なつき戦史室 2023/08/20 18:23

NHKスペシャル取材班『ビルマ 絶望の戦場』(岩波書店、二〇二三年)を読んで

NHKスペシャル取材班『ビルマ 絶望の戦場』(岩波書店、二〇二三年)を読んで


本書は、末期ビルマ戦についてのノンフィクション兼取材記だ。元はNHKスペシャルのドキュメンタリーで、二〇二二年八月に放送された内容が今回書籍化された。NHKスペシャル取材班『戦慄の記憶 インパール』の続編で、要は負けいくさの話だ。

個々の内容は興味深いが、まとまりがなく手探りで書かれたような散漫な印象がある。手垢のついたインパール作戦とちがい、あまり触れられることのない末期戦だからだろう。

作戦を中心とするならば、ビルマ方面軍田中新一参謀長がメインになると思う。強権的な作戦指導をしたし、回想録もある。だが、本書はイラワジ会戦もメイッティーラ会戦もほとんど扱ってない。テレビ版を観たとき少し肩透かしを食らったのを思い出した。

その代わりに本書が扱うのは、日本軍の作戦に揺り動かされた末端の兵士や看護婦、現地ミャンマー人だ。とくに、ミャンマー人へのインタビューは、日本語や英語ではアクセス不可能であるので、貴重だ。

ビルマ独立志士の中心人物であるアウンサンは、日本軍が中国で行っている蛮行を知っていたので日本と組むことにためらいがあった。ビルマの民衆も当初、日本軍の進出を歓迎していたが、補助兵士としての強○徴兵や、鉄道建設ための作業員強○提供などウケの悪いことをやった。日本兵が現地女性を強○したと読み取れる証言もある(六十三頁)。日本軍の傲慢な態度を、ミャンマー人は嫌がった。

日本で出版された部隊史(別名:おじいちゃんたちの思い出アルバム)では、ミャンマー人との交流が美化されているが、中国でやっていた悪癖をまたやっていたわけだ。


本の中からは脇道にそれるが、ラングーンの捕虜開放の話も出てくる。ラングーン防衛を任務とする独立混成第百五旅団の松井秀治旅団長はラングーン放棄を独断で決めたとき、捕虜のイギリス兵をそのまま解放した。失礼ながら、この話を見るときいつも意外に思ってしまう。日本軍はこういうとき大体なにかやらかす。

松井秀治将軍は歩兵第百十三連隊長を長く勤めていた。この連隊は第五十六師団に属していて、第十八師団と合わせて悪名高い。昔は『菊と竜』といって九州兄弟師団として褒められていたが、いまでは狼藉(強○・暴行・虐殺)の数々が知られるようになってきている。たしか死傷率も高かったため指揮官級の容疑者もほとんど戦死してしまって、戦後あまり裁かれなかったはずだ。

そんなとこにいた松井将軍が捕虜開放などもっと意外だ。日本軍全般がこれぐらい最低限道徳のある軍隊だったらなあと思う。


本書、『ビルマ 絶望の戦場』は“インパール作戦敗退後の末期ビルマ戦”という、あまり話題にされることのない題材を使って話題を呼んだ。内容はまとまりに欠けるが、戦中世代の最後のインタビューとして価値ある本だと思う。

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