5話:名前
「今更なんだけどさ」
「どうしましたか?」
「いや、名前聞いてないなって」
ほんとに今更だけど、私はこの子の名前を知らない。
だから、名前を聞こうと、お姫様抱っこを未だにされながら、私はそう言った。
「私に名前はありません」
「え、ないの?」
「私はマスターに作って貰いましたので」
そっか、そういえばそうだよね。……あの時名前を考える余裕なんてなかったし。
「じゃあ、私が名前をつけていいの?」
「も、もちろんです!」
「分かった。……ちょっと考えるから、このまままっすぐ進んでて」
「はい!」
名前なんて考えたことないからなぁ。……真剣に考えないとね。
まずは特徴から考えてみようかな。銀髪で赤い目……あれ? よく考えたら吸血鬼の特徴じゃない? ……いや、そんなわけないか。だって、今、日光の下を歩いてるんだから。
変な事考えてないで、早く名前を考えよう。
「よし、思いついた。……あなたの名前はセナ」
「ありがとうございます! マスターからの二つ目のプレゼントです! 大事にしますね」
「うん。……これからもよろしくね、セナ」
「はい!」
良かった。気に入って貰えて。……正直に言ったら、セナの見た目が吸血鬼っぽいから、有名な吸血鬼の始祖から名前を取ったんだよね。……ま、まぁ、気に入って貰えてるし、いいか。
あれ、そういえばさっき血を吸われたような……い、いや流石にありえないよね。……さっきも思ったけど、日光の下を歩いてるんだし。そんなのそれこそ始祖の吸血鬼だもんね。
「ど、どうかしましたか?」
私が無言でセナの事を見つめていると、頬を赤くしながら、そう聞いてきた。
うん。こんな可愛い子がそんな怖い存在なわけないね。
「ううん。なんでもないよ」
「そうですか?」
「うん。……それより私の事運びながらで疲れない? 疲れたなら全然休んでもいいし、私も歩くよ」
時期に追っ手が来るかもしれないけど、そんなにすぐには来ないと思うし、私はそう言った。
追っ手がもう来てるなら、正直私は体力がないし、運動神経もないから、このままの方が早いから、このままがいいけど。
「大丈夫ですよ。マスターは軽いですし、私がもっとこのままでいたいんです」
「そう? ならいいけど、疲れたら正直に言ってね。怒ったりしないから」
「はい! 分かりました。」
無理をさせたい訳でもないしね。
「あ、そういえばなんですけど、マスターの名前を聞いてもいいですか? マスターはマスターですけど、知っておきたかったので」
私の、名前……私の名前は……
……もう、あの人たちを自分の親だとは思えないし、あの人たちに貰った名前なんて要らない。だから、新しい名前を自分で考えようと思ったけど、今はいいや。
「私の名前は無いよ。私は、セナのマスター。それだけで充分でしょ?」
「確かに、そうですね。マスターはマスターです!」
セナがそう言ってくれるのは嬉しいけど……自分で自分のことをマスターって言うの恥ずかしいな。
もちろんセナに言われるのはいいんだけどね。