「くるくる回る花火」~7月の短編ファンタジー

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 花火の音がぽんぽんとする。
 想子は最後に花火を見たかったけれど、いろんな管を通された身体はもうどこも動かなかった。
 目を開けることさえ難しい。
 たとえなんとか目を開けたことができても、病室の窓のカーテンを開けてと言うこともできないし、窓のそばに行くこともできなかった。
 娘と息子がそばにいて、手をにぎり声をかけてくれていた。
 92歳になる私の最期を見届けるために。

 ああ、これまでいろんな花火を見たなあ。
 まぶたの裏にこれまで見た花火を思い浮かべている時だった。
 まぶたの裏で、花火がくるくるっと回った。
 
 くるくる くるくる

 目が回りそうだと思った時、想子は空に上がった花火を見ていた。
 急に、もわっとした夏の夜の熱された空気が身体を包みこんだ。

「ゆうみちゃん、見える?」
 若い女の人の顔がまじかにあった。
 ああ、この人はお母さんだったと思いだしたとたん、優未(ゆうみ)としての自分を思いだした。
 そのとたん、想子としての自分がだんだんと消えていく。
 あれ、あんなにはっきりと「想子」を覚えていたのに。
 一秒たつごとに、「想子」はかすみのように消えていき、十秒たった時にはもう名前も思いだせなかった。

 3歳になる優未は若い父親に抱っこされ、母親がそばで優未の顔をのぞきこんでいた。
 ぱんっと赤い花火が空に上がった。
 広がっていき、消えていった。

「きれいねえ、ゆうみちゃん」
 母親も空を見上げて言った。
 優未は着せられた浴衣が汗で首の後ろにはりつくのを感じながら、なんだかすべてが夢のようだと思った。
 自分のあやふやさに怖くなって、父親の胸にぎゅっとしがみついた。
「どうした? 音が怖いか?」
 父が優しそうに聞く。
「眠くなったのかしらね」
と母。
 ああ、違う、そうじゃない。
 でもこの感覚をどう伝えたらいいんだろう。
 優未は新しく上がった花火の音を聞きながら、一人とまどった。


 
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