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2021年 01月の記事 (3)

Hollow_Perception 2021/01/31 12:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第二回(Ep.1後半)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 ネタバレ有り記事につき注意。
 前回はこちら




Ep.1「Actualize」後半


・Ep.1後半は初のバトル描写が入ります。

「魔族」と異能者たち

 天上静音の家から帰宅した零が眠りについた後、東岸唯理の視点を描いた場面に切り替わります。(プロローグを除いた)本編ではここが初登場となります。


 なお、場面転換時にこのような二重螺旋状の演出が入ることがありますが、これは、唯理が《観測》の異能によって分離していた視点を自分自身に引き戻したことを意味しています。

 唯理は警察官の呼び出しに応じて櫻岡市の公園に駆けつけましたが、警察官はまるで猛獣に全身を貪られたかのような、猟奇的な死に方をしていました。
 犯人は、唯理が「対象」と呼ぶ存在。
 そうーー呼称こそ違えど、「魔族」はまさしく噂通りの「人を惨殺する化け物」として実在していたのです。

 唯理は「《reIn(リーン)》ーー発現」 と念じて《観測》の異能を発動し、魔族を探し当てたのち、対峙します。
(これは異能を安定して使用する為の自己暗示に過ぎないため、言葉で唱えても、脳内で念じても、どちらもしなくとも異能を発動させることは可能です。)


・先週の記事で述べた通り、唯理の視点を描いているシーンでは零と同じく下段テキストウィンドウが使われています。

 唯理は魔族に対処(具体的には殺害)することを任務として引き受けていました。
 非常に凶暴であり、高い膂力を持つ魔族。
 しかし唯理は、少女らしい華奢な身体つきにも関わらず、徒手空拳の状態で繰り出す格闘術でそれをあしらっていきます。
 プロローグにおける異能覚醒から三年が経過した現在の彼女は、自身の《観測》を高度に使いこなすことが可能となっていました。
 具体的には、敵に対して視点を分離させることで心理を読み取ることで、戦力差を打ち消す情報アドバンテージを得ることが出来るのです。
 無論、心が読めても身体がついていかなければ意味が無いため、体術の訓練も相当に積んできていますが。
 ともかく、魔族の力任せな攻撃をかわしながら追い詰めていく唯理。
 しかし、突如としてそこに介入者が現れると共に、魔族が発火していき、やがて息絶えます。
 対処すべき存在が消失したとはいえ、この事態は予期しないものであった為、唯理は警戒を解きません。

 唯理の目の前に現れたのは、《発火》の力を持つ異能者。
 この時点では名前は明かされませんが、「神了光騎(じんりょう・こうき)」 という軽薄そうな雰囲気の青年です。


 謎の異能者である彼に素性を問いただす唯理ですが、適当なことを言ってまともに取り合ってくれません。
 唯理は、しぶしぶ異能を用いて素性を暴くことにしました。
(彼女の異能はこういった状況下で非常に有用ですが、なまじ良識があるが故に、見知らぬ他人のプライバシーを簡単に暴いてしまうことに抵抗感を持っています。)
 しかし突然、唯理の視界が暗闇に包まれます。
 すぐに視界は回復しましたが、不意を突かれて異能の発動が失敗し、光騎に逃げられてしまいました。
 その場には姿を現していませんが、実はこの視界の悪化は、物陰に隠れていた煌華の異能によるものです。
 後に彼女が異能者として唯理の前に現れた時、(見た目で分かりやすい異能ではないのにも関わらず)唯理が異能者であることを察していたような素振りを見せますが、それは、この時に戦う姿を見ていたからです。
 なお、これは裏設定ですが、光騎の言っている「”アレ”の先約」とは煌華のことであり、二人は恋人ではないものの、性的な繋がりがある「遊び友達」だったりします。

 光騎が魔族を殺した理由は後々に明かされますが、彼の「趣味」です。
 或いは、彼が唯一心から敬愛している、とある少女からの指示でもあります。
(後者は作中では明言していませんが。)

 見失ってしまった光騎に対し、唯理は不審に思いつつも「今は目の前の事態の収拾」が最優先と考え、死体の隠蔽や警察への連絡などを行っていきます。
 実は魔族に関する情報を隠蔽していたのは警察だったのですが(そのため正体がはっきりしないままミーム化していました)、事件の件数が増加してきており「そろそろ隠蔽の限界が来ている」と悟る唯理でした。
 多くの一般人にとって「魔族」というものが「実態のはっきりしない噂」であることは、後の展開に繋がる大きな禍根となっています。(そもそも現時点で静音がその被害者になっていますが。)
 当然ながら、警察や「それに協力する、唯理が所属している組織」は混乱を引き起こさない為に情報を隠蔽していた訳ですから、そう考えると皮肉ですね。

何も変わらない日常

 視点は零に戻り、学校に居る彼の様子が描かれます。
 学校では、生徒たちが昨夜発生した「猟奇殺人事件」(=先のシーン)について盛り上がっています。
 恐怖を口にする彼らですが、あまり当事者感は見られず、どこか他人事のように語り合っています。
 一方で、零は他の生徒達の会話には加わっていませんが、魔族について考察し、「魔族の実在」という「最悪の想定」をより強めています。
 偶然通りかかった通行人が撮影したものであり、僅かな間だけネット上にアップロードされていた「被害者である警官の死体の写真」を見た零。
 彼はそこから「人間はこのような殺し方を選ばない、何か人外的な存在によるものだろう」と考えました。(また、櫻岡市は猛獣が出没するような場所でもありません。)
 魔族について考えれば考えるほど、「魔族を実際に見てみたい」という思いが高まっていきます。
 この時の彼にとって、魔族とは間違いなく「退屈で閉塞的な日常を破壊する希望」でした。
 たとえ魔族によって自分が死ぬことになろうとも、それ以上に、「日常の中で息が詰まるような生活を続け、緩やかに苦しみながら死んでいく」ことを彼は怖れていたのでした。

 そんな零に、いつも通り煌華は声を掛け、とりとめのない会話を展開していきます。


 煌華については後のエピソードで詳しく語られますが、この台詞自体が自虐だったりします。彼女こそまさに、ここで言う「他人に認められること」を求めた人間なので……だからこそ零に惹かれた訳ですが。
 煌華は、「自分を否定している」のではなく「自分の弱さを正しく自覚している」零に対して好意的なことを述べます。
 終始どこまでが真意か分かりにくい発言をする彼女ですが、基本的に、零への好意は全て真実です。実のところ、心の底では大抵の人間を信用していない彼女にとっては珍しく「好きな他人」と言えます……”二番目に”ですが。
 もし零にその気があれば、本作で彼女もヒロインとして攻略出来たかも知れませんね。(※出来ない)

 話題は煌華の動画と魔族に移ります。
「本気で魔族を探しに行こうだなんて思わないで欲しい」と煌華は言いますが、これは建前で、実際はむしろ零をそこに誘導し続けています。
 彼女は魔族の実在を知っている為、零に「魔族の実在を信じているか」と問われると「うーん。どうなんだろうね?」などと曖昧に濁しました。
 ひとまず会話はそこで終わり、シーンが移り変わります。

セカイを壊す日

 学校から帰宅した零。
 彼は学校における他の生徒達を思い出しながら独白します。
「結局のところ、多くの者にとって、無関係な他人の不幸などは他者との話題共有の為の使い捨てコンテンツなのだ」と。
「誰も彼も、自分が世界から置いていかれる側に立つ可能性など、想像だにしない」と。
 そのような救いのない摂理が、「被害者を犠牲にして成り立っている日常」が、零にとって非常に絶望的なものでした。
 この心苦しさが、ある種の自殺願望的な感情をより高めていき、彼はついに「魔族を見つけること」を決心します。


 一応程度に身を守るものを持っていこうと考えた零は、空き部屋を物色すると、何故かアウトドア用のナイフ が見つかります。
 不可解に思いつつも「恐らくは父親にアウトドア趣味でもあったのだろう」と無理やり納得する零。
 これは本作におけるキーアイテムの一つとでも言うべき存在であり、本編のラストにも登場します。
 あまりにも救いのない運命ーーその始まりと終わりを司る物品ですね。

 ナイフを護身用として隠し持ち、家を出ようとする零。
 そこに優利がやってきます。
 なにか不安を感じた彼女は、「コンビニに行くだけ」と語る零に対して「自分も一緒に行く」と提案しますが、零としてはあらゆる意味で優利を巻き込みたくないため、彼女を強く拒絶します。


「お姉ちゃんなんだから心配して当たり前」と食い下がる優利にうんざりし、つい、零は声を荒げて彼女の束縛気質な性格を否定してしまいました。
 しかし、やがて二人とも冷静さを取り戻し、互いに謝ります。
 優利はしぶしぶ納得し、零を一人で送り出すのでした。

 前回でも述べた通り、優利は魔族が存在することを知っています。
 これは煌華も同様ですが、彼女が零を魔族に誘導する立場である一方、優利は「魔族などというものには関わらせたくない」立場の人間です。
 しかし、優利には迷いがありました。
 彼女が零に対して束縛気質なのは、彼や世界を「”退屈な日常”の先にある絶望」から守り通す為です。しかし「他者が”より正しいと考えられる”方向に動いてくれない」という経験を重ねてきた為に、そんな自身の在り方に疑問が生じてきていたのです。
「たとえ自分の目には破滅が見えていようと、他者がそれを望むのならば、その想いに寄り添って尊重してやるべきなのではないか」と。
(この迷いや不安が爆発するのがEp.3となります。)

日常の先へ

 街に繰り出す零。
 このとき一瞬だけ、視点変更を意味する二重螺旋演出が入り、すぐに元に戻ります。


・ここで驚いているのは零ではなく唯理であり、零が魔族との遭遇を試みようと行動し始めてしまったことに反応しています。

 零が人のうめき声を聞きつけて公園へ向かうと、そこでは、同じクラスの男子生徒が化け物に捕食されていました。
 化け物ーー魔族は、次の獲物として零を狙います。
 明らかな異常事態ですが、彼の心は冷静でした。

 自身の弱さを自覚し、世界の絶望を正面から受け止めて苦悩してきた彼は、たとえ目の前に「これから自分を屠るかもしれない存在」が居たとしても狼狽えないのです。

 かくして魔族との交戦を開始する零。
 人体を一撃で砕く魔族の殴打を的確に躱しつつ、撃退する方法を考えていきます。
 そんな中で、彼は自分の内側に「何か」が眠っていることに気付きます。
 


・『ジョハリの窓』とは、自分を「公開された自己」「秘匿された自己」「自分は気付いておらず他人だけが気付いている自己」「誰も知らない自己」の四つに分類する心理学的手法です。
 その未知のエリアに接続した彼は、ある光景を目にします。

 どこか現代文明とは程遠い場所で、「零の知らない零」は鬱蒼とした森林に恐怖し、「世界を見通すこと」を望みました。

 この時はまだ彼は自覚していませんが、このビジョンは「封印した記憶の一つ」です。
 記憶を封印したのは三年前であり、それ以前には普通に現代社会を生きてきた筈の彼ですが、それにも関わらずこのような記憶を持っています。
 この記憶の正体は物語の核心に繋がるもので、Ep.4にて明かされます。

 ともかく、記憶の中の自分自身が抱いた想いを軸にして、零は異能に覚醒します。
 それは唯理の《観測》と同様に、視点を身体から分離させるものでした。
 なお、零が異能者として持つ力は星生と同じく《共振》 であり、「自分自身の想いと他者の想いを同調させる」ことによる異能複製を可能としています。
 つまり異能の根源として、零自身の不可思議な記憶だけでなく他者の存在も必要となってくる訳ですが、この共振対象は、この場に向かってきている唯理です。
 零は「この時点ではまだ出会っていない”筈の"少女」から、異能を拝借しましたーーこれもまた「封印した記憶」の中に真実が眠っており、実のところ二人は友人関係なのですが。

 《観測》の異能を使い、読心なども駆使して魔族との戦いを進めていく零。
 ナイフによって魔族の片腕を傷つけますが、それでも止まりません。
 やがて絶体絶命の状況になり、いよいよ諦めかけます。
 しかし、飛来した銃弾が魔族を撃ち抜き、彼を救いました。
 銃弾を放ったのは、金髪の少女ーー唯理でした。
 


 零にこの場から去るように強く言う彼女ですが、「ここで逃げたらまた日常に逆戻りになってしまう」と考える零は聞き入れません。
 仕方なく、彼を無視して唯理は魔族に向き直ります。
 そして体術によって魔族を制圧してしまうのでした。

 厳しく、或いは感情的に零を咎める唯理。
 しかし零はひどく疲労しており、それどころではありません。
 気を失った彼を唯理は介抱します。魔族の返り血まみれでそのまま自宅に帰す訳にもいかないので、ひとまず自身のアパートに連れて行きます。

・メインヒロインによる膝枕イベントは最高のお約束。
 状況を説明した後、唯理は自身の名を名乗ります。
ーー現状、零が一方的に唯理を忘れている状態であり、彼女にとっては二度目の自己紹介に当たるので、そう考えると切ないものがあります。
(それでも友人であったことを彼女が話さない理由は、Ep.3にて述べられています。愛ゆえに自身の孤独感を押し殺し、そうするしかなかったのです。)
 しかし、無意識下で記憶を取り戻しかけている、或いは記憶の解放へ向かうことを望んでいる為か、唯理に名前を呼び捨てすることを求められると、それをすんなり受け入れます。
 以前の学園パートにおいて、煌華に同じことを求められて結局「煌華”さん”」と遠慮がちに呼んでしまう描写があるのですが、これはその対比となっています。
 ま、負けヒロイン……!(まあ煌華ちゃんはそもそもヒロインじゃないけど……)

 唯理は名を名乗った後、自身が実は零の同級生であったことを明かします。
 いわゆる不登校状態になっていた訳です……その理由は、同様な状況の静音のそれとは全く異なりますが。
 彼女は、魔族と戦う任務を政府から請け負っていることを説明します。
 零が、そんな少女に出会えたことに嬉しさを覚え、「世界が壊されたこと」を実感しながら、Ep.1は幕を閉じます。


・分割版ではここで次回予告が入ります。

……と、今回はこの辺りで。
 Ep.1は完全に、起承転結における「起」ですね。
 各キャラクターの状況を説明しつつ、この先で描かれていく「変化」への導入が描写されます。かなり教科書的な構成の一話かも知れません。
 Ep.3に繋がる伏線が相当ありますが、プロローグの話し相手(=アカシア)や零の深層記憶の正体など、Ep.4に繋がる核心的なものも少しありますね。
 Ep.3の時点で「現代異能バトルもの」としてはあらかた決着が着き、ラストは別の領域へと物語がシフトするので、各キャラクターの苦悩だとか家庭の状況だとかそういう「個人的な課題」は主にEp.3で回収されるんですよね。


 

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Hollow_Perception 2021/01/24 12:00

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第一回(プロローグ~Ep.1前半)

 お疲れ様です、anubisです。
 今週からは、何回かに分けてノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 解説はゲーム中の進行に沿って(EP.1,2,3,4,-の順番で)行っていきます。
 内容を詳細に掘り下げるため、当然ながらネタバレ注意ですが、いわゆる「副読本」のような形でこちらを読みつつプレイするというのも良いかも知れません。
(間接的に、関連作品である『Acassia∞Reload』のネタバレも含みます。)





作品概要

 まず本作は、過去作『Acassia∞Reload』の前日譚に当たります。
『Acassia∞Reload』では静寂に包まれた幻想的な終末世界が描かれている一方、本作は「”現代”異能バトルもの」です。
 はじめ、両作品の接点は明確には見えてきませんが、やがて、現代的世界がその形を変えていく様子が描かれていきます。
 ですが、「『Acassia∞Reload』の前日譚であること」を示唆するような描写自体は導入から展開されているので、それを踏まえた上で、最初のエピソードを見ていきます。

Ep.1「Actualize」(顕現)

プロローグ――櫻岡駅火災事故、或いは全ての始まり


・『ReIn∽Alter』統合版では見られない、Ep.1専用タイトル画面。

 本作の物語は、本編の三年前に起きた「櫻岡駅火災事故」の描写から始まります。
 本作の主な舞台となる街「櫻岡(さくらおか)市」の中央駅を中心にして起きた、原因不明の大火災です。


 そんな危険な状態にある駅に、自ら向かっていく「私」。
 この人物は、本編のメインヒロインとして後に登場する「東岸唯理(とうぎし・ゆいり)」です。
 本作で真に「主人公」の役割を持っている登場人物は唯理であり、故に、彼女の視点から物語が始まる訳です。
 彼女は、どこかから流れてくる、とある人物の「孤独感」を感じ取ります。
 本作は「孤独」をテーマとした作品ですが、まさにそのような想いが導入の時点で描かれ、物語の軸として存在しています。
 その人物とは唯理の友人である「高嶺星生(たかみね・せな)」であり、(詳細は後述しますが)彼女は「他者に想いを伝えて共感させ、異能に覚醒させると共に、自身が同じ力を使用出来る」異能――《共振》に覚醒しています。
 この力により、唯理は星生が感じている強い孤独感を受け取ると共に、「星生を孤独から救い出したい」という想いを核にして「視点を分離させて他者を見守る」異能――《観測》を覚醒させました。
 またこの時、彼女以外にも周辺に居た多くの「素質ある者」=「孤独感への同調が可能な者」が異能を覚醒させました。
 これは裏設定ですが、この時、櫻岡駅には後々登場する「神了光騎(じんりょう・こうき)」という青年が居ました。彼は星生の力によって《発火》の異能を覚醒させると共に、彼の持つ《発火》を星生が「借用」することで、櫻岡駅の火災は発生しました。

 異能によって星生の居場所を突き止め、そこへ向かう唯理。
 自殺を図ろうとする星生を唯理は説得しようとしますが、世界に絶望し切っている様子の彼女は、それを聞き入れようとはしません。

「人は生まれた瞬間に、孤独になる。そうして、死ぬ時にもう一度、全てを喪って独りになるの」

 星生がどのような境遇であったかはこの時点では述べられていませんが、彼女の抱えている絶望感は、この台詞に集約されています。
「救いのない世界に生まれる」辛さ、「救いのない世界で生きる」辛さ、「たとえ少しばかりの幸福を得たとて、結局、死の前では全てを剥奪される」辛さ――始まりから終わりまでの全てに失望した彼女は、友人の言葉を無視して、高所から飛び降り自殺してしまいます。
 唯理は、このとき友人を救えなかった後悔を、一生忘れることが出来ませんでした――。

 そして、プロローグはこんな一文で締め括られます。


 物語のラストにて明かされることですが、実は『ReIn∽Alter』本編の物語は、「本編から七十年後の年老いた唯理が、異能者の少女『アカシア』に昔話をする」という体で語られているものです。
 人間(=非・異能者)を憎む最強の異能者であるアカシアは、人々を殺して回っていました。
 そんな彼女に対して「人間を許す」という選択肢を与えるべく、唯理は昔話をしたのでした。
 ここで言う「もう一つの選択肢」とは、本作や『Acassia∞Reload』のラストに出現する選択肢――「アカシアが最後に残った人間の少女を殺すか、殺さないか」のことを示しています。
 即ち、本作の物語は全て、人間に強い恨みを持つアカシアが「それでも”人間を許す”という選択肢を思い浮かべられたのは何故か」という謎の解明に繋がっていると言っても過言ではありません。

とある少年の、退屈な学園生活

 プロローグ終了後はテキストウィンドウの表示が切り替わります。そして、表向きの主人公の少年――「高嶺零(たかみね・れい)」の視点で物語が描かれていきます。


 これ以降、主人公の視点で描写がなされている場合は下段テキストウィンドウ、主人公以外の視点の場合は全画面テキストウィンドウによる描写がなされます。
 より正確な表現をするならば、「(零ではなく)東岸唯理の視点の場合は下段テキストウィンドウが使用」されています。
 これは終盤にて判明することですが、実のところ唯理は、零に対して《観測》の異能を使用し、彼の視点を盗み見していたのです。

 ともかく、朝、自室で目覚める零。
 彼は櫻岡駅火災事故の悪夢(=プロローグ)に悩まされていました。
 無論、単なる悪夢ではなく、実際に起こった出来事です。
 零は「自分はその場に居なかった、飛び降りた少女のことも知らない」と独白していますが、これは自らの記憶を封印した末の「無自覚の嘘」であり、防衛機制による自己暗示です。
 後(=Ep.3)にて詳しく掘り下げられますが、彼は、その場に居たのでした。
 零が唯理の視点で描かれている夢(=過去)を見たのは、先に零が《観測》の異能と同じ効果を持つ力を覚醒させており、離れた場所から彼女の視点を追っていた為です。

 記憶を封印してこれらの真実から自身の心を守り続けている零は、悪夢を忘れ、目の前の現実を生きようと気を取り直します。
 そこにやって来たのは、彼の”義理の”姉「高嶺優利(たかみね・すぐり)」


 才色兼備で学園の人気者、そして、超絶世話焼きな彼女。
 口癖は「お姉ちゃんだから良いでしょ!」で、面倒臭がる零に対して世話を焼きつつも色々と押し付けがましくしている、ブラコンで束縛気質な姉です。
 三年前から現在にいたるまで零と優利は二人暮らしをしており(優利が養子になったのも三年前)、両親は仕事で別居している……ということになっています。真実はEp.3にて明かされますが、もっと深刻な理由により両親は息子から距離を置いていました。

 優利は嫌がる零を無理やり付き合わせ、一緒に登校します。
 零は内気な性格で、学園――或いは社会そのものに居場所を感じられていません。その為、ひと目のつくところで人気者である優利と共に居るのが(嫉妬を買うため)嫌なのです。しかし、あまり人の気持ちが分からない優利は、零が嫌がるのを気に留めません。

 学校に到着した零は、上級生である優利と別れ、教室に行きます。
 そして授業の開始まで、インターネット上でニュースの閲覧を行うことにしました。
 彼は、世界中の不幸なニュースを見ることを趣味としています。
 それは「他人の不幸を他人事として楽しむ為」ではなく、むしろ真逆で、「”この世の救いの無さ”を理解して実感を得ることで他者の不幸に共感し、自分や他者に降り掛かる絶望に精神的な備えをしておく」という動機のもとで行っています。
 一言で説明しようとするとかなり難解になってしまう心理ですが、要するに彼は、「この世に確かに存在する不幸」から目をそらしたくなかったのです。
 彼は「櫻岡市火災事故」という不幸な記憶は封印してしまっているので、一見矛盾した心理ですが実はそうではなく、むしろ今の性格は「直視すれば壊れてしまうような、不幸な記憶を取り戻して本来の自分に戻りたい」という「自殺衝動」が由来となっています。
 これもEp.3にて明かされる真相ですが、記憶を失う前の彼はわざわざ不幸なニュースなど見たがらない、繊細な性格の持ち主でした。(この趣味はとある人物から影響を受け、引き継がれたものです。)

 そんな彼ですが、最近気になっているトピックは、「魔族」なるネットミーム。


「人食いの化け物」であり、近年発生している未解決の猟奇殺人事件に関連付けられて語られています。
 完全にオカルトですが、零は「魔族は本当に存在するのではないか」という「最悪の想定」をしていました。(これも「絶望への備え」の一種。)
 そして「どうせ絶望させるなら、当たり前のように日常を生きている大多数の者達ではなく、社会に居場所を感じられない自分にしてくれ」とも。

天真爛漫なアイドル

 ネットニュースを読みながらそんなことを思っていると、彼に、とある少女が声を掛けます。


 なんとなく皆が避けている零と、同級生の中では唯一関わりがあるその少女は、「佐咲煌華(ささき・きらか)」
 学生アイドルでもある彼女は非常に陽気な性格で、優利とはまた別の方向性で、学園一の人気者です。
 誰とでも馴れ馴れしく絡み、時には下品な冗談なども言って他者を呆れさせつつも親しみを感じさせる――そんなキュートな少女です。
 一方で零は彼女のことを、「自分に絡む理由が分からない」「他の生徒達の憎しみを買う」などといった理由で苦手に思っていますが。

 煌華は騒がしくウザ絡みをしつつも、ふと、こんなことを言います。

「『魔族』が気になるの? 興味あるの?」

 一瞬、違和感を覚える零ですが、意図は煌華の口からすぐに語られます。
 彼女は世間の様々な話題について言及する雑談動画を投稿している配信者でもあり、「ちょうど魔族を取り上げた動画を投稿したから観てくれ」とのことでした。
「どうせ情報源としては役立たずだろう」と悲観しつつも、零は渋々視聴することにしました。
 なお、煌華が零を「魔族」という存在へ誘導したのは「再生数稼ぎ」以上の意図があってのことですが、それはまた後述。
 登場人物全員が何かしらの秘密と真意を抱えつつ行動している本作ですが、彼女もまた例外ではありません。

 さて。場面は変わり、昼休み。
 零は優利の作ったハイクオリティな弁当を、「姉にここまでされるのは恥ずかしい」と思いつつも感謝して頬張ります。
 その後、煌華の動画を観ることにしたのでした。


 動画の中で煌華は、魔族に関する基礎知識を話していきます。
 3年前から多発している猟奇殺人事件のこと。
 それの犯人こそ「魔族」なのだと疑われていること。
 報道上に確からしい情報が全く出回らないこと。
「魔族が人を殺してるところを動画撮影出来たら再生数が取れる」などという、ブラックな冗談も言ったりしています。
 そんな動画に、零は見入ってしまいました。
 情報そのものに新規性は無かったのですが、煌華の持つ「視聴者を魅了する類稀なる話術」に惹かれてしまったのです。
 隣で動画を観ていた優利は、何か思うところがあるような態度を見せますが、特に話しません。
 温厚な性格の為、物騒なニュースや噂を避ける優利。しかし実のところ、魔族については「それが単なる噂ではなく、確かに実在すること」も含めて知っていたため、そのような態度を取ってしまったのです。

拒絶する少女

 その後、学園でのシーンが終わり、零は帰宅します。
 彼は優利に連れられ、不登校の少女「天上静音(てんじょう・しずね)」 の家に訪問します。
 優利はその世話焼きぶりを発揮し、静音の通学を再開させたがっていました。一方で、零は「そっとしておいてあげた方がいい。逃げたって良いじゃないか」と考えており、あまり乗り気ではありませんが。
 ともかく、静音の家の前に着く二人。
 そこには、誹謗中傷の落書きがなされていました。


 落書きによれば「静音は魔族(=猟奇殺人者)だ」とのこと。
 彼女は単なる学生の少女であり、そんな筈がありません。完全に、いわれのない攻撃です――少なくとも、この時点ではそう描かれています。
 実のところ、これは煌華が人々をそう煽動した結果なのですが、彼女の真意はまた後述。
 落書きを片付けたのち、静音に部屋に招かれる高嶺姉弟。
 

・余談ですが、彼女の部屋にあるペットボトルには、彼女の○○○○が入っています。可愛いね。
 静音は完全に精神的に参っており、”離婚した両親の片割れである母から「早く死んでくれ」と思われているだろう”と語ります。
 ”頼んでもいないのに自分を産むな”とも。
 彼女のこの主張は本作のテーマの一つでもあり、プロローグでも少女が「生まれる絶望」について語っていました。
 本人は不登校、親はパートで働く母しか居ない、猟奇殺人犯扱いされる――そんな状況である静音は、最もこの苦しみを重く感じています。
 しかし、日々を穏やかに生きている優利には、彼女の気持ちが分かりません。
 自分の親に対して否定的なことを言う静音に怒りかける彼女を、零が止めます。
 弱者の気持ちに寄り添える彼は、ただ静音が本音を話してくれたことに感謝し、肯定するのでした。
 零の静音に対する優しさは、彼が「世界の不幸に寄り添い、共感していく在り方」を選んだことによって得た、最も価値あるものかも知れません。
 ともかく一旦落ち着き、飽くまでも「学校には行かない」と主張する静音を肯定する優利。

・零のこの「存在理由」に関する独白もまた、本作全体に通じる話です。
 今日は帰宅することにした高嶺姉弟。
 しかし、静音はそんな二人を引き止め、「アニメを観よう」と言い出します。
 この時観たアニメは『Probability Sky』。こちらもこちらで物語の紹介記事があるので、よろしければご覧下さい。

 アニメを観たあと、帰宅した二人。
 零は母親みたいに口うるさく「風呂に入れ、早く寝ろ」などと言う優利を見て、「母親」に対して思いを馳せます。
 三年前から別居している両親ですが、彼らに関する記憶が曖昧になっていたのです。
 この時は、その違和感について深く考えないようにする零。
 実は、両親に関する記憶もまた、零が自ら封印したものです。
 彼は静音と違い、両親に嫌悪感や不信感を抱いている訳ではありませんが、両親の存在が「彼が最も無かったことにしたい、とある事実」に繋がっているため、連鎖的にその記憶を封印してしまっているのです。(詳細はEp.3にて)
 違和感を無理やり払拭した彼は、今度は「魔族」について考えます。
 煌華の動画の影響で、より強く興味を惹かれた零は、「魔族に会ってみたい」と考えます。

「僕<にちじょう>を、壊してくれ」

 そんなことを、願いながら。
 これもまた、「自殺衝動」によって生まれた感情です。
 零の独白を追うと「世界が変わること」を望んでいるように見えるのですが、その実、彼はむしろ基本的に「自分が変わること」つまり「主観的な世界の変革」を望んでいます。
 彼は穏やかな人間であり、負の連鎖によって人が傷つけ合うことを嫌います。
 その為、物語を通して、少なくとも本人の意思の上では「自身の思うままに世界を書き換えること」は全く望んでいないのです。
 これを理解した上で読み進めると、彼の究極的な願望、そして彼が物語の最後で「あの選択」をした理由が分かるかも知れません。

 ある意味、この作品は「セカイ系を否定する物語」なんですよね。



――といったところで、今週は終わりです。
 序盤はキャラクターの紹介と現状の描写がメインですね。
 次はいよいよメインヒロイン……或いは主人公の登場シーン。
(本作、作者は唯理ちゃんが主人公で、零くんがヒロインだと思っています。)
 

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Hollow_Perception 2021/01/03 14:58

ご挨拶とかイラストとか

 お疲れ様です、anubisです。
 年が明けましたね。まだしばらくは成人向けサークル「虚数神域」の方での活動がメインになるので、こちらは過去作の紹介・解説などを書く場になると思いますが、よろしければお付き合い下さい。
 今週は去年の活動のまとめなんかも書いたので、軽めに終わらせようと思います。

作品関連イラスト

・サンタコスのシェルちゃん


 クリスマスに描いた落書き。
『対象She-11に関する記録』のシェルちゃんにサンタ衣装を着せました。
 季節のイベント、別にそれ自体に興味は無いのですが、「うちの子に色んな衣装を着せる機会」として捉えています。

・牛シアちゃん


 牛柄ビキニを描いても良い流れが出来ていたので、『Acassia∞Reload』&『ReIn∽Alter』のアカシアちゃんに着せました。
 むっちむち!
 作中では絶対こんなことしなさそうな雰囲気のキャラなんですが、そういうキャラだからこそこういうことさせるのがエロくて良いんだと思います。
(作者自ら”原作世界線”と”二次創作世界線”を使い分けている。)

今後の記事のネタとか

・『Probability Sky RPG』解説の完結
 とりあえずこれですね。
 なにぶん「ループしている宇宙の歴史」を描いた作品でありますから、ざっくりとした解説なのにも関わらずかなり長くなっていますが、あと3~4週で完結するのかなと。

・『ReIn∽Alter』完全解説記事
 『ReIn∽Alter』は序盤から膨大な量の伏線を張り巡らせている作品なので、何回かに分けて完全解説する記事を出していこうかなと。(当然ながら既プレイ者向け)
 あんまり自らそういう解説を語るのって微妙なのかな……と思いましたが、このページはいわゆる「公式ファンサイト」的な「作品をより楽しむ為の記事」を出している場所でありますので、まあ良いのかなと。

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