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シャルねる 2024/01/22 08:11

28話:おかしくてもいい

「セナ、依頼の報酬分のお金だけ持って、この街から出よっか」

 私はセナを撫でながら、そう言った。
 宿屋で部屋を借りちゃってるから、お金がもったいないかもしれないけど、早く出た方がいいと思うしね。

「わ、かりま、した」

 もうセナは泣いてないけど、嗚咽が酷くて、まだ上手く喋れないみたいで、たどたどしていけど、笑顔でそう言ってくれた。

 そんなセナと手を繋ぎながら下の階に降りて、お金を取った。
 
「セナ、この人たちの状況なんだけど、どのくらいの距離までなら直せる?」

 私は目の焦点が合ってない人達を見ながら、そう言った。
 このままにしておけば、暫くはギルドマスターが死んだことがバレないかもしれないけど、このままにしておいて見つかる方が問題が大きくなりそうだし、普通にここに居合わせただけの人たちが可哀想だし。

「ど、こからでもっ、なお、せます!」
「だったら、私たちが街を出たところで、直してくれる?」
「も、ちろんで、す!」

 私がそう聞くと、セナは元気よく、頷いてくれた。
 
「た、ただ……」

 その後に、セナは俯きながら、言いにくそうにして、何かを言おうとしてくる。

「ただ、どうしたの?」
「あ、あいつ――あの人、だけ、は、な、直したくない、です」

 そう言ってセナは、さっきの職員の人を指さした。
 正直、セナが直したくないなら、私は別にいいけど、直した方が、まだ問題にならないとも思う。

「私に失礼な態度をとったから?」

 もしそうなんだとしたら、私は気にしてないから、直してもらおうと思ってそう聞いた。

「は、はい……」
「だったら、私は気にしてないから、直してあげて」
「……ど、どう、しても、直さない、とだめ、ですか?」

 セナは遠慮がちに、上目遣いでそう聞いてきた。
 
「だめって訳じゃないけど……直したくないの?」

 そう聞くと、セナは黙ってこくんと頷いた。

「私は気にしてないよ?」

 一応、念の為に私はもう一度そう言った。
 
「は、い……で、でも、わ、たしが、嫌、なんです……わ、たしのせいで、こ、こんなこと、に、なってる、のに、わ、わがまま、で、ごめ、んなさい」

 すると、セナはまた、目に涙を貯めながら、そう言ってきた。
 
「セナの力なんだから、セナの好きにしたらいいよ」

 騒ぎが大きくなるとは思うけど、セナが本当に嫌なら、私的には全然仕方ないと思う。……そもそも、正直今更騒ぎが大きくなった所で、あんまり変わらないと思うし。
 そう考えたから、私はセナを抱きしめて、頭を撫でながらそう言った。

 すると、さっきまでは罪悪感からか、私が抱きしめても、セナは何もしてこなかったのに、今回は私が抱きしめると、セナの方からもギュッと抱きしめてくれた。
 それが嬉しくて、私の方からも少しだけ力を強くして、セナをギュッとした。

 こんな状況で幸せな気分になるなんて正直おかしいと思うけど、セナがいてくれるなら私はおかしくてもいいと思って、周りを気にせずにセナに抱きついて、満足するまで過ごした。

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シャルねる 2024/01/18 08:06

27話:セナが言ってたことでしょ?

「ます、たぁ、ごめ、んなさい……こ、殺し、ちゃい、ました。偉い、人を……ご、ごめっん、なさい……ますたぁに迷惑を、かけちゃい、ます。……み、身分、証使えなくなるかも、知れません……」
「…………取り敢えず、出てきてくれない? 私が中に行けたら一番いいんだけど、そういうのを見るのは、私にはきつそうだからさ」

 私が扉の方を見ないようにしてからそう言うと、扉が開く音がして、直ぐに扉を閉じる音がした。
 私が振り向くと、セナが目を腫らして、涙を零していた。

「ま、すたぁ、ご、めん、なさい……わ、たしの、せいで……身分、証、使えっ、なくなるかも、しれませ、ん……」

 そしてそのまま、さらに涙を流しながら顔をぐちゃぐちゃにして、そう言ってきた。
 セナの言葉を聞く限り、多分だけどギルドマスターを殺しちゃったんだよね……
 と言うことは、ギルドにも追われるようになって、身分証を使えなくされる……と。だから、セナはこんなに必死に謝ってきてるって事だよね。
 
「セナ、私さ、今安心してるんだよ?」

 私は安心してくれるようにセナを抱きしめながら、優しくそう言った。
 
「あ、安、心……です、か?」
「うん。だって、大っきい音がして、セナに何かあったんじゃないかと、心配だったんだよ」

 いくら強いとはいえ、万が一の事が無いとは言いきれないから。
 私がそう言うと、セナはさらに顔をぐちゃぐちゃにして、泣き出してしまった。
 
「ご、ご、ごめ、んな、さい。せ、せっかく、ま、ます、たぁが心、配してくれたのに、そ、その、気持ちを、だ、台無しに、してしまい、ました……」

 嗚咽で上手く喋れてないセナの頭を撫でながら、私は言う。

「まぁ、ギルドに追われるかもしれないし、身分証が使えなくなっちゃうのは不便だし、嫌だよ?」

 そこまで言うと、セナがまた泣き出しそうになってしまったから、私は慌てて言葉を続けた。

「でもさ、セナが居てくれるでしょ? 私はセナが居てくれればそれでいいからさ。最初に会った時、セナ言ってたじゃん。私が居れば充分、みたいなこと。その時は正直不安だったけど、今はセナ以外には何かが欲しいなんて思わないよ」
「ま、ます、たぁ……」

 私の言葉を聞いたセナは、今度は嬉しそうにしながら泣いている。
 こんなセナを見て思う。
 どうせギルドマスターが余計なことを言ったから、こうなったんだろうな、と。

「セナ、大丈夫だから。もう泣かないで」

 セナの頭を撫でながら、私はそう言った。
 正直、今の状態のセナの顔も全然可愛いけど、やっぱり泣いてない方が可愛いし、セナには笑顔でいて欲しいから。

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シャルねる 2024/01/15 08:06

26話:ごめんなさい

「ぐっ、あぁぁぁああぁ」

 四肢をを吹き飛ばされた痛みに声を我慢できてないゴミの様子を見た私は、直ぐに私がやってしまったことに気がついて、音を外に漏れないようにした。
 ただ、最初の四肢を吹き飛ばした時の音が下の階まで聞こえてたみたいで、マスターが私を心配して階段を急いで登ってきてる音が聞こえてきた。
 マスターが私を心配してくれていることに一瞬顔がほころびそうになったけど、今の状況を思い出して必死に我慢した。

 幸いにも、マスターとこのゴミ以外の人は何も思考出来ないようにしてあるから、マスター以外の人がこの部屋に来る心配は無い。……けど、マスターがこの部屋に来ることが一番の問題だ。だって、マスターにこんなもの見せる訳にはいかないから。

「せ、セナ! 大丈夫!?」

 私がどうしようかを考えていると、マスターの足音や心音がどんどん近づいてきて、とうとう扉をノックしながら、そう言われてしまった。

「だ、大丈夫です! ほんとに大丈夫ですから、マスターは下に戻っていてください」

 私はマスターのことを考えながら深呼吸をして、動揺しないように落ち着いてから、そう言った。私の声だけが外に聞こえるようにして。

「……ほんと? 嘘だったら怒るよ?」
「大丈夫です」
「……分かった。でも、ここで待ってるから」
「わ、分かりました」

 マスターが近くにいることに心の安らぎを覚えながら、私はこのゴミをどうしようか考えた。
 一応、出血死しないように血を操ってるから、死ぬことは無いんだけど、死なないだけで元に戻すことは出来ない。

「ますっ、たぁ……」
「……セナ? どうしたの?」

 私はさっき大丈夫って言ったのを申し訳なく思いながらも、隠し通せないことを察して、マスターに迷惑をかけてしまうことを謝るために声を出した。
 マスターは声だけで私の様子がおかしいのを察してくれたのか、心配するような声色で、そう言ってくれた。
 普段だったら、嬉しくて、幸せな気持ちになれるのに、今はそんな声をかけられて、私の心は張り裂けそうになった。
 だって、私は今からマスターに迷惑をかけるんだから。

「ごめっん、なさ……い、ごめ、ごめん……なさい、ますたぁ……」
「セナ? よく分からないけど、大丈夫だよ? 取り敢えず、扉、開けていい?」

 マスターが私を心配するように、そう言ってくれる。
 
「だ、め……です……」

 私は声を振り絞るようにして、そう言った。
 だって、こんな光景、マスターに見せられるわけないから。

「なんで? 何があったの? セナは大丈夫なんだよね?」

 マスターのそんな言葉を聞いて、私は涙を流すのを我慢出来なかった。

「ます、たぁ、ごめ、んなさい……こ、殺し、ちゃい、ました。偉い、人を……ご、ごめっん、なさい……ますたぁに迷惑を、かけちゃい、ます。……み、身分、証使えなくなるかも、知れません……」
「…………取り敢えず、出てきてくれない? 私が中に行けたら一番いいんだけど、そういうのを見るのは、私にはきつそうだからさ」

 マスターに、こんな顔、見られたくない。でも、マスターがそう言ってるのに、出ない訳にもいかないから、私はマスターに中が見えないように小さく扉を開けて、部屋を出た。

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シャルねる 2024/01/12 08:12

25話:マスターに迷惑をかけないように

※セナ視点

「行ってきますね。何かあったら、私を呼んでもらえれば直ぐに来ますので」
「えっ、う、うん。こ、この人達、元に戻るんだよね?」
「マスターが望むのなら、戻しますよ」

 私はマスターにそう言って、階段を登りだした。

 ……早く殺して、マスターの所に戻ろう。
 あ、でも、一応立場が偉い人を殺しちゃったら、マスターに迷惑がかかるかもしれない。……マスターに殺してもいいか、聞いておけばよかった。……少し前のあの門番みたいに、こっそり(マスターにバレないように)できるならともかく、今回の奴は、呼び出されてるところをマスターに見られちゃってるし、マスターに隠せない。
 だからといって、何もしないでマスターの元に帰るっていう選択肢は無い。
 マスターを放っておいて、私だけを呼び出すことも気に入らないし、何より、マスターが報酬を寄越せって言ってるのに、全く渡す素振りを見せないこいつらを許せない。マスターが寄越せって言ってるんだから、さっさと寄越せばいいのに。

「セナ、早く戻ってこないかな……」

 私が階段を登りながら、イライラしていると、マスターのそんな声が聞こえてきた。
 マスター、可愛いなぁ。だって、小声で言ってるってことは、私に聞こえるとは思ってなくて、言ってるって事だもんね。

「えへへ」

 さっきまでの感情なんか消え失せて、私は、だらしない笑を零してしまった。
 こんなの、しょうがないに決まってる。だって、マスターにこんなこと言われて、嬉しくないはずがないんだから。

 あぁ、このまま引き返して、マスターに抱きつきたい。それで、マスターの体温や、胸の柔らかさを感じたい。……でも、そんなことしたら、ギルド側が違う方法で無理やり接触してきて、その結果マスターに迷惑をかけることになるかもしれないから、さっさとここで終わらせよう。
 さっきは殺しちゃったらマスターに迷惑をかけちゃうかもって思ったけど、仮に殺して、追われることになったとしても、どうせ私とマスターは、既に追われてる身。だったら、今更ギルドに追われようがどうでもいいはず。だって、マスターには私が居れば充分なんだから。
 
 そう考えて、もうさっさと殺しに行こうと思ったけど、私は身分証の事を思い出してしまった。
 ……身分証も使えなくされるのかも。……だ、だめ。殺せない。身分証を使えなくされるのは、絶対にマスターに迷惑をかけてしまう。
 
 ……もういっその事、眷属にして言うことを聞かせる? 有り得ない。

 一瞬でも考えてしまったことを否定するように、私は首を横に振った。
 だって、眷属にするには、眷属にする対象に噛み付いて、私の血を流さないとだめなんだから。有り得ない。マスター以外の体に私の口を、牙を付けるなんて、考えたくもない。
 ……こんな事考えてたら、マスターの血が飲みたくなってきてしまった。……マスター、お願いしたら、今日も飲ませてくれるかな? 

 そんなことを考えていると、とうとうギルドマスター室って書かれた扉の前に来てしまった。
 ……マスターに迷惑をかけないように、なるべく穏便に話し合おう。
 そう決めて、私は扉を開いた。

「おう。よく来たな。早速だが、あんななんの力もない奴の下に着くのはやめて、俺の元に来い、権力が怖いかもしれねぇが、俺なら――」

 開口一番に開かれた言葉を最後まで聞き切る前に、気がついたら私は、ふざけたことを言うゴミの四肢を吹き飛ばしていた。

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シャルねる 2024/01/11 08:06

24話:呼び出し?

「お待たせ致しました」

 そう言って、さっきとは別のギルドの職員がやって来た。

「ギルドマスターがお呼びです。上の階へどうぞ」

 そしてやって来て早々に、ギルドの職員の人は《《セナに》》そう言った。
 
「そんなことより、早く依頼の報酬を渡してください」

 さっきの人じゃない人が来たんだとしても、さっさと報酬を貰いたいのは事実だから、私はそう言った。

 可能性はかなり低いと思うけど、私たちの身元がバレて、捕まえようとしてる罠の可能性があるから、私は警戒しながらそう言った。
 まぁ、そんなこと関係なしにギルドマスターなんてどうでもいいし、単純に怪しいから、会う気もセナを会わせる気もないんだけどさ。……セナが吸血鬼だってバレた可能性だって全然あるし。……さっきの技? 魔法? が吸血鬼しか使えないものだった可能性もあるし。
 
「……そんなこと? そもそも私はあなたには言ってませんが?」

 実質ギルドマスターの呼び出しをそんなこと呼ばわりしたのが気に触ったのか、職員の人は声を低くさせてそう言ってきた。
 
「あなた、是非ギルドマスター室へどうぞ。ギルドマスターがお待ちですよ」

 そして、続け様に職員の人はセナに向かってそう言った。
 身分証に名前を書いてないから、名前を呼ばれてないけど、セナに向かって言ってるのは明らかだった。

「マスター、少しだけ、待っててもらってもいいですか?」
「えっ、うん。……いいけど」

 行かないと思ってたセナが、私にそう聞いてきたのを聞いて、思わず声が裏返ってしまったけど、何とか答えることが出来た。

「マスター、すぐに戻ってくるので大丈夫ですよ」

 私が思わず不安な顔をしてしまったからか、セナは安心させるような声色で、私の耳元に向かってそう言ってきた。

「あ、でも、心配なので、こうしておきますね」

 続けてセナがそう言った瞬間、受付の人を待ってる間に回復していたお酒を飲んでいた冒険者達のうるささが、一気にまた静かになった。……目の焦点をズラしながら。

「行ってきますね。何かあったら、私を呼んでもらえれば直ぐに来ますので」
「えっ、う、うん。こ、この人達、元に戻るんだよね?」
「マスターが望むのなら、戻しますよ」

 セナはそう言って、一人で階段を上がって行った。
 職員の人はついて行くつもりだったのか、階段の近くに居たけど、ついて行くことはなかった。
 だって、職員の人の目の焦点も合ってなかったから。
 
「セナ、早く戻ってこないかな……」

 早くも、セナが居ないことに不安になりながら、私はそう呟いた。
 セナが近くに居なくて……いや、近くにはいるのか。……私の見える範囲に居なくて、不安な気持ちももちろんあるんだけど、単純に焦点がズレてる人達に囲まれてるこの状況が怖いから、本当に早く帰ってきて欲しい。

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