いました。

「そう、僕という語り手が紡ぐ物語の登場人物は、誰もが孤独なのだ。」

 そもそも人は生まれた時点で孤独なのだと。
 孤独だから他者に愛を求め、愛し合えない他者を否定するのだと。
 そして、死はそんなあがきすらも全否定し、人に最期まで孤独を叩きつけるのだと。
「人は、生命は、最初から最期まで孤独でしかない」と言うこの一連の独白こそ、もっとも本作のメインテーマに直結している描写と言えます。
 物語やキャラクター、世界に与えられた「前提」であり、何らかの方法で対処・否定すべき命題となる訳です。

 零は、夢の中で自殺する少女について、こうも言います。

「この物語にハッピーエンドとして付けるべき結論は、きっと、君の救済だ。」

 零は彼女を孤独と死から救う為、手を差し伸べようとしましたが、身体が動きません。
 結局、予め決められた夢の筋書きには抗えず、零は更に深い自己嫌悪に陥ります。
 そして、夢の最後にこんな描写が入ります。


 
 零が「自分」だと思っていた人物は、女性でした。
 以前にも述べましたが、これは唯理の視点で過去を追体験している夢です。

 さて。この一連のシーンは非常に抽象的ですが、「物語上の課題」を提示している最重要場面でもあります。
 要は本作は、「人は孤独でしかない」という絶望を打破する物語なのです。
 それが誰によって、どのような形でなされるのかに深いカタルシスを込めたつもりです。

姉の愛

 夜中に飛び起きて、自身を苛む悪夢について考察している零。
 彼は徐々に、自身の中に眠る根源的な孤独感を自覚していきます。
「学園における他者との分かりあえなさ」などといった表面的なものではなく、人を孤独に追いやる世界の在り方そのものに対する絶望があるのだと。

 そんな彼のもとに、同じく起床していた優利がやって来ます。
 彼女は彼女で、周囲や世間の変化に苛まれ、不眠症気味になっていました。
 ですが不安を表には出さず、むしろ零の不安を癒やすように、彼を抱きしめます。


・お姉ちゃんの扱いを考えると意外かも知れませんが、作者は姉属性萌えです。

真相

 それから零はしばらく、登校せずに過ごします。
 時折訪問してくる唯理から世間の状況を聞いてはいますが、自らそこに向き合う気は持てませんでした。
 魔族の発生件数の増加。
 社会からの、魔族と異能者を混同したうえで十把一絡げにしたバッシング。
 それに反応するかのように起こり始めた、異能者による犯罪。
 異能や魔族といった超常的脅威に対応し切れず、確実に社会は滅びへと向かっていきます。

 そして、ある日。
 ストレスで毎日のように悪夢を見続けている彼は、これ以上この日々が続けば潰れてしまうと思い、ついに、優利に自身の過去を問う決意をします。
 不安による自滅衝動が高まったことで、記憶の封印にも限界が迫ってきていたのです。
 優利は「ついにこの日が来てしまったか」とでも言いたげに悲痛な表情を見せながらも、零を精神的破綻から救う為、真相を語り始めます。

 まず、零が解離性健忘――つまり、心的外傷による記憶喪失を患っていることが語られます。
 彼は三年前の櫻岡市火災事故以前の記憶を失っていたのです。
「零は記憶を失っているだけで、真実を見てきた」というのは読解の為の大前提となるため、序盤から説明していましたが、作中で明言されるのはここが初めてですね。
 今まで様々な違和感――たとえば両親の記憶が不確かであることや、家の中に誰が使っているのか分からない部屋があること、唯理が不自然に自分に執着していること――を抱きつつも、それを何故か深く追及しなかった零。
 全ての原因はここにありました。
「不幸を直視すること」を望んできた彼が、実は不幸な記憶を切り離していたという、皮肉な事実が判明します。
 以前にも述べた通り、「切り離した不幸な記憶」を復元する為に今の性格形成がなされたので、実のところ矛盾している訳ではないのですが。

 その後、零と優利は「空き部屋」に入ります。
 零が持ち出したナイフがあった部屋であり、静音に貸し出していた部屋でもあります。
 そこで優利は真実を語りました。
 この部屋を使っていたのは、零が存在ごと忘れてしまっていた妹――高嶺星生(たかみね・せな) でした。
 零の悪夢に登場する銀髪の少女こそが星生であり、零の家族だったのです。

 彼女について思い出そうとした瞬間、深層意識が強い拒絶反応を示します。


 
 星生という存在は、零が記憶を封印するに至ったトラウマの「核」とでも言うべきものであり、簡単にそこに触れることは出来ません。
 自我が崩壊しそうな痛みに負け、一旦、自発的な想起は中止します。
 それでも、もはや彼は自分自身の自滅衝動を止められず、優利に続きを促します。
 それ程に、社会の現状は彼にとって耐え難いものだったのです。

・”自らを守る為の生存本能によって忘れた記憶をわざわざ取り戻そうとする積極性は、希死念慮のようなものである。”と、ここで述べられています。

 優利が話を再開します。
 櫻岡市火災事故の時、銀髪の少女――星生だけではなく、零がその場に共に居たことがここで明かされます。
 そして、優利は「星生は恐らく火傷で死んだ」と語りますが、これは彼女の勘違いです。星生が自分の意志で飛び降りて自殺したのを見たのは唯理だけであるため、優利は星生が火傷で死に、その遺体が消し炭になってしまったと思いこんでいるのです。
 後に判明することですが、実のところ星生は生きており、遺体が消し炭になったのではなく、落下後、その場から離れていました。
 ですが、この思い違いのせいで優利は、火災事故以後の星生の動向を掴めずにいました。

 星生の死について知った零が「自分はそのとき何をしていたのか」と聞くと、優利は「ひとり、一酸化炭素中毒で気絶していた」と語ります。
 その経緯――「なぜ自分と星生は別の場所に居たのか」「そもそも自分と星生は火災の現場である櫻岡駅に何をしに行ったのか」といった点について違和感を覚えた零。
 これも未だ思い出すことは出来ません。また、二人の傍に居た訳ではない優利の視点では未知であるため、彼女の口から語ることも出来ません。
(真相はEp.3後編にて語られます。このシーンの説明は飽くまで優利視点のものであり、後に描写される唯理視点での回想の方がより正確かつ詳細です。)
 ともかく、確かなのは「妹である星生を救えなかった」という一点であり、零はひどく自己嫌悪を覚えました。
 身の回りの人間を誰一人として救えなかったことに絶望し、零は今までで最も明確な孤独感を覚えました。

 ふと星生の写真を見たがる零ですが、彼女が写ったものは一つもありません。
 二人の両親は、娘が死に、息子の記憶が壊れてしまったショックから、子供たちの写真を全て破棄してしまったのです。
 それだけでなく、「子供が居た」ということ自体から逃避したくて、彼らは優利に零を託して自分たちは別居していました。
 あまりにも酷い話ですが、星生を忘れてしまった零は「自分もまた、他人を責められるような立場じゃない」と言い、彼らを非難することはしません。

 一通り話し終えたところで、零は「近いうちに記憶の封印が完全に解かれる時が来る」と予感しつつ、眠りに就きます。

優利の苦悩

 視点は優利に移ります。
 彼女は強いストレスのあまり、嘔吐してしまいます。
「私には人の気持ちが分からない」と語り、それ故に他者を救えないことを悔やんでいました。

 優利は世界を、人間のことを愛していました。
 だからこそ、世界に嫌われ、世界を嫌った弱者たちの気持ちが分からないのです。
 この矛盾はEp.1の時点で、静音に対する、少し押し付けがましい振る舞いに出ていました。
 優しい優利ですから、自分が間違っていると分かれば歩み寄ろうとはします。ですが、根本的に価値観がズレているため、彼女と「救いを求める者達」の間の溝は永遠に埋まらないのです。
 そんなままならなさに苦しみ、優利は「もう何の責任も取りたくない」と独白します。
 そして、この時初めて、社会に適応出来ていた筈の彼女は身をもって「孤独」という感情を理解するのでした。

 さて、このシーンでは優利の「優しいがゆえの苦悩」が描かれていますが、それだけではありません。
 明らかに彼女は「変わらない平穏を維持する」という行為について、単に「優しいから」というだけではなく、使命感を覚えています。
 そして(純粋に心からの望みというよりは)使命だからこそ、上手くいかない現実に対して投げやり気味になっているのです。
 そんな優利の使命感の正体、そして彼女という存在に隠された秘密は、Ep.3の後編やEp.4で明かされます。


 視点は零に戻ります。
 優利は、感情を露わにして彼に泣きついていました。
 彼女の事情は分からないまでも、静音の死や環境の変化に戸惑っているのだと察し、零は優利をやさしく受け止めるのでした。


・成人向け作品ならこの後……。(零はそういうことしない男ですが。)

 視点移動の演出が入り、唯理に移ります。
 零と優利の家に訪問した彼女に、優利は「真実を話した」と伝えます。
 これに対し唯理は「分かってるよ」と答えました。
(「唯理が異能で零の様子を窺っている」という事実に繋がるやり取りです。)
 優利は悔やんでいますが、唯理は「仕方のないことだ」と語ります。
 結局、根本的に零を救うには、ゆっくり時間を掛けて真実と向き合っていくのに付き合うしかないのだと。

 ここは非常に短いですが、唯理と優利が真実を共有し、協力して零の「仮初の平穏」を守っていたことが分かるシーンとなっています。


 その後、再び零の視点に戻ります。
 訪問してきた唯理は、零を付き合わせて散歩に出掛けました。


・その時に言った台詞がこれ。彼女は後に「世界か一人か」の二択で本当に後者を選んでしまう訳ですが、この意志力が「真の主人公」たる所以ですね。

 そして、彼女は零に真実を打ち明けます。


 唯理は中学時代の零や星生の親友であり、それゆえに零に特別な感情を抱いていたのです。
(これは恋愛感情ではなく、性的な側面を含まない、もっと抽象的な愛情です。唯理はバイセクシャルという訳ではありませんが、星生に対しても全く同質の愛情を持っています。)
 唯理の自分に対する執着の真相を理解し、零は涙を流して喜びました。
 自らも孤独感を抱えながらも零のことを想って、影から見守り続けた唯理。
 その優しさに、愛に、零は感謝を述べました。
 そして、「いつか自分の過去全てと向き合って、少しでも君に近づく」と宣言します。
 唯理もまた「それまでも、それからもずっと一緒に居てやる」と伝えます。
 二人はようやく、お互いの間にあった筈の絆を再認識することが出来たのでした。

――と、今回はこの辺りで。
 ここで終わっていたら、少なくとも零と唯理、優利の関係については丸く収まったかも知れませんね……。
 ですが、それをさせないのがこの作品。
 この物語の主役は、彼らだけではないのです。

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Hollow_Perception 2021/02/21 12:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第五回(Ep.3前編)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 本作のボリュームの都合上、どうしても執筆にかなりの時間が掛かるため、Ep.3~4は「前編」「中編」「後編」と三週に分けていきたいと思います。

 さて、今週は、分割版におけるEp.3前編ということで、序盤について述べていきます。
 Ep.3は「起承転結」における「転」に当たる回。Ep.1~2に対する「解答編」とも言える内容であり、多数の謎が明かされていきます。

 ネタバレ有り記事につき注意。
 前回はこちら




Ep.3「Realize」(覚醒)


・分割版にのみ存在する、Ep.3タイトル画面のイラスト。

「幻影」を求めし少女の絶望

 Ep.2のラストで、自らの真意――「異能を奔放に振るい、人々を虐げる」という目的を静音に明かし、元・友人である彼女に協力を迫った煌華。
(しかし静音はそれを断り、煌華を失望させるために自殺を選んでしまいます。)
 Ep.3の導入では、そんな煌華の出自と目標が判明する、彼女自身による独白が行われていきます。

 彼女は貧しい家庭に生まれた「望まれない子供」でした。
 遊び人である父は、自身の金を煌華の養育に使わないといけないことに苛立ち、彼女に暴力を振るいました。
 夫の気を惹くことに精一杯である娼婦の母は、煌華に対してネグレクトを行っていました。
 そんな二人は、ある程度煌華が成熟すると、彼女に身体を売らせるようになりました。
 産まれてこのかた幸せであった時期がない彼女は、全てを「仕方ない」と諦め、下衆な大人達の意思に流されていきます。
 煌華は妊娠しにくい体質であったため、避妊がなされずに弄ばれる日々を送ります。
 しかしそれでも、数を重ねればいつかは「可能性」を引き当ててしまうものであり、彼女は妊娠し、出産しました。
 


 ・「子は親の自己拡張の為のコピーである」という考え方は、後にも出てきます。本作は「遺伝子」を題材にした物語なので、そういう話は避けては通れません。

 この経験は、全てを諦めていた筈の煌華を、真なる絶望の淵に叩き落とすものとなりました。
 世界に失望していた彼女にとって、「こんな世界に子供を産む」という行為は、自己の存在の全てを否定してしまうほどの大罪に思えてならなかったのです。
「世界の”被害者”を増やす」という罪を背負った彼女はその重さに耐えかね、ついに自殺を図ろうとしてしまいますが、失敗します。
 自殺を図るに至ったとき、ようやく彼女は、自らの中に眠る未練――「世界に対する強い怒り」を自覚するのでした。

「私に未だ、生きる理由があるというのなら、そんなもの、殺してしまえ」

 煌華は諦観から解放されて「生きる理由」を抱きました。
 彼女の目標は「命が管理される世界を創ること」。
「不幸になるような命は、初めから産まれないほうが良い」と、彼女はそう考えたのです。
 そして、その理想は最終的には「愚かな人々(=煌華にとっては非・異能者)を殺し尽くす」という破滅的な願い(方法論)へと至った訳です。

 このシーンは、単に煌華というキャラクターについて言及するに留まらず、重要な伏線にもなっています。
 煌華の「妊娠しにくい」という体質の意味。
 そして、彼女が産んだ子供の運命。
 全ては物語の真相と結末に繋がっています。
 また、上記の台詞は「Acassia∞Reload」におけるアカシアの独白の一部でもあります。
(原文は「教えて欲しい。この身が滅びぬ理由を。教えて欲しい。この心を折る方法を。そんな術は無いというのなら。私に未だ、生きる理由があるというのなら、そんなもの、殺してしまえ」)
 死を求め、しかし死ぬことが出来なかった煌華の呪いのような怒りは、アカシアに継承されてしまったのです。

救いがたい現実との対峙

 視点は零に戻ります。
 時系列としてはEp.2のラストの少し前。
 零と優利は、えもいわれぬ不安を感じて、自宅に戻った静音のもとへ向かいます。
 そこでは、静音が能力による殺戮を繰り広げていました。
 常に不幸への備えをしていた筈の零ですが、「静音が異能者であり、人を殺した」という予想外の事態に狼狽えます。
 彼は優利と共に静音を追いかけるものの、「拒絶」の能力によって空間に不可視の壁を作られて足止めされてしまいます。
 それでも何とか櫻岡市のビル屋上までたどり着いた二人。
(このとき、零が「あの櫻岡火災を繰り返してはいけないんだ」と独白しています。無意識下で記憶が戻りかけていることが分かる描写です。)
 しかし、間に合わずに静音は身投げをしてしまいます。
 慌ててビルを駆け下りていく優利をよそに、零は絶望に囚われます。
 それに追い打ちを掛けるかのように、「この場に居る筈のない人間」――煌華が彼の目の前に現れます。
 そこに、通報を受けて駆けつけた唯理。
 少し前に共に日常を楽しく過ごした筈の三人は、今ここで、最悪の再会を果たすこととなりました。


・煌華が「零が異能者である」と知っているのは所属組織から情報を与えられている為ですが、唯理に関してはEp.1中盤の戦闘にて様子を窺うことで予測を付けています。あの時、あの場には煌華が居て、唯理の視界を眩ませた訳ですね。

 唯理は煌華に状況を聞きますが、静音の死に動揺している彼女はまともに答えません。
 やがて彼女は、怒りに任せて人間を鏖殺する決意をします。
「劣った人間(=非異能者)に合わせて大人しくしている必要はない」と言い、唯理と零に協力を求めますが、”異能者が異能を使わない社会"を求める秩序の守護者である唯理は「たとえ誰かが我慢することになっても、命は平等に救われなければならない」と語り、その手を取りません。
(正確には、唯理の直接的な行動目標は「零に平和な日々を送ってもらうこと」にあり、その為に社会の安定が必要だと考えています。)
 零もまた、煌華の気持ちに共感してやりたいという感情はあるものの、負の連鎖を引き起こし、世界を滅ぼしてしまいかねない彼女の選択を受け入れることは出来ませんでした。
 自身の手を取らなかった唯理と零に怒りを感じた煌華は、二人を殺すことを宣言します。
(そうは言いつつも実際は、零を自身に協力させることを考え続けていましたが。)

「幻影」使いとの対決


 双眸を黄金に輝かせる煌華。
 この瞳は異能者が異能を発現した合図です。
(なお、一部のキャラクターは普段から瞳が金色ですが、これは”異能を常に発現させている”生粋の異能者であることを示しています。通常の異能者は非活性状態では金色でない瞳になっています。)

 すると突然、煌華が姿を消し、空間がビルの屋上から休日に三人で訪れた繁華街に移り変わります。
 困惑する零と唯理。そこに、どこからともなく銃弾が飛来します。
 それを戦闘経験から来る直感によって回避する唯理。
 二人は状況を分析し、煌華の異能が「幻影」――幻を見せる力だと推察します。
 しかし、能力が分かったは良いものの、その厄介に過ぎる力と煌華自身の技量に翻弄される二人。


・唯理の読心異能に「自分自身にも幻を見せて”偽の心を読ませる”」という荒業で対抗した煌華。アイドルすごい。(?)

 煌華は唯理を制圧すると、彼女を殺さずに痛めつけ、戦闘に参加出来ていない零に「力を見せろ」と挑発します。
”唯理を取るか、煌華を取るか”。
 そんな二択を突きつけられた零は苦悩します。
 必ず何かを切り捨てなければいけないこのような状況は、負の連鎖を嫌う零には非常に耐え難いものでした。
 しかし最終的には、彼は以前に見た「金色の髪の少女」(=唯理の前世)の夢に後押しされ、半ば無意識的に唯理を選び取る決断をします。
 すると、以前に異能に覚醒したときと同様、存在しない筈の記憶が蘇ってきます。


 それは、死にゆく者に優しい「幻」を見せて、安らかな死を迎えさせた記憶。
 この思い出によって目の前の「幻によって人を傷つけ続けた少女」に”共感”し、かくして零は「幻影」の異能に覚醒しました。

 零が異能に覚醒すること自体は煌華としてはむしろ望んでいたことですが、まさか自分と同じ異能に覚醒するとは思っておらず、自分自身も有している筈の「幻影」に翻弄されます。
 しかし、零の側も既にかなり消耗しており、あまり時間の猶予はない状態。
 彼は煌華を倒す為、覚醒済みの「観測」の異能を使用し、煌華の記憶に潜り込みます。(=Ep.3の冒頭)
 そして全ての真実を理解すると、彼はひどく心を痛めながら、彼女に「幻影」を見せました。
 それは、静音との幸せな思い出。
 まやかしに取り込まれてしまった煌華は、現実世界において足を滑らせ、ビルから転落してしまうのでした――。

 零は自分がやってしまったことを嘆きつつも、痛めつけられた唯理を救うため、更に新たな異能を求めます。
 そんな時、彼の脳裏に「金色の髪の少女を異能によって癒やした記憶」が浮かび、それが”誰か”に共感することによって、「治癒」の異能が発現しました。
(このときの共感先は、地上に居た優利であり、彼女は「治癒」の異能を持っています。)
 これにより唯理の傷を癒やすと、彼は消耗のあまり気を失ってしまうのでした。

 視点は煌華に移ります。
 ビルの屋上から落下しながら、加速する体感時間の中で彼女は絶望に囚われていました。


 結局のところ、煌華は口では攻撃的なことを言いつつも、唯理や零を殺す覚悟を持てないでいました。
 多くの人間に囲まれながら、その実は誰よりも孤独だった彼女は、真の仲間――端的に言えば「自分と対等な友人」を求めてしまったのです。
 そんな心の弱さを自虐しながら、最期に彼女は過去を振り返りました。
 
 三年前に、人の感覚を捻じ曲げて幻を見せる異能に覚醒したこと。
 多くの人間から金品や心を搾取する手段として、アイドルを始めたこと。
 異能による快楽の増幅を駆使して業界の権威者に取り込み、いつしか「生きた薬物」と呼ばれるようになったこと。
「幻影」に囚われた人間たちの反応を観察し続けることで、ある程度ならば「異能を使わなくても異能の効果を再現出来る」ようになったこと。
(映像上において人々が彼女に感じる魅力の正体はこの技術であり、異能そのものではありません。)
 今までの「奪われる」人生から一転して「奪う」側に回った煌華。
 最初は異能によって人々を魅了し、愛される毎日を楽しんでいましたが、そんな生活はいつしか空虚なものへと変わっていきます。
 彼女は、誰も本来の自分自身――おぞましい家庭に産まれ、おぞましい生き方をしてきた自分を見ていないことに気付き、強い孤独感を覚えました。
 だからこそ、学校で独りであることが当たり前であるかのように過ごしており、自身の異能による魅了が効かなかった静音に惹かれたのです。
(零も同様なのですが、彼や静音は異能を無効化している訳ではなく、他者に希望を持っていないため煌華にも何も期待しなかった……というだけに過ぎません。)
 しかし、独りであるがゆえに彼女は煌華の感情を受け取ってくれません。
 何とか静音の心を惹きたいと願った煌華は、静音に自分自身を求めさせる為、そして、自分と同じく傷ついた人間になってもらう為に、人さらいと遭遇した時に彼女を見捨てたり、誹謗中傷の発端になるような噂を流すなどしたのです。
 それで静音が弱り切ったところに現れて、手を差し伸べれば良いと――そう考えたのですが、静音は煌華の手を取りませんでした。
 また、同じ理由で惹かれ、異能に覚醒させて仲間に引き入れようとした零もまた、煌華を捨てた訳です。
 どこまでも孤独な彼女は「もし来世があるのなら、次は孤独感なんて覚えないくらいに強くなろう」と決意しながら、死に逝くのでした。

 さて。本作は「孤独」をメインテーマとした作品であり、これが物語、或いは登場人物たちの抱える課題となっています。
 そんな中で煌華が至った「孤独感などに負けないくらいに強い存在になる」という発想は一つの「課題に対する回答」であり、物語終盤において重要な意味を持つ考え方となっています。
 一応、本作の主人公は唯理ということになっていますが、後のことを考えると彼女や零だけでなく、煌華や静音も間違いなく「主役」と言っていい存在でしょう。

「作り変える者たち」

 視点が光騎に切り替わります。
 彼は、ビルの下で煌華が転落死する様子を見ていました。
 友人であり「組織」の仲間の死を見て残念そうにする彼ですが、もともと他者にあまり興味のない男であるがゆえに、深刻に受け止めることはしません。
 結末を見届けると、彼は組織の拠点へと帰りました。
 その後、煌華の死を「とある少女」に報告します。

 まだ姿も名も描写されませんが、この少女こそ、異能者によって構成された秘密組織《Alter》の長にしてEp.1~4(=本編)における黒幕である存在「プルミエール」――或いは、高嶺星生 です。
 彼女は光騎が唯一、尊重している他者であり、基本的に彼はプルミエールと同じ方針で動いています。
 そんな彼の願いは「秩序の破壊」でした。
 


 弱者が形成している社会を打破し、強者の為の世界を作ろうと言うのです。
 つまりは「異能者の為の世界を創造する」というのが彼らの行動方針です。
 煌華が至った答えに、彼らは既に辿り着いていた訳ですね。
 このタイミングでようやく、明確な「敵」が見えてきた形になります。
 ただ、飽くまで「分かりやすい敵役」を担当するのが彼らなのであり、「敵を討って万事解決」とはならないのが本作ですが……。

遠い記憶

 更に場面は変わり、今度は「僕」の視点となります。
 これは気を失っている零が見た夢であり、彼の封印されている記憶です。


 彼は「あの子」と呼ぶ誰か(=唯理の前世)を埋葬したあと、隣に居る少女に何やら話しかけました。
 すると彼女は「その少女が《アカシア・リロード》に繋がることはない」と言います。
 それを聞いて、彼は落胆しました。

 その後、話し相手である少女の姿が映されます。
 彼女こそが前述したプルミエールなのですが、この時点では名は明かされないため、その容姿を見た『Acassia∞Reload』プレイ済みの方は「もしかしたらアカシア?」と考えるかも知れませんね。
(実際のところ、二人は半ば同一人物みたいなものなのですが。)

 さて、ここの会話はこの時点だと完全に謎に包まれていますが、Ep.4にて全く同じシーンが入るので、今は解説を割愛します。

変わりゆく世界

 ようやく、視点が現在の零に戻ります。
 朝、彼は特事委員会の事務所で目覚めます。
 そして唯理と一義に状況を確認します。
 改めて静音と煌華の死を実感し、零は泣き崩れました。
 ひとしきり泣いた後、唯理は、昨夜の事件が世間で大きな騒ぎになっていると話します。
 (表向きは)テロ事件の犯人である高坂真司の娘、そして大人気アイドルである煌華が転落死したというのですから、無理もありません。
 また一義から、静音の母が自殺していたことを聞きます。
 零は一通り情報交換を行ったのち、帰宅しました。
(異能によって知った煌華の本性は隠しましたが。)


 その後は、急速に変わっていく社会が描写されていきます。


 真司に殺害された被害者の遺族の会見。
 死亡した会社役員らが真司を追い詰めて凶行に駆り立てたのですから、皮肉としか言いようがありません。


 これもまた皮肉であり、以前のシーンで唯理が「命は平等である」と語ったのに反し、この学生は「誰も必要としていない人間の為に、必要とされている人間が死ぬのはおかしい」と発言しています。
 平等なんて世界にはありませんでした。


 学生たちは不安に包まれ、無責任に適当な発言をして恐怖を和らげています。
「魔族」という言葉は完全に、気に入らない相手を中傷する為のレッテルと化しています。
 誰も「(”魔族”というミームのモデルとなった)変異体」と「異能者」の違いなど分からないし、仮に知ったとしても、こんなにも便利なレッテルを手放せないでしょう。


 夜の街では「魔族狩り」と称した暴行事件が起きていました。
 若者たちがストレスの発散の為に浮浪者に暴力を振るいます。
 そこに「最近、超能力に覚醒した」と語る異能者が現れ、浮浪者を救いつつ死体から金品を漁る為に、若者たちの頭を破裂させました。
(彼は「最近」と言っていることから、三年前の櫻岡駅火災ではなく、「ソルリベラ」によって覚醒しています。)
 零の怖れていた「負の連鎖」は、今まさに起き始めていました。


「魔族」と呼ばれた化け物――変異体による被害も増加の一途を辿っており、今夜もまた、人が惨殺されて捕食されました。
 変異体は「異能者になる素質が無かった人間」であり、そんな彼らを光騎は”失敗作”として強く見下しています。
 そして、彼が幼い頃から抱いていた放火癖のはけ口にするのでした。
 

 静音と煌華の死から一週間が経ち、視点は再び零に戻ります。
 彼は、静音が辿った運命の虚しさに悲嘆すると共に、煌華を殺してしまった自責の念にも駆られ、精神的に追い詰められて不登校になっていました。
 社会の変化もまた彼を苦しめ、自暴自棄にさせていきます。

「朝起きたらその時には、何もかも死に絶えていて、終わっていればいいのに」。

 そんなことを思いながら、全てを拒絶するかのようにベッドに潜り込み、眠ろうとしました。
 しかし、そこに唯理がやってきます。
 彼女は零を心配し、なんとか上手く時間を作って会いに来ました。
 零を慰める唯理ですが、彼はそんな気持ちを受け取ろうとはせず、自虐的な思いに取り憑かれています。
「全てを丸く収められる、最強の力があれば良かったのに」、と。
 しかし、唯理はそれを否定します。
 彼女は零に、全てを一人で抱え込んで欲しくなかったのです。


・後に判明する零の正体を思えば「神様なんかじゃない」というのは間違いなのですが、それでも唯理は、彼に「一人の人間で居て欲しい」と考えるでしょう。”神様である”というのは、孤独なのですから。
 

 ですが、やはり零は「もっとやりようがあったかも知れない」と考えてしまいます。
 お互いに平行線でした。
 零は無理やり会話を打ち切って、改めて眠りに入ります。


――と、今回はひとまずこの辺りで。
 次回はいよいよ、本作の導入で描かれた「三年前の櫻岡火災」について明かされます。
 

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Hollow_Perception 2021/02/13 18:52

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第四回(Ep.2後半)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 ネタバレ有り記事につき注意。
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Ep.2「Conflict」後半


・比較的明るめなシーンが続くEp.2ですが、終盤からは一転して、絶望的展開へと転がり落ちていきます。

世界に失望した「凡人」

 静音を一時的に家に泊めることになった高嶺姉弟。
 そこから視点は変わり、とある「男」と青年――神了光騎の会話が描写されます。


・光騎のこの台詞、煌華の主張と通ずるものがありますね。実は一緒に居る描写って無いのですが、ダーティーな生き方をしてきた者同士、それなりには仲良しな二人です。

 一般的な会社員である「男」は、この時点で描かれる心情描写にも出ている通り、非常に生真面目な「普通の人」です。下品で軽薄そうな光騎のことも内心、見下しています。
 しかし、そんな性格ゆえに「当たり前の倫理・常識で動いてくれない世界」に、男は怒りを感じていました。
 大学時代の恋人と結婚し、起業して真面目に、必死に働いてきたのにも関わらず、不況によって業績が悪化し。
 その結果、妻に離婚を突きつけられ、一人娘を連れて自分のもとから離れていきました。
 経験を活かして優良企業に入社したものの、その上層部は腐敗しており、彼は是正を図ろうとしました。
 しかしその行為が怒りを買い、彼は社内の立場を奪われていきます。
 そんな、ありふれた「不幸」の連続。それは「報われぬ善人」であった彼を狂わせました。
「男」は復讐を誓いながら、光騎から何らかの薬を受け取り、それを飲み干します。

 本エピソードの終盤にて判明することとなりますが、この「男」は 高坂真司(こうさか・しんじ)――静音の父親 です。
 彼は他のキャラクターと違い「充分に幸せに生きられる素質を持った普通の人間」なのですが、そんな人間でも”ちょっとした不運から簡単に絶望的状況に陥る”という”不幸の普遍性”が描きたくて、このような立場の人物を登場させました。
(まさに彼自身が独白しているように)人間というものは他者が不幸な時には自己責任論を押し付けがちですが、世の中、大半のことは一人の力ではどうしようもないのです。

 また、彼が服用した薬は、後に登場しますが 「ソルリベラ」 と呼ばれるものです。
 その効果が説明されるのは更に物語が進んでからですが、ざっくり説明すると 「特定の遺伝子を活性化させ、遺伝的素質を有する者は異能者に、素質無き者は魔族に変容させる」 というものです。

少女達との日常

 視点は零に戻ります。
 濃密な非日常を体験した彼ですが、「この先なにをしようか」ということの取っ掛かりは特に得られず、結局は普通に通学を行うことになりました。
 そして、唯理や煌華と学園生活を送っていきます。


・煌華ちゃんは人々を魅了する甘々ボイスを持つASMRアーティストでもあります。彼女は異能者であり、持つ力は「感覚に影響するもの」ですが、この辺りの特技は異能ではなく純粋に彼女自身の技術です。

 朝の会話で、煌華は新作の雑談動画をアップロードしたことを伝えます。
 
 昼休み、零は唯理と二人きりで昼食を取っていました。
 そんな中で、唯理は零に「煌華以外の生徒から避けられていること」について質問しました。
 異能によって零を監視していたとはいえ、常に彼(の視点)に付きっきりであった訳ではない唯理。
 故に、零が学園内でいじめを受けていたことを知りませんでした。
 彼女は激昂し、こんなことを言います。


 以前から零を知っていたがゆえの発言ですが、やはり零の側からは意図は分かりません。
 怒る唯理の気持ちが分からない零は「自分が反論・反撃をしなかったのが悪い」と言い、宥めます。
 ここで語られる零の思想は、彼という人間や物語の軸となっているものですが、メタ的には、彼に対する共感が難しくなっている部分でもあると思います。

 彼はあまりにも善人であり、また、諦め過ぎていました。
「社会全体と比して自分の存在が”間違っている”のならば、社会の幸福の総量の為にそれを受け入れるしかない」と考えています。
 そんな零に「もっと自分を大事にしろ」と伝える唯理ですが、人から愛されることを諦め過ぎている彼には、そのような在り方は受け入れられませんでした。
 しかし、飽くまでも自己を否定する零を彼女は抱きしめ、肯定します。
 それはまるで夢の中で体験した心地良さのようで、心の壁は少しだけ解けていきました。
 唯理の優しさの根拠に疑問を持ちつつも、改めて彼女に希望を見出し、シーンは切り替わります。

 このシーンですが、謎の解明や劇的な展開自体は無いものの、本作のテーマの中でも最重要なもの――「”孤独感”と”孤独な者に愛を与える少女”」に繋がっている描写になっています。
 ここでは零の心の中にある「世界に対する尊重と、それに伴う自己否定」が描かれています。
 これは「記憶を封印しているが故の自滅衝動」とはまた違う、もっと根源的な心理です。
 そもそも彼は、元から自己否定的なのです。
 何故このような考えに至ったか、具体的なことはEp.4にて描かれます。

 さて。次のシーンでは、帰宅後の零が静音と接する描写がなされます。
 二人は格闘ゲームで楽しく遊びました。


・「ツルギちゃん」とはこの子のことです。静音の推しキャラであり、ざっくり言えば「人類全てを利用して世界を救おうとした、孤独な王女」です。その魔王じみた生き様はまさしく静音、そして「静音の友人」が憧れるに値するものです。
また、零が使っているキャラクターである「大正時代の軍人」とは「鳴神六堂」のことであり、彼もまた多くの犠牲を出しながら世界を救おうとした、魔王のような男でした。

 ゲームを終えたあと、静音は過去に友達(=煌華)が一人だけ居たことを話しました。
 その子と疎遠になったことを聞き、零が「自分は友人になれるか」と言いましたが、もはや「友人」という関係性に失望している静音は「自分には勿体ない」と言うのでした。
 余談ですが、過去に煌華に対して零が似たようなことを言っていますね。(後に煌華が言っているように)零と静音は似たもの同士です。

 静音が風呂に入ることになったので会話を終えて、零は煌華の雑談動画を観ることにしました。
 興味本位で「何の動画を観るのか」と聞く静音。それに対し、零は何の気なしに煌華のことを話します。
 すると静音は逃げるように部屋を去ってしまいました。
 その様子を見て零は「まさか、”疎遠になった友人”が煌華だったり……」などと予想しつつも「あの二人が仲良くしているのを想像出来ない」と、すぐに否定します。
(真実はまさにその予想通りだった訳ですが。)

 ともかく、動画を表示する零。
 今回の話題は「ソルリベラ」なる合法サプリメントについて。
 他者の使用体験と共に、「気分や思考能力の向上にとても効く」と煌華は語ります。
(完全に、怪しい通販ですね……。)
 煌華自身は楽しんで仕事や学業に従事しているので使おうと思ったことはないようですが、何かとストレスの多い現代社会においては頼れる味方――とのことです。
 また「すぐ治まる、ちょっとした頭痛がある」以外は副作用も無いようです。
 動画を見終えた零は、「現役トップアイドルが語るような真っ当な内容じゃない」と不審に思いつつも、翌日は唯理や煌華と遊ぶ約束をしているというのもあり、ひとまずは流して明日に備えることにしました。
 
 この動画は、Ep.2後半の冒頭にて男――高坂真司が服用した薬について述べたものです。
 何の目的か、煌華は「異能の発現、ないしは魔族化」をもたらす薬を、効果を偽って人々に飲ませようと誘導しています。
 なお、「煌華自身は使用していないこと」と「”頭痛がある”という副作用」は事実です。
 まず前者に関しては、煌華は三年前の「櫻岡駅火災」にて、星生の《共振》の影響を受けて異能者として覚醒させられています。
 また後者に関しては、異能者特有である脳の特殊なタンパク質が痛むことを示しています。それらの部位は異能の連続使用によって疲労することが前半にて述べられていますが、「ソルリベラ」による半強○的な合成の際には痛みが生じます。
 もっとも、遺伝的適性が無ければ魔族化してしまうので、「痛む」だけで済むのは幸運な人間に限りますが。

三人の休日

 休日。
 零は予定通り、唯理や煌華と過ごすことになります。
 らしくないことに、「他人と過ごす平穏な日常」に胸躍る彼。唯理にデレデレです。
「メインヒロインが明確に定まってるギャルゲー」だからこそ出来る心理描写ですね。(※本作がギャルゲーがどうかは諸説あり)
 待ち合わせの時間に若干遅れてやってくる煌華。これは別に伏線とかそういう訳ではなく、彼女自身がこう話している通りです。

 集合後、電車でいわゆる「オタク街」に向かう三人。


・この台詞に対する唯理の「人生、簡単に無くなりすぎだろ」ってツッコミ、好き。ところで、本当はこのあと煌華がライブするシーンを入れようと思っていたのですが、作業量的な都合により割愛することに……。

 煌華は超有名人なので、街中でサインを求められたりします。
 しかし、「今の私はただの学生だから」と言い、断ります。
 


・煌華先生によるコミュニケーション術講座。

 この辺りのシーン……というかこのイベントは全体的に、「日常の中の思い出作り」であると同時に、煌華の性格描写も兼ねていますね。
 一見、何も考えていなさそうな彼女。その実は、孤独であるがゆえに人の本質を見抜き、自身の側に惹き込む技術を極めてしまった人間です。
 しかし、少なくともこの時は「友達と一緒に平和な日常を楽しむ、普通の女の子」でした。
 そんな様子を見て零も、ずっと苦手意識を持っていた彼女にもっと歩み寄ろうとするような心理を抱いていきます。

 さて。三人は街中のメイド喫茶にやってきました。


・ここの掛け合い好き。


・衣装がレンタル出来る謎の店です。ここで唯理が煌華に対して言う「猫被った悪魔め」って台詞、まさにその通りですね。

 メイド喫茶でしばらく過ごした後は、ゲームセンターに移動します。
 煌華は、唯理にクレーンゲームでフィギュアを取ってもらっていました。
(ちなみに唯理がクレーンゲーム上手いのは、異能を用いた格闘術を極める過程で、全体的な身体制御技術自体も高まった為です。)


・ここで煌華が受け取ったフィギュアのキャラクターは「ツルギ」。静音と推しキャラが同じです。そういえば、どことなく煌華に容姿が似てますね。

 何気ない描写ですが、ここで「静音と煌華が友人」ということをほぼ明言しています。
(飽くまで「メタ的に察しがつく描写」であり、零自身は単なる偶然である可能性も考慮していますが。)

 ゲームセンターで遊んだ後、三人は櫻岡市に帰ってきます。
 それぞれ色々な秘密や苦悩を抱えた彼女たちですが、この日だけは「普通の学生」として楽しく過ごすことが出来ました。
「きっと全てはいつか不幸に転ずるのだとしても、せめて”今”を肯定出来るようになりたい」と、零は希望を持ちます。

 しかし、そんな希望は、突然の爆発音と共に打ち砕かれるのでした。
 唯理は特事委員会に呼び出され、爆発の現場である近くのデパートに向かうことになります。
「何か出来ることはないか」と言う零ですが、彼を非日常に巻き込みたくない唯理は「何もない」と一蹴し、彼に帰宅するように言います。
 そして「(異能者同士の戦いになる可能性があることを指して)いざという時に人を死なせる覚悟があるのか」、とも。
 それがとどめとなり、「傷つけ合いによる負の連鎖」を嫌う零は、唯理を心配しつつも独りで帰宅せざるを得なくなりました。

異能者同士の対決

 視点切り替えの演出が入り、唯理の視点に変わります。
 彼女は四条一義から状況説明を受けます。
 現在、デパートに一人の(特事委員会では未把握の)推定・異能者「高坂真司」が立てこもっており、投降を呼びかけているものの反応が無い――とのこと。
 対テロ部隊の動員も検討されているものの、異能者への対応経験が無いため、上層部が判断を渋っているという状態です。
 爆発が起きたのはデパートの中に入っているレストラン。内部は全壊しており、数多くの死傷者が出ています。
 そのような甚大な被害をもたらした異能者・真司の捕縛を命じられた唯理。
 異能を使った戦闘には慣れていても、対・異能者戦自体は彼女とて初めてであるため、気を強く引き締めます。

 現場に到着した唯理を、悲痛な面持ちの真司が出迎えました。
(このとき周囲に、恐怖で身を隠している一般人が多く居たことが、後の災厄に繋がります。)
 唯理は説得を試みますが、多くの人を殺めた彼は既に、地獄まで突き走る覚悟で居ました。
「ソルリベラ」によって彼は「空間を爆発させる力」――《破砕》の異能に覚醒していました。
 そして彼にとっての「間違った社会を構成する愚かな人間たち」の代表例であった、自身の居た会社の役員たちを皆殺しにしたのです。
 彼の中にはもはや正義も悪も理性もありません。ただ積もり積もった世界への怒りだけが彼を突き動かしていました。
 社会の理不尽は、一人の善良な人間を「人の形をした魔」へと変えてしまったのです。
 唯理はそれを察すると共に、もはや説得の余地がないことを理解し、真司との交戦を開始しました。

 人体など容易に破壊出来る、強力な異能を持った真司。
 しかし戦いの経験で言えば唯理に圧倒的な分があります。
 そして「素質レベルでの圧倒的な差」が無い状況において、唯理の異能は強力に働きます。
 彼女は真司に対して「知覚の盗聴」を試み、異能の性質を見抜いた上で、視線誘導などを駆使して有利に立ち回っていきます。
 最終的に、唯理は体術によって真司を制圧することに成功します。
 彼女の異能には一切の攻撃性が無いので、こういった戦闘スタイルは本人の技術によるところが大きく、そう考えると(正直なところ異能者としてはかなり弱い)唯理もなかなか凄まじいですね。

 戦いに勝利した唯理ですが、周囲の人々がスマートフォンで戦いの様子を撮影していたのを見て、不安を覚えます。
 社会混乱を引き起こさないための情報統制にも限度があります。これだけの事態に発展してしまえば、異能に関する情報が表沙汰になってしまうのです。
 そんな彼女の不安は杞憂に終わることなく、後の世界の動きへと繋がっていきます。

 この戦いは、異能者と人類の争いの発端となっているものです。
 最終的には世界を巻き込んだ壮大な戦いが描かれる本作ですが、その始まりが「平凡な人間の、平凡な怒り」に在るというのが独特かも知れません。
「櫻岡駅火災の夢に出てくる少女」――星生が抱える想いもそうですが、本作は結局のところ、どこまでも「救われぬ人々の苦悩」を描いた物語なのです。
 個人の苦悩など他者にとっては取るに足らない、ちっぽけなものかも知れませんが、本人にとっては「ちっぽけだから諦めて受け入れる」という訳にはいきません。

狂いゆく社会

 視点は零に戻ります。
 彼は自室で、逃げ出してしまった自己嫌悪に苛まれています。


・彼はずっとこの気持ちを強く抱いています。そもそも彼は「主人公らしく在ること」を拒絶しているのです。そのため、彼に「(王道な)主人公らしさ」を求めると、どうしても違和感を抱くことになってしまうかも知れません。

 しかし唯理からのメールが来ると、「しばらく学校には行けなくなる」という連絡に「何があったのか」と疑問を抱きつつも、彼女が無事だったことに安心します。
 その後、優利と静音と共に夕食を取ります。


・優利の貴重な表情差分。明るいシーンが想定以上に少なくなったので、使う機会も……。

 束の間の平和な時間。
 しかし、それはテレビのとあるニュースによって、すぐに終わりを告げました。
 夕方に起きた爆発事故(=先のシーン)の件であり、犯人である真司の名が報道されます。
 それを聞いて静音は「パパが、そんなことする訳ない」と。
 ここで二人は親子であったことが明かされます。
 既に離婚済みの為、真司が父親らしい振る舞いをしている描写は見られませんが、反応からも察せられる通り、静音からは何だかんだ父親として程々に愛されています。

 ひとまず、あまり考え込まず続報を待つことになりました。
 翌日、零は学校にやってきます。
 そこでいつも通り、煌華に話しかけられます。
 いわく、「先日の事件の犯人は魔族だ」などという噂がネットで流れているとのこと。
 もはや「魔族」という言葉は、他者を糾弾する為のレッテルになっていました。
 事態の不透明さや社会の流れに何となく不安を抱えながらも会話を終える二人。
 実のところ、煌華は真相を知っており、わざと零を不安にさせるようなことを言っているのですが。
 そして、ネットには真司の元・家族である静音やその母を中傷する言葉が溢れかえりますが、これも自然とそうなった面が強いものの、煌華も拡散に加担しています。

孤独な少女の真相

 それから一週間経った、ある日。
 寂しく思った静音は、零の自室にて彼に昔話をします。

 少なくとも静音が幼い頃、彼女は幸せでした。
「私はきっと、祝福されて生まれてきたんだと思う」と語るくらいに。
 しかし、真司の仕事の業績が悪化し、徐々に家庭は崩壊していきます。
 やがて両親への不信感、そして、自分自身への不信感を抱くようになった静音は、塞ぎがちな性格になっていきました。
 


・この辺りの心情、零とそっくりですね。

 現在の学校に入学後、他者との繋がりを放棄し、孤独に学校生活を過ごす静音。
 そんな彼女のもとに、煌華はやってきます。
 何度そっけない対応をされても、煌華は静音にしつこく声を掛けました。
 まるで、零にそうしているみたいに。
(後に煌華の真意が描かれますが)煌華は静音の本質を見抜いているのに対し、静音は煌華のことを「自分も他人も世界も大好きな人間」だと捉えており、あまり理解しているとは言えません。
 完全に一方通行な興味でした。
 しかし、何度も付き合わされているうちに静音の心の壁はだんだんと溶かされていき、少しずつ煌華を友人として認めるようになります。

 ある日、二人で遊びに出かけた帰りで、彼女たちは犯罪組織に出くわしてしまいます。
 この時、煌華は恐怖に駆られ、静音を置いて一人で逃げてしまいました。
(実は静音に苦しんでもらう為に、既に覚醒していた異能で身を隠して観察していました。)
 このことが、静音の煌華に対する強い不信感の原因になっています。
 ともかく、独りになってしまった静音。「何とか逃げ出せた」と零に語る彼女ですが、これは嘘であり、実際はこのとき異能に覚醒していて、犯罪組織の男達を惨殺していたのです。
 この一件以降、彼女は家から出なくなりました。
 その後、「犯罪組織の連中が惨殺された”謎の事件”」(と静音は誤魔化して語ります)について、ネット上で「静音は魔族であり、人を惨殺した」と語られるようになります。
 煌華の異能のことを知らない静音には知る由もありませんが、煌華は状況を見ていたので、その噂を流したのは彼女ということになる訳です。
 そうして、今に繋がります。

 静音が幸せとは言えない家庭環境になってしまったのは不運が原因ですが、彼女が完全に追い詰められるに至った理由はほぼ全て煌華にありました。

 静音の話を聞き終えた零は、「君の味方で居たい」と伝えつつ、自身の話もします。
 二人は共に「似たもの同士かも知れない」と感じるのでした。

終わりの始まり

 翌日。
 零と対話したことで気持ちの整理が出来た静音は、家に戻ることにします。
 しかし、そこには噂につられて「魔族の娘」を見に来た、多くの野次馬が居ました。
 嫌悪感を覚えながらも、彼らを押しのけて家に入る静音。
 そんな彼女を待ち受けていたのは、首を吊って自殺した母でした。

 静音は絶望し、憎悪し、その果てに「私から何かを奪うことは許さない」という「拒絶」の意志を抱きます。
 ついに彼女は、煌華との仲違い以降、恐怖ゆえにずっと封印していた異能を解き放ってしまったのです。


「拒絶」の異能は「不可視の壁を作る」というものであり、物体の中に壁を作ることで、それを切断することが出来ます。
 この力を利用し、野次馬たちを惨殺する静音。
 そのまま憎き人間たちを殺して回る発想もありましたが、内に眠る最後の良心が、両親への愛が、それを拒絶します。
 だから彼女は「私を殺せばもう他人からは何も奪われない」と独白し、自殺することを決意しました。

 ビルの屋上にやってきた静音。
 そんな彼女にもとに、かつて友人であった少女――煌華はやってきました。
 彼女が自分の死を後押ししに来たと考える静音。
 しかし、真相は違いました。
 煌華は静音の自殺を心待ちにしている野次馬たちを見下し、罵り、そして提案します。

 煌華の目的は、静音と共に異能を用いて暴虐の限りを尽くすことでした。
 静音に対する全ての行いはその為の過程であり、彼女に世界への絶望を抱かせ、自身の仲間に引き入れようとしたのです。
「自分の代わりに世界に復讐してくれる『魔王』が欲しい」と語る静音に、煌華は「自分が魔王になる」と語りますが、静音は受け入れません。
 彼女には良心がありました。(これは、まともな家庭環境で育たなかった煌華には無かったものです。)
 臆病さがありました。
 そしてなにより、自分を見捨てた煌華に対する強い復讐心がありました。
 それゆえに彼女の誘いを断り、屋上から飛び降りて自殺してしまいます。
「もし死後に生まれ変われるなら、その時は協力する」と語る静音には、煌華の想いを受け入れる余地がありました。
 しかし今は、「最も嫌いな他者」である煌華に、自殺でもって復讐を果たすことを優先したのでした。

 静音の死が描写され、Ep.2は幕を閉じます。


・分割版だと、次回予告が入ります。

 かくして、我儘で寂しがり屋な少女と、その友人であった内気な少女――二人の関係は「一旦」、ここで精算されました。
 ですが、静音はまだ舞台から降りた訳ではありません。
 静音と煌華の想いは、本作の物語の最後の瞬間まで継承されることになります。
 まさしく彼女たちが望んだ存在、「魔王」と呼ばれた少女によって。

 Ep.2は起承転結における「承」を押さえつつ、煌華と静音について重点的に掘り下げた回ですね。
 一見、物語の根本的な謎とは無関係な彼女たちですが、その存在は本作の重要な要素である「魔王」なるものに関わっており、決して欠かすことが出来ないキャラクターとなっています。

 次回はEp.3。これまでの伏線の多くを回収する「解答回」であり、急展開を迎えるパートでもあります。
 静音の素性は判明したものの、煌華についてはまだ明かされていない部分が多いですが、Ep.3にて掘り下げられます。
 彼女はざっくり言うと「世界に対する憎しみ」「静音に対する愛」「零に対する興味」「”所属組織”の方針」の四軸で動いているので、かなり掴み所がないキャラクターなんですよね。(但し、この四つは全て連動しています。)

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Hollow_Perception 2021/02/07 12:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第三回(Ep.2前半)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 今週は、分割版におけるEp.2の前半に当たる部分について述べていきます。
 ネタバレ有り記事につき注意。
 前回はこちら




Ep.2「Conflict」(衝突)


・分割版にのみ存在する、Ep.2タイトル画面のイラスト。

「拒絶」せし少女の絶望

 Ep.2の導入では、不登校の少女「静音」の視点が描かれます。
 これ以降、度々(全画面テキストウィンドウを用いて)零や唯理以外の心情も描かれていき、本作は半ば群像劇のようになっていきます。


 静音は「猟奇殺人犯=”魔族”扱いされる」という誹謗中傷を受け続けたことで人間不信に陥っており、強い憎悪や恐怖を抱いていました。
「自分ならば憎い人間たちを殺してしまえる」と語る彼女。これは事実であり、本エピソードの後半で発覚することですが、静音の正体は異能者です。
 しかし、彼女にはその異能を振るう勇気がありません。
 心の何処かではまだ他者を信じたいと思っている為、そこまでの思い切りが持てないのです。

 静音は自分と繋がりのある人々に思いを馳せました。
 母親はEp.1で「”早く死んで欲しい”と思っているに決まってる」と述べていた通り、信用していません。
 優利に対しては、手を差し伸べようとしてくれていることに感謝はしているものの、「結局は分かり合えない相手だ」と感じています。
 零に対しては逆に「私の気持ちを分かってくれそう」だとは思っているものの、「(分かってくれるだけで)助けてくれる余裕はなさそうだ」と諦めています。
 そして、友人であったと語る「あの子」にもまた、失望しています。
(この時点ではまだ濁されていますが)「あの子」とは煌華のことであり、二人の間には友好関係がありました。
 まさにタイトル画面がそうであるように、Ep.2~Ep.3前半は、静音と煌華という、一見相反しているような二人の関係に強くスポットを当てた内容となっております。

 ともかく、辛うじて接点のある者達にすらも期待が持てない静音は、願います。
「この世界に魔王を。私達のような”人でなし”の為に人間と戦ってくれる滅殺者を」 ーーと。
 彼女は、臆病な自分自身の代わりに憎しみを世界にぶつけてくれる「魔王」の誕生を求めるのでした。
『Acassia∞Reload』からプレイした方はこの時点で既に察せられるかも知れませんが、この「人類と戦う魔王」こそ、アカシアのことを示しています
 静音ーー或いは「彼女と同じ夢を抱いた者達」を主人公として見た場合、本作は「魔王に破滅の願いを託した”人でなし”(=暗に、周囲から拒絶された孤独な者たち)の物語」と言えるでしょう。

 なお、このシーンにはこんな描写があります。


 これは静音に対する誹謗中傷の文ですが、『Acassia∞Reload』に繋がっている内容でもあります。
『Acassia∞Reload』内では、「魔族(=本作における異能者)は”精神畸形”とも呼ばれている」と語られています。
(ちなみに『Acassia∞Reload』の記憶の痕跡を書いたのはアカシアですが、彼女はあえて”人類目線の情報”を遺しているため、異能者に対する攻撃的な表現や、誤った解釈などが述べられています。)

非日常からの帰還

 視点は零に戻ります。
 彼は唯理に風呂を借りて、血の臭いを落としました。
 


 入浴後、零は唯理に自分の名前を知っていた理由を問いますが、適当にはぐらかされてしまいました。(過去の記事でも述べている通り、唯理は一方的に零を知っている状況です。)
 そして、この日はひとまず車で帰宅することになりました。
 運転手である、唯理の同僚の青年は「四条一義(しじょう・かずよし)」という人物。
(ちなみに彼が唯理を呼ぶときの”ユイ先生”という呼称は、『ReIn∽Alter』初期案における主人公の、唯理に対する愛称でした。)
 彼は自分や唯理が「特別未詳事象管理委員会」ーー「特事委員会」に所属している、と語ります。
 詳しくは後日に説明するとのこと。

 零の家に着くと、唯理は少し物悲しそうな顔をします。
 彼女はこうして度々「既に零のことをよく知っているがゆえの振る舞い」をしてしまいます。
 後に零から指摘されていますが、彼女はあまり隠し事が得意ではないのです。
(メタ的には、意図して描写している伏線というか仄めかしなのですが。)

 少し休憩した後、唯理は帰ろうとしますが、そこに優利がやってきます。
 彼女は唯理を見るや否や、別の部屋に連れて行って二人で話し始めました。


 話し終わった後、零が関係性を聞くと、優利は「中学時代の後輩」だと言います。
 どこか胡散臭さを感じた零ですが、深く掘り下げることはしません。彼は現状「自分が封印した真実を思い出すこと」を無意識では望みつつも決意し切れない状態であり、その迷い故に、真実に繋がりかねないことは意図的に「気にしない」ようにしているのです。
(唯理と優利の関係はEp.3にて述べられますが、”学校の先輩・後輩”などといったものではありません。)

 唯理の帰宅後、零は、足を踏み入れた非日常が未知で溢れていることに対して「この未知の先にこそ、本当に大切なものがあるのだろう」と喜びや希望を感じながら、眠りに就きます。
 そんな彼は、砂漠で孤独に放浪する夢を見ます。
 これは息苦しさを感じながら生きている彼の心象風景のようでもありますが、同時に「実際に体験した、”存在しない筈の記憶”」でもあります。(前回の「森林の記憶」と同様。)
 何もない砂漠の真っ只中、絶望的なまでの孤独感に喘ぐ零。
 しかし、放浪の果てに出会った少女によって、夢の中の彼は絶望から解放されました。
 


 彼女はただ零を抱きしめ、言葉は無くとも、その存在を優しく肯定するのでした。

 この夢と少女の正体は物語の核とも言える要素であり、Ep.4にて真実が明かされます。
 しかし、その姿を見て、作者である僕自身の趣味を知っている方は勘付くかも知れません。
 端的に言えば、この少女は唯理の「前世」と言える存在です。
 なお、後に零がそのことに勘付いた時、彼の目線では「実際のところ、本当にこの少女は唯理の前世なのか」は明確にはなっていませんが、確かにこの二人の少女の間には前世・来世の繋がりがあります。
 但し、不完全な転生である為、唯理は前世の記憶を明確には宿していません。
 詳細はEp.4の解説で述べることにして、今はひとまずシーンを進めていきましょう。

再会

 どこか夢見心地で起床し、優利と共に朝食を取っている零。
 彼が何の気なしにテレビを付けると、先日の夜の猟奇殺人事件ーー同級生の死について報じられていました。
 それを見て、彼は嫌でも「昨日の夜の出来事は現実だった」と実感させられます。

 その後、学校に向かう零。
 学校では、誰もがわざとらしい程に事件について触れないようにしていました。
 クラスの中心的人物である煌華が、暗い話題にならないように誘導していたのです。
 そんな彼女は、いつも通り零に声を掛けてきます。
 しかし零は、煌華を含めた他の者達が「いつも通り」を取り繕っていることに違和感を覚え、「同級生が死んだ」という触れ難い真実を突きつけてしまいます。


 これを聞いて、他の男子生徒が怒りを露わにして零に詰め寄りますが、煌華が宥めました。
 彼女は「魔族に関する動画を配信したことが彼(死んだ同級生)の興味を煽ることに繋がったから、死の責任の一端は自分にある」と語ります。
 「だからこそ生き残った”自分だけは当たり前の幸せを手に入れられる”と盲信している者達を元気付けて、嫌なことを忘れさせてやらないといけない」とも。

 皮肉っぽくありながらも優しさの込もった彼女の物言いから、零は以前よりも、佐咲煌華という理解出来ない人間について興味を抱きました。
「この子は僕と同じように絶望を直視していて、それ故にこのような振る舞いが出来るのかも知れない」と。

 実際のところ、彼の直感は的を射ており、煌華は零と同等ーー或いはそれ以上に「絶望と付き合ってきた孤独な人間」だったりします。
 周囲の殆どの人間のことを見下している為、気を遣ったような振る舞いをしているのは「優しさ」ではなく、単に彼らの心を掌握する為ですが。

 煌華に興味を持った零は、彼女が今までどんな経験をしてきたのかを聞こうとします。
 しかし、教室にある人物がやってきたことで、会話は中断されました。


 今まで不登校であった唯理が登校してきたのです。
 この再会を零は喜び、こう独白しました。

「東岸唯理ーーこの世界の破壊者に対して、人生で初めて『恋』という感情を抱いたのかも知れなかった」

 これを見ると零が、”非日常”という希望の象徴である唯理に対して一目惚れをしたように感じられますが、実際のところは「無意識下にある愛情を想起した」という方が正しいです。
 三年前以前の記憶を封印したことによって、かつては友人であった筈の唯理のことを忘れてしまった零ですが、それでも彼女には特別なものを感じています。
(そして唯理もまた、前世の記憶を失った筈なのに、現世で再び零と巡り会っています。)
 零と唯理の間には、たとえ記憶を失っても途切れることのない、深い縁がありました。

新たな学園生活

 昼休み、他の生徒たちに興味を持たれてあたふたしている唯理。
 彼女は零を連れて中庭まで逃げてきました。
 二人っきりになると、唯理は学校に来た真意を語ります。
 彼女は組織ーー特事委員会の指示で、零を監視することになったのです。
(実際のところはそれ以前から異能によって監視している訳ですが、彼に何かあった時により素早く対応出来るよう、傍に居ることになりました。)
 そして、放課後に特事委員会のオフィスに来るよう零に求めた後、共に昼食を取ることになりました。
 そこにやってくる煌華。
 彼女はいつも通りの調子で、零と唯理にウザ絡みします。


 零が唯理との関係を誤魔化す為に「中学時代の友人」などと適当な嘘を言いましたが、これに対して唯理が驚いたりしています。(後に明かされますが実際、二人は中学時代の友人でした。)
 この辺りも彼女の演技の下手さが出ていますね。

 ともかく、三人で昼食を取ります。そして、休日に三人で遊びに出かけることになりました。

魔族と異能の真実

 放課後、零は唯理と共に特事委員会のオフィスに行きます。
 そして唯理は、隠されていた真実を話し始めました。


 まず1つ目に、魔族について語ります。
 単なるネットミームではなく確かに存在し、人を残虐に貪り食った怪物。
 三年前から度々発生していた猟奇殺人事件の犯人。
 その遺伝情報は人間と同様ーー即ち、魔族の正体は人間でした。
 彼らは何らかの要因による異常なタンパク質合成の結果、筋力の向上と共に人格が消失し、血肉を欲する化け物へと変異してしまっていたのです。
 但し、その発生原因や「三年前に何があったのか」という謎は、未だに委員会では解明されていません。これはEp.3~Ep.4にて明かされますが、簡単に述べておくのであれば、「三年前に結成された異能者の秘密組織《Alter(アルター)》 による計画の一環」です。

 2つ目に、異能について語ります。
 唯理は「異能というものが確かに存在する」ということを示すため、「零がメモに書いた言葉を壁越しに言い当てる」という実験をします。
 零が書いた言葉を、唯理は《観測》の能力によって見抜き、言い当てました。


・このとき零が無意識に書いた言葉は『Alter』。「作り変えるモノ」の意です。ただ、零が用いたこの言葉が指しているのは前述した組織ではなく、記憶を持っていた頃の彼と深い関わりがある、とある存在です。(むしろ組織名の由来がこちらなのですが。)
 唯理は、自身の持つ異能ーー「意識を分割し、体外に飛ばせる力」について説明します。
 零は、自身も同じことが出来たため「同じ異能を持っているのか」と問いますが、唯理は「持っている異能の応用法の一つとして、同じ効果を再現しているのかも知れない」と予測します。(零の異能は”他者の異能を借用出来る異能”であるため、どちらも間違っていないと言えるでしょう。)
 そして唯理は、委員会がこういった異能のことを《ReIn(リーン)》 と呼んでいることを説明しました。
《ReIn》とは《Re Intron(リ・イントロン)》を略した造語であり、異能が発現する仕組みから名付けられたものです。
 異能は、脳にて合成された特殊なタンパク質によって発現していると言うのです。
 そしてそのタンパク質は、もともとヒトの遺伝子に組み込まれていたものだと言います。

・生物の遺伝子には「イントロン」と呼ばれるものが存在しており、これは本来、アミノ酸配列として翻訳されない部分です。しかし異能者は、これらの部分が正常に除去されておらず、それ故に特殊なタンパク質を体内で合成してしまうのです。
 本作の異能には「短時間で連続使用すると強い疲労感を発生させる」という設定がありますが、これも、脳のタンパク質の疲労によるものです。(ゲーム的表現をするならばMP切れに当たります。)

 魔族と異能。
 それらはどちらも、人体、或いは遺伝子の不可解なエラーによって生まれたものでした。
 非日常的・超常的だと思っていたものの実態が、ひどく「現実感」を帯びていたということに困惑する零。
 そんな彼に、唯理は「魔族や異能について分かっていることは全て話したから、もう詮索するな。日常を生きろ」と言います。
 唯理は心から零の心身を案じているのですが、しかし、唯理のことを覚えていない彼に、その気持ちは届きません。
 飽くまで「苦しい日常からの解放」を求める彼に、唯理はこれからも傍で付き添うことを宣言しますーー「私と一緒に居ろ」、と。

 その後、話題は3つ目の説明事項に移ります。
 それは、唯理が所属している特事委員会についてでした。
 特事委員会は五年前に設立された組織であり、魔族や異能などの超常的現象に対応する為に設立されました。
 主な任務は戦闘行為というよりは調査ーーそして、「異能発現者のメンタルケア」です。
 彼らは異能を発現させた者を発見次第コンタクトを取り、社会に適応させる活動をしているのです。つまり「異能者に異能を使わせない」のが彼らの仕事です。
 それは残酷な行為かも知れませんが、異能者たちの幸せを思ってのことです。
 社会に適応し、埋没しながらも孤独を感じないように生きていた方が人は幸せだと、少なくとも彼らはそう信じているのです。


・本作の展開、まさに唯理のこの台詞の通りになっています。異能者という「理解出来ないもの」への怖れは、最終章であるEp.-及び『Acassia∞Reload』にて描かれる本作の結末にも繋がっています。また『剣閃神姫誅伐伝』でもこのような「分かりあえなさ」が描かれているので、当サークル作品で頻出するテーマと言えるでしょう。

 一通り話を聞き終わった後、零は帰宅しました。
 結局のところ、全ては「ただ自分が知らなかっただけで、元々そこに在ったもの」だとよく理解させられた彼は、どこか失望を感じるのでした。

 このシーンでは、序盤に提示された謎がある程度解明されました。
 いわゆるタイトル回収も行われましたね。
『ReIn∽Alter』のタイトルロゴには、遺伝子のような二重螺旋の図形が描かれています。
 そしてその図形が繋ぐのは、「異能」を意味する「ReIn」と、(この時点ではまだ)謎の言葉「Alter」。
 ロゴデザインにも現れているこの3つの要素とその関係性は、本作の中心的な謎に繋がっています。
 私はロゴデザインの段階で物語を意識することが多いですが、特に本作は、強く物語が表現されています。
 なお、タイトルロゴとはまた別の話なのですが、各エピソードのタイトル画面でキャラクターが纏っている、赤と黒の二重螺旋の輪にも意味があります。
 ここに込められた秘密については、Ep.4の解説冒頭で述べる予定です。

救いを求めた来訪者

 帰宅後、零は優利と共に夕飯を食べました。
 テレビでは、アイドルでありながら女優業も行っている煌華が主演のドラマが放送されています。


 これは煌華の特技である「他者を魅了する発声や振る舞い」の描写ですが、後に表出する彼女の二面性を示唆するような描写でもありますね。
「アイドルを目指す少女が、個人的な恋心と偶像性の間で揺れ動くドラマ」。
 煌華は別に誰かに恋愛感情を抱いてはいないので”そのまんま”という訳ではありませんが(零に対する感情も”恋”というよりは仲間意識です)、アイドルに相応しくない本性を優れた偶像性で覆い隠している点は、まさに彼女自身です。

 食事やドラマの視聴を終えて少し経つと、家に静音が訪問してきます。
 彼女は「母に包丁で刺されそうになった」と語ります。


・具体的な描写がある訳ではないので被害妄想と読み取ることも出来ますが、母にどこまで殺意があったかはともかく、実際に静音は刃を突きつけられました。
 それに対し零は、誰を責めるでもなく「ついにその時が来てしまったか」と考えます。
 静音の家庭環境に対して悲観的にーー或いは、正面から向き合っていた彼。いつか母親や静音自身が限界を迎える時が来るとは予期していました。
 一方で、以前にも親への不信を口にする静音を非難した優利は、少しだけ半信半疑な様子。
 しかしそれでも「頼ってくれてよかった」と言い、静音を優しく受け止めます。
 優利も優利で「人の気持ちの分からなさ」は自覚しており、静音への接し方を変えたのでした。
 零と軽い口喧嘩する優利。それを見て、孤独な静音の心は少しだけ温かくなります。
 たとえそれが不器用なものであっても、優利の優しさを静音は尊いものだと感じました。
 そんな彼女を優利は少しの間、家に泊めることにします。
 零は静音にナイフが置いてあった空き部屋を貸すことを提案しますが、優利は渋る様子を見せます。
 それを見て零が「あの部屋は誰が使っていたんだ」と問うと、優利は「仕事で転居する前に母が使っていた」と説明します。
 何か違和感を覚えつつも、あまり気に留めることもなく流す零。
 結局、「個室を使わせてあげたいから」ということで空き部屋を静音に貸すことになりました。
 こうして、高嶺姉弟と静音の、束の間の共同生活が始まるのでした。

 さて、ここでも「空き部屋の謎」が出てきました。
「母が使っていた」という優利の胡散臭い説明。
 違和感を覚えても、結局のところはすぐにそれを流してしまう零。
 この部屋に隠された過去は、Ep.3にて明かされます。


――と、今回はこの辺りで。
 Ep.2前半はあまり激しい動きはないパートですが、Ep.1で示された謎がいくつか明かされました。また、この後に来る怒涛の展開への繋ぎにもなっています。
 Ep.2の初めから終盤までは、零が唯理や煌華、優利や静音と何だかんだ穏やかに過ごしている様子が描かれており、本作全体の中でも一番明るいパートと言えますね。
(それでも静音の状況など、重い要素は数多く存在しますが。)
 このまま零が日常に居場所を見出して「現代ものギャルゲー」になれば平和だったのですが、そうはならないのが本作……。

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