「2億の家」 〜女〜
〜女〜
最初にパートナーの不倫に気付いたのは、2019年秋の終わりのことだった。
信じたくもない現実。信じられない現実。不倫を知った瞬間から、佳子の鼓動はおかしいくらい速くなった。
手が震えた。
目を開けていられなかった。息をしているのかしていないのか、そんなことも分からないくらい息苦しさが襲ってきた。
「うそでしょ…」
「いやだ…」
「やめてよ、本当なの?」
「いやだ。やだ、やだ…」
頭に竜巻のようによく分からない言葉たちが回転した。頭も心もパニックになった。
自分の知らないところで、自分の横で悪びれる様子もなく笑っていたパートナーは、他の女性と恋していたのか?
いつから? これは彼の裏の顔?裏… 裏じゃなくて、これがパートナーの表の顔?
一気に佳子の中でバラバラと全てのものが崩れ落ちた。
どうしよう・・・と震えながら、どうしたらいいかなんて分からない。
ショックすぎて、自分の人生でこんなことが起こるなんて、想像していなかった。いゃ、なんで想像しなかったのか。
それは、佳子がパートナーを信じすぎていたからだ。
彼ほど好きな人はこれまでも今までもいない、彼は自分の人生で初めて会う最高のパートナーで、一生一緒にいたい、彼についていきたい、世界の基準が彼だった、毎日好きすぎてたまらなかった。彼も同じ気持ちだと、信じて疑わなかった。
パートナーと不倫女は、どんどんと不倫に落ちていった。
佳子は苦痛の毎日を過ごした。
毎日胸が締め付けられ、寝ても覚めても胸が痛んだ。胸が痛んで眠れなかった。
料理をしていても、一歩外に出て、玄関からエレベーターホールまでの短い距離も、エレベーターが来るまでのわずかな時間も、立っているだけでも、座っているだけでも何をしていても、胸が痛くて重くて、歩くごとに涙が落ちそうだった。
それまでの幸せだと思っていた日々から、一気にどん底に突き落とされた。
誰だ、この真純って女は。。。