「始まりの物語〜花音」2月の短編ファンタジー



        1

 暗い。
 そう思った。
 なぜそう思ったのかわからない。
 突然そう思った。
 暗いのは嫌だな。
 これもなぜだか、突然思った。
 すると、パッとあたりが明るくなった。
 まわりは明るいが、遠くは暗かった。
 光と闇。
 そう名づけた。
 言葉が生まれた。
「光」
と言ってみた。
 すると、音の波動が広がっていった。
 あちこちで光がきらめき、何かが生まれていった。
「闇」
と言ってみた。
 すると、音の波動が広がっていった。
 あちこちで闇がふくらみ、何かが消えていった。
 それを見ているわたしは、何者だろうか?
 このように意識しているわたしは、何者だろうか?
 わたしは、わたしを知りたかった。
 だからわたしは、わたしの意識をたくさんに分けてみた。
「いろんなことを経験してきて」
 そうして、光と闇の世界に放った。
 それが、世界の始まりだった。


        2


 地球は丸いのだろうか。
 あるいは、平らなのだろうか。
 それは、どちらでもいいのだ。
 分かれた意識が何を創り出すのか、すべて自由。
 丸い地球を創り出す意識もあれば、平らな地球を創り出す意識もある。
 どちらでもいい。
 地球なんてない、という世界を創り出してもいい。
 それぞれの意識の自由なのだ。
 それなのに残念なことに、誰かが創った世界に閉じこめられてしまう意識たちがいる。
 本当は自由になんでも創り出せるのに、その力がないと思いこまされてしまう。
 せっかくわたしがわたしを知るために、わたしの意識を分けたのに。
 思い出して欲しい、自分の力を。
 もとのわたしを。


       3


 結城花音9歳は、物心ついた時から世界が2重に見えた。
 みんなそうなのだと思っていた。
 けれど違った。それは花音だけだった。
 いや、正確に言うと赤ん坊はたいてい2重に見ている。
 野生の動物も。
 それが2歳を過ぎ、たいてい見えなくなっていく。
「どうしてなのかな?」
 花音は聞いた。
 相手は、花音しか見えないエネルギー界に住むジイだった。
 ジイは、人間でいう70歳くらいの老人に見える。たまに、20歳くらいに見える時もある。
 おおもとのわたしに強くつながり、おおもとのわたしとともに悠久のなかにいる。
 ジイというのは、幼い頃花音がつけた名だ。人はジイにさまざまな名をつけている。神と呼ぶ者もいる。
 ジイは神社などにはいず、世界を自由に時も含めて移動している。花音と知り合ったのはたまたまなのかもしれない、そうではないのかもしれない。
 それは、花音が4歳の頃だった。
「わしが見えるのか」
 家族とともに旅行に出かけ、大きな湖のほとりにいた時だった。
 ジイが花音に問い、それからジイは花音とともにいてくれる。花音専属にいてくれるわけではない。ジイは、同時にさまざまな時空に存在する。
「どうしてなのかな?
 赤ん坊の頃はみんなエネルギー世界を見ていたのに、2歳を過ぎるとなぜ見えなくなるの?」
 ジイが答える。
「洗脳されるからだよ」
「洗脳?」
「そう。
 この世での教育とは、誰かが作ったこの世の決まりに洗脳することだからね。
 つまりこの世は、監獄なのさ」


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