初めてでもYouTubeやニコ生向けに配信音声のラウドネス設定を無償の範囲内で作れるリファレンス
はじめに
YouTubeやニコニコ生放送でライブ配信をしていると、自身が思っているよりも音声が小さくなっていて視聴者から指摘を受けるということがしばしばあります。
これは多くの場合、配信内の音声について大小の幅が大きすぎる故にベースとする音量を小さくしてしまっていることに起因します。
またその逆に、急に大きな音を出した際に配信の音声が消えてしまう(本来の語意と異なりますが、俗に "ノイキャン" などと揶揄されていることもあります)現象に遭遇した方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、そのような配信音量に関する問題を解決する為、初めての方向けのリファレンス構成をまとめていきます。
なお、本記事で解説する範囲はあくまでも初めての方が無償ソフトウェアのみを使って構成する際の参考情報です。実際にはより高度なVSTプラグインを購入するなどして実現することを推奨します。
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前提
- Windows 11
- 執筆時環境は
Windows 11 Pro 22H2 22621.1702
です
- 執筆時環境は
- Element
- 執筆時環境は
v0.46.6
です - ElementについてはOBSで疑似的にBusトラックを作りラウドネス分析や複雑なエフェクトを実現するの記事を参照してください。
- 執筆時環境は
- Youlean Loudness Meter
- 執筆時環境は
V2.4.3
です - Youlean Loudness MeterについてはOBSで疑似的にBusトラックを作りラウドネス分析や複雑なエフェクトを実現するの記事を参照してください。
- 執筆時環境は
- Kilohearts Essentials
- 執筆時環境は
2.1.0
です
- 執筆時環境は
Kilohearts Essentialsとは
今回利用するKilohearts Essentials
は、スウェーデンのKilohearts ABが提供するプラグインバンドルです。
会員登録をすれば、Kilohearts Installer
から30を超える高品質なVSTを導入することができます。
Kilohearts Essentialに含まれるVSTは無償で利用できますが、より高度な追加VSTプラグインを利用したい場合、買い切りのKilohearts Ultimate Bundleや、サブスクリプション型のKilohearts Subscriptionを購入することもできます。
この記事で利用するVSTプラグインは、
のみであり、これはEssentialsに含まれる無償プラグインです。
想定する配信構成
今回は所謂ストリーマー活動における配信を想定します。具体的には、
- ゲームやBGMに相当するトラック
- ストリーマー自身の音声に相当するトラック
の2つを持つ形式です。
要はこういう感じ
1. 素材となるスピーチを収録する
下記2つの収録をし、保存します。
- 最も小さなスピーチ
- ストリーマー自身の発声の内、配信上で発生しうる、かつクリアに聞こえていることを期待する音量で収録をします
- いわゆる "小声"、"囁き" をメインコンテンツとして据えない限り、これは自然に発声しうる中での "小さい声" の範疇に留めるようにしてください
- 最も大きなスピーチ
- ストリーマー自身の発生の内、配信上で発生しうる、かつクリアに聞こえていることを期待する音量で収録をします
- いわゆる "叫び声" などが発生する場合はそれを、そういった音声が発生が起き得ない場合は自然に発声しうる中での大きな声にしてください
音声の収録方法
配信で利用するハードウェア構成で収録しましょう。エフェクト等を掛けず加工前の状態で保存することを強く推奨します。
音声収録で日常的に利用しているツール(DAW等)が無い場合、
- Windows ボイスレコーダー
- そのままのファイル形式ではElementで利用できません。用途的にCloudConvertなどで構いませんが、なんらかの変換作業が必要です
- ボイスメモ
- Adobe Audition
- Audacity
- SoundEngine
などの利用が可能であれば、それらで問題ないかと思います。
2. VSTホストで収録した音声を読み込む
収録したスピーチについて、お使いのVSTホストに読み込んでください。今回はElementの利用を想定します。Elementには Audio File Player
というプラグインがビルトインされていますので、こちらを使うとよいでしょう。
この時点で Loop
を有効にしておきましょう。
まだPlay
をクリックする必要はありませんが、このあと検証の際では再生されている必要がありますので、今の内にクリックしておいても構いません。
この操作は収録したスピーチ2種類それぞれで行う必要があります。
設定例
3. BGMやゲーム音声を読み込む、またはキャプチャする
2と同様に、VSTホストアプリにゲーム音声やBGMが取り込まれた状態にしてください。
(OBS等を経由し)常に音声が入力され続ける状態にしても構いませんし、先程の要領でBGMをファイルとして設定しておく形式で再現しても構いませんが、配信と同じ音声やキャプチャ時のボリュームとなるよう注意してください。
例として、今回はファイルを指定してみました
4. 一時的に検証用ファイルで入力を置き換える
通常は配信用のソース(キャプチャ)をElement上でInputとし、Audio Mixerへ接続するような形式を取っているかと思います。
このInputについて、さきほど2で設定した検証用のものに置き換えます。
今回は2種類の収録をしているので、後続のステップではそれぞれで検証を行う必要があります。まずは 最も小さなスピーチ
を接続しておきましょう。
また3でBGM等を(本番で利用するソースではなく)ファイルなどで再現する判断をされている場合、同様に差し替えをしてください。
設定例。あくまで一時的なものです。
5. ラウドネスメータを追加する
Mix済みの音源をラウドネスメータで分析できるようにします。今回は Youlean Loudness Meter 2
を前提としますが、普段お使いのものがあればそれでも構いません。
設定例
6. Dynamicsを追加する
具体的にどのような値を目指すべきかは個々の好みや配信の性質により異なりますが、
SHORT TERM
やINTEGRATED
が配信先サービスの基準となる値を越えていないこと。またそれを下回りすぎないこと。- YouTube等の場合は
-14.0 LUFS
が現時点の基準値であるとお考えください
- YouTube等の場合は
TRUE PEAK MAX
が-0.1 dB
を越えないこと。また下回りすぎないこと。
を全体を通してのひとつの目安とお考えください。
上記の範囲内へ音声を調整する為、Dynamics
プラグインを追加します。
6-1. プラグインを接続する
kHs Dynamics
という名称で利用できます。挿入すべき位置は、音声のInputとAudio Mixerの間です。
設定例
6-2. 初期設定をする
ここで行う設定は、あくまでも初めてこの作業を行う方であり、かつ対象とする音声がストリーマー自身の声であることを前提としています。
そのような前提において、下記に記す項目の値は下記のとおり決め打ちにしてよいでしょう:
Low Ratio
: 1.0:1- 最も左下にある
〇
をデフォルトのままにすればOKです
- 最も左下にある
High Ratio
: 30:1- 最も右上にある
〇
をドラッグし、可能な範囲の最も下まで下げればOKです
- 最も右上にある
Attack
: 20%Release
: 200%Knee
: 2.5 dBOut Gain
: 0.0 dBMix
: 100%
また、続くステップで変更する内下記2つの値についてはこのように変更しておいてください:
High Threshold
: 0.0 dB- 右側の縦線をドラッグし、可能な範囲の最も右まで動かせばOKです
Low Threshold
: 0.0 dB- 左側の縦線をドラッグし、可能な範囲の最も右まで動かせばOKです
まずはこの状態を作ってください
7. モニターしながら、最小値の調整をする
各Inputについて再生された状態にし、ラウドネスメータを見ながらモニターしてみましょう。まずはこの状態で聴こえる音声を最小での基準とし調整をします。
7-1. BGMやゲーム音声を小さくする
多くの場合、BGM相当によってストリーマー自身の声がかき消されてしまっているはずです。Audio Mixer
の当該トラックで音量を小さくしましょう。
この時点で値を決定することは難しいかと思いますので、まずは日常的に動画を視聴する際のスピーカー/ヘッドホン音量にて大体動画BGMってこのくらいかなというモニター時音量まで下げれば十分です。
設定例。黒いバーを下方向にドラッグし、耳を頼りに-xx.xx dB
のような表示にすればよい
もし自身の声質に合わせて細かくミキシングする場合は、ご自身の使い慣れたプラグインで調整してください
上記を行ったら、ラウドネスメータの値を一度リセットしてください。
この✖ボタンです
7-2. スピーチのゲインを上げる
ラウドネスメータの値を確認しながら調整していきます。
具体的にどのような値を目指すべきかは個々の好みや配信の性質により異なりますが、今回は例として、最小値として
SHORT TERM
が-20.0 LUFS
を下回らないTRUE PEAK MAX
が-0.3 dB
を越えない- 自身の声が聴こえる
を目安としてみましょう。全てが当てはまるなら、ゲインを上げる必要はありませんので次のステップへ進んで構いません。当てはまらない場合、スピーチの音量を上げていきます。
In Gain
を上下にドラッグすれば、音量が変わり SHORT TERM
等の表示も変化することを確認できるはずです。
設定例。環境やご自身の声質により値は大きく変わるはずです。
必要に応じ、BGMの音量も再調整したり、改めてラウドネスメータの値をリセットしながら確認してください。
8. モニターしながら、最大値の調整をする
次に、最大値の調整を行います。
8-1. 検証用ソースの差し替えをする
現在検証用の音声として 最も小さなスピーチ
を利用しているかと思いますので、これを 最も大きなスピーチ
と差し替えましょう。
設定例
8-2. スピーチにコンプレッサーを掛ける
ラウドネスメータの値を確認しながら調整していきます。
具体的にどのような値を目指すべきかは個々の好みや配信の性質により異なりますが、今回は例として、最大値として
SHORT TERM
が-14.0 LUFS
を上回らないINTEGRATED
が-14.0 LUFS
またはそれに近いTRUE PEAK MAX
が-0.1 dB
を超えない- 音割れリスクを恐れる場合は
-0.3 dB
を目安としても良いでしょう
- 音割れリスクを恐れる場合は
- BGMが辛うじて聴こえる
を目安としてみましょう。
現時点で INTEGRATED
の値が常に -14.0 LUFS
を下回る(-20
に近いなど)場合、7
で行った In Gain
の値を上げて -14.0 LUFS
へ近づけるようにしてください。コンプレッサーを掛ける必要はないと考えます。
この逆に現時点でひとつでも当てはまらず、かつ SHORT TERM
の値が -14.0 LUFS
を一度でも上回ってしまう場合、このステップに従いスピーチにコンプレッサーを掛けていきましょう。
設定例
具体的に行う作業は、Low Threshold
とHigh Threshold
の両方を同時に動かし、ラウドネスメータ上の値を -14.0 LUFS
へ揃えていくだけです。縦線のコントロールを左方向へスライドさせればOKです。
9. 接続を元に戻す
ここまでで利用していたのは検証用の音声なので、これを元のInputから取るよう元に戻してあげてください。
設定例
なお、これで検証用の音声は不要となりますので、2
や3
で追加したAudio File Player
があればElement上から削除して構いません。
10. 調整する
最終的に、自身が声を吹き込んだりBGMやゲームの操作を行いながら調整を行ってください。具体的には、
SHORT TERM
の値は-14.0 LUFS
を目標とし、上回らない範囲で近い値となるINTEGRATED
の値は-14.0 LUFS
を目標とし、上回らない範囲で近い値となるTRUE PEAK MAX
の値は-0.1 dB
(または-0.3 dB
)を越えないようにする
を意識するとよいでしょう。これらの値を踏まえ、自身の感覚で問題ないボリュームバランスを作ればよいかと思います。Audio Mixer
のボリュームや、Dynamics
のIn Gain
とHigh Threshold
およびLow Threshold
を調整してみてください。
ちなみに
今回 6
から 10
にかけて行った作業はあくまで無償にて利用できるプラグインを用いて実現可能な範囲の基本的な設定を行ったにすぎません。また、現実には配信中も都度状況に応じた調整を行うべきです。
下記のような製品を利用することで、これらの作業をより簡潔にし、またさらなるクオリティの向上も図ることができます。
ある程度配信経験を積んだら必要を実感することがあるかと思うので、検討してみてください。
おわり
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