Muu Dogg Studio Jun/11/2022 22:16

6月11日のコラム:山下達郎のサブスク発言について思うこと

どうもMuu Doggです。


今日は、これまたみんなと議論したいお話だったので無料公開させていただきます。
結論は、何一つでていません。


今朝、山下達郎パイセンの新作のインタビューがヤフーニュースに出ていました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/be612cd888a261a17c38007d9f51406f35ddaade

パイセンと表記しているのは達郎さんがムサシの高校の30期以上先輩に当たるという一点のみの理由であり、決して山下達郎のモノマネをするのが好きだからとか、シティポップが好きだからとかではありません。政治思想に至ってはむしろ真反対であります。


内容はこれまでの活動の話、新作の話、制作哲学の話などかなり濃厚なインタビューとなっていますが、そのなかで「サブスクは恐らく死ぬまでやらない」と答えた部分がタイトルとなりパッキングされてTwitterのトレンドに「山下達郎 サブスク」「山下達郎 老害」がトレンドになっていました。

内容に関しては「表現に携わっていない人間が自由に曲をばらまいて、そのもうけを取ってるんだもの。それはマーケットとしての勝利で、音楽的な勝利と関係ない。本来、音楽はそういうことを考えないで作らなきゃいけないのに」
という作り手とリスナーの一対一の関係や、リスナーの音楽体験の重要性を50年近いキャリアの中で至上命題としてきた達郎さんらしい発言。

そして頭ごなしにサブスクそのものを否定しているというわけでもなくて(実際彼はSpotify利用者で常に新曲をチェックしていると公言している)、そのマーケットのシステムそのものに苦言を呈している。という形。

達郎さんはエンジニア並みに異常に耳が良いミュージシャンとしても知られているので、サブスク程度の音質で自分の曲が世に出るのも嫌なんじゃないかな。というのも少し思いました。
Spotifyの上限320kbpsは別としても、アップルミュージックのノーマライズやロスレス音源にも不満がある人は意外と存在します。

Twitterでのリアクションは大概がアホみたいにずれ倒していて、
肯定的な意見の「よく言った!タダで音楽聞くな!」というのは、達郎さんが言及しているのはリスナーへの不満ではなくて中間業者への話なのでそもそも違う。
あと、サブスクは定額なのでそもそもタダじゃない。

否定的な意見の「老害」とかはもっとしょうもなくて、そもそもアーティストとリスナーのことを考えての発言だし、みんなサブスクやめようとか言ってるわけでもないし、誰にも害を与えていないので的外れ。
(……話は反れるけど、ちゃんと文章を読まずに見出しだけみて大騒ぎしている知性のない人たちこそ、数十年後に老害のポジションに落ち着きそうですよね)


それで、この「サブスクは恐らく死ぬまでやらない」発言に対して考えなきゃいけない側面は2つあると思っています。

まず1つは商業音楽のグローバル化が究極形態にまで発達してしまって、達郎さんの音楽は今や彼のCDを簡単に買える日本人だけのものではなくなっているという点。

ここ10年足らずでシティポップが世界的な大ブームになったにも拘らず、世界のリスナーからすると彼のCDもレコードも気軽に手に入らない、サブスクにももちろんない。
そのため、違法アップロードで聴くか、わざわざ日本に来てCDとレコードを買い漁るしか選択肢がない。

YouTubeで違法に聴かれるくらいならサブスクで出したほうが建設的じゃない?というみのミュージックの意見も的を射ています。
実際達郎さん以外のシティポップとして人気の出つつある80年代の多くの日本人アーティストは、吉田美奈子、大貫妙子、杏里、大瀧詠一や竹内まりやに至るまで、ここ1~2年で軒並みサブスク解禁しています。

もう一つは、サブスクはその便利さのあまり、一部のマイノリティかつ偉大なアーティストの思想やクリエイティビティを完全に剥奪しているということ。
アーティストにとって、どう発信するかも表現の一部であり、ボタン一つで聴けることだけがすべてのアーティストの最高の環境かというと、それはそれで違和感がある。

達郎さんにとってサブスクは低音質であり、サブスクに楽曲を上げることは、高音質で音楽を聴いてもらう機会を剥奪しているとも言えるし、
耳のいいリスナーにとってもその機会を奪われているとも言える。

パッケージを店頭で買って帰って、封を切って再生する。その瞬間が最高にワクワクする。というリスナーの感情も、それはそれで尊重されるべきだし、エロゲをプレイする人々は特にその感覚がわかると思います。
(ちなみにムサシはもうプリンスの豪華特典付きCD以外のパッケージは買わなくなってしまったし、そのCDも肝心の曲は機器で再生することなく、サブスクで聴いていますが……)

ニールヤングやジョニミッチェルが、ワクチンに対するSpotifyの発言をきっかけにSpotifyから撤退したのも記憶に新しいですが、単純に「インターフェースがダサいから」とか「アプリが使いづらいから」とかその他凡人には理解できないような理由でそこに曲を上げないアーティストがいてもいいし、アーティストの志向する理想に口出しする権限は他人にはないわけです。

ちょうど昨日ぺれっとと話していて、ぺれっとの昔通っていた学校には職業クリエイター志望の学科とアーティスト志望の学科があったが、アーティストの人たちは課題でどんなものを上げてこようと、それは自己表現のすべてなので、先生たちは評価したり口出しすることができず、職業クリエイターの専攻として先生たちからボロクソ指摘される側だったぺれっと達にはそれが羨ましくもあり、何とも言えない複雑な感情を抱いた。といっていましたが、これはすごくわかりやすい例で、
アーティストに対してはその作品に向き合う純度の高さ以外、口出しすることにあまり意味がないんですよね。

サブスクもいずれ、各アーティストに応じたベストなコンテンツに分岐していく気もするし、10~20年のうちにレコードやCDのように一過性のメディアとしていつか新しい何かに取って代わられる未来が訪れる気がします。

達郎さんのサブスク発言から抱いた2つのことは、今後考え続けないといけない問題だと思います。

今日はこの辺で。

If you liked this article, support the creator with a tip!

Sending tips requires user registration.Find details about tips here.

Monthly Archive

Search Articles