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R-ion/要餅 2024/04/28 20:44

月報というものをやりたいという気持ち(4月)

こんにちは。R-ionです。せっかくこういう場所を作ったのでおそらく最初で最後になるであろう活動報告的なものをしようかな~と思いこの記事を書いています。5月以降もあるかは不明です。そんなに長くはならないと思うのでよければお付き合いください。

エイプリルフール

ここは読まなくてもいいです。活動と言っていいのかは微妙ですが無駄に気合入れて準備したのでこの機会に紹介。下のポスト見ればだいたいわかります。
https://twitter.com/Rionsousaku183/status/1774451601769639971
▲実際のポスト。いつまで擦るつもりだ。

せっかくなのでスクショ的なの載せます。

なにげにここで描いた立ち絵的なものがイドコロあれこれのキャラ資料に役立ったのでまあ良しとしましょう…気になった方は【ナツノイドコロ】をやってみてください。キャラが共通です。(時間軸は違いますが…)

イドコロあれこれ

▲宣伝カット。だいたいこれ見ればわかります。

【ナツノイドコロ】の裏話記事的なものを書きました!
▼以下のリンクから飛べます

・キャラ紹介編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1114632

・シナリオ解説編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1115246

・制作のあれこれ編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1116204

・没シナリオ編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1116317

・おまけ(メイキング)
https://ci-en.net/creator/24466/article/1117674

去年の秋にイドコロの副読本作ろうと思って打ったテキストに加筆したものです。
作者の私情ばっかりですが文量だけはあるので暇なときにでもぜひ…

ゲーム制作

新しいプロジェクトに着手しています。【常世の現に花束を】というノベルゲームの予定です。ティラノスクリプト君と和解したい。

▲タイトル画面(ラフ)。これ以外にも2・3パターン作ってランダム表示しようと思っています。

進捗状況としては、
シナリオ…ぜんぜん
システム…基礎システム(セーブロード画面、メニューなど)を整えただけ
グラフィック…タイトル画面のラフとキャラデザだけ

という感じです。まだまだです。まあ今月中に基本システム終わればいっか…くらいの気持ちだったのでいいのでは?(その基本システムにもけっこう不具合が残っているのですが…致命的ではないしまあいいか。)

▲戦闘ミニゲームのイメージ。未実装

今回、ミニゲーム的な戦闘システムを入れようと思っていまして(上画像のような)…自力でがんばろう!…としたのですが調べ方どころか作ろうとしているもののジャンルすらわからず情報集めの時点でつまづいてしまいまして…悪あがきにXで情報を募ってみたところ予想以上の反響があり、なんとか有力な情報を集めることができました!ここを見てくださっている方がどれだけいるかは分かりませんが、改めてこの場でもお礼を言わせてください。拡散や参考記事の共有、本当にありがとうございます!
https://twitter.com/Rionsousaku183/status/1780599178793738499
▲実際のポスト。反響ありすぎて正直ビビりました…

▲組んだもの。メニュー画面はプラグインを使わせていただきました。

今はティラノスクリプトのリハビリがてらメニュー画面などの基本システムを組み込んでいます。あとあとやろうとすると面倒なので…おそらく一番苦戦するであろう戦闘部分はまだまだです。こわすぎる。

本当にどう転ぶか分かりませんが完成できるようがんばります!ここ最近ゲーム案を作っては置いてを繰り返しているうえにこのプロジェクトいままでの中で最高難易度なのでひよってます。予防線張ってばっかですみません…まあなんとかなる!(やけくそ)ゆるく見守っていただけたら幸いです。

さいごに

ここまで読んでくださりありがとうございます。2・3月はらくがきばっかりしていたのでこれから頑張れたらいいな…と思います。今後も気が向いたらこんな感じの記事を出すかもなので暇なときにでもお付き合いいただけたら嬉しいです。

R-ion/要餅 2024/04/13 18:50

イドコロあれこれ(おまけ)

ごあいさつ

こんにちは。見てくれてありがとうございます。この記事は拙作【ナツノイドコロ】のネタバレを多分に含みますのでご注意ください。シークレットバッジまで取ってくれた方向けです。

▼作品ページ
https://novelgame.jp/games/show/8617

▼いままでの記事
キャラ紹介編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1114632

シナリオ解説編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1115246

制作のあれこれ編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1116204

没シナリオ編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1116317

はじめに

制作当時のあれこれを覚えている限り書きます。10日でゲームを作りたい方向けです。ラフとかちょっとあるかも。完全見切り発車ギリギリ制作なので参考にはならないと思いますが…あんまりネタバレはありませんが未プレイの方は見ない方がいいかもです。

構想段階

制作のあれこれ編でちょろっと書きましたがこの話は3年擦った自創作のセルフ二次創作なので(めちゃくちゃ)構想というかだいたいのシチュエーションは作るぞ〜となった時点で決まっていました。何らかの理由で家を脱走した主人公が、待ち合わせ中のお兄さんと話す。そしてその時間が主人公の運命を変えていく…といった感じのイメージ。そこからエンド数、出すキャラ達のこと、モチーフ的なもの…といろいろ考えつつプロット的なものを書きます。


▲実際のプロットを一部抜粋。短期制作なのであんまり書いてないです。

画像にはないですが特にエンディングのイメージは具体的に書いておきます。そうするとシナリオを書くとき楽です。ここは誰にも読まれないのでやりたいことを好き勝手書きましょう。
本当はこの段階でキャラデザの資料(全身とカラーリング、細かいデザインがわかるやつ)を作るのですがそんなものはすっとばします。なんせ3年擦ったので…というよりは単純に時間がなかったので。バストアップしか描かないし、ほとんどみんな制服だしね。

そしてここからがけっこう大事なのですが…ゲームファイルに同梱するreadmeの原型を書きます。 なんならここでサイトに記載する紹介文も書きます。申請前はそんなことしてる余裕ありません。心の余裕のためにここでだいたいの骨組みを書いておきます。使用させていただく素材の頒布元のサイト様などは決まってないので組み込み段階で追記します。私はゲームが完成するかわからなくてもここでやっとくタイプです。やっておくに越したことはないですし、心の余裕って大事なので…

ラフを描こう

この段階で思いついたスチルとタイトル画面のラフを描きます。本当はシナリオを書き終えてからの方がいいんですけど忘れちゃうので私はとにかく描きます。仮組みに使うかもなのでエンド関連のものはさっさと書き出しておきます。線画までやっちゃうと面倒くさいので…(結局使わなかったけど)あとこの短期制作でデータ飛んだら終わりなのでとっといたというのもある。ちゃんとバックアップは取りましょう。

▲ラフたち。比較的綺麗なものを抜粋。

途中から清書の方が先に終わる気がしてきたので書き出しをやめてます。適当。結局スチル全部描いてから組み込んだような…
あとスチルというものは必ず組み込み段階で増えるので(私の場合)少なめに見積ります。迷ったら描かない。実際二枚増えたし…(あくまで短期制作の場合ですが)没にしたやつはアプデで追加しました。

シナリオ書きかき

思いついたところから本文を書きます。私はオチから書くタイプです。それから幕間、選択肢ごとのセリフ…と書き進めます。(だいぶうろ覚え)文章はシナリオファイルごとに(この時点で分け方考えておく)見出しで管理します。小分けにするほど気楽に書けて良い感じ。
スチルはシナリオに詰まったら息抜きにちょっとずつ清書。(ラフはだいたい描いてたはず)シナリオが終わったら一気に描きます。立ち絵がないのでだいぶ気楽ですね。本編はだいたい4日くらいで書きました。約7000字弱。一見出し700字くらいです。ほぼセリフなので文字数少なくて助かりました。あんまり読ませる感じの話ではないのでゲームで読むと20分弱くらいです。ただイドコロは演出が長い(話ごとにウェイトが必ず挟まる)のでやや時間がかかります。書き始めは5000字くらいを想定していたので良い感じですね。

絵作業

スチル

仮組みをしてからスチルを描くつもりでしたがシナリオ書いている間に二枚ほど仕上がってしまったので予定変更してもう全部描きます。全8枚、確か3~4日で描いたような…時間短縮にあたって意識したポイントを書いておきます。

・塗りはなるべくシンプルに、夏っぽいコントラスト強めのアニメ塗り。
・1スチルになるべく二人以上出さない。(レイヤー分けがめんどくさい)
・なるべくバストアップ(上半身だけ)。変な角度の構図にしない。
・背景・小物を描かなくていいようにする、あってもシンプルに。

みたいな感じでルールを決めて描いていきます。特に塗り方は早めに、一枚目を描きながら決めます。迷ってる時間なんてないので…

その他素材

背景やエンドカードなどの素材を用意します。基本的に組み込みながら必要なものを作っていく感じ。時間がないのでなるべく素材をお借りします。
背景はイラスト素材のものと写真素材のものが混在しているので違和感が無いように加工します。(ちゃんと規約を読んで)今回はスチルの塗りとなじむように彩度強めにしました。


▲加工前→加工後。サイズもいじってます。

▲エンドカードたち。不穏。

エンドカードには謎に差分があります。なんなら演出入れた。時間短縮のために一発描きで、シンプル不穏な感じに、差分でドキッとしてもらえるように工夫します。特に重要なエンドのものには気合入れました。このへん3時間ぐらいでやったのでほんと適当です。

組み込み

素材をだいたい作ったらさっそくティラノビルダーで組み込みます。今回は特に難しいことはしてないのであんまり書くことないです。強いて言うなら

・タイトル→導入はさっさと組む(特に意味はないですがテンション上がります。)
・本文をすぐに入れずに仮テキストで流れを組んでおく(特に変数分岐する場合)
・プレビューついでにスキップ時の挙動を確認する

みたいなことを意識してやってました。ぶっちゃけ適当です。私はいつも勢いでゲームを作っている。ティラノビルダーくんは優しいのでだいたいのことはなんとかしてくれます。解説記事とかめっちゃあるので(公式サイトが最大手。タグリファレンス見ればどうにかなる)いろいろ見てみてください。
今回はフキダシ機能を使ったので、スキップ時にフキダシが置いて行かれるのを防ぐために「会話が途切れるたびにフキダシをメッセージレイヤーごと消す」という調整が必要になりました。地味にめんどくさかった。本当に。こういう予想外の細かい調整が絶対必要になるので制作期間にはゆとりを持ちましょう。じゃないと作者みたいに原因不明のバグが残ったまんま出すはめになります。(戒め)(今は修正済み)

宣伝的な

今回はかなり短期制作なのでゲ制デー(進捗を発表する日)には被らなかったのですが、なにもしないというのも味気ないので進捗をつぶやいてみます。効果があるのかは不明です。最初のポストをしたときにはまだタイトル画面ができていなかったのでシナリオの息抜きに清書していたスチル(途中)をぺたり。たしか灰エンドのスチルだったはず…いやせめてお兄さんのスチルにしろよ!!このときタイトルすら決まってなかったんですよね…出てくるキャラしか決まってなかった。でも我慢できなかった。
…気を取り直して次はシナリオができました。たぶん完成するだろう(楽観的)ということでタイトル画面のラフとタイトルができたタイミングでポスト。(翌日の夜)

https://twitter.com/Rionsousaku183/status/1693962761657815455

▲実際のポスト。味気ないのはあしからず。

ここからタイトル画面を清書して組み込み。またポストします。なんでこんなポストしてるのかというと「毎日進捗を出そう!」といきまいていたからです。結局組み込み段階で挫折しました。組み込み段階って本当に出すものが無くて…あと意外と細かい調整が大変で余裕がなかったです。計画性。

▲実際にポストしたタイトル画面。特に変更なかったので確か宣伝画像にも使いました。

たぶんもっとうまいやり方ありますが、まあゆるくやるならこんな感じだと思っています。イドコロは夏のうちに出すことが決まっていたのでかなりこのへん積極的にやってます。いつもはもっと慎重です。特に最近は…(二案くらい宣伝したのを置いてるやつ)

番外編~アプデ作業

余力があればver.1の時点でバッジ(実績的なやつ)を実装しようとしていたのですが、できなかったので9月にアップデートにて実装しました。正直あんまり覚えてないですがアプデまでの流れを書きます。

構想

バッジとバックログ文章追加は最初からやるつもりでした。ただこれだけだと面白くないのでおまけシナリオも書こうかな~といろいろ考えます。結局キャラクターたちの解像度を上げてもらいたかったのでやることに。選択画面が思いつかなかったのでランダムにしました。あと糸目出したかったので隠しキャラを実装することに。けっこうたくさんだな…と思いながらやることをまとめます。

シナリオとか

とにかくいろいろなものの雛型になるシナリオを書きます。本編が割とすんなりだった分難航しました…基本的に人物の掘り下げや本編で出てこなかった意外な一面を出せるように意識しました。(結局できてなかった気がするけど)あとサウンドノベル形式にすることを決めていたのでそれに合うように地の文多めセリフ少なめで。地の文思いっきり書けて楽しかったです。没シナリオに出てる。難航したので他作業もしながら。

バッジ

追加するバッジを描きます。ノベコレ以外にはバッジは無いので他媒体のためのものも用意しつつ。ここは人それぞれだと思うのであんまり書くことないですね。とりあえずbooth版に置いたアートワークのページでも貼っときます。

▲バッジはこんな感じ。(左)サイズなどはノベコレの規約を見て決めます。

組み込み

組み込みつつ細かい調整をします。やってみないと分からないこともあるのでいろいろ調べつつ。
いろいろ終わったら通してプレイして、各ゲーム掲載サイトに申請して終わりです。テストプレイは何回やってもいいので慎重に。掲載後に実際にサイトで開いて動作確認するのも忘れずに。

記事の感想について

ここだけ見る人はあまりいない気がしますが一応。好きにつぶやいてくださって大丈夫です。本編のネタバレを含む場合はワンクッション挟むなどの配慮をお願いします。

さいごに

全部読んでくれた人も、ここだけ読んでくれた人も。ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。完全に勢いと自己満足で始めてしまったこの「イドコロあれこれ」ですが、とりあえず出せてよかったです。本当に。最近ゲーム案を出しては置いてを繰り返しているのでひさびさに楽しいこと(私だけかもですが)ができて嬉しいです。

今後についてですが、余力があればみつめや樹怪の記事も書こうと思います。こちらはかなりうろ覚えなので短めかつゆっくり更新になると思いますが…また機会があればお付き合いいただけたら嬉しいです。では、改めてありがとうございました~!

R-ion/要餅 2024/04/11 21:06

イドコロあれこれ(没シナリオ編)

ごあいさつ

こんにちは。見てくれてありがとうございます。この記事は拙作【ナツノイドコロ】のネタバレを多分に含みますのでご注意ください。シークレットバッジまで取ってくれた方向けです。

▼作品ページ
https://novelgame.jp/games/show/8617

▼いままでの記事
キャラ紹介編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1114632

シナリオ解説編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1115246

制作のあれこれ編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1116204

はじめに

アプデの過程で没にしたシナリオ二編です。ゲームに組み込む前提で書いてるのでかなり読みづらいと思いますがせっかくなので公開します。ちょっとした裏話つきです。

没シナリオ

染まりゆく灰色

「あー、重い…なんでこんなたくさんあるんだよ…」

「ねー、」

「ありがとなー、幾ノ原。助かった。」

「大丈夫だよ。じゃあ僕行くね~」

「おう、ちゃんと昼飯食えよ~」


「…はあ、」

 もう八月も終わりだというのに、相変わらず忙しい。どうしてこんな時期に行事が集中しているのだろうか。正直あまり興味もないが、周りが盛り上がっているのに自分だけやらないという訳にはいかない。自分だけではないのは分かっている。きっとどのクラスにも数人は自分のような無気力な少数派がいるのだろう。それでもその中の大多数は口を噤んでクラス…あるいは部活動でもいい、そういった枠の中におとなしく収まっている。学校行事というものはそんな小さな犠牲の上で成り立っているのだ。

 蝉の声がうるさい。人混みから離れたと思ったら途端に主張してくるあたり、蝉も人もさして変わらないなと思う…僕も暑さでどうにかなってしまったのかもしれない。昼間の日光に光るアスファルトを見下ろしながら、夏休みを通り過ぎてわずかに柔らかくなった日差しの中で彼の姿を探していた。

 どこにいても聞こえてくるような騒ぎ声もここでは遠くなって、景色に溶け込んでいる。…相変わらず主張の激しい蝉の声にはこの際目をつむろう。静かな場所は好きだ。こんな暑い日は図書室にでも籠りたいけれど、あいにく体育祭の準備期間は開いていない。空いた時間をどうひとりで過ごそうか…自分を含めてそんなことを考えている少数派の人々が困り果てるまでがこの学校の風物詩、とでも言ったところだろうか。
 それはきっと彼も同じだろう。

 体育館の裏、わずかにある日陰のほとりに、赤みがかった髪の少年の影がひとつ。僕は迷わず声をかける。

「緋色くん」

「…先輩、」

 最初の方は微妙な顔をしていたけれど、最近はかすかに笑ってくれるようになった。

「やっぱり、ここにいた」
「みんな同じこと考えるよね。」

「図書室、この時期は開いていないので…」
「さぼり禁止のためらしいですけど…迷惑な話ですよね。」
「涼むためだけに保健室に行くわけにもいかないし…」
「まあ、どれだけ規制してもさぼる人はいるんですけどね…ここに二人。」

「僕もカウントしてあるんだ?」

「ここに来ている時点で同類ですよ。」

「あはは、確かにね。」

 しばらく彼とつるんでいて分かったこと、彼は意外と話好きだ。話を振ればけっこう答えてくれるしおとなしそうに見えて時折なかなかきついことを言う。思慮深くて繊細、でも意外と図太い。彼のことを言い表すならそんなところだろうか。
 その暗い瞳の奥に何を隠しているのか…かなり興味がある。いや、もはや興味とはいえないのかもしれない。言葉を交わすうちに自分が彼に対して抱いているものが、もはや『興味』とは違う何かに変わりはじめていることを自覚していた。ー自分らしくもない、出まかせに言った冗談が、本当になろうとしている。

…でも、今はー

「ー先輩?」
「…昼休み終わりますよ。」

「うそ、もうそんな時間?お昼どうしよ…」

「ちゃんと食べてください。」

「えー持ってくるのめんどくさい…」

「ここで食べるんですか…」

「当たり前でしょ?」

「…」
「じゃあさっさと持ってきてください。2分くらいなら待ってあげます。」

「…えっ、」

「あ、今からカウントします、過ぎたら帰りますからね。」

 緋色くんがスマホを手に微笑む。画面にはきっちりと2分、タイマーがセットされている。いつにも増して楽しそう…だけど今はそれどころじゃない。

「ちょっと待って、」

「廊下は走らないでくださいね」

「ひどい!三年教室って遠いんだよ⁉」

「知ってます。先輩足速いので。」

「だからって2分はない…」

「ほら、もう30秒過ぎてます…1分足してあげるので頑張ってください。」

「わかった、分かったから!」
「ちゃんと待っててねー!」

「…」
(行ってしまった…)

 手元の画面ではタイマーが規則正しく動いている。あと1分半。…あの様子だと本当に時間内に帰って来そうだ。あんなに焦っている先輩は初めて見た。ちょっと面白い。
 気さくだけどマイペース。あまり人の話を聞かない…いつも見ている先輩は言葉で言い表すならそんな感じだ。あれで優等生やっていられるんだから不思議なものだ。自分以外に対してはどんな感じなのだろうか。

(…静か。)

 さっきまで先輩がいた日向の方を見つめる。最近、昼休みを少し楽しみにしている自分がいる。先輩が来るからか、夏が終わるからか…どちらかなんて、考えずとも分かることだ。でもなんとなくそれは言わない。先輩が調子に乗るからというのもあるけれど、それとは違う気持ちもある。もう少し、もう少しだけ…この心地よい『居場所』にいさせて欲しい。そう願わずにはいられない。
 自分勝手かもしれないけれど、こっちもつきまとわれているのだから少しくらいわがままを言ってもいいはずだ。もうちょっと先輩には付き合ってもらおう。

(…あと、どれくらいで戻って来るかな。)

 ずっと開いていたタイマーの画面を閉じる。どっちにしろ間に合わなくてもここに残っているつもりだったし、もうこの画面は関係ない。
 まだ夏の気配を残す空を見上げながら、校舎の方から急いだ足音が聞こえてくるのを待っていた。

藍色と飴の味

ーケガ、どうしたの?

ー大丈夫?

 また、いつもの景色。あの夏の日の思い出。…どうせ夢だ。お兄さんはあの日のまま。なのにボクは、……ボクは…なんだっけ。

ーえっと…ばんそうこう、あるんだ。貼ってあげるよ。

ーほら、手出して…

 ポケットから飴の代わりに絆創膏を取り出して、手を差し出す。ボクは迷いなくその手を取る。傷だらけの白い腕が目に入って、顔をしかめた。そんなものは見たくない。どうせ夢なのだから。ふと顔を上げる。お兄さんの顔が見たい。焼き付けたい。ぼやけて見えなくなってしまう前に…

 そこで、ぼやけてしまう。ボクが本当に欲しいものはこの先にあるというのに。でも、仕方ない。だってそんなやり取りはしていない。そんな優しさは知らない。知らないことを夢に見ることはできない…そういうふうに、できている。

『この先』を掴める日は、来るのだろうか。

「ーー!」

 途端に頭が冴える感覚。どうやら寝てしまっていたようだ。演習問題の解説はもうだいぶ後半の方に差し掛かっている。ぐちゃぐちゃになったノートを前にため息をつく。色あせた現実と三日後の小テストのことを考えながら、手の中のハッカ飴を見つめる。もうちょっと夏が続いたらよかったのに…そんなことを考えていたら、授業終わりのチャイムが鳴った。ノートは真っ白のままだった。


 10分休み。クラスメイトたちがせわしなく椅子を引く音が教室中に鳴り響く。この時間
をどう消費するかは人それぞれだが、今日は単語テストがあるからかみんな単語帳を食い入るように見つめている。ボクはロッカーから単語帳を取り出そうとしているクラスメイトに声をかける。

「ーねえ、」

 名前はーなんだっけ。いつも隣から向けられてくる視線の持ち主…正直関わりたくないけど、この際仕方がない。…どうしても、確かめなければいけない。

「…え?」
「……、ぼくに言った?」

「…うん。」

「「…」」

 沈黙が重なる。周りの音が止んで、時間が止まったみたい。

「…なに、なんか言ってくれないと困るよー?」

「…ぁ、」

「なんか聞きたいことー?課題の提出期限とか?」

 ボクの警戒心を読み取ってか、そっと距離を置いてのんびりとした口調で尋ねてくる。クラスで浮いてるように見えたけど、思ったより友好的に接してくる。単語テストは次の時間だったような気がするが…そんなことは全く気にしていないようだ。

「…えっと、」

「うん」

「…」
「…保健室の、ハッカ飴…買ってるの、誰…?」

「…え、」
「あー…えっと…」
「保健室の若い先生だよ。ほら、いつも事務作業とかしてる…会ったことない?」

「知らない…」

「そっかー」

「…」
「えっと…ありがとう。」

「どういたしまして~」

「…何だったんだろ、いきなり…」
「保健室行くのかな、今日せんせーいないけど。」
「…そだ、単語確認しないと…」

「…」

 またもらってしまった。個包装のビニールを指先で潰す。口の中には甘いような、苦いような。あの日と同じひんやりとした感覚が広がっている。特段好きというわけでもないけど、これは薄れゆくあの日の思い出に浸り続けるために必要なことだ。あの人も、飴じゃなくて絆創膏をくれればよかったのに。そうすれば今頃口の中が口内炎だらけになることはなかった。

「せんせー!」

 いつの間にか昇降口まで来ていたようだ。知った声が聞こえてくる。今彼にはあまり会いたくない。引き返そうかと顔を上げて…

 ボクは、固まった。

「せんせー今日休みじゃなかったの?」

「そんな簡単に休めるわけないだろ。ちょっと遅く来た。」

「あはは、そうだね!」
「ねぇ、ついてっていい?」

「また授業サボるつもりか…」

 遠くから聞こえてくる、他愛もないやり取り。…いや、そんなことはどうでもいい。それよりも、その隣にいる…

「…『せんせー』…」

 …その顔を、ボクは知っていた。

 ーもしかしたら、掴めるかもしれない。

 何度も夢見た、『その先』を。

ちょっとした話

「染まりゆく灰色」

この二人の絡みが見たくて書きました。このシナリオ書くの本当に楽しかった。緋色と灰が送っているなんてことない日常の一幕をイメージしています。お兄さんの本編とは違う一面を見ることができるシナリオとして書きましたが、長いのとセリフ部分が多くサウンドノベル形式向きじゃないということでボツにしました。個人的に気に入っていたのでここで供養できてよかったです。本当に。作者はこの二人の組み合わせが大好きなので。最後の方は作者も「こいつ…」と思いながら書いてました。先輩からの好意をある程度分かっていて翻弄してやがります。悪い奴だ…。まあ先輩もなんやかんや楽しそうだしいいんじゃないですかね。

このへんの日常的な話を書くためにあんまり考えてなかった彼らの高校の設定をやんわりと決めました。念のため真白と藍の学校もちょっとだけ決めていますがこっちは使い道がなかった。まあ真白ほとんど授業受けてないし…藍は保健室にしか出てこないし…でもこういう設定があるとお話に奥行きが感じられていいですよね。私は好きです。詳しくはキャラ紹介編をチェックです。(露骨な宣伝)本当におまけ程度ですが…

「藍色と飴の味」

藍と真白の貴重な絡みが見られるシナリオです。夢オチ好きだな私。真白のお兄さんに対する思いを拗らせた部分を書きたかったのですが、本編と少しズレてしまうのと隠しキャラである藍と出会った前提みたいな部分が強く、「これ初見じゃ分からないだろ…」となったのでボツにしました。ところどころ細かい文章を「呼びかける白」に引用しています。飴の味の表現はお気に入りです。藍と真白は隣の席ですがほとんど話さないし接点も無いに等しいです。でも藍は真白のことが気になってるし真白もそれをなんとなく感じ取っている。今後何か起こりそうでわくわくしますね!

藍を隠しシナリオ以外でなんとか出せないかと考えた結果です。結局これ以上の出し方が思いつかなくて隠しキャラに。藍は10年後の世界線のキャラなので出すなら白シナリオかなと思って…でもこの位置のシナリオの主役は真白にしたかったのと本編・他シナリオであまり出せなかった真白自身(思想的なもの)の掘り下げをしたかったのでがらりと変えました。あとお姉ちゃんとの関係も整理したかったので…今思えばここで方向性変えてよかったと思います。ここの感想をもらえたときは嬉しかったです。

記事の感想について

ここだけ見る人もいると思いますので一応。
全体公開なので好きにつぶやいてくださって大丈夫です。本編のネタバレを含む内容の場合はワンクッション挟むなどの配慮をお願いします。

さいごに

こんな自己満足の塊みたいな記事をここまで読んでくださりありがとうございます。余力があれば今度制作当時のあれこれを備忘録代わりに書こうと思います。ラフとか載せるつもりです。書ければですが…
勢いで始めた裏話記事ですが、最後までお付き合いいただけたら幸いです。よろしくお願いします。

R-ion/要餅 2024/04/10 22:57

イドコロあれこれ(制作のあれこれ編)

ごあいさつ

こんにちは。見てくれてありがとうございます。この記事は拙作【ナツノイドコロ】のネタバレを多分に含みますのでご注意ください。シークレットバッジまで取ってくれた方向けです。

▼いままでの記事
キャラ紹介編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1114632

シナリオ解説編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1115246

はじめに

この作品や原案となった創作とかについてあれこれ語ってます。たぶん一番どうでもいい内容。比較的短めになると思うので気楽にお読みください。

制作のきっかけ

いろんなところで言っているような気がしますが、ティラノフェス2023の応募締め切りまでに2週間ほど時間があってそわそわしており、何か作れないかな~と考えていたところ、ちょうど短編ゲームにできそうな案があった…という感じです。それだけです。なので本編は10日で作りました。シナリオは4日で書きました。ちなみに本作で初めてシナリオを完成させてからもろもろの作業をしました。(いままで同時進行だった)一日にスチル二枚描いたりして大変でしたね…でも楽しかったです。バグ修正の時間がなくて致命的なフリーズバグが残ったまま出してしまったのは反省しております…(今は修正済みです)
もともと密かに動かしていた創作がたくさんあったので(みつめ・樹怪もそう)たまにこんな感じに勢いで形になってしまうことがあります…いつも勢いでゲームを作ってます。でも今回は比較的計画的にやってます。じゃないと10日で作れないので…

アプデについて

本当はバッジとバックログへの文章の追加だけの予定でした。一週間くらいでやる予定だった。無茶すぎる。結局おまけシナリオやら隠しキャラやらがくっついてきて結局3週間くらいかかりました。本編より時間かかってる。まあいろいろ追加できましたし好評だったので良しとしましょう。バッジはほぼ一日で描いた記憶。バックログ追加文章の実装にもあまり苦労はしなかった気がしますが(いろんな解説記事のおかげです…感謝…)おまけシナリオはかなり苦戦しましたね…話として書き上げた没シナリオが二編ありますし…それも次の記事で公開します。副読本に収録するつもりでしたので…あとスチルも灰エンドに追加するだけ(いろいろわかりやすくするため)のつもりだったのにおまけシナリオにも入れたくなったおかげで8枚描くことになったのも大きいです。白のおまけに至っては三枚入れてる…計画性とは。合計スチル数は16枚です。ほとんど背景描かなかったとはいえ制作期間に対して私にしては多い。時間とスペースの関係でCGモードを作らなかったのでどこかでまとめたい。

バッジについて

今作にもバッジを実装しました。各エンドとクリアバッジとシークレット、合計五つです。全て回収していただけたでしょうか。シークレットバッジはまあまあ分かりづらいところにあるのでちょっと心配です…バッジのデザインに入れている花にはちょっとした意味があります。本当にちょっとしたフレーバーテキスト的なものですが…あと、人物のうしろにある四角形の形も真白はそのまま、緋色は少し欠けている…というように、キャラごとに変えています。とくに意味はありませんがデザインに共通点があった方がいいかなって…。
バッジっぽいちんまりとしたかわいいデザインになっていてとても気に入っているので、ぜひ回収してほしいです!取得時の一言もいろいろ考えたので考察してみてください。これは誰のセリフなのか…とか。

取得時の一言、エンド回収時のものは実は全文あります。長すぎるので一言だけにした感じです。せっかくなのでここに収録します。本当に短いですが…

「灰色の結末」
朝7時。いつものようにニュースを見る。朝の特集は昨日起きた事件で持ちきりだ。うちの学校の近くで起きたらしい。知っている町、知らない子。なんてことない、日常の中の悲劇。いつものように誰かが死んで、それを取り上げる誰かがいる…それだけだ。
ーなら、この胸騒ぎは、何なのだろう。

「黒い結末」
夕方四時、部屋に西日が差し込む。少し手が痛くなって目をこする。ぼやけた視界を怯える瞳が貫いた。かわいい愛しい、ただひとりのあなた。あなたはわたしのひとつだけの希望なの。この痛みと汚れでいっぱいの世界の中の、大切なもの…そんなの、ひとつだけ。
ーあなたのことが大好きだから。

「白い結末」
午後三時、今日も飴を舐める。ひんやりとした感触が傷に染み入るようだ。あの人の声が、顔が…口の中で消えていく。ボクはそれを見送ることしかできない。それでもいい。たったひとつの救いは、あの日の幻想。傷も恐怖も消えないけれど、ーそれでもボクは、生きてやる。

原案となった創作

※本編の雰囲気ぶち壊しの内容です。嫌な方は飛ばしてください。





この【ナツノイドコロ】という話には実は原案があります。X見てくださっている方は知っているかもですが…あれです。エイプリルフールのネタにしたやつです。

https://twitter.com/Rionsousaku183/status/1774451601769639971

▲エイプリルフールのポスト。4月1日の嘘は実現しないとかいいますがまあ実現しそうにないからネタにしたわけで…

昔作った「緋に染まる」という創作です。いわゆる黒歴史的なものですが3年近く擦っています。まあざっくり言うとやばい奴だらけの気の狂ったBLですね。いろいろとひどいので内容は詳しく話しませんが…スチルと説明文がすべてを物語っている。というかちゃんとした本編すらないのであんまり話せない。この話はその10年前のif世界線的なものです。ややこしい。
「気の狂ったBLが見て〜」という最低な欲望から生まれた創作です。たぶんこれ考えてたときの私疲れてた。見ての通りまともな奴がいません。もう収拾がつきそうにないので諦めて遊んでいます。創作ってそういうもん。
めちゃくちゃな創作ですが無駄に3年擦ってるのでキャラ設定がやたら細かいです。(キャラ紹介編だけで5000文字くらいある。しかもこれでも全部書ききれてない。)イドコロの原型となるお話自体は結構前から考えていて、これはまだ綺麗だし何らかの形で出せたらな〜と思っていました。つまりはセルフ二次創作。本編の雰囲気台無しですね。すみませんこんな話して…
無駄に擦ってるので話したいことがたくさんですが、きりがないのでこのへんにしておきます…また何か機会があったらお付き合いいただけたら嬉しいです。

記事の感想について

ここだけ見る人もいると思いますので一応。
全体公開なので好きにつぶやいてくださって大丈夫です。本編のネタバレを含む内容の場合はワンクッション挟むなどの配慮をお願いします。

さいごに

ここまで見てくれてありがとうございます。いつもより自己満足色が強いですがちょっとでも面白いと思ってもらえたら嬉しいです。次はアプデの過程で没になったシナリオを紹介する予定です。記事はほぼできてるので早めに更新できると思います。お付き合いいただけたら幸いです。

R-ion/要餅 2024/04/09 19:19

イドコロあれこれ(シナリオ解説編)

ごあいさつ

こんにちは。見てくれてありがとうございます。この記事は拙作【ナツノイドコロ】のネタバレを多分に含みますのでご注意ください。シークレットバッジまで取ってくれた方向けです。

▼作品ページ
https://novelgame.jp/games/show/8617

▼いままでの記事
キャラ紹介編
https://ci-en.net/creator/24466/article/1114632

はじめに

今回はそのまんまシナリオ解説です。だいぶ作者の私情が入ってますがあしからず。ゲーム内だとめっちゃ読みづらいバックログ追加文章も収録しています。相変わらず長いです。ゆるくお付き合いいただけたら幸いです。

ストーリー解説

優しさを知らない少年が公園で出会ったお兄さんと短い間お話をする。それだけです。たったそれだけのことが、真白の人生を大きく変えることになります。二人が過ごした時間はせいぜい10〜20分ほどだと思います。お兄さんにとってはなんの変哲もないひとときですが、真白にとってのこの時間はかけがえのない宝物…と言えば聞こえはいいですが実際のところこのひとときの幻想だけに縋って10年間を生きたというだけです。真白のお兄さんに対する思いは憧れや好意というよりは信仰。おまけシナリオなどで見られるハッカ飴を食べる行為もお兄さんに近づくための儀式のひとつ。真白にとって信じられる優しさはお兄さんから与えられるものだけなのです。

黒江・灰などの登場人物は彼らの姿をより鮮明に描くために出しました。正直なところ最初は出す気はなかったです。他の角度からの物語があった方が面白いかなと思いおまけシナリオでは彼らの視点で話を書きました。他人の視点からしか分からない彼らの一面があるかもしれません。

エンディング解説

黒エンド:「ただいま。」

真白の家のことが分かるエンディングです。通称帰宅エンド。お姉ちゃんの存在感がすごい。いろんなところで言っていますが黒江は思考回路がおかしいだけで真白を痛めつけたいわけではありません。本当です。言動がアレなだけなんです…まあ無意識下に憂さ晴らしをしているところはあると思いますが…忘れがちですが真白を取り巻く環境が悪いのは黒江にも当てはまることで、彼女も被害者のひとりなんですよね、一応。黒江自身も父親から暴力を受けていますし…まあ気にしていないんですけど。でも多分そう思い込んでいるだけで彼女も傷ついていると思います。

この世界線での真白はどうなるのでしょうか。まあ生きているとは思いますが…あそこまでたくましくはならないかもしれない。あとお兄さんに対する依存度も低めになりそうですね。この世界線ではハッカ飴もらってないので思い出の中のお兄さんに近づく術がありませんし…それはそれで健全。…なんかこう話しているともしかして真白はお兄さんと会わないほうがよかったのでは…?なんて思ってしまいます。本当にそうなのかは誰にもわかりません。

灰エンド:「ばいばい。」

唯一の真白が死ぬエンディングです。作者的には本編より前に死んでいた想定で書きましたが、後から考えてみて本編後に死んだことにしても辻褄合うな…と思いました、ここらへんの解釈は各プレイヤーさんに任せます。真白は幽霊だったのか、それとも優しさを知り世界に絶望して死んでしまったのか。それは誰にもわかりません。作者にもわかりません。どちらにしろあの子が死んでしまったことには変わりありませんが…最期に優しさを知れてよかったのかな…

ここからはわりとどうでもいいこぼれ話です。後述しますが作者は灰と緋色の組み合わせが大好きです。(推しカプそこなんかいとか言わないでください…作者が一番そう思ってます…)3年近く擦ったからね。なのでこのエンディングの認識が「二人が出てくるエンディング」でした。ありがたいことに実況して頂く機会があり、その動画を拝見して初めてこのエンディングの後味の悪さに気づきました。ごめん真白。緋色と灰のやり取りは実は最後の方に少し書き足しました(「君にはもらってばっかりだね」辺り)ここで二人の関係に気付く人も多かったと思います。書き足してよかった。ここらへん書きながら「気づいてくれ…このクソデカ感情に…」と念を込めていたので…最後に全部持ってかれた感がありますが…その分おまけで掘り下げました。本当にこの二人大好きなのでぜひ覚えて帰って欲しいです。(図々しい)

白エンド:「またね。」

真白の成長した姿を見ることができるエンディングです。サブキャラが出ないエンディングでもある。堂々と授業サボってますがまあ仕方ないと思います。あの環境ですから…けっこうたくましく成長しています。言動の節々に諦観が見えるのはお兄さんに似ているかも。本編最後で『先生』と会うことになりますがあの表情は一体…『先生』に関するところの解釈はプレイヤーさんに任せたかったのでかなりぼかしました。一応作者の中で答えはあります。いろんな解釈が聞きたいので言いませんが。

このエンディング、実装するかかなり悩みました。なんというか、原案(3年擦った方)に繋がるエンディングなので、いちおうif世界線のこのゲームで軽率にやっていいのか…?という感じで。でもいろんなところで「いいエンディング」と言ってもらえたのでよかったです。初期段階では全部後味の悪い終わり方にしてやろうと思っていましたが一個ぐらい希望が見えるエンドがあってもいいですよね。

おまけシナリオについて

せっかくなのでこれにもちょっとした解説を。いちおうタイトルがあったりします。

「黒い噂と白猫と」

お姉ちゃんを取り巻く噂とクラスメイトのお話。黒江は学校では主に家庭環境のことがあって避けられ気味です。うまく隠していますが、ところどころで異常性が見え隠れしています。あと持っている刃物が全部血で錆びついていたり…こんな同級生嫌だ。白猫であることに特に意味はありません。強いて言えば真白を連想させるものだから。白ければなんでもいいのでは…?

クラスメイトの視点を入れたのは、他人の視点から見た彼女の姿を描きたかったからです。あと名前のないキャラを動かすのをやってみたかった。黒江自身自らの異常性を隠すつもりは無いし、クラスメイトとは平和にやっていけたらいいな〜くらいの気持ちです。なので話しかけられたら普通に接するし授業もおとなしく受けます。真白関連のことになるとおかしくなるだけでわりと普通の中二女子です。そこらへんあんまり書けなかったな…

「灰色の憧憬」

灰と緋色の学校でのひと幕。灰の掘り下げをしたかったのと緋色の本編とはちょっと違う一面を見せたくて書きました。キャラ紹介でも書きましたが灰は自分の立場にかなり疲弊しています。人前ではがんばって取り繕っていますが時折危うい一面が出てきます。言うてまだ高校生ですから…。緋色にも嫌われたくないので取り繕おうとしますがお見通しです。灰の機嫌が悪いのを見透かして「うわっ」て思ってます。でも頼りたいし機嫌の悪い先輩といたくないしで拗ねてます。けっこう可愛いところあるんですよ…本当は緋色の視点も入れたかったのですが、長くなりそうだったので全カットしました。書きたかったな…先輩の機嫌が直ってなぜか得意げにしているところとか…

ちなみに最初の灰の独白の部分は半分くらい作者の体験談です。(どうでもいい情報)なので無駄に生々しいです。すみません。全部諦めてるように見えて嫌な教師を殴ってやろうかと思うくらいの反骨心はあります。さすがにやらないけど。言うてまだ子供なんですよね。こういうキャラのメンタル等身大なところが見えるのが好きで…彼は優秀なのでよっぽどのことがないとあんなことにはならないと思いますが病んでるところが見たかったのでそういうことにしました。すまん。

見ての通り灰は緋色にかなり入れ込んでいます。というか好きだと思う。本当はかっこつけたいけど結局甘えちゃってる。緋色の前では素が出せるのでつきまとっているという感じです。緋色は灰の素の部分しか知りません。よくこれで優等生やってるなと思ってます。でもそんな先輩のことは嫌いじゃないしなんやかんやで絆されています。これからもうまくやっていってほしいですね。できると思うなよ。

「呼びかける白」

家での真白の様子とお兄さんへの思いの話。エンディング「またね。」より少し前の話です。真白が見る夢は基本的に悪夢か存在しないお兄さんとの記憶のどっちかです。地獄かな?いつも暇を持て余して寝ているので夢をコントロールするのが得意。でも悪夢は見るしお兄さんのことはかなりおぼろげです。なかなか思うようにはいかない。薄れていくお兄さんの思い出にかなり焦っています。縋るものがなくなってしまうので必死です。好きでもないのにやたらとハッカ飴を食べてるのはそのせい。味で記憶を思い出すとか言いますからね。

夢の内容ですが、真白がお兄さんに対する思いをだいぶ拗らせていることが伝われば作者的には満足です。まあ初めて優しくしてくれた人だしあの環境にいれば思いを拗らせるのは必然というか…本当はもっと一緒にいたかっただろうし絆創膏も貼って欲しかったんでしょうね…全てを諦めているようで全然諦められていないのがわかります。真白は黒江がいる限り幸せにはなれませんし彼自身もそのことは分かっていますが彼女のことを未だに「お姉ちゃん」として認識しているんですよね…父親のことは「あいつ」と呼んでいるのに。歪だけど彼女なりに愛されてるのは分かっているんでしょうね。認めたくないけど。でも痛いのは嫌だからやっぱり黒江のことは怖い。こればっかりは本当にどうしようもないです。

藍色のひととき

成長したあの子の隣の席の子との穏やかなひととき。白エンドの世界線…10年後のお話です。なんてことのない日常の一幕。でもちょっと不穏なものが見え隠れしているような…ところどころの発言がなんか不穏ですね。
彼は水代藍といいます。(実はバックログ見れば名前が分かる)保健室の常連生徒です。詳しくはキャラ紹介編をチェックしてみてください。(宣伝)構ってくれる『先生』に懐いており、彼が何気に真白のことを気にかけていることにちょっとやきもきしています。ただ構ってほしいだけなのか、それ以上の何かがあるのか…まあここではわかりませんが。

藍くん、たぶん先生とどうでもいい話をできるのが嬉しいんでしょうね。ちょっと事情が複雑で家ではあまり話さないので…昔のこと聞いたり、恋バナしようとしたり…彼も本当は普通の高校生らしいことがしたいようです。

バックログの隠し要素

エンディング「またね。」を回収すると見ることができるちょっとしたお話です。見逃した方も多いと思いますので、ここに収録します。(バックログだと読みづらいですしね…)

再録シナリオ

「目」

 あの日の思い出に浸るとき、まず思い出すのは、赤。それは鮮烈に幼いボクの目を刺した。
 遠い記憶、とうにぼやけてしまったあの夏の日の中でたったひとつ、鮮明に憶えていることがある。ー目だ。その人は暗い目をしていた。暗い、暗い…水の底のような。ここではないどこかを見ているような。それでいて不思議なほど穏やかだった。ー怖い。そのはずなのに、落ち着く…ずっと見ていたくなる。幼心にそう感じていた。

 ーまた、まただ。ボクはあの目に見られている。瞼の裏に貼りついて離れない赤色。名前のわからない花と同じ色。遠い遠い記憶の底から、今もボクを見つめている。揺れる木陰と、蝉の声。揺れる意識に身を任せて目を開ける。何度も繰り返した景色が薄汚れた天井に反響する。ここはボクだけの世界。今日も壁越しの怒鳴り声に耳を塞ぐ。ふいに見えた空は人の気も知らないで晴れ渡っていた。こんな日はよく眠れそうだ。
 今日はどこから思い出そうか。保健室で貰ってきたハッカ飴を握りしめて、ボクはまた目を閉じた。

「死」

死ぬことは怖いこと…お姉ちゃんが言っていた。ボクに会えなくなるからだそうだ。でも、ボクにとってはそれは希望のようなものだった。あそこから解放されるなら、もう誰にも傷つけられなくなるのなら。むしろ喜んでそれを受け入れる。でも、周りは違った。テレビでは連日何かの事件で誰かの死を悼んでいる。「死ぬことは、こわいこと。」ボクはそう思い込むことにした。でも、どうして、こんなにも心がざわつくのだろう。

 誰もいない屋上の入り口の踊り場。辺りには埃が舞っていて座る気にはなれない。かすかに白っぽくなった手すりに体重を預けながら物思いにふける。人間は意外と脆い。この一階の半分の高さの階段からだって、落ちたら充分に死ぬ確率がある。…なのに、ボクはどうして死なないんだろう。
 きっとボクはおかしいんだと思う。…いや、ボクの周りがおかしい、と言ったほうがいいだろうか。受け入れるしかない…あの人はそう言った。きっと軽い気持ちで言ったんだろうけど、その言葉は今でもボクの中に澱のように残っている。誰が見ても異常な、ボクを囲っている地獄。それを知っても、あの人は同じことを言うのだろうか。
 ボクが死んだらあの人は、どう思うのかな。悲しんでくれるだろうか。…少なくとも、クラスの人たちよりは悲しんでくれるような気がする。

だって、あの人はー

「傷」

 常に肌に赤色の線が引かれていること、青紫の染みがあること、体中が軋むこと…それが当たり前だと思っていた。だって、それしか知らなかったから。生まれた時からボクの周りには、ボクを傷つけるものしかなかったから。ーだからだろうか。生まれて初めて心配してくれたあの人が、数分言葉を交わしただけの赤の他人が。何よりも特別なものとしてボクの脳裏に焼き付いている。

 ガタガタと引き戸を開ける音。ここは秘密の場所。誰にも侵されてはいけない、ボクだけの聖域…というほど大層なものではないけど。子供がよく作る『秘密基地』のようなものだ。お姉ちゃんが”あいつ”に呼び出されたときだけ、ボクはここに来ることができる。ここにあるのはぼろぼろのタオルと飴の入った瓶だけ…それで充分だ。ボクを傷つけるものはここにはない。
 ハッカ飴をひとつ、口に入れる。そのままタオルの上に寝転がって飴を転がしながら、ぼんやりとあの人のことを考えていた。ぼやけてなくなってしまいそうな思い出をなんとか掴もうと集中しているうちに外が明るくなってくる。そろそろ帰らなきゃいけない。

 何度でも、あの夏の日を繰り返す。お兄さんに助けられたところからひとつひとつ、記憶を解いていく。ひとつもこぼさないように、大切に抱えている。あの日のハッカ飴のような、この地獄の中の一粒の清涼剤。今日も口の中で転がして、ひとときの幸福を得る。

ーあなたがボクの中からいなくなってしまう、その日まで。

解説

「目」

成長した真白のモノローグ。ある夏の日のひと幕。この話だけでなく、バックログに追加した話は基本的に幼い真白→成長した真白の視点の二段構造です。と言っても幼い方はその頃の気持ちを今の真白の言葉で書き出している…という感じですが。お兄さんのことがずっと忘れられない真白。その中でも特に目が印象に残ったようです。今日も緋色の瞳に見つめられながら、あの日の夢を見る…もはや信仰では?いろんなところで言っているような気がしますが、真白はとにかくお兄さんへの思いを拗らせまくっています。たぶんお兄さんも人間だということを忘れてる。だいぶ妄信的というかなんというか。…これ再会してしまったら大変なことになるのでは?

「死」

真白の死生観のお話。昼休みのひと幕。真白は環境のせいで死に対する抵抗が薄いです。むしろ救いだと思っていたところがある。お兄さんに出会ってそう感じることはそんなになくなりましたが、未だに抵抗は薄いままです。自分が死ぬときに誰かが悲しんでくれたらいいなぐらいに思っています。まあ一瞬救われたところで真白を囲う地獄は変わらないので…たぶん真白は包丁とか高いところとかの『自分を殺せるもの』を見るたびにざわざわするタイプです。魔が差してしまいそうなのをなんとか抑えて今まで生きています。まあそういう人けっこう居そうですが。今までさんざん痛い目にあってきているので人間の脆さも強さもよく知っています。
そういえば、真白の言う「あの人」は誰なんでしょうね。ちなみにこの話はエンディング「またね。」から少し後の話です。

「傷」

真白と秘密の場所の話。ある夜のひと幕。真白はお兄さんに会うまであの環境しか知らなかったので、自分が傷だらけなのを「当たり前」と思っていました。でもお兄さんに出会ってしまったことでそうじゃないことを知ってしまいます。残酷。真白もいちおう頭ではお兄さんがただの他人だということは分かっているんですよね。でもやっぱり「あの人となら幸せになれるかもしれない」という希望を捨てられないようです。というかそれしか希望と言えるものがないのでそれに縋るしかない感じ。もう開き直ってお兄さんのことを完全に忘れてしまうまで縋り続けてやるといった思想になっています。その様子が飴を舐めることとちょっと似ているなと思って重ねたような表現をしてみました。「この地獄の中の一粒の清涼剤」というフレーズはお気に入りです。
真白関連の話によく出てくる『秘密の場所』ですが、特に大きな意味はありません。町のはずれにある誰もいない廃倉庫を真白が勝手に居場所にしてる…みたいな認識で大丈夫です。お姉ちゃんがいるときに逃げるともっとひどい目に遭うので基本的に黒江がいないときにこっそり逃げ込んでいる…という感じです。いつか捕まりそう。やっぱりお姉ちゃんがいなくてもあの家には居たくないようですね。

記事の感想について

ここだけ見る人もいると思いますので一応。
全体公開なので好きにつぶやいてくださって大丈夫です。本編のネタバレを含む内容の場合はワンクッション挟むなどの配慮をお願いします。

さいごに

ここまで読んでくださりありがとうございます。ちょっとでも理解を深めていただけたのなら幸いです。次の記事はほぼ一から書くのでゆっくり更新になると思います。よろしくお願いします。

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