短編ホラー『やってしまった弟』

ある日、恐山へ観光に来ていた一家がいた。
父、母、姉、弟の4人家族で、みんな物珍しそうに周りを見ながら観光を楽しんでいた。

1時間後、歩き疲れてしまった父の提案で墓地近くにあった岩場で休むことにした。
思ったより疲れが足に来ていたらしく、10分ほど休憩することになったため、母は子供たちに近場で遊ぶことを許可した。
姉の方はその場でもう少し休むことにしたが、弟は３歳で物心がつき始めだったため、
好奇心が旺盛で、とにかく遊びたい年頃だった。

最初は母の監視のもと近場にある石で遊んでいた弟だったが、ふと目を離した際に、ひときわ大きな石を見つけので、そっちへ向かって走り出した。
「このいし、すごくおおきいなぁ」
おそらくそんなことを思っていたのだろう、弟はその石で遊んでみたくなり、周辺に積み上げられていた石を足でどかし、目的の大きな石を持ち上げようとしたが、3歳の力では1ミリも持ち上がらなかった。
持ち上がらないと分かり諦めたそのとき、後ろから母が血相を変えながら飛んできた。
「ちょっと、何やっているの！」
最初は遠くまで来てしまったことを怒っているのだと思い、
「遠くまでいってごめんなさい」と謝ったのだが、母は弟が頭を下げる前に弟の両肩をがっしりと掴み、前のめりになりこう尋ねた。
「それもだけど、そのことじゃないの！　ねえ、今持ち上げようとした石は何か分かる？」
弟は首を横に振った。
「それはね、墓石と言うのよ」
「はか…いし？」
弟はそのはじめて聞く言葉の意味が変わらず、ぽかんとしていた。
「とにかく説明は後、まずは崩した石を直しましょう」
その後母は父と姉を呼び、墓石を戻した。
作業中、母は弟を抱きかかえ、自由行動を禁じていた。
「どうか、この子の非行をお許しください」
父と母は弟が壊してしまった墓に向かって、何度も謝罪をしていた。

その一家はそのまま下山し、宿泊していたホテルへと戻った。
しかしその晩、母と弟は夢で子供の例に生ごみを投げつけられる夢を見た。

朝になり、弟は母へ昨晩見た夢の内容を報告すると母も同じ夢を見ていた。
しかし弟の場合とは少し違い、もっと過激だったそうだが、母は口を紡いだ。

沈黙した母は周辺を見渡した後、目をギョッと見開いた。
「ねえ、そこの窓って深夜に誰か開けた？」
視線を向けると閉めていたはずの部屋のカーテンが少し開いており、窓も少し空いていた。
父と姉は爆睡していたらしく、「開けていないよ」と言った。
弟も悪夢のことで起きていなかったので、首を横に振った。
その瞬間母の顔は見る見るうちに青ざめ、急ぎ地図を広げて何か調べ物をし始めた。

その日の昼、恐山近くにある神社へと行き、事情を説明するとすぐにお祓いをしてもらうことになった母と弟。
30分ほどでお祓いは終了し、母は安堵の表情になった。
「これでもう大丈夫だからね」
弟はそのとき何が起こったか理解をしていたかは分からないが、何かヤバいことが起こり、それが今解決したというのは分かったようで、そのまま母の腕の中で眠りについた。

それから数年後、母は病気で亡くなった。
その日を境に弟の夢の中であの日見た子供の霊が、度々出現するようになった。
足首を掴まれて下に引っ張られたり、ひたすらに追いかけられたり、真っ暗闇にその子の霊の顔が無数にあってこちらを見つめていたり、など様々な悪夢を見るようになった。
弟は新居へと引っ越すまでの十数年の間、その悪夢を年に数度のペースで見続けていた。

新居へと引っ越した弟は、その時から悪夢を見なくなった。
しかし、見なくなった代償なのか分からないが、夢を見ることが少なくなり、見ても幽体離脱系の夢をよく見るようになった。

悪夢を見なくなっただけで、今もあの子供は弟を探しているのだろうか？
もし見つかったら、“俺”は誠心誠意その子に謝ろうと思う。

それと、後々分かったことだが、母の日記にはあの悪夢のことについて少しだけ記述があった。
夢の中でホテルの窓が開き、そこから子供の霊が入って来て足首を掴まれて窓の外へ引きずり出されたとのこと。
もしかして、ホテル窓を開けたのは…………

END

ご覧いただきありがとうございます。
これは作者の体験談であり、実話です。
親から聞いた話をもとに作成しており、一家全員はこの話を知っています。
ですが本当のことをそのまま書くと霊障が映る可能性がありますので、内容は少し脚色したりしていますが、起こった出来事は事実です。
今もあの子供に会ったら、とにかく謝り続けようと思ってます。
では、また次のお話でお会いしましょう。
陰陽タツキでした！