夢幻台 2024/04/28 13:03

「ルクトクスの刻印」から感じた、フリーゲームの1つの形。そして懺悔。(後編)

この記事は後編になりますので、前編から読むことをおススメします。
↓前編はこちら。
https://ci-en.net/creator/12543/article/1129950

ダークアイビスさんと一緒にゲームを作るようになったのは共同制作作品「クロックルーラー」のアドバイザーとしてお願いされたのが最初でした。自分にアドバイザーという立場は大丈夫なのかな…と思いながらも引き受けさせていただきました。自分は基本的に「『よほどの事がないならば』好きなように作ったらいい」のスタンスなので「アドバイスはするけど聞いても聞かなくてもいい」「誰が見ても直した方がいいレベルでなければ口は出さない」ように考えていました。

制作が進んでいくうちに「ストーリーが分かりにくい」というのは感じるようになりました。必要なところで説明が少なかったり(前編で書かせて頂いた「エクストリーム瞬間理解」がこの作品でも発動するのでキャラ達は全て分かっている)、いざ説明を入れるとその説明内に新たな展開や設定が出てきて「説明に説明がいる」状態になったり。あとは後のルクトクスの刻印でも感じた「誤字なのかネタなのか独自用語なのか分からない表記のブレ」も結構ありました。さらに付け足すと登場キャラの設定(主に口調)が出てくるたびに変化していくのでキャラの特徴が掴みにくい、というのも感じました。

本作を制作するにあたって、ダークアイビスさんの過去作に付いていたレビューも読ませてもらい、そこにはストーリーの難解さと独自文法(誤字?)に関する指摘が結構あって、このまま出すとまた同じ指摘をされるだろうから…という事で、こちらとしても考えさせていただき「散らばり過ぎたストーリーと説明を整理すること」と「キャラの特徴はブレない方がいい」という事に関してはお話しさせていただきました。

そこからさらに制作が進んでどうなったかと言うと「散らばり過ぎたストーリーの整理」は「その散らばったストーリーを説明するための新たな設定の爆盛り」に、「キャラの特徴の統一」は「特徴がブレていることを納得させる設定の追加(過去の事件が元で性格が不安定になった、など)」となっていました。まとめようとアドバイスしたらさらに風呂敷が広がっていた、という感じでした。正直頭を抱えました。最終的には自分がストーリーやキャラ設定の風呂敷をまとめる役割をさせてもらって、綺麗…かどうかは怪しいですが1つの作品としてまとめることはできました。ですが今思うとそれはダークアイビスさんにすごく申し訳ないことをしたんじゃないか、と思っております。

散らかったものをまとめて1つの形にした。これについて自分が間違った事をしたとは思っていません。結果としてクロックルーラーは完成し、ききのここさんの美しいグラフィックや、通りすがり犬さんのマップセンスや動画技術のおかげもあって、新人フリコンで佳作を受賞し評価されました。実はフリーゲーム夢現で5レビュー以上を獲得し、中には手厳しいレビューもありましたが年間フリーゲーム大賞2023へのノミネートも果たしています(2023年で、フリーゲームかつレビューが5つ以上付いた作品は実は30作品もない希少枠です)。でもそれはダークアイビスさんが望んだことだったのか?ダークアイビスさんが本当にやってほしいことだったのか?「ルクトクスの刻印」をプレイした今なら分かるのは「ダークアイビスさんが望んだ作品とは違う形にしてしまったのかな?」という気持ちです。

ダークアイビスさんにしてみれば、この散らかり具合、キャラ設定のブレ、独自文法がたくさんある世界こそが良しであったんじゃないかな、と。それらの変更を提案した時に、直すことにあまり乗り気でなかった(ように感じた)のも、ご本人としてはこれがいいと思っているんだから直す必要がない、と感じたかも…と考えています。「万人受け」の名のもとに、ある意味無理やり変えてしまった形になったかもしれません。その事に関しては本当にすみませんでした…と言いたいです。

前編でも書いた通り、格ツク作品にはそういう、取っ散らかった世界観、ぶっ飛んだバランス、ブレブレのキャラ設定など、フリーゲームならではのフリーダムがありました。そこに理屈や意味や辻褄は必要ない。「誰が分かる?オレが分かる!」「誰が許す?オレが許す!」の力技。そしてそのハチャメチャさが評価され中にはコンテスト受賞にまで至った作品もある。自分が世間に合わせるのではなく「自分」をとことん貫いて世間を納得させる。「だってやりたかったんだもん!」で世間に風穴を開けるある意味での清々しさ。ダークアイビスさんがやりたい、やりたかった事ってこっちなんじゃないのかなと思っています。もちろん万人受けよりも遥かに険しい道のりなのは間違いないですが達成できればとてつもない満足感に繋がるし、ある意味伝説にもなるでしょう。事実そうして評価された格ツク作品は今なお語り草になるほどです。

自分も含めて、より多くの人にプレイしてもらうために改良を重ねる作者が多い中、敢えて「変えない」を貫くクリエイター。「改良」は必ずしもその人にとっての「改『善』」ではない。ダークアイビスさんは今現在新作を制作中という事ですが、その「変えない」姿勢を今回も貫くのか、それとも…?

願わくば、ご自身の納得の行く作品になる事を。

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