脚本『願いの果実』エピローグ
邦洋(くにひろ 20男)
良平(りょうへい 20男)
浩太(こうた 20男)
香南(かな 19女)
明かりがつく。良平が酔いつぶれて、川辺でぐったりと座りこんでいる。そこに香南が水を持ってやってくる。
香南「あれ、一人にされてるじゃないですか。はい、水ですよ」
良平、水を無造作に取り、飲む。
良平「モー飲めんわい」
香南「牛になってんじゃん。良平!文化祭はもう終わりましたけど!」
良平「終~わった?」
香南「そう。打ち上げも終わったし、終電もなくなったし、みんなタクシーで帰るみたいですよ。良平も、タクシー乗って帰りましょう」
良平「今夜は~月が~きれいでござる……そういうことならバンテリン!」
香南「だめだこりゃ、もはや何の役だか」
浩太が現れる。
浩太「あ、カナ」
香南「もう浩太、良平を一人にしちゃだめじゃないですか。十歩進んだら川の中ですよ」
浩太「ごめん、トイレ行きたくなって、コンビニ探してたんだ。良平は、水飲んだ?」
香南「ちょっと飲んだだけ、モ~飲めないって」
浩太「最後にワインなんか飲むからこうなるんだよ」
香南「わたし、まだ19ですけど、こんなの見たら、20歳になってもお酒飲みたくないです」
浩太「カナが退部した晩に比べれば、マシだけどな。あのときは邦洋が号泣しててさ」
邦洋「おい、浩太。それは言わない約束だろ」
邦洋が現れる。
浩太「あ~、酔った勢いで、つい」
邦洋「じゃあ、こっちも酔った勢いで殴っていいんだな」
邦洋、浩太の胸倉をつかむ。
浩太「どうせなら、酔った勢いで告っちゃえよ」
邦洋「てめえ……」
香南「ちょっと、二人ともやめてよ。これだから酔っ払いはきらい!」
邦洋、手を浩太から離す。
邦洋「よ、酔っぱらってなんかねえよ」
浩太「他のみんなは?」
邦洋「スタッフはみんな、タクシー乗り合わせて帰った。おれも帰りたかったけど、こいつの介抱が必要だからな」
浩太「とか言って。カナがいるからだろ」
邦洋「なるほどな、浩太。鼻の穴から手つっこんで奥歯ガタガタにされたいってか」
邦洋が浩太につっかかろうとしたとたん、良平が口をおさえて去る。
良平(声)「ゲロゲロ~」
浩太「あいつの奥歯ガタガタにしてこいよ」
邦洋「やだよ、気持ち悪い。あいつは蛙か」
良平(声)「ゲロゲロ~」
香南「蛙というか、ウシガエルですよ」
浩太「いいね、カナ、乗ってんじゃん」
邦洋「ウシガエルは、まあ、放っておいてだ。カナは今後、どうするんだ?」
香南「私の今後?」
邦洋「ほら、おれたちのせいで、プロデューサーと、あんなことになったからさ」
香南「岩上のことですか?あいつとは絶交です。金輪際、会わないつもりですから」
浩太「会いたくても、今は会えないところにいるけどな」
香南「え。捕まったんですか、あいつ」
浩太「探偵部の情報筋では、一時的に拘留されてるみたいだ」
香南「あの一件でですか」
邦洋「いや、あいつ、実はDVで訴えられていたらしいんだ。しかし、確たる証拠が無くて、検挙できず。結局、奥さんは子どもを連れて離婚。ところが、岩上は親権を取り戻そうとしてきた」
香南「そんなところまで調査したんですか、探偵部は」
浩太「カナが探偵部に乗り込んでわめき散らしただろ。あれで探偵部のやつら、我が部の威信に関わるって本気になってさ、岩上亮の身元をしらみつぶしに調査したらしい。やつらの推理では、岩上は文化祭に来たアキラを誘拐し、自宅アパートに監禁するつもりだったのではないかということだ」
香南「でも、アキラくんが文化祭に来るって、どうやって分かったんでしょうね」
浩太「何でも、岩上は盗聴器をつけて家の中の会話を聞いてたらしいぜ。その電波をジャックしたのが、無線同好会のやつらだ。探偵部の配下には無数の同好会がいるからな」
邦洋「おい、浩太。その辺にしとけ」
香南「今、思ったんですけど。その情報、文化祭前に仕入れてますよね」
浩太「え」
良平(声)「ゲロゲロ~」
邦洋「さ、蛙も鳴いたことだし、そろそろ帰るとするか」
香南「おかしいと思ったんですよ。どうして、アキラくんが迷子になって、どうしてあいつがアキラくんに会いに来て、どうして演劇部の舞台にいたわたしと会話できたのか」
浩太「やば、リーチ」
香南「もしかして、全部、仕組んでたんですか。あいつとわたしを別れさせるために、何から何まで、あなたたちの脚本だったんじゃないですか」
浩太「ビ、ビンゴォオオオオオオ!」
フォロワー以上限定無料
フォローしていただくだけで無料プラン限定特典を受け取ることができます。