夢幻台 2024/04/28 08:40

「ルクトクスの刻印」から感じた、フリーゲームの1つの形。そして懺悔。(前編)

ダークアイビスさんの作品「ルクトクスの刻印」先日クリアさせていただきました。以前からプレイしようと思ってはいたのですが長編だけになかなかまとまった時間が取れず。ただ今回、スターズパーティー2を完成させ、次回作の構想を練っている、まさに「空白の時間」であり、プレイするなら今しかないと思って、クリアまでプレイさせていただきました。

プレイした感想は「極めて独特なゲーム」です。格ツクまで含めてそれなりの数のゲームをプレイしていますが、その中まで含めても独創性という観点から見れば入賞(8位以内)間違いなし、メダル(3位以内)も狙える、それくらい独特なゲームでした。

どういう感じで独特かと言うと「ぼくのかんがえたさいきょうの長編RPG」をそのまま形にした…という感じです。まずその発想に辿り着かない、辿り着いたとしても作ろうと思わない、作ろうとしても大体序盤で止めてしまう…、仮に作り切ったとしても万人受けのために少し体裁を整えるだろう…。と、並大抵の人ならどこかで止めてしまう、変えてしまうであろう妄想をそのまま形にしたらこうなったんだろうな、というのが率直なイメージです。具体的にいくつか挙げさせていただきます。

・全っっく必要性のない戦闘メッセージの煽り
ロマサガのフラーマの「まいどあり!」に突っ込みを入れるようでは、本作の前では消し炭です。…というくらいメッセージ周りがハチャメチャ。一部を挙げると、穏やかに見えるキャラクターでも攻撃を回避すると「踏み込みが足りん!」ですし、無効or完全耐性の攻撃を当てると「何だぁ~今の攻撃は?」と煽ってきます。さらには敵も味方も倒した、倒された時の表記が何故か「くたばった」。全っっく必要性のない、火力の高い煽り文章がキャラ設定無視(なんなら全く喋らなそうな敵モンスターさえも含めて)全編続く時点で「この作品何かある」と感じるのは自分だけではないと思います。ただこれも、作品全体のぶっ飛びぶりを考えたら単なる軽いジャブ。とんでもないのはここからです。

・元の設定が木端微塵に吹っ飛んだ歴史上人物


上の画像は、とあるキャラクターの人物紹介です。これを見ただけで「ん?」となる方は相当数いるんじゃないかと思っています。まず曹操と上杉謙信、そしてその正体がレナード?共和国ってナニ?という多次元の内容が絡み合っています。そしてこの人物設定、全キャラ全設定が全力でこれです。作品紹介に「歴史上人物が出てきます」とありますが、ほぼ全キャラ、設定が木端微塵に吹っ飛び、歴史上通りの形をしていません。ここまで吹っ飛んでいるのはある種の清々しさすら感じます。

・全編続く、誤字かネタか独自用語か判別不能の文字列
最初は誤字なんじゃないのかな?と思う内容が頻発していました。ただこのゲーム、とにかく独自要素・独自用語が多い。…そう考えると誤字と思える文章も「この世界では」独自用語として正しいんじゃないのかなと思えてきました。一般でのイレギュラーはこの世界ではレギュラーですし、「クレーターデーモン」(✕グレーターデーモン)とか「エンブレス」(✕エンプレス)、デハブ(✕デバフ)などなど、特に濁点・半濁点のブレが多いです。確かにネタとして、元の人物や地名を1文字もじって登場させるケースは様々なゲームでよく見られますが、本作ではそれが一般的な用語にまで及んでいる、と考えると少しだけ理解しやすいでしょうか。助詞の2度付け(〇〇にに行こう!、△△をを合成できる、とか)も多いのですが、それをいちいち気にしていたらやはりこの世界では消し炭です。「この世界独自の文法です」で納得するのが吉かと思います。

・後半はボスの大半が「顔面」というシュールさ


女神転生の至高唯一神や、キン肉マンの邪悪神、月風魔伝の独眼独頭も真っ青の、とにかくの顔面顔面顔面。一応、パワーをコントロールするある種の形態…的な説明はあったような気はするのですが、それにしてもとにかくシュール。ネタなのかギャグなのか、それとも一種のホラーなのか。ここまでのハチャメチャぶりを突破して辿り着いた後半で、そのハチャメチャぶりもさらに1段階ギアを上げてきたな、という感じです。

・ペルソナのアンクウやKOFのザナドゥも想像しない会話内容、超展開と超設定
1つ1つの言葉は(何とか)理解できるのですが、それが複雑に絡み合って一度に襲い掛かってくるので、紙に相関図でも書いて追っていかないと(追っていったとしても)把握が極めて困難。それでいてゲーム内のキャラクターは一切の説明を画面暗転→戻ってくると全て理解した上で話を進めるという理解力の高さ。自分はこれをある意味でのスキル「エクストリーム瞬間理解」と名付けましたが、これを全キャラが持っているという感じです(たまに、あまりのぶっ飛びぶりを一部キャラが突っ込んでいるケースもありますが基本的に無視。「この世界では普通だ、理解できないアンタが悪い」的な勢いで)。

不勉強で申し訳ないのですが、このぶっ飛び具合を表現できる言葉が日本語にありません。無理にでも当てはめるなら「カオス」や「電波」なのでしょうが、正直その言葉でも足りないレベルでのハチャメチャぶりです。

でも、それが1周回って面白い。

理由とか理屈とか辻褄とか、そういうのを重視する方だと「何だこりゃ!?」と思うかもしれませんが、フリーゲームってそういうのもアリだよな…と思い出しました。自分はこういうハチャメチャぶりを体験したのはこの作品が初めてではありません。遠い昔になってしまいましたが、2D格闘ツクールで作られた作品にはそういったハチャメチャ作品がたまに出てきていました。意味などいらない。「だってやりたかったんだもん!」で全てを押し切る。「誰が分かる?オレが分かる!」「誰が許す?オレが許す!」そんな力技で全力で殴りかかってくる作品に、ある種の面白さを感じたのも事実です。そしてその勢いをこの「ルクトクスの刻印」で久しぶりに思い出した気がします。「ゲームはこうでなきゃいけない」「ゲーム制作はこうあるべき」と、きちんと整えられた、お行儀の良い作品もそれはそれで良いのですが、たまには、本当にたまにはこういった体裁やお行儀を完全にぶった切った「やりたかったんだろうなあ…」全振りの作品があってもいいと思うのです。

長編で、自分はクリアまでに22時間かかった大作。そして前述の通り人を選ぶ、極めてクセの強い作品ではあるので、お気軽にクリアまで遊んでほしいというのは難しいのですが、特に自称含む「オレはRPG分かってるぜ」勢の方、RPGの有識者の方にぜひプレイして頂いて、様々なご意見を頂きたいなと思っています。もしかしたら、もしかしたらですがフリーゲーム(市販ゲームでは恐らく無理)の新たな形、「追放系」とか「異世界転生系」とか、新たなジャンル(ハチャメチャ系とか?)になり得るかもしれないポテンシャルを持っているとも感じるのです。

そして…、ダークアイビスさんには申し訳ないことをしたな、とも感じています。
(↓後編に続きます)
https://ci-en.net/creator/12543/article/1130075

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