『月1道壱一族』SS「藤と縹の困惑」
今回の投稿では、「大樹のこころを聴かせて」の世界観をショートショートでお伝えする「月1道壱一族」が復活です!
今日は主人公の涼音と黒幕兼メインヒーローの縹悟が出てきます。
では早速、どうぞ↓
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宗主との食事は、いつも憂鬱だ。
「今日は練が来ていたんだったね」
予定を確認するかのようなこの言葉は、あたしへの興味からきているわけじゃない。
「……たいした話は、してない」
「そうか」
会話が途切れる。宗主はただ、相談役の彼らにあたしがなにか変なことを吹き込まれていないか、それを監視したいだけなのだ。
黙々と箸を動かす微かな音だけが部屋に満ちる。
なにも話すことはない。あたしにも、宗主にも。
これで契約上は夫婦だっていうんだから笑える話もあったものだ。
まだ一ヶ月も経たないのにこんなに苦痛で、この先の人生どうなるんだろう。
そんなあたしの心を察したかのように、宗主は箸を置く。
「私には……君が、必要だ」
「……わかってる」
その言葉にはどんな意味が隠されているのか。
そんなこと、知りたくもなかった。
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彼女との食事は、ここ最近戸惑うことが多い。
「今日は鳶雄が来てたの」
話題は以前とさして変わらないのに、その瞳は好奇心で光っているように見える。
「といっても、なんでもない話しかしてないけど」
「そうか」
会話が途切れる。彼女にどう接したらいいかわからないのは今に始まったことではないが、彼女のほうにはなにか心境の変化があったらしい。
「縹悟は今日はなにをしてたの?」
「私? ……いつも通り、役目を果たしていただけだよ」
「そっか」
彼女を縛っている自覚はあるから、微笑みを向けられるとむずがゆい。
そんな私の心を読んだかのように、彼女は小首を傾げた。
「あたし、なにか変なこと言った?」
「……いいや」
その瞳は私のどんな姿を映しているのか。それを知るには、まだ私に勇気が足りない気がした。
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いかがだったでしょうか。
来月の投稿もお楽しみに!