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小説の記事 (11)

宮波笹 2020/09/08 20:35

【小説】俺のヒーロー

キャラメル味のポップコーンをコーラで流し込みながら、ケヴィンはアクションヒーローモノのDVDを見ていた。ソファーの隣では、兄のイアンがいい加減にしてくれとばかりにぐったりしている。
それもそのはず、本日これで3本目だ。

「兄貴何寝てるのー、今がいいところなんだからさ~」

最近の3D技術は素晴らしい。あたかも自分がヒーローとなって空を飛び、ビルからビルへ飛び移ってるかのような追体験をさせてくれる。……が、

「さっきも見ただろ……」
「あれはシーズン2! ここからが面白いところなの」
「どれも同じだろ……」

せめて違うシリーズを見せてくれたら、イアンももう少しまともな返答が出来たかもしれない。精々クモがバッタに変わった程度の違いかもしれないが。

「お前は本当にヒーローものが好きだな」
「兄貴は好きじゃない? じゃあダークヒーローモノは?」

ケヴィンが持ってきた紙袋をゴソゴソと漁る。止めないと今度はダークヒーローシリーズの3本立てが始まってしまう。

そういう問題じゃない……と言おうとしたイアンの携帯が鳴る。時を同じくしてケヴィンの携帯も鳴る。ということは、仕事だ。

「ちぇ、いいところなのにさ」

そう言ってケヴィンはもう10回以上は見たであろうDVDを消す。
イアンが安堵したことは言うまでもない。

「でもまー仕事はしなくちゃね」
「いいのか、正義のヒーローにケンカを売っても」

彼らの仕事はそういう仕事だ。ヒーローとは決して分かり合えない、殺しの仕事。

「いいんだよ、俺のヒーローはここにいるし」

と言って、ケヴィンが兄の肩をバンバン叩く。どこが、と返すイアンだがそういうヒーローも悪くないと思った。

兄は、いつだって弟にとってのヒーローだ。

宮波笹 2020/09/08 17:32

神視点で書いてみた

その方がなんとなく書きやすいという理由でずーっと一人称で書いてました。
ADVだとまずそうなるし。

でも、短編小説だと視点をちゃんと把握して読めるの自分だけだよなぁ。
(だってキャラ紹介もまともにしてない)
視点を理解するときには終わってるもんなぁ。
(名前紹介のタイミングが難しいですね)
と思って、「カワイイ私、カワイクナイ私」は神視点で書いてみました。

……正直神視点って2~3種ぐらいあるみたいで意味わからん。
意味わからんのでまずは「とりあえず書いてみた!」ですね。
とりあえずやる、大事。

二人で対話する話を書けば、もう少しわかるかもしれない。
分からないと、作品をまとめようにも視点がごちゃまぜはさすがに困る。

今たぶん壊れるほど推しても1/3も伝わらないどころか、1/30も伝わってないから。
なんかちょっと物騒な話ってことぐらいしか伝わってないから

もうしばらく「とりあえず書いて作品数を増やす」ターンが続きそうです

宮波笹 2020/09/07 18:30

【小説】カワイイ私、カワイクナイ私

新しいお洋服が届いた。
看護師のアニーは待ちに待ったそれをノリノリで受け取る。
淡いピンクのチェック柄ワンピースをベースに、フリル付きのエプロンがついている。通販サイトで一目ぼれした、特注品だ。

子供が大好きなテディベアにするように、アニーは届いた洋服に抱きついた。
この服にはどんな髪飾りが似合うだろうか。今はツインテールにしている髪をどうしようか。靴もこだわりたい。そんな思いを巡らせる。

また、インターホンが鳴った。
他に注文した覚えはない。奥からドクターが顔を出す。

「アニー、急患ですよ」

ドクターが言い終わる前に、アニーは短く返事をして届いたばかりの服を片付ける。
彼が奥から出てくる理由はほぼ1つ。急患だ。しかも生死の境をさまようほどの重症患者。

そこからは彼らにとっての日常、他から見れば戦場だった。

緊急手術は数時間にもおよび、アニーの着ている服も血やら何やらでドロドロに汚れた。
彼女はそれでもお構いなしだ。これは戦闘服、そして汚れが落ちやすい特注品だ。
丁寧に洗えば、何がついてたか分からないぐらいに綺麗さっぱり落ちるだろう。

ほどなくして死神は去った。というのは、死神のような姿をしたドクターの口癖だ。
アニーは器具を片付けてシャワーを浴びに行く。

シャワー室には大きな姿鏡があった。そこでアニーの目に映ったのは、キズダラケでカワイクナイ自分の姿。
アニーは自分がどうしてこうなったか分からない。過去の記憶がないからだ。ある日急患としてドクターの元に来るより前の記憶が、キレイさっぱり抜けていた。

シャワーからあがり、先ほど届いた服に袖を通す。

そしたらおしゃれでカワイイ、傷一つない自分の出来上がりだ。

宮波笹 2020/09/06 19:24

【小説】冷たいバイオリン

見た人がうらやむほどの豪華な……でも、冷たい豪邸に引き取られたのは2年前だった。
私を引き取った老夫婦の夫は政治家で、子供がいなかった。
そのためか、おじい様は慈善活動に積極的で私以外にも多くの養子を引き取っていた。

出会った日におじい様にハッキリ告げられた。

「お前を引き取ったのバイオリンが弾けるからだ」

と。

養護施設にいたカワイソウな養子を引き取って、彼女が独り立ちするまで立派に支援する。バイオリンは、その実績を披露するのにぴったりだった。

私は……それでも良かった。
理由はなんであれ、私を迎え入れてくれた。戸籍には入れてもらえなかったけど、家に入れ、食事を与え、いいところの学校に転入させ、生活費を工面してくれた。さらに投資と言って高価なバイオリンを買い与えてくれた。
別の理由があるとはいえ、それは並大抵のことではない。

必要とされているのなら……その恩は返したいとおもった。
だから、バイオリンの練習は欠かさなかった。先生の言いつけは守ったし、努力もした……つもりだった。

「君はバイオリンが好きじゃないんだね」

ある日、バイオリンの先生にそう言われた。
やる気があるのか? と聞かれたら私は当然あると答えただろう。それが、私に求められていることだから。それが出来なければ、私はまた……。
でも、好きかどうかは分からない。昔は好きだったのかもしれない。でも、今は……。

その年の冬、おばあ様が亡くなった。私は葬儀に同行するよう言われた。
不謹慎だけど、私は内心嬉しかった。他人を葬儀に呼んだりはしない。少なくとも葬儀に同行を許されるぐらいには私は認められたのだと。

そこで…

「誰かこの子を引き取ってくれないか」

おじい様は、親族に向かってそう言いはなった。

そうか、私はまた要らなくなったんだ。

宮波笹 2020/09/05 19:07

【小説】一夜限りのホテルスタッフ

「じゃーねー、おやすみー」
ホテルスタッフから服を拝借し、中身をトイレの用具室に押し込む。これで俺も立派なスタッフの一員だ。

早速仕事をスタートさせる。
スタッフルームはワタワタしていた。
理由は2つ。4Fのレストランが水道管トラブルで使えなくなったこと。
そして、本日来るVIPが、そこで会食をするはずだったからだ。
俺は早速天からの声とでも言わんばかりに、伝言を伝える。

「支配人から、VIPを12Fのレストランにご案内するようにと」

当の支配人は、今頃雲の上……じゃない、夢の中だ。

ホテルスタッフは大変だ。
今度は夜景が人気の、12Fのレストランにやってきた。
そこでもまた、同じことを伝える。急な変更だが、そこはVIPを相手にしてきた高級ホテルだ。すぐさま準備に取り掛かる。

今度はロビーに出向き、例のVIPが来るのを待つ。
お出迎えじゃない、俺の役目はあくまでも伝言だ。
スタッフに配布されているものとは別の無線機をONにする。

「来たよ、ご到着だ」

後はもう簡単なもんだった。
やってきたVIPは、トロッコのレールにでも乗ってるかのように指定の席まで誘導される。当レストラン自慢の、夜景が見える絶好のポジション。

元々予定されていた窓のない2Fの宴会場ではなく、姿がハッキリと見える狙撃のベストポジション。

そして――

VIP……ターゲットは頭を打ち抜かれ、動かなくなった。
それを確認した俺は、混乱に乗じてその場を去る。

「確認したよ、さすが兄貴」

俺は状況を外にいる相手に伝える。

「いいからさっさと降りてこいケヴィン」
「はいはい」

制服も脱ぎ捨て、ホテルスタッフは引退だ。
あと、水道管の整備業者もね。

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