PLAY BACK THE MEMORY -夏藤なゆ-
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ひとりぼっちは、慣れっこ。
学校での一日なんて、
机の上に突っ伏して音楽を聴くか、
図書室で借りた本を読んでいれば、
さっと、瞬く間に、過ぎゆく。
もし学校にいかなくていいなら、
家にいてスマホ触るか、ゲームするか。
部屋に篭ってダラダラすることでしょう。
学校に通うという細い糸で、
なんとか私は世界と繋がっている。
正直ギリギリ。かと思われます。
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中学の頃は、今よりも社交的だった。
でも周りと趣味や考え方が合わないことが多く、
結局「話さない方が楽かも」というひねくれた結論に至ってしまった。
しかし極力人と話さない日々が続くと、
自分がどんな声を持っていたのか忘れてしまう。
たまに話しかけられると、
瞬時に対応できず、思うように声が出ない。
その度、醜態を晒してまい、後でこっそりため息をつく。
独り言やファミくまに向かって話すときは
溢れるように言葉が出てくるのになあ。
一度だけ「独り言を話すように会話してみよう!」と試みたけど、
そもそも話しかけているのかどうかわからなかったらしく、
相手を混乱させて微妙な空気になった。
なかなかどうして、上手くいかない。
まあ話せなくても出来る仕事は、この世にたくさんあるし。
別に一生、このままでもいいかな。
どこかでそう思っていた。
❇︎
高校一年生の秋。
雨の匂いと湿気でうんざりして早く帰りたかったが、
そういう日に限って掃除当番だった。
一緒の当番になったのは、
まだ一度も話したことがない子だった。
その子は、クラスであまり目立たない感じではあったが、
優しく朗らかな雰囲気は遠目でも伝わってきていた。
ゴミ捨てや掃除する箇所の分担を決めて、さっと会話を終わらせる。
お互いに無言で、淡々と、掃除をしていく。
私の話し方がぶっきらぼうなこともあってか、
いつもならすこし気まずい空気になるのに、
なぜか彼女といる時は、その喋らない時間が嫌じゃなかった。
こんなことは初めてだったので掃除を終えた後、
とっさに聞いてしまった。
「私、嫌な感じ出てませんでしたか…?」
彼女は一瞬目を丸くしたのち、すぐ微笑んで、
「そんなことないよ」と伝えてくれた。
そして私の目をみて、流れるように自然に、
魔法のような「言葉」をくれた。
生まれてはじめて言われたその言葉に私は高揚と動揺に包まれ、
その場から逃げるように立ち去ってしまった。
さっきまで煩わしいと思っていた雨の音が心地よく響く。
話さない方が楽なのに。
ひとりぼっちでいいと思っていたのに。
たった一言で、世界が変わってしまった気がした。
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これはきっと、気の迷い。
帰ってゲームして配信して眠って。
明日からもまたいつものような日常を過ごすだろう。
変わるはずがない。
私が、変われるはずがない。
あんな優しい人と私が交わる奇跡はもう起きない。
気持ちに蓋をして謙虚に生きよう。
それがいい。それでいい。
……ほんとに?
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