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2022年 06月の記事 (2)

舞城王太郎『ビッチマグネット』を読んで

舞城王太郎の本は初めて読みました。
名前は前から知っていました。覆面作家として有名ですよね。

冒頭数ページから衝撃を受けました。
スゲーなこれ。なんじゃこりゃ。一体どーやって書いてんの。

文体が最大の武器になってます。あさのあつことか、あと綿矢りさも少し近いか? 最近こういうの久しぶりだったのであまりそれっぽい名前が出てきませんが。

そのくだけた口語体の一人称による語り口は印象的。直前に読んでいたのが山崎豊子の『白い巨塔』だったので、その文体の落差には驚きました。

ですが、だからこそ逆に気づいた類似点もあります。それは、シーンを継ぐテンポのよさ。
文章の密度はさておき、軽やかな文体でありながら次々と場面が切り替えられ、サクサク話が進んでいきます。

冗長そうでありながら、実は極限まで無駄が削ぎ落された文章。それってなかなか普通にはできないことだと思います。まさにプロの所業。

この手の文章だと情報の密度は低く、物語の進行は低速度になりがちだと思っていましたが、その先入観を覆されました。一体どんなマジックが使われているのやら。
手品のタネはシーンとシーンの"継ぎ目"にあると思いますが、いやはや素晴らしい職人芸です。

狂人めいたキャラクター描写の主人公による、そのあまりにぶっ飛んだ文体を語り口として話は進んでいきますが、内容は至極真っ当な青春小説。
もっと早く出会っておきたかった作家です。二作目も是非読んでみたいと思います。

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山崎豊子『白い巨塔』を読んで

ご存知ない方のために説明すると、医療ドラマです。
「メス!」とかいいながら手術を始める、あれです。

私は2003年に放映されていたドラマ版でその存在を知りましたが、読後に誌食べたら国内では5回ドラマ化されたらしいです。
原作は1963-1965年と1967-1968年に連載。単行本が1965年と1969年に発刊。

手元の新潮文庫版1-5巻は全て2002年刊行のものだったため、単行本と紙面での連載は随分古いことに驚きました。
ちなみに連載と単行本が2回に分かれているのは、正編と続編があるからです。前者が単行本『白い巨塔』(文庫版『白い巨塔』1-3巻)、後者が単行本『続・白い巨頭』(文庫版『白い巨塔』4-5巻)です。

山崎豊子の先品は『沈まぬ太陽』を読んで以来2作目だったのですが、本作は衝撃でした。その情報の密度とスピード感に圧倒されます。
高度経済成長期の日本とペルシャ、アフリカ、パキスタンなどの異邦の地を舞台に航空会社の内幕を描く『沈まぬ太陽』も相当な臨場感とスケールの大きさでしたが、『白い巨塔』は、これほどまでのものなのかと、その完成度の高さに震撼しました。

とにかく、まず話が早いんです。徹底的に贅肉が削ぎ落とされてる。元新聞記者なだけあって『沈まぬ太陽』でも文章における情報量の密度は高かったのですが、それだけじゃありません。
より早く、短い時間でコンテンツを消化しようとする昨今の消費者の需要にこたえてテンポのよさを突き詰めた映画『パラサイト』を髣髴とさせるようなシーンの繋ぎ方なのですが、これが1960年代の作品とは思えません。ベストセラーってこういうのをいうんですね。不朽の名作そのものです。

あと、背景の描き方がすごい。
私は正直これを読むまで医療ドラマや医療漫画で外科医が主役とされがちなのはなぜなのかよく分かっていませんでした。
でも読み始めたらすぐに分かりました。オペにはドラマがあるからです。その手術の緊迫感というものが、本作ではとても生々しく伝わってきます。その所作には何の意味があるのか、そこで失敗するとどうなってしまうのか、話を運びながら的確に描かれるため、外科医ってすごいんだなと実感します。
医療に関して元々は素人だったなんて信じられないほど、緻密な取材の上に成り立っています。小説を書くのと同じくらいの時間と労力を取材に費やしたというのも納得です。

また情景描写も、大阪が舞台なので、関西にお住まいの方はよく分かると思うのですが、水の都・大阪の美しさがありありと描かれています。心斎橋や淀屋橋、長堀橋など、大阪都心のポピュラーなスポットが鮮やかに映し出されます。
これは作者が元々大阪ご出身の方なので、取材云々の話ではありませんが。というか大阪人じゃないと無理です。情景描写はともかくとして、登場人物の多くは大阪弁を話すのですが、その大阪弁が一人ひとり違うんです。これは地元の人じゃないと無理です。不可能です。書き分けできるわけありません。

『沈まぬ太陽』もそうでしたが、本作もタイトルが示唆的です。
『白い巨塔』。大学病院では、患者の命よりも優先されることがある。それは、教授の権威。
それが本作の主題だと感じます。

ところで本作はアンチヒーローものなのですが、これも『コードギアス』や『デスノート』が流行った'00年代に対して、40年も前に書かれた作品なのだからすごいです。
しかし正編が書かれたのちに読者から抗議の手紙が殺到したために、すでに完結した小説に話を継ぎ足して元の結末を引っくり返すというのは、なんだか不条理だなぁと思います。
実際、完成度の高さは正編でした。それと比べて続編は若干の冗長さが拭えません。もちろん続編も面白いのですが。なので続編はあとから事情があって書き足したというのを読後にしって、そういうことだったのかと得心しました。
詳細はネタバレになるので、本編をご覧ください。

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