過激派山上砦攻略戦 シスカーSIDE
その日、私達騎士団に出撃命令が下されました。
それは、ソルディア北方、ドミクナ山上に建設された過激派の砦の攻略。
団長自ら指揮をとる…その情報だけでも、今回の困難さはわかるというものです。
そして、今…騎士団はその砦を目前にしていました。
そびえる砦、そして我らの前面に展開された過激派…数は見積もって200。
完全な籠城にしないことで、水の出や補給を守っているのでしょう。
「敵の様子はどうなっているんだい?」
その敵の様子を見た団長が、私に問いかけました。
「敵は、山上の砦を中心に部隊を展開してます。その数200……」
私の報告に、「なるほど、大軍だね…真正面からではこちらも大損害を出しそうだよ。」…と、団長は厳しい表情で答えました。
違う、団長はそれだけを聞きたいわけじゃない…
私の意見を待っているのです。
それなら…と、私は口を開きました。
「ここは、この本隊からは魔導師隊の魔法で砲撃を仕掛けつつ……」
私の眼は、敵左翼に向いていました。
報告では、敵に最も装備が貧弱な部隊がいる場所…そこを崩せば敵も混乱するはず。
「あの位置から別動隊を突入させる必要はあるでしょう。」
私が指さした個所に団長は向き、「なるほど…」とうなずいたその時だった。
「だが、問題はそこではありません。」
…と、それまで後ろで斥候から報告を聞いていた副長が割って入る。
驚いた団長に、副長が先ほど聞いていた報告の内容を披露する…
なんと、砦の裏手に冒険者部隊が布陣している…
「……!指揮している冒険者はわかりますか!?」
副長は私に教えてくれました…その部隊の指揮を取るのは、あのソード。
私の友達にして冒険者…その知略に定評があるライバルです。
そのライバルが、ただ友情で助けに来るはずもなく、位置は我らの反対側…
「団長、冒険者部隊は味方ではありません。恐らく漁夫の利を狙ってくるはずです」
ソード達は自分たちの損害を一切出さずに、こっちが戦い始めたところに突入する…
だから、反対側に配置して我らの攻撃開始を待っているのだと想像できました。
「ソード…あの子は母親に似て、知略にたけているからね。」…と、ソードの母を知る団長は、納得してくれたようでした。
「ここは、彼らに先に砦内部を攻撃させる必要はあるでしょう。」
ソード達に砦内部で戦ってもらい、私達はその戦闘をすり抜けて、最短距離で敵の指揮系統を制圧する…つまり、漁夫の利の仕返しです。
騎士らしからぬ作戦に団長は即答は避け、副長は「シスカー、わかっているのか。我ら騎士は正々堂々と構えてこそ…」…と怪訝な表情で返してきました。
しかし、私はソード達から学んだのです。
「個々の戦闘力なら、冒険者の方が上です。それに…我々騎士の本分は護る事。
時に駆け引きを行い、損害を減らすのもそれに繋がりませんか?」
実利よりも名誉を重んじる騎士団としては、きっと失格かもしれません。
しかし…
「私は、彼女ら冒険者からそれを学びました。団長!」
その言葉を聞いた団長は、私の方を見ました。そして…
「シスカーの意見を容れよう。具体的にはどう攻めるべきかな。」と聞いたのです。
その後の話は順調でした。
「出来るだけ派手な魔法を魔導師隊に使わせましょう。」
と、意見する私に「山の下に布陣している敵前衛を崩す必要もある」と副長がフォローしてくださり、話はまとまりました。
「左翼、右翼に展開している部隊で、敵前衛部隊を突撃にて打ち破る」という団長の指示に、すかさず副長が伝令を走らせ…
我々本軍は、魔導師隊を魔法の射程範囲まで送り届ける…と団長は皆に告げました。
魔導師隊、左翼及び右翼が敗退すれば我々の敗北だ。頼んだよ、みんな!…そんな団長の言葉を受けながら、私は槍を手に持ちました。
あの砦の向こうで、きっとソードもフィレスも考えているはず。
しかし、今回はあの子たちに報酬を与えるわけにはいかない…
「承知致しました!」
町のみんなの安全を…そして、未来を守るのは、我ら、誇り高き騎士団なのだから!