山崎豊子『白い巨塔』を読んで

ご存知ない方のために説明すると、医療ドラマです。
「メス!」とかいいながら手術を始める、あれです。

私は2003年に放映されていたドラマ版でその存在を知りましたが、読後に誌食べたら国内では5回ドラマ化されたらしいです。
原作は1963-1965年と1967-1968年に連載。単行本が1965年と1969年に発刊。

手元の新潮文庫版1-5巻は全て2002年刊行のものだったため、単行本と紙面での連載は随分古いことに驚きました。
ちなみに連載と単行本が2回に分かれているのは、正編と続編があるからです。前者が単行本『白い巨塔』(文庫版『白い巨塔』1-3巻)、後者が単行本『続・白い巨頭』(文庫版『白い巨塔』4-5巻)です。

山崎豊子の先品は『沈まぬ太陽』を読んで以来2作目だったのですが、本作は衝撃でした。その情報の密度とスピード感に圧倒されます。
高度経済成長期の日本とペルシャ、アフリカ、パキスタンなどの異邦の地を舞台に航空会社の内幕を描く『沈まぬ太陽』も相当な臨場感とスケールの大きさでしたが、『白い巨塔』は、これほどまでのものなのかと、その完成度の高さに震撼しました。

とにかく、まず話が早いんです。徹底的に贅肉が削ぎ落とされてる。元新聞記者なだけあって『沈まぬ太陽』でも文章における情報量の密度は高かったのですが、それだけじゃありません。
より早く、短い時間でコンテンツを消化しようとする昨今の消費者の需要にこたえてテンポのよさを突き詰めた映画『パラサイト』を髣髴とさせるようなシーンの繋ぎ方なのですが、これが1960年代の作品とは思えません。ベストセラーってこういうのをいうんですね。不朽の名作そのものです。

あと、背景の描き方がすごい。
私は正直これを読むまで医療ドラマや医療漫画で外科医が主役とされがちなのはなぜなのかよく分かっていませんでした。
でも読み始めたらすぐに分かりました。オペにはドラマがあるからです。その手術の緊迫感というものが、本作ではとても生々しく伝わってきます。その所作には何の意味があるのか、そこで失敗するとどうなってしまうのか、話を運びながら的確に描かれるため、外科医ってすごいんだなと実感します。
医療に関して元々は素人だったなんて信じられないほど、緻密な取材の上に成り立っています。小説を書くのと同じくらいの時間と労力を取材に費やしたというのも納得です。

また情景描写も、大阪が舞台なので、関西にお住まいの方はよく分かると思うのですが、水の都・大阪の美しさがありありと描かれています。心斎橋や淀屋橋、長堀橋など、大阪都心のポピュラーなスポットが鮮やかに映し出されます。
これは作者が元々大阪ご出身の方なので、取材云々の話ではありませんが。というか大阪人じゃないと無理です。情景描写はともかくとして、登場人物の多くは大阪弁を話すのですが、その大阪弁が一人ひとり違うんです。これは地元の人じゃないと無理です。不可能です。書き分けできるわけありません。

『沈まぬ太陽』もそうでしたが、本作もタイトルが示唆的です。
『白い巨塔』。大学病院では、患者の命よりも優先されることがある。それは、教授の権威。
それが本作の主題だと感じます。

ところで本作はアンチヒーローものなのですが、これも『コードギアス』や『デスノート』が流行った'00年代に対して、40年も前に書かれた作品なのだからすごいです。
しかし正編が書かれたのちに読者から抗議の手紙が殺到したために、すでに完結した小説に話を継ぎ足して元の結末を引っくり返すというのは、なんだか不条理だなぁと思います。
実際、完成度の高さは正編でした。それと比べて続編は若干の冗長さが拭えません。もちろん続編も面白いのですが。なので続編はあとから事情があって書き足したというのを読後にしって、そういうことだったのかと得心しました。
詳細はネタバレになるので、本編をご覧ください。

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