ニーハオ三平 2020/12/07 17:01

Vtuberという作品

私がVtuberとして活動を始める前のお話。

やろうとしていたことがあった。
Vtuberだからやれる。そんな物語が。


終わった世界。衰退した世界。誰もいない世界。
そんな世界にたった一人の少女がいた。

一人で凍え、飢えに立ち上がることもできず、助けてくれる手などどこにもない。
今にも死んでしまうと思われた少女に終わった世界の寄生生物が取りついた。
そこから始まる一心同体の一人と一匹の物語。

少女の半身は黒い泥のような何かに覆われ、
そこからカタツムリのような目と長く伸びた口のようなものが這い出てくる。
寄生生物は男の声で死にかけの少女に話しかけた。
「おい・・・おい…お前。死ぬな。死んだら私も死んでしまう」
「全く。宿主がいないとはいえ死にかけの人間にとりつくとは・・・」
いやはや運がない。そうぶつくさ言いながら伸ばした触手で部屋を漁り始める。

幸運にもそこには死肉を求めてやってきた大きなネズミがいた。
触手でそれを一突きして呑み込み、どろどろに溶かして少女に呑ませた。
しばらくして少女が目を覚ますと自身の体についた泥の寄生生物に気が付いた。

「ようやく目を覚ましたか。早く食べ物を探しに行こう。」
少女は答えない。
「混乱するのは分かる。だが私もお前もこうしなければ死んでいた。」
少女は首を横に振る。
「私のことが怖くないのか?なら一緒に話をしようじゃないか。」
少女は少しはにかんでみせる。
痛々しいくらいにやさしい笑顔だった。

「お前。話せないのか。」
少しの沈黙の後に出た答えに少女はうなづいた。
寄生生物は少し考え、人間のようにため息を一つつく。
「まあ。支障はないか。」
「さあ食べ物を探しにいこう。腹が減って仕方ないだろう?」

少女はうなづき立ち上がる。寄生生物のおかげか足取りは軽かった。
寒さで酷く冷たくなった扉に手をかけ、
痛いほどに冷たいドアノブを回して世界を開く。

雪の山に瓦礫の山。高いビルには亀裂が走り、
ガラスのなくなったいくつもの窓の先は何かの巣穴になっている。
空には大きな鳥が飛んでいて、くるくると少女の上で回り続けていた。

「宿主に名前がないのも変な話だ。」
ふと何かを閃いた寄生生物が語り掛ける。
「ロンリー。ひとりぼっちだから、ロンリー」
「そして私を見ても怖がらなかったたった一人の人間だから」
「お前はロンリーだ。」

こうして一心同体の一人と一匹は旅をする。
ただ生きていくために。ただぬくもりを求めるために。


そんな物語があった。
そしてある「箱」を用意した。
この箱は別の世界に繋がっていて、そこを通して別の世界の人間と会話ができるのだ。

その別世界こそ視聴者がいる世界で、彼らは少女たちの旅路に協力することができる。
少女たちは彼らが「北へむかえ」と言えば北に行く。
そうして視聴者の選択が少女たちの運命を決めていくのだ。

私は本来、寄生生物としてVtuberの活動を始めようと思った。
少女と共に旅をして、視聴者の選択によって変わる未来を見たかった。

しかしあまりに足りなかった。
技術力、演技力、知名度、回線環境。
上げればキリのないほどに問題は山積みだった。
そもそも私はゲームマスターとしてシナリオを動かすのは得意だが、
プレイヤーという主人公には向いていない。
結果として私は普通にVtuberとしてデビューすることにしたのだった。

それからもう一年近く活動をし、多くの出会いと経験を得た今。
そう。今になってこの物語のことを思い出す。

私の物語に主役として活動してくれる存在が、
ふっと見つかった時にこの物語は動き出すのかもしれない。

長くとも一年近くで終わり、世界観を壊さぬような卓越したロールプレイが必要だろう。
私がストーリーを考えるとはいえ、主役も共につくっていかねばならない。
きっとそんな存在は現れないだろう。

でももし、そんな存在がいるのであれば、
私が終わらせることのできなかった物語に結末をもたらしてほしい。

願わくば、素晴らしき存在から連絡が来ますように。
その時はアナタの為にこの物語を再構築しようではありませんか。


ニーハオ三平

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