かりーふらわー 2021/06/28 18:43

ステップバック ~バスケする女子高生は健康で溌溂です~ 00.プロローグ


やだ…びしょ濡れじゃん。

「あ、もう…よりによって何でエアコンが間に合ってないんだよ…」

眠る前の夜中の空気は確か涼しかった。いや、本当。沖縄の夜は涼しいと聞いたけど本当だった。
窓には網戸がちゃんとついていて、防犯用?というよりは台風対策用らしいけど太い面格子も設置されている。窓全開にしたらかなり快適だった。
しかし、今は晴天の6月の午前10時。2度寝したのが間違いだった。
日が昇ってから、気温は急上昇し、サラサラだったベッドのシーツも、部屋着で着ていたたロングTシャツも。
もう汗でびしょびしょ。
引っ越日の前に装着済みであるはずだったエアコンが、理由不明で遅れていて、今日の午後に設置にうかがいますってさ。
午後? 何時ごろに来るのかまでは教えてほしい。

まあ、とりあえず。

部屋から出て、2階の洗面台で自分の寝起き姿を確認しよう。
引っ越して二日目。誰かに会う予定とかないから適当に顔洗って終わりにするけど。

鏡に映っているのはショートカットの可愛い女子高生。
そう。わたくしである。
薄い青色のグラデーションがかかった金髪はエメラルドグリーンに輝くここの海にも似た気がする。昨日飛行機で見下ろした海は本当に綺麗だった。これからはあんな透明な海で海水浴し放題だなんて。窓に顔をひっつけて、一人見とれて感動していた。
沖縄慣れしているママとパパは互いに見つめ合って、相変わらず綺麗だね。と小さく呟くだけだったけど。

少々くねくねしていて、くせ毛も結構生えているけど、私は自分の髪の毛が好きだ。自分で言うのも何だけど、可愛いと思うから。
そして、明るいブルーの瞳。これはパパと同じ。白い肌もパパと同じ。
あ、焼けるのかな。どうしよう。こげ茶色の肌も悪くないとは思うけど、正直あまり焼けたくない。自分の白い肌も好きだから。

冷たい水で軽く洗顔して、1階に降りる。

「ねえ。ママ。ベッドのシーツびしょびしょだけど、どうすればいい?」

1階のリビングもすでに窓全開だったけど、何か2階よりさらに蒸し暑い。
ママはソファの背もたれにぐったりと寝そべた形で…だらしなく伸びていた。
ママと私は体形や顔つきとか、色々似ている。無駄肉のない引き締まった腰にすらりと長い腕と脚。
そう。ママは顔といい、スタイルといい、女優さん顔負けの美人なのだ。
私と違って胸も大きい。何でだ!

「洗濯機に入れといて。後で回すから。エイミの服とかも全部入れちゃっていいわよ…」

ママの後ろを通り過ぎて、冷蔵庫からギンギンに冷えた麦茶を取り出す。

「服はまだいいよ。公園に行ってくる。どうせまた汗かくから。」

「公園?」

ママは寝そべたまま首をソファの背もたれ越しに伸ばしてきた。
逆さになったママの顔が私を見つめる。
ママ。綺麗な顔してそのポーズはかなり奇怪なんだけど。

「昨日、地図で調べてたら、近くに結構大きい公園があったんだよ。そこにバスケコートもあってさ。ハーフコートみたいだけど。行ってみる。」

ママは二コリと微笑んだ後、首を戻して、ソファの上で身をくるりと返す。
今度はちゃんとこっちを向いて話した。

「あ、南グスク公園ね! 懐かしいな。ママも子供の頃よく遊んでたな。丘の下に海も見えるんだよね。でも、バスケットのコートとかなかったわよ。」

私は麦茶を入れたコップを口に近づけながら答える。

「最近、遊具とか全部新しく変わったらしくて、バスケコートも作ってくれたみたい…けほっ!! 何このお茶!! 麦茶じゃない!!」

飲み込んでから気づいたけど、これ麦茶にしては色がかなり薄い。緑茶よりも薄くないか? 化粧品みたいな香りするし。やだ、これ飲んじゃまずい物??

戸惑っている私を見て、ママは腹を抱えて笑い出した。

「きゃははは、それ、さんぴん茶だよ。匂いで気付くでしょ、普通。あははは。」

「はあ? さんぴん茶って何? そんな知らないし。」

疑心暗鬼の目で私はママを睨む。

「内地でいうジャスミン茶だよ。エイミはあまり飲んだことないのかな?」

「今初めて飲んだ。不味い。」

「美味しいのに。ママがもらうわ。冷蔵庫の中に麦茶もあるから、新しいコップ使って。」

黄色の怪しいお茶が入ったコップをママに渡して、新しいコップに今度はちゃんと麦茶を注ぐ。それから、私お気に入りのマスタード色の水筒にも。

「ちゃんと何か食べてね。パパとママはもう朝ごはん食べたから。」

「うん。」

食パンを一枚取り出して、手のひらに乗せる。
それから、冷蔵庫に麦茶を戻し、ピーナッツクリームを取り出す。
冷蔵庫を閉めて、ピーナッツクリームを食卓の上に置くと、空いた手でスプーンをとって、ええっと、これでピーナッツクリームの蓋を開けて…
作業手順がめちゃくちゃなことに気付き、素直に皿を一枚使わせていただくことにする。

ぱくっ!

甘くて香ばしいピーナッツクリームをたっぷり塗った食パンの角を口にくわえて。
お気に入りの青色のバスケットボールと、お気に入りのマスタード色の水筒を入れた肩掛けバッグをかけて。
玄関を出れば、田舎によくある2車線道路沿いの歩道。
6月の日差しが眩しくて暖かくて気持ちいい。

食パンをくわえて走り出す、これぞ女子高生。

なんだろうけど、すぐに走るのをやめ、食パンをかじりながら歩く。
暑いのだ!!
公園までは走って10分。歩いて20分ってとこかな。

視線を横にやると、そこにはエメラルドグリーンの海が丘の下に広がっている。海岸線の近くは明るい緑に近い色で、サンゴでできたであろう岩が点々と見える。少し遠くなってからは筆で白くなぞったような、波が途中で崩れるポイントがある。そこからはまた、深くて鮮明な青色の海が広がる。
とても綺麗だ。
日差しが海の上で散乱してキラキラと宝石のように光る。
実は家からも海はよく見える。
何を隠そう、綺麗な海を眺められると有名らしい南グスク公園と、昨日からの新しい我が家は同じ山の上にあるのだ。

でも、こうやって道を歩きながら見る海と、家の中で見る海とは何だか違う気がする。どっちも綺麗だけどね。
きっと、公園で眺める海もまた違う感じなんだろうね。
うんうん。

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