かりーふらわー 2021/07/03 19:11

ステップバック 01.アホ(1)

大失敗だ。
山の上の公園だし。ここ超田舎だし。バスケコートなんかガラガラでしょ。
と思ってました。すみません。

日曜日の午前。白い雲が漂う爽快な青空。
公園はお子様連れのご家族でいっぱいいっぱい。
なるほど。地元の休日人気スポットということですな。
まあ、丘の下にこんな綺麗な海が広がっていて、最新の遊具もいっぱい。公園自体もかなり広くて芝生も整っている。
そりゃ、皆んな来ますよね。

横目で海を覗きながら、子供でいっぱいの広い遊具ゾーンを通る過ぎると、公園の一角にバスケットコートがある。赤色で塗装されてはいるけど、ウレタンとかではなくアスファルトだ。ちょっと残念。
小さめのハーフコート。ゴールはたった一つ。高さはちゃんと一般用だね。
コートの横幅が足りなくて、サイドのスリーポイントは存在しない。コートの3分の1辺りからスリーポイントラインが伸び始めて、反対側まで円弧を描きながら繋がっている。こう見ると結構狭いな。縦幅も足りていなくて、正面のスリーポイントラインから外側のスペースもかなり狭い。
しかし、狭いながらも、ラインはちゃんと正式な寸法で描かれているんだね。

練習するには十分だ。
ただ、ここも子供達でいっぱいだった。
小学校低学年に見える子達と、ゴムボールで遊んでいる幼児達。ゴールがちゃんと一般公式の高さであるため、リムの中にボールが入るところか、リムに当たるボールすらほとんどない。
でも、子供達はわいわいと騒がしく楽しく走り回っていた。

シュート打つだけなら混じってやれないわけではない。しかし、ドリブルやムーブの練習は、無理だね。

「ごめん。ねえちゃんも混ぜてね。」

申し訳なさそうな表情で小学生や幼児の中に混じる。
でも、引っ越しの準備で1週間もバスケやれてないんだよ。

右足を少しだけ前に出し、コールに向けて若干斜めの姿勢でフリースローの位置に立って、ワンハンドのフォームでボールを抱える。小学生の頃までは私も両手打ちだったな。
ゴール下に子供達がいなくなったタイミングを計らって、ボールを額の前に持ち上げ、すかさず右腕を伸ばしながら手首を下にパッと曲げる。
同時に、少しだけ曲げていた膝を伸ばし、全身をバネのように上方向へと跳ねさせる。体が宙に浮く手前で止めて、爪先立ちのような姿勢になる。

これ、動画で撮って確認しなくても、ステフィン・カリーそっくりのフォームで決まった。

スパッ。

綺麗にリムの中央を通過した空色のボールは、ネットだけを擦り、誰もいないゴール下へ落ちる。

「ねえちゃん、上手い!! もう一回やって!!」

ボールを放った右手を頭の上に伸ばしたまま、フォロースルーしているところで、小さい女の子が私のボールを拾って持ってきてくれた。
可愛い!! 5歳? 6歳くらいなのかな。短い髪の毛を頭の上で集めて、ぽつんと小さい団子を作ってて、可愛いね!!

「ボール持ってきてくれてありがとう。じゃあ、もう一回。」

女の子は私の隣に立って、シュートを待つ。
私は先と同じ動作で、軽く、綺麗に、スムーズでありながらも素早く右手でボールを打ち放した。ちょっと大袈裟だったかな。

スパッ。

「おねえちゃん、すごい!! もう一回!!」

ゴール下ではねる私のボールを、女の子が走って行って、持ってきてくれる。

「あはは、じゃあ、もう一回。」

スパッ。

女の子はまた私のボールを拾いにゴール下へと走り出す。
個人練習の補助で使っているようで、何か申し訳ない。
でも走っていく女の子の後ろ姿が可愛くて眉尻を下げて微笑んでいると、女の子は嬉しい顔で叫び出した。

「すごいね!! おねえちゃん!! 外れないんだね!! ね、ママ!! このお姉ちゃん、すごいよ! ボールが全部入るんだよ!!」

「わー。そうだね、リサ。凄いね!」

周りを見てみると、わいわい騒がしく楽しく走り回っていた子供達が全員止まって、私とリサと呼ばれた女の子を見ていた。
それに、その子供達の両親らしき大人達もコート周りから私の方を見ている。子供達の遊びを邪魔したと思われていないよね。睨まれていないよね。ね?!

「お姉ちゃん! もう一回見せて!!」

「お願いします。リサも見て真似してみて。」

リサのお母さんが微笑んで見せてくれた。

「はい。では。」

リサからボールを渡してもらい、もう一回フリースロー…
ううむ…実はフリースロー2、3回決めて、ミドルシュートに行きたかったな。いつものルーティンなんだし…
でも、私が子供達の間に割り込んで入った訳だし、わがままは言えないよね。

コート上で止まって私を見つめる十何人の子供達。コートの外から、それくらいの人数の大人達もまた、私がシュートを打つところを見ている。
めっちゃ注目されてるよね!! 公園のコートでフリースロー打つだけなのに!!

まあ、でも。
フリースローというのはそもそもコート上にいる全員の注目を集めながら打つシュートな訳で。
躊躇うことなく、ボールを額の前に持ち上げながら、程よく太ももとお尻の筋肉の弾力を使って、体ごと跳ねさせるイメージで。
すっと爪先立ちでボールを放つ。

スパッ。

4連続のスイッシュ。我ながら今日は調子がいい。

「ねえちゃん、やっぱり凄い!! 私も投げたい。教えて。」

リサが可愛さ満点の笑みを浮かべて、私のボールを拾ってきた。
リサちゃんにはボールが重たいですよ。私、女子高生だけど、7号使っていますから。
女子用の6号と比べて、実際は100gも違わないんだけど、投げてみると体感上は結構違うのだ。小学生の5号ボールとは言うまでもない。

私が少し困った目でリサを見ていると、何だかコートの周りが騒ついた。

「おーい。お前らもう十分遊んだろう? にいちゃん達に譲ってよ。」

言い方で誤魔化しているけど、明らかに威嚇している。
子供達はそれぞれお母さんやお父さんの方へと散らばっていった。
リサもボールを私に渡してから、お母さんのところに戻っていく。

「今日はありがとうね。リサも、お姉さんに挨拶して。」

「ねえちゃん。ありがとう。また今度教えてね。」

寂しい表情を隠さず、お母さんの手を握って遊具の所に歩いていくリサを見送った。

「うん。またね。」

子供達が皆んないなくなり、私も一応コートの端に下がった。
そこでボールを腰に挟んで、子供達を追い払って乱入してきた一同の面々を見てみる。
沖縄の太陽に日焼けしている茶色い男子が4、5、6人…体格や髪の毛、服装…見た目からして高校生だ。
結構長身の男の子が2人。ぱっと見、185センチはありそうね。他は170センチ代か、それ以下か。
ヤンキーって感じではないんだけど。コートへの入り方はとても気に入らない。

男子達はコートの端っこに立っている私の存在は完全に無視して、軽くパスを回し、レイアップをしたり、弾いたボールを拾ってそのままミドルを打ったりして遊び始めた。

下手くそ…って訳ではないけど、特に上手い訳でもない。
シュートのフォームは定まっていない、ドリブルはぎこちない、パスは適当。まあ、趣味で楽しむ分には何も悪いことではないんだけど。
バスケのシューティングフォームはこれが正解ってのはないんだけど、一応合理的とされる原理がいくつかある。こいつらのシュートは完全に体の慣れと感覚に頼りっぱなしだ。
ただ1人。185センチの2人中の1人を除いては。

わいわいと騒がしい他の男子と違って、あんまり喋らず大人しそうなツーブロックの男。
短い髪の毛を固定剤を使わず、8対2で綺麗に整えたその男は、まずドライブからレイアップに繋げるステップが安定している。
ボールをリムの上に載せる際の手首、指先の動作も変な力みがなく自然だ。
クロスオーバー、レッグスルーも難なく繰り返す。あいつだけは部活か、クラブかでちゃんと習ってるんだろうね。

「そういえば、ここのネット、ボロボロだったのにまた新品に変わってるんだよな。ほれ。」

下手な方の185センチがゴール下でジャンプして手を上に伸ばす。
185センチといっても、リムを掴むためには結構ジャンプ力要るんだよ。あんなジャンプで届くはずもない。

「くそ。リングは無理か。それだったら…」

懲りずに2度目のジャンプ。
今度はリムを狙うのではなく、その下に垂れ下がった新品の白いネットに右手の指をかける。
コラ、やめて。せっかく新品のネットが痛むから。
下手な185センチは左手も上に伸ばして、両手でネットにぶら下がると、体をグイッと持ち上げてリムにまで登り切った。

「ワハハ! どうだ、これでダンクできるぜ!」

自慢げな彼のドヤ顔で周りの連中も笑い出す。

「ハハハ!! ボール持って登らんとできないんじゃねーかよ。バカか、アハハ!」

プチっ。
もうイライラして我慢できない。
腰に挟んでいたボールを右太ももの前に持ってきて構える。
立っていたコートの横端から軽くジャンプし、手のひら一個分くらい体を浮かせて、額の前に持ち上げていたボールを右手で放った。
途中でボールを止まらせないワン・モーション・シュート。
ボールの軌道は完璧であることが指先から伝わってくる。

「うわあ!! 何すんだ、あの女!!」

空色のボールは綺麗な放物線を描いてリムに吸い込まれた。
私は右腕を上げたままフォロースルーを決める。
慌てて地面に飛び降りた下手な185センチが私を睨んできた。

「あぶねーじゃねーかよ。人がいるのにボール投げやがって。」

はあ?? そっちがそんなこと言える立場??
こっちも呆れて睨み返す。

「あ、そう。まさか、ネットにぶら下がるアホがいるとは思わなくて。」

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