15話:よく分からないけど、大丈夫そうならいいかな
「マスター、美味しかったですか?」
「……うん。美味しかったよ」
料理は美味しかった。
美味しくはあったんだけど、めちゃくちゃ見られた。まぁ、そりゃ見るよね。……美少女が私の食べてる姿を見て、にこにこしてるだけで、その美少女は何も食べない。
ま、まぁ、もう食べ終わったし、この街を出るんだから、別に知らない人にどう思われようがどうでもいいし!
そう考えて、私はセナの手を握り、街の門に向かった。
セナは私に手を握られた事で嬉しそうにしながら、着いてきてくれた。
そして、私たちは街を出た。
街を出たところで、セナが聞いてくる。
「マスター、どこに向かうんですか?」
「取り敢えず、最初にいた街の反対側に行きたいから、あっちかな」
全然そんな気配はないんだけど、私って逃亡中の身だから。なるべくあの街から離れないと。
「セナ、行こっか」
「はい!」
この街に来る時は、セナにお姫様抱っこされて来たから、こうやってセナと手を繋いで街の外を歩くのって新鮮でいいね。
……ゴブリン討伐の依頼を受けた時に、街の外を一緒に歩いたけど、あの時は手を繋いでなかったし。
「マスター、疲れたら言ってくださいね。また、私が抱えて行くので」
「大丈夫……って言いたいけど、その時はお願い」
「はい! 任せてください!」
私の体力がないのは、そんな短時間じゃどうにもならないしね。
いつかはセナに迷惑をかけずに、街から街に移動できるようになりたいな。……セナは優しいから何も言わないけど、あの日、セナが私をお姫様抱っこして、あの街まで行った時、絶対私の胸が邪魔だったもんね。……大きいわけじゃないけど、中くらいの大きさはあるから。
だから、いつかは自分で街まで歩けるようになりたい。まぁ、まだまだ先のことになるだろうけど。
そんなことを考えながら、セナと話をしたりして、歩くこと約一時間。
もう限界。足が痛い。
「セナ、運んでもらっていい?」
「はい! もちろんです!」
セナは私とは正反対の元気な様子で返事をすると、私をまたお姫様抱っこした。
「……セナ、邪魔だったら、おんぶでもいいよ」
胸が邪魔だろうから、私はセナにそう提案した。
「私がお姫様抱っこがいいから、お姫様抱っこにしているんです。……マスターが嫌と言うなら、おんぶにしますよ」
「ううん。セナがこれでいいなら、いいよ」
「はい! ありがとうございます」
セナに運んでもらってる分際で文句なんて言えるわけない。
私だってお姫様抱っこは恥ずかしくはあるけど、嫌なわけじゃないから、セナがそっちの方がいいって言うなら、それでいい。
そして、私はこの前セナに言われたことを思い出して、セナに強く抱きついた。
落ちないようにするために。
この前あの街にセナに運んでもらった時に言ってたもんね。落ちないように強く抱きついてって。
「ふへへ」
「セナ?」
「な、なんですかマスター」
嬉しくて感情が盛れ出したような声がセナから聞こえた気がして、私はセナの名前を呼んだ。
「変な声、出さなかった?」
「き、気のせいだと思いますよ。ほ、ほら、マスター! あ、あっちにオークがいますよ」
「えっ」
オークと言われて、びっくりした私は、セナに更に強く抱きついてしまった。
するとむぎゅうっと私の胸がセナの体に押しつぶされる。
「あっ、んっ……」
「ご、ごめんセナ。痛くなかった?」
セナが苦しそうな声を上げたのを聞いた私は、私が落ちない程度にすぐに力を抜いて、セナにそう聞いた。
「だ、大丈夫ですから! お、オークがいて危ないので、さっきみたいに強く抱きついてください!」
「え、で、でも、痛かったんじゃないの? 変な声を上げてたし……」
「あ、あれは痛かったから上げた声じゃないんです! だから、もっと強く抱きついてください。お、落としてしまったら、大変ですから!」
そう言われた私は、冷静になって考えた。
よく考えたら、セナが私程度の力で痛がるわけないか。
そう考えたら、なんであんな声を上げたんだろう? と気になることはあるけど、私はセナの言う通りにした。落ちたくないし。
「んっ……んへへ」
セナはまたそんな声を上げた。
私はほんとに大丈夫かと思って、セナの顔を覗き込んだ。
すると、いつも通りの可愛い顔があり、私が顔をのぞきこんできたのが不思議なのか、顔を赤らめながら首を傾げられた。
よく分からないけど、大丈夫そうならいいかな。