「クリスマスの贈り物」〜12月の短編ファンタジー
1
田崎幸美(ゆきみ)は、人通りの多い駅ビルのウインドウの前にもう10分も立ちつくしていた。
クリスマスイブの午後3時過ぎ、平日でも人の波はとだえなかった。
ウインドウの中のマネキン3体は、クリスマスの飾りつけのなか、暖かそうでおしゃれな洋服に身を包んでいた。
けれど幸美がずっと眺めていたのは、マネキンの洋服ではなかった。自分の姿だった。
60歳ともなれば、重ねた年齢が見えてしまうのはしかたない。40代とは違う。
それでもウインドウに映っているのは、まるで老婆のようではないか。
姿勢の悪い猫背ぎみの姿。やせているというよりは枯れている。使い古した色あせた服。根元が白くなったパサついた髪。深いほうれい線、下がった口角。
若い頃は、美人と言われることが多かった。幸美という名前に負けていなかった。
いったいいつから、幸せと美しさに無縁になってしまったんだろう。
今の時代、60歳でもきれいにしている人は多い。老化は抗えなくても、品や豊かさを醸し出すことはできる。
なのにそこに映っているのは、貧しい老婆だった。
私は、どこでまちがったんだろう。
生まれ育った家は、裕福だった。
学校も中学から私立。友人たちも皆、裕福だった。送られてくる年賀状には、海外旅行だの別荘だのでの写真が写っていた。
父は厳しい人だった。厳しいと言えばよく聞こえるが、実際は家族に暴力をふるう人だった。
兄が被害にあうことが多かった。私はできるだけいい子にして過ごした。父が望むように。
兄は成人すると反抗して家を出ていき、私は父の勧める人と結婚して家を継いだ。
父の言うことを聞いていれば、窮屈ではあるけれどこのままの生活がずっと続いていくのだと思っていた。
けれど子ども2人が中学生の時に、父の事業が傾いた。
結局父の事業は倒産し、父の仕事を手伝っていた夫も無職になった。
それから、怒涛のように過ごした。
夫とは離婚になり、子どもをようやく育て上げて数年。
自分の服など、買うよゆうもなかった。子どもたちもそれぞれ結婚し独立したけれど、今も老後を考えると無駄遣いはできない。
このジャンパーは、いつ買ったのかもう覚えていない。
駅ビルから出てくる人たちは、皆幸福そうだ。ケーキの箱を持っている人、花を買っていく人、お店の紙袋をいくつも持っている人。
そんなささやかなプレゼントも、もう何年も自分に与えてあげていない。
子どもたちも奨学金の返済もあり、自分たちの生活でいっぱいいっぱいだ。
父の事業がうまくいっていた時の暮らしが、まるで幻のようだ。
幸美は当面の生活費をおろすためにATMのある駅に来たのだけれど、来たことを後悔していた。今日はたまたまパートの休みだった。
クリスマスイブなんて日は、おとなしく家にいればよかった。
幸美はとぼとぼと家路についた。冷たい風が、やせた身体と心に沁みた。
2
次の朝、目を覚まして幸美は驚いた。
「これは、夢?」
狭い部屋の中、赤い薔薇がびっしりと咲いている。
ベッドから起き手を伸ばすと、薔薇の花と交差する。ホログラムだ。
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