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ざあざあ、ざあざあ……
雨の音は止まることを忘れたように、この耳を刺激し続ける。
「ドクター、ドクター!髪やってくれる? んもぉ、毎日毎日うねうねになるの、ヤになっちゃう!」
「君は猫っ毛だものね。いいよ、おいで、フラン。完璧にセットしてあげるよ」
無断で部屋のドアを開けて、不機嫌そうに私を見上げる少女──フランツィスカという──は、私の言葉に笑顔を見せ、すとんとドレッサーにその小さな体を降ろした。
「フラン、今日から君の”告死天"の仕事だね。大丈夫かな?」
「大丈夫よ、だって、ただ寂しくないように一緒にいてあげればいいんでしょう?」
その通りだ。
異能──ギフト──を持ち、あらゆるものにとって有害なこの雨に影響されない、こどもたち。
彼女らの仕事は至ってシンプルで、終わりゆくこの世界の中で、一人でも多くの人が孤独死しないよう、世界をありったけの優しさで包んで終われるように、死ぬ瞬間までの一ヶ月、寄り添ってあげること。
私自身もギフト持ちなのだが、誰かに寄り添うにはある意味向いていないところがあり、子どもたちのまとめ役として動いている。
「フランは寂しいの、嫌いだものねえ。きっと立派に仕事ができるよ」
「ドクターだってきらいでしょう?寂しいの」
「……………うん、そうだね……」
喉が、くっ、と閉まるような感覚。
そう、きらいだ。寂しいのはきらい。大嫌いだ。
「ふふん、フランたちがいるから、寂しいなんて思うヒマ、ドクターにはたぶんないわね!よしよし」
「はは、ありがとう……そうだね、君たちがいる」
フランツィスカの小さな手が、私の頭を優しく撫でる。
こんなに小さな体と精神でも、母性はあるのだなと感心した。
フランはとてもいい子だ。
フランだけじゃなく、告死天の子どもたちは全員、いい子たちだ。
だからこそ─────
だからこそ、その中で、大人の私だけが、穢いということがわかってしまう。
ざあざあ、ざあざあ……
窓を見る。
濁った色の空が見える。
青い空なんて、もういつから見ていないだろうか。
忘れてしまった。
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